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番外編
欲しくて食べたくて【転勤編】2
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「いってきます」
「んっ、ふ、いってらっしゃい」
抱きしめられてキスされる。それがいつもの朝。毎回、朝これから出掛けるにしては軽いキスではなくて、舌入れてのちょっと濃厚なキスをされている気がする。だが、当初の腰が砕けるほど濃厚なキスに比べたらまだマシだし慣れた気もする。
(私、上手く表情作れてるかな)
バタン、と扉が閉まると同時に「はぁ」と大きく息を吐く。貼り付けた笑顔から、途端疲れた表情に崩れる。それもこれも昨日の一件のせいである。こんなモヤモヤしたところで何も解決しないのはわかってるけど、長年喪女をしていただけあって、人の好意を受け取るのは苦手だし、つい訝しんでしまうのは悪い癖だ。あれだけ淳平くんから好きだ、と言われてるけど、それでもどこかで疑っている自分がいる。
「あーこんな自分嫌だ」
メソメソしてしょうもないことでグダグダ悩んで。そして勝手に我慢して伝えられなくて悪化する悪循環。喪女なだけあって自己分析に関しては人より優れているとは自負している。何の自慢にもならないけど。
(淳平くんは私のどこが良くて好きになってくれたんだろう)
気遣いができるところ、って以前言われた気もするけど、そんなの誰だってできる。特にあれだけハイスペックな淳平くんであれば、みんなこぞって淳平くんのこと気遣うだろうし、淳平くんみたいにハイスペックな美女だっていっぱい集まってくるだろうから選り取り見取りだろうに。
(隣の菊地さんのとこみたいに)
まさに今でいうキラキラ女子だ。彼曰く、真優さんは淳平くんの3つ後輩で、彼は彼女のトレーナーをしていたそうだ。1年、一通り仕事を教えたあと彼女は別の部署に配属されたらしくてそれきり、とのことだったが、1年の間2人に何かあったのか何もなかったのか、勝手に詮索してしまいたい自分がいてそんな考えに自己嫌悪する。彼女みたいな可愛い人だったらこんなに悩むことなかっただろうな、なんて勝手なことを考えて、そんな考えをしている自分に気づいて頭を掻いた。
(あーもー最近淳平くんのこと考えてばっか!!)
うん、考えないようにしよう!と、大好きなロックをかけて、家事に取り掛かる。シャウトしているときの声が清々しい。私もこうやって叫びたい、なんてアホなことを思いながら、リズムを口ずさみつつ、掃除機を掛け、モップをかけ、排水口やトイレ掃除をする。案外集中すると没頭してしまうタイプなので、一通り掃除が終わる頃には何となく少し気分は紛れた気がする。
ピンポーン
チャイムが鳴って、「あれ、今日荷物頼んでたっけ?」と慌ててドアフォンを覗けば、噂というか何というか、つい先程まで考えていたまさに当事者がそこにいた。
「はい」
「あ、すみません。隣の菊地です」
(知ってます)
なんて言えるはずもなく、とりあえず玄関へと向かう。ドアを開けると相変わらず可愛らしいお顔をした真優さんがそこにいた。
「どうしました?」
「あ、じゅ、じゃなかった、神野先輩にこれ、渡してもらえませんか?」
そう言って渡されたのは写真だった。恐らく飲み会のときの写真だろう、まだ淳平くんが若い。そして、その隣にはまだあどけなさが残っている真優さんが写っていた。写真だからなのか、なんなのか、2人の距離はぴったりとくっつき、この写真を第三者が見たら十中八九恋人同士だと答えるだろう。
「片付けしてたら出てきたので」
え、と、こういうときはなんて答えるのが無難なのだろうか。
「ありがとう、ございます?」
とりあえず感謝を伝える。これが正しいのかはイマイチよくわからないが。
「いえ!あ、せっかくお隣なんですからこれからも仲良くしてください。あともし、わからないことがあったら聞いてください!それと、もしよければ神野先輩の会社でのお話とか教えますよ。昔お世話になってたときは常に一緒にいたので」
「あー、お気遣いありがとうございます。そうですね、機会があればぜひ。すみません、ちょっとまだこれから用事があるので」
「あ、私ったらごめんなさい!じゃあまた」
「はい、また」
本当は勢いよくドアを閉めたかったが、そんなわけにもいかずにゆっくりと閉める。
「あーもうなんなの」
せっかく少しだけ払拭できたモヤモヤが再燃する。寧ろ悪化したと言ってもいい。見たくもないのについ見てしまう写真。過去は過去、ってわかってるのにイマイチ踏ん切りがつかない。しかもさっきの言い直し、絶対「淳平先輩」とか言おうとしてたよね。
(あーダメだー!こういうのよくない、わかってるのに、割り切れない。つらい。もうやだ)
