婚約破棄された私を拾ったのは、冷徹領主様でした。——不器用なのに過保護で、どうしてそんなに愛してくるんですか!?

鷹 綾

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第33話 はじめての街デートと、彼の独占欲

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第33話 はじめての街デートと、彼の独占欲

「み、身支度……急がなきゃ……!」

ミリアは自室に駆け戻ると、慌てて鏡の前に座った。

(街に行くって……それ、ほとんどデートじゃ……!?
 いや、違うかもしれないけど……どうしよう、落ち着かない……!)

服を選んでは悩み、髪を結っては直し、気づけば十分以上経っていた。

「ミリア」

「ひゃっ!?」

突然ドアがノックされ、アーロンの声が聞こえた。

「まだか? どんだけ遅いんだ」

「す、すぐ行きます!!」

ミリアは慌ててリボンを付け直し、ドアを開ける。

アーロンは腕を組んで待っていたが、ミリアを見るなり一瞬だけ動きを止めた。

「……」

「……あの」

ミリアは不安になって首をかしげる。

「変でしょうか……?」

アーロンは視線を逸らし、気まずそうに咳払いした。

「……似合ってる」

「へっ……!」

小声だったが確かに聞こえた。

ミリアの顔が一瞬で熱くなる。

「べ、別に褒めたわけじゃない。確認だ、確認」

「は、はい……!」

(この人……照れてる時ほど口が悪い……)

――そんなこんなで、ふたりは馬車で街へ向かった。

 

◆街の人混みと、アーロンの腕

街に着くと、ちょうど市の広場で市民市が開かれていた。

屋台が並び、人が溢れ、にぎやかな声が飛び交う。

「わぁ……すごいですね!」

ミリアは目を輝かせる。

するとアーロンが、不意にミリアの手首を掴んだ。

「は、はい!?」

「人混みだ。離れるな」

ぶっきらぼうな言い方だったが、その手は驚くほど優しくて温かい。

(……うそ。これって……手を繋いでるみたい)

ミリアの心臓はドクドク音を立てた。

アーロンは気づいていないのか、気づいていて気づかないふりをしているのか、ただ前を歩き続ける。

 

◆ミリアの初めてのアクセサリー

ふと、アクセサリー店のガラス窓に目が留まった。

「綺麗……」

ミリアの視線をたどり、アーロンが店内をのぞき込む。

「入るか?」

「えっ、いえ、見るだけです!」

「見たいなら入れ」

アーロンはミリアの背を軽く押して店内へ。

ショーケースには、色とりどりの指輪や髪飾りが並んでいる。

ミリアはひとつの髪飾りに目を奪われた。

薄い桜色の宝石が揺れる、小さなヘアピン。

「……可愛い」

ミリアはそっとつぶやく。

アーロンは店員を呼び、迷いなく言った。

「これをくれ」

「え!? い、いりません!?」

「黙れ。昨日世話になった礼だ」

「そ、そんな……アーロン様にお礼なんて……!」

「おまえはすぐ遠慮するな。気に入ってるんだろう」

ミリアは慌てて手を振ったが、アーロンは眉をひそめた。

「……嫌なら渡さない」

「ち、違います! 嫌じゃ……ありません……」

アーロンは満足げに鼻を鳴らし、ヘアピンを手渡した。

「つけてみろ」

「えっ、い、今ですか!?」

「他にいつつけるんだ」

「そ、それは……!」

ミリアが戸惑っていると、アーロンは無言で彼女の髪に手を伸ばし、そっとヘアピンを留めた。

指先が耳の近くをかすめ——ふっと息がかかった気がして、ミリアは体を固くする。

「……似合うな」

「っ……!!」

完全に顔が真っ赤になった。

アーロンはそれを見て、わずかに目を細めた。

(……今の、絶対わざと……!)

でも、胸の奥が甘くくすぐられる。

 

◆不意に現れた男の影

店を出たとき、ふいに背後から声がした。

「ミリア?」

ミリアが振り向くと、見覚えのある青年が立っていた。

「あ……庭師のルークさん……!」

昨日、花の話を教えてくれた青年。

彼はにこりと微笑む。

「今日も可愛いですね。街に来てたんですね」

アーロンがピタリと動きを止めた。

空気が——変わった。

「……ミリア」

声が低い。

「こっちだ。行くぞ」

「え、あ、でも挨拶を——」

「いらん」

アーロンはミリアの手首を掴み、強引に歩き出した。

「えっ、アーロン様……!」

ミリアが振り返ると、ルークは苦笑しながら手を振った。

(アーロン様……完全に怒ってる……!!)

歩きながら、ミリアは恐る恐る尋ねた。

「あ、あの……怒ってますか……?」

「……怒ってない」

「(絶対怒ってるやつ!!)」

アーロンは前を向いたまま、低くぼそりと言った。

「……あいつ、ミリアのこと名前で呼んでた」

「え? えっと……はい……?」

「普通に距離が近すぎる。気に食わん」

ミリアは驚いた。

(やっぱり嫉妬……?
 アーロン様……そんなに気にしてくれてたの?)

胸が温かくなり、ミリアは少し微笑んだ。

そして小さく呟く。

「……アーロン様」

「なんだ」

「私、今は……アーロン様と一緒に居たいです」

アーロンの足が止まった。

横顔がわずかに赤くなる。

「……勝手にしろ」

だけど声は優しかった。

ミリアはこっそりと笑ってしまった。

(“勝手にしろ”って……許可ですよね)

二人の距離は、もう街の喧騒とは関係なく——

ゆっくり、確実に近づいていくのだった。


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