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第二十一話 縛られた者は、沈黙を選ぶ
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第二十一話 縛られた者は、沈黙を選ぶ
去る自由を奪われた人間が、
すぐに叫ぶとは限らない。
むしろ――
最初に現れるのは、沈黙だ。
エルディア王国の街は、
以前より静かになっていた。
争いが起きたわけではない。
反乱の火が上がったわけでもない。
ただ、
人々が、
話さなくなった。
市場。
以前は価格交渉の声が飛び交い、
冗談と愚痴が混じっていた場所。
今は、
必要最低限の言葉だけが
交わされる。
「……これを」
「はい」
それだけ。
誰も、
国の話をしない。
酒場も同じだった。
酒は出る。
客もいる。
だが、
杯を交わしながら語られるのは、
天気と、
昔話だけ。
「……前はな」
年配の男が、
ふと口を開く。
「前は、
こんな夜も、
もう少し騒がしかった」
誰も、
返事をしなかった。
王宮では、
沈黙を
「安定」と誤解する声が
出始めていた。
「暴動は、
起きていません」
「抗議も、
確認されていない」
「……つまり、
効果は出ていると?」
会議室に、
安堵の空気が流れる。
ルーファス・ヴァルディオスは、
その様子を見ながら、
小さく息を吐いた。
「……静かすぎる」
誰も、
その意味を
正確には理解しなかった。
教会でも、
変化は起きていた。
祈祷の列は、
確かにある。
だが、
祈る声は、
低く、短い。
「……守ってください」
それだけ。
願いでも、
感謝でもない。
ただの、
形式的な言葉。
ミレイア・ルミナスは、
その空気に、
耐えきれずにいた。
「……皆さん」
祈りの後、
声をかける。
「何か、
困っていることは……」
人々は、
目を伏せる。
「……いいえ」
「特に……」
誰も、
本当のことを言わない。
その夜、
ミレイアは、
一人で泣いた。
「……私は、
何をしているのでしょう」
光を降ろしても、
人の心は、
動かない。
いや――
動かないのではない。
動かす価値が、
ないと判断されている。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
移住者の手続きの合間に、
小さな報告書を読んでいた。
「……沈黙が、
広がっている?」
「そうだ」
アーヴィンが答える。
「暴動が起きないのは、
平和ではない」
「……諦め、ですね」
「違う」
彼は、
首を横に振った。
「準備だ」
セラフィーナは、
その言葉を、
静かに噛みしめた。
「人は、
声を上げる前に、
一度黙ります」
「……そして」
「声を上げる価値があるか、
計算する」
エルディア王国では、
密かに、
もう一つの変化が起きていた。
人々が、
書き始めたのだ。
日記。
手紙。
帳簿の余白。
声に出さない代わりに、
言葉を、
溜め込む。
ある商人の日記には、
こう書かれていた。
――
「怒ってはいない。
ただ、この国で
老いる未来が、
想像できなくなった」
別の農夫は、
子に宛てた手紙に、
こう記す。
――
「何も言うな。
何も信じるな。
考えるだけにしろ」
沈黙は、
服従ではない。
沈黙は、
最後の自由だ。
ルーファスは、
深夜、
一人で王宮の廊下を歩いていた。
「……間違えたか」
答えは、
返らない。
返るとすれば、
それはもう少し先。
沈黙が、
限界を迎えた時だ。
人は、
叫ぶ前に黙り、
黙り続けた末に、
決断する。
それが――
「従うか、壊すか」
どちらかしか
残らなくなった瞬間。
エルディア王国は、
今、
その直前に立っていた。
そして、
誰よりも早く
それに気づいている者がいる。
去ったはずの、
前聖女。
セラフィーナ・アッシュクロフトだけが、
この沈黙の意味を、
最初から
知っていた。
去る自由を奪われた人間が、
すぐに叫ぶとは限らない。
むしろ――
最初に現れるのは、沈黙だ。
エルディア王国の街は、
以前より静かになっていた。
争いが起きたわけではない。
反乱の火が上がったわけでもない。
ただ、
人々が、
話さなくなった。
市場。
以前は価格交渉の声が飛び交い、
冗談と愚痴が混じっていた場所。
今は、
必要最低限の言葉だけが
交わされる。
「……これを」
「はい」
それだけ。
誰も、
国の話をしない。
酒場も同じだった。
酒は出る。
客もいる。
だが、
杯を交わしながら語られるのは、
天気と、
昔話だけ。
「……前はな」
年配の男が、
ふと口を開く。
「前は、
こんな夜も、
もう少し騒がしかった」
誰も、
返事をしなかった。
王宮では、
沈黙を
「安定」と誤解する声が
出始めていた。
「暴動は、
起きていません」
「抗議も、
確認されていない」
「……つまり、
効果は出ていると?」
会議室に、
安堵の空気が流れる。
ルーファス・ヴァルディオスは、
その様子を見ながら、
小さく息を吐いた。
「……静かすぎる」
誰も、
その意味を
正確には理解しなかった。
教会でも、
変化は起きていた。
祈祷の列は、
確かにある。
だが、
祈る声は、
低く、短い。
「……守ってください」
それだけ。
願いでも、
感謝でもない。
ただの、
形式的な言葉。
ミレイア・ルミナスは、
その空気に、
耐えきれずにいた。
「……皆さん」
祈りの後、
声をかける。
「何か、
困っていることは……」
人々は、
目を伏せる。
「……いいえ」
「特に……」
誰も、
本当のことを言わない。
その夜、
ミレイアは、
一人で泣いた。
「……私は、
何をしているのでしょう」
光を降ろしても、
人の心は、
動かない。
いや――
動かないのではない。
動かす価値が、
ないと判断されている。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
移住者の手続きの合間に、
小さな報告書を読んでいた。
「……沈黙が、
広がっている?」
「そうだ」
アーヴィンが答える。
「暴動が起きないのは、
平和ではない」
「……諦め、ですね」
「違う」
彼は、
首を横に振った。
「準備だ」
セラフィーナは、
その言葉を、
静かに噛みしめた。
「人は、
声を上げる前に、
一度黙ります」
「……そして」
「声を上げる価値があるか、
計算する」
エルディア王国では、
密かに、
もう一つの変化が起きていた。
人々が、
書き始めたのだ。
日記。
手紙。
帳簿の余白。
声に出さない代わりに、
言葉を、
溜め込む。
ある商人の日記には、
こう書かれていた。
――
「怒ってはいない。
ただ、この国で
老いる未来が、
想像できなくなった」
別の農夫は、
子に宛てた手紙に、
こう記す。
――
「何も言うな。
何も信じるな。
考えるだけにしろ」
沈黙は、
服従ではない。
沈黙は、
最後の自由だ。
ルーファスは、
深夜、
一人で王宮の廊下を歩いていた。
「……間違えたか」
答えは、
返らない。
返るとすれば、
それはもう少し先。
沈黙が、
限界を迎えた時だ。
人は、
叫ぶ前に黙り、
黙り続けた末に、
決断する。
それが――
「従うか、壊すか」
どちらかしか
残らなくなった瞬間。
エルディア王国は、
今、
その直前に立っていた。
そして、
誰よりも早く
それに気づいている者がいる。
去ったはずの、
前聖女。
セラフィーナ・アッシュクロフトだけが、
この沈黙の意味を、
最初から
知っていた。
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