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番外編
欲しくて食べたくて【転勤編】7
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「おはようございます」
「あ、おはよう、ございます」
一番会いたくない人に会ってしまった。真優さんは早朝だというのに、相変わらず化粧は女優顔負けのナチュラルメイクに、髪はゆるふわカール、洋服もブラウスにロングのプリーツスカートと清楚系でまとめておまけにいい匂いまでする完璧で綺麗な姿だ。一方こちらは結局腫れてしまった目蓋がまるでお岩さんのようであるし、着替えるのが億劫でスウェットに髪も手櫛で整えただけの姿である。ゴミ捨てに出ただけだが、こういう部分でも女の部分に差がつくのだと実感する。
「どうしました?大丈夫ですか?昨日ちょっと聞こえちゃったんですけど、何かありました?」
「あぁ、すみませんお騒がせして。お気になさらないでください」
「えー、でも。心配ですよ、お隣ですし。何かあったらすぐ言ってください!あ、私、もし神野先輩のことでお悩みなら色々わかりますんで、相談乗りますよ!」
(なんなのそのアピール)
口調のわりには心配してるどころか時折笑みを浮かべる彼女に腹が立つが、ここで諍いを起こしたところで何の得にもならないことはわかっている。だから適当にあしらってゴミ捨てを済ませ、早々に部屋に戻ろうとする。だが、なぜかゴミ捨てを終えた私を待っていたらしい彼女は、なおも話しかけてくる。
「そういえば、働き始めたんですか?日中たまにいないときありますよね?」
「えぇ、まぁ」
(何で知ってるんだろう)
些細な疑問が浮かぶ。すると私の様子に察したのか「あ、すみません、神野先輩から聞いて!」と頭の痛い答えが返ってくる。
(何だ、私には異性との会話を制限しておいて、彼女とはそういう個人的な話をしているのか)
「そうでしたか」
「もしかして、私と連絡取ってるの知りませんでした?あれー、何で先輩隠してるんだろう。あ、別にやましいことは何もないですから、気にしないでくださいね!先輩にはいつも相談に乗ってもらってて。あ、先輩から聞いてます?」
どうしてこうもこの子はこんなことをペラペラと喋っているのだろうか。一体何を考えて、どういう意図でこういう話をするんだろうか。感情がだんだんと冷えていき、死んでいくような感覚。頭が痛い。表情は最早なく、ただ家に帰りたかった。
「すみません、体調あまり優れないので。お話は今度聞きますので、失礼します」
「あ!私ったら、ごめんなさい。じゃあまた」
適当に切り上げて部屋に戻る。玄関を閉めるとずるずるとヘタリ込むようにその場に座り込み、突っ伏す。
「なんなのよ、もう」
こういう悪意を向けられるのは初めてだ。今まで喪女として長く暮らしていたせいか、こういった経験は初めてだった。だが、明らかな意図を持って私を攻撃していることはさすがの鈍い私でもわかる。
(旦那さんいるんじゃないの?)
彼女は先日の会話で社内結婚だと聞いている。実際に隣から出勤している旦那さんも見たことある。年は上のちょっとダンディそうなおじさまで、課長というくらいだ、まぁまぁ仕事はできるのではなかろうか。見た目も悪くなく清潔感もありそうで、強いて言うならちょっと悪ぶっているというか、若作りしているというか、そんな印象だった。いつも見送りをしているし、不仲なわけでもなさそうなのに、どうしてこうも我が家にちょっかいを出してくるのか。遊びのつもりなのだろうか、引っ掻き回して何が楽しいのだろう。散々しょうもないことを考えるも、結局理解できなくて、でも苦しくて。
(頭痛い。もう何も考えたくない)
休みだというのを言い訳に、布団に潜りこみ、何も考えないようにただただ眠り続けるのだった。
「あ、おはよう、ございます」
一番会いたくない人に会ってしまった。真優さんは早朝だというのに、相変わらず化粧は女優顔負けのナチュラルメイクに、髪はゆるふわカール、洋服もブラウスにロングのプリーツスカートと清楚系でまとめておまけにいい匂いまでする完璧で綺麗な姿だ。一方こちらは結局腫れてしまった目蓋がまるでお岩さんのようであるし、着替えるのが億劫でスウェットに髪も手櫛で整えただけの姿である。ゴミ捨てに出ただけだが、こういう部分でも女の部分に差がつくのだと実感する。
「どうしました?大丈夫ですか?昨日ちょっと聞こえちゃったんですけど、何かありました?」
「あぁ、すみませんお騒がせして。お気になさらないでください」
「えー、でも。心配ですよ、お隣ですし。何かあったらすぐ言ってください!あ、私、もし神野先輩のことでお悩みなら色々わかりますんで、相談乗りますよ!」
(なんなのそのアピール)
口調のわりには心配してるどころか時折笑みを浮かべる彼女に腹が立つが、ここで諍いを起こしたところで何の得にもならないことはわかっている。だから適当にあしらってゴミ捨てを済ませ、早々に部屋に戻ろうとする。だが、なぜかゴミ捨てを終えた私を待っていたらしい彼女は、なおも話しかけてくる。
「そういえば、働き始めたんですか?日中たまにいないときありますよね?」
「えぇ、まぁ」
(何で知ってるんだろう)
些細な疑問が浮かぶ。すると私の様子に察したのか「あ、すみません、神野先輩から聞いて!」と頭の痛い答えが返ってくる。
(何だ、私には異性との会話を制限しておいて、彼女とはそういう個人的な話をしているのか)
「そうでしたか」
「もしかして、私と連絡取ってるの知りませんでした?あれー、何で先輩隠してるんだろう。あ、別にやましいことは何もないですから、気にしないでくださいね!先輩にはいつも相談に乗ってもらってて。あ、先輩から聞いてます?」
どうしてこうもこの子はこんなことをペラペラと喋っているのだろうか。一体何を考えて、どういう意図でこういう話をするんだろうか。感情がだんだんと冷えていき、死んでいくような感覚。頭が痛い。表情は最早なく、ただ家に帰りたかった。
「すみません、体調あまり優れないので。お話は今度聞きますので、失礼します」
「あ!私ったら、ごめんなさい。じゃあまた」
適当に切り上げて部屋に戻る。玄関を閉めるとずるずるとヘタリ込むようにその場に座り込み、突っ伏す。
「なんなのよ、もう」
こういう悪意を向けられるのは初めてだ。今まで喪女として長く暮らしていたせいか、こういった経験は初めてだった。だが、明らかな意図を持って私を攻撃していることはさすがの鈍い私でもわかる。
(旦那さんいるんじゃないの?)
彼女は先日の会話で社内結婚だと聞いている。実際に隣から出勤している旦那さんも見たことある。年は上のちょっとダンディそうなおじさまで、課長というくらいだ、まぁまぁ仕事はできるのではなかろうか。見た目も悪くなく清潔感もありそうで、強いて言うならちょっと悪ぶっているというか、若作りしているというか、そんな印象だった。いつも見送りをしているし、不仲なわけでもなさそうなのに、どうしてこうも我が家にちょっかいを出してくるのか。遊びのつもりなのだろうか、引っ掻き回して何が楽しいのだろう。散々しょうもないことを考えるも、結局理解できなくて、でも苦しくて。
(頭痛い。もう何も考えたくない)
休みだというのを言い訳に、布団に潜りこみ、何も考えないようにただただ眠り続けるのだった。
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