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番外編 ジュリアス編4

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 王城での定期報告。
 ギルベルトは俺の話を聞くと、いつもと違って何やらふむふむと言いながら何かを思い出している様子だった。

「開かずの間……。そこに魔女の秘薬だけでなく誰かがいると」
「多分な」
「なるほど? ……で、そこはオルガス公爵の亡くなったと言われる娘の部屋だと」
「あぁ、先に潜入してる者達からの情報だから間違いない」
「よし、わかった。ジュリアス、喜べ。であれば、これでやっとこの件はしまいだ」

 唐突な宣言に思わず呆気にとられる。
 この男は今までの話をちゃんと聞いていたのか? と疑いたくなるほどの言動に、ついに気が狂ったかと思った。

「は? とうとう気でも狂ったか? まだ証拠である魔女の秘薬が手に入っていないというのに、どうやって終わりにできるというんだ」

 できることなら今すぐこの任を降りたいとは思っているが、こんな中途半端なままでは終わらせられるものも終わらせられないだろう、とつい顔を顰めながらギルベルトに詰め寄ると、彼はにっこりと笑った。

「開かずの間の入り方なら知っている」
「はぁ!?」

 あまりにも驚きすぎてつい間抜けな声が漏れる。
 だが、今まで中に入るのに部下が四苦八苦していたというのに、「実は潜入方法知ってる」と上司に言われたら、誰だって同じ反応をしてもおかしくないはずだ。

「なぜ知ってて言わなかった」
「確証がなかったからだよ。でも、魔女の秘薬がないにせよ、誰かがそこに閉じ込められているというのなら話は別だ。ちょうどいい、今度ジュリアスが出向いている間に我が潜入しよう」
「はぁ?」
「入り方を知ってるのは我だけだからな。あぁ、もちろんキューリスにもオルガスにも見つからぬようにするから安心しろ。まぁ、奴らに見つかったところでその場で咎めることはできるが、それはそれでつまらぬからな。うむ、やはりセオリー通りにいきたいから、秘密裏に行動しよう」

 何やら勝手に決めている目の前の男が、国王という立場だからこそ頭が痛くなる。

「いや、さすがにそれはどうなんだ? 国王自らが出向くなど、何かあったらどうする」
「大丈夫だ。あの屋敷には過去に行き慣れている。隠し通路や隠れ場所、抜け道なども全て把握済みだ」
「そんなの聞いてないぞ」
「とにかく我に任せておけ。ちゃんと証拠を見つけて来てやろうではないか!」

 ふふん、と自信満々に言い放つギルベルトに呆れるしかない。
 何かあったら責任は俺に回ってくるんじゃないか、と思いながらも「マリーリ嬢と結婚したいなら早く終結させるのがよかろう?」と念押しされ、渋々ながらその案を受け入れざるをえなかった。


 ◇


「まぁ! ジュリアスさまが連日会いに来てくださるなんて嬉しい!」
「結婚するための打ち合わせは必要ですから」
「ちゃんとわたくしのこと考えてくださっているのね。さすがジュリアスさまですわ」

 キューリスがひしっとしがみついてくるのを頭の中でマリーリに変換してやり過ごす。
 むわっと甘ったるい香りで鼻が曲がりそうになるが、顔には出さずに引き攣りながらもにっこりと微笑んで彼女をエスコートした。

(どうにかちゃんとやれよ、ギルベルト)

 今日はオルガス公爵にギルベルト直々に任務を与えているため不在。
 そしてキューリスには近々行う結婚式の打ち合わせだと伝えてあり、結婚式当日の役割分担をするために使用人を全て呼んで集めておいてくれと伝えてある。

(さすがにもう何度もこの手は使えないぞ)

 オルガス公爵が不在でキューリスと使用人全ての注意をこちらに引きつけ、屋敷内の警備を手薄にするのは恐らくこれが最初で最後だろう。
 だからこそ、徹底的に大袈裟に振る舞って俺は話を長引かせるため、キューリスを褒めて持ち上げて、思ってもないことを次々と口にする。
 あまりに思ってもないことばかりで口が腐りそうになりながらも、これが最後だと歯の浮くようなセリフも言ってのけた。
 そのおかげかキューリスは舞い上がり、結婚式のことや結婚式後の新婚旅行、新婚生活などの夢物語を夢中になってペラペラと喋り、俺から離れることなくギルベルトが侵入したこともバレることなく、結婚式のスケジュールが組まれていく。

「なんて素敵な結婚式なんでしょう……!! 大勢に祝われてジュリアスさまの妻になれるだなんて、早く結婚式を挙げたいですわ。できれば今すぐ!」
「さすがに今すぐというわけにはいきませんが、国王からの許可が下りればすぐにでも。あぁ、あとオルガス公爵のスケジュールも確認しなければですね」
養父ちちはわたくしの希望であればいつでもいいと申しておりますわ。ですから国王陛下のご都合次第ということですわね」

 オルガス公爵がキューリスの言いなりだということに内心面食らう。

(そこまで弱味を握られているのか、それとも魔女の秘薬で言いなりにさせているのか)

 どちらにせよ厄介だ、と大臣を務めるオルガス公爵を意のままにするキューリスという女が恐ろしい女だと再認識する。

「……そうですか。でしたら早急に国王に聞いて参ります。今日は登城しなければならない日なので」
「まぁ……っ! お忙しい中、わざわざわたくしにお会いに来てくださったのですか? 嬉しい」
「えぇ、なんせ未来の妻になる方のためですから。未来の夫として当然のことです」
「ねぇねぇ、でしたらもう一緒に住みませんこと? 今あの女と一緒に住んでいるんですよね? 妻というのも嘘なんでしたよね?」

 上目遣いで探るように真っ直ぐこちらを見つめてくるキューリス。
 以前パーティーでキューリスと会ったときにマリーリのことを妻と言ってしまったため、それをどう誤魔化すか思案したときに咄嗟についた嘘ということにしていた。

「はい。大きな声では言えませんが、彼女の動向を探らねばならないとの用命を受けておりまして。これは秘密裏のことですので、キューリスさまにはくれぐれも我が家にはお越しいただいては困ります。……どこからこのことがバレるかわかりませんから」
「そうなのね。残念だわ」

 秘密の共有ということにしておき、マリーリよりも重要度が上だと誤認させておく。
 それでキューリスの自尊心を満たし、できるだけマリーリから遠ざけるようにした。

「あぁ、申し訳ありません。ではそろそろお暇を。登城せねばなりませんので」
「わかりましたわ。国王陛下によろしくお伝えくださいな」
「えぇ、もちろんです。よい返事ができるよう、心待ちにしていてください」

 ここまで心にもないことを言っても案外人を騙せるのだな、と思いながら馬車に乗り込む。
 そこには既に荷物のフリをした先客が乗っており、それを確認するとすぐさま俺は馬車を出すように指示を出した。
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