どうやったらこの仄暗い底なし沼にようなドロドロした気持ちから脱出できるのか、今の私には分からなかった。
「んっ、ふ、いってらっしゃい」
抱きしめられてキスされる。それがいつもの朝。毎回、朝これから出掛けるにしては軽いキスではなくて、舌入れてのちょっと濃厚なキスをされている気がする。だが、当初の腰が砕けるほど濃厚なキスに比べたらまだマシだし慣れた気もする。
(私、上手く表情作れてるかな)
バタン、と扉が閉まると同時に「はぁ」と大きく息を吐く。貼り付けた笑顔から、途端疲れた表情に崩れる。それもこれも昨日の一件のせいである。こんなモヤモヤしたところで何も解決しないのはわかってるけど、長年喪女をしていただけあって、人の好意を受け取るのは苦手だし、つい訝しんでしまうのは悪い癖だ。あれだけ淳平くんから好きだ、と言われてるけど、それでもどこかで疑っている自分がいる。
「あーこんな自分嫌だ」
メソメソしてしょうもないことでグダグダ悩んで。そして勝手に我慢して伝えられなくて悪化する悪循環。喪女なだけあって自己分析に関しては人より優れているとは自負している。何の自慢にもならないけど。
(淳平くんは私のどこが良くて好きになってくれたんだろう)
気遣いができるところ、って以前言われた気もするけど、そんなの誰だってできる。特にあれだけハイスペックな淳平くんであれば、みんなこぞって淳平くんのこと気遣うだろうし、淳平くんみたいにハイスペックな美女だっていっぱい集まってくるだろうから選り取り見取りだろうに。
(隣の菊地さんのとこみたいに)
まさに今でいうキラキラ女子だ。彼曰く、真優さんは淳平くんの3つ後輩で、彼は彼女のトレーナーをしていたそうだ。1年、一通り仕事を教えたあと彼女は別の部署に配属されたらしくてそれきり、とのことだったが、1年の間2人に何かあったのか何もなかったのか、勝手に詮索してしまいたい自分がいてそんな考えに自己嫌悪する。彼女みたいな可愛い人だったらこんなに悩むことなかっただろうな、なんて勝手なことを考えて、そんな考えをしている自分に気づいて頭を掻いた。
(あーもー最近淳平くんのこと考えてばっか!!)
うん、考えないようにしよう!と、大好きなロックをかけて、家事に取り掛かる。シャウトしているときの声が清々しい。私もこうやって叫びたい、なんてアホなことを思いながら、リズムを口ずさみつつ、掃除機を掛け、モップをかけ、排水口やトイレ掃除をする。案外集中すると没頭してしまうタイプなので、一通り掃除が終わる頃には何となく少し気分は紛れた気がする。
ピンポーン
チャイムが鳴って、「あれ、今日荷物頼んでたっけ?」と慌ててドアフォンを覗けば、噂というか何というか、つい先程まで考えていたまさに当事者がそこにいた。
「はい」
「あ、すみません。隣の菊地です」
(知ってます)
なんて言えるはずもなく、とりあえず玄関へと向かう。ドアを開けると相変わらず可愛らしいお顔をした真優さんがそこにいた。
「どうしました?」
「あ、じゅ、じゃなかった、神野先輩にこれ、渡してもらえませんか?」
そう言って渡されたのは写真だった。恐らく飲み会のときの写真だろう、まだ淳平くんが若い。そして、その隣にはまだあどけなさが残っている真優さんが写っていた。写真だからなのか、なんなのか、2人の距離はぴったりとくっつき、この写真を第三者が見たら十中八九恋人同士だと答えるだろう。
「片付けしてたら出てきたので」
え、と、こういうときはなんて答えるのが無難なのだろうか。
「ありがとう、ございます?」
とりあえず感謝を伝える。これが正しいのかはイマイチよくわからないが。
「いえ!あ、せっかくお隣なんですからこれからも仲良くしてください。あともし、わからないことがあったら聞いてください!それと、もしよければ神野先輩の会社でのお話とか教えますよ。昔お世話になってたときは常に一緒にいたので」
「あー、お気遣いありがとうございます。そうですね、機会があればぜひ。すみません、ちょっとまだこれから用事があるので」
「あ、私ったらごめんなさい!じゃあまた」
「はい、また」
本当は勢いよくドアを閉めたかったが、そんなわけにもいかずにゆっくりと閉める。
「あーもうなんなの」
せっかく少しだけ払拭できたモヤモヤが再燃する。寧ろ悪化したと言ってもいい。見たくもないのについ見てしまう写真。過去は過去、ってわかってるのにイマイチ踏ん切りがつかない。しかもさっきの言い直し、絶対「淳平先輩」とか言おうとしてたよね。
(あーダメだー!こういうのよくない、わかってるのに、割り切れない。つらい。もうやだ)
どうやったらこの仄暗い底なし沼にようなドロドロした気持ちから脱出できるのか、今の私には分からなかった。
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