22 / 40
第二十二話 沈黙が、形を持ち始める
しおりを挟む
第二十二話 沈黙が、形を持ち始める
沈黙は、永遠には続かない。
言葉を失った人間は、
やがて――
別の形で意思を示す。
エルディア王国の各地で、
小さな異変が起き始めていた。
それは、
暴動でも、
抗議でもない。
**「動かない」**という選択。
王都の工房街。
朝になっても、
煙突から煙が上がらなかった。
「……休業、ですか?」
巡回の兵士が尋ねる。
工房主は、
道具を整えながら答えた。
「ええ。
しばらく」
「理由は?」
「ありません」
視線は、
布告の貼られた掲示板に
一瞬だけ向けられ、
すぐに逸らされた。
市場でも、
同じことが起きる。
露店が、
開かれない。
「今日は、
仕入れがなくて」
「明日も?」
「……わかりません」
誰も、
声を荒げない。
ただ、
動かない。
王宮では、
報告が積み上がっていた。
・工房稼働率、低下
・流通量、減少
・税収、想定以下
「……ストライキ、
というわけではありません」
官僚が、
困惑したように言う。
「彼らは、
何も要求していない」
「要求がない?」
「はい。
ただ……
手を止めています」
ルーファス・ヴァルディオスは、
報告書を閉じ、
ゆっくりと息を吐いた。
「……声を出さずに、
国を止め始めたか」
それは、
最も厄介な形の抵抗だった。
教会でも、
変化は現れる。
寄進が、
減った。
理由は、
誰も言わない。
ただ、
箱が満たされなくなった。
「……信仰心の低下でしょうか」
誰かが呟く。
だが、
違う。
祈りは、
続いている。
**「支える気が、
なくなった」**だけだ。
ミレイア・ルミナスは、
聖堂の奥で、
一人、
寄進箱を見つめていた。
「……私は、
何も失っていないのに」
聖女の座も、
光の力も、
称号も。
それでも――
人は、
離れていく。
「……セラフィーナ様……」
初めて、
その名を、
誰もいない場所で
口にした。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
移住希望者の相談を受けていた。
「……怒ってはいません」
若い職人が言う。
「ただ、
動く意味が、
なくなったんです」
「……そうですか」
セラフィーナは、
頷いた。
「それは、
とても正しい判断です」
彼は、
驚いた顔をした。
「止まることも、
選択です」
彼女は、
淡々と続ける。
「声を上げない自由。
働かない自由。
期待しない自由」
「……そんな自由が、
あるんですね」
「あります。
ただし――」
一瞬、
言葉を切る。
「国は、
それを
最も恐れます」
エルディア王国では、
ついに、
次の一手が検討され始めていた。
「……動かない者に、
罰則を」
「税の加算、
営業停止処分……」
誰かが、
言い出す。
空気が、
重くなる。
ルーファスは、
目を閉じた。
縛っても、
動かない。
ならば――
押すしかない。
その選択が、
何を生むかを、
理解しながら。
人は、
声を奪われ、
去る自由を奪われ、
動く自由すら
奪われた時。
最後に残るのは、
壊す自由だけだ。
沈黙は、
今、
形を持ち始めている。
音を立てず、
だが確実に。
それが、
王国という器に
亀裂を入れていることを、
まだ、
多くの者は
理解していなかった。
沈黙は、永遠には続かない。
言葉を失った人間は、
やがて――
別の形で意思を示す。
エルディア王国の各地で、
小さな異変が起き始めていた。
それは、
暴動でも、
抗議でもない。
**「動かない」**という選択。
王都の工房街。
朝になっても、
煙突から煙が上がらなかった。
「……休業、ですか?」
巡回の兵士が尋ねる。
工房主は、
道具を整えながら答えた。
「ええ。
しばらく」
「理由は?」
「ありません」
視線は、
布告の貼られた掲示板に
一瞬だけ向けられ、
すぐに逸らされた。
市場でも、
同じことが起きる。
露店が、
開かれない。
「今日は、
仕入れがなくて」
「明日も?」
「……わかりません」
誰も、
声を荒げない。
ただ、
動かない。
王宮では、
報告が積み上がっていた。
・工房稼働率、低下
・流通量、減少
・税収、想定以下
「……ストライキ、
というわけではありません」
官僚が、
困惑したように言う。
「彼らは、
何も要求していない」
「要求がない?」
「はい。
ただ……
手を止めています」
ルーファス・ヴァルディオスは、
報告書を閉じ、
ゆっくりと息を吐いた。
「……声を出さずに、
国を止め始めたか」
それは、
最も厄介な形の抵抗だった。
教会でも、
変化は現れる。
寄進が、
減った。
理由は、
誰も言わない。
ただ、
箱が満たされなくなった。
「……信仰心の低下でしょうか」
誰かが呟く。
だが、
違う。
祈りは、
続いている。
**「支える気が、
なくなった」**だけだ。
ミレイア・ルミナスは、
聖堂の奥で、
一人、
寄進箱を見つめていた。
「……私は、
何も失っていないのに」
聖女の座も、
光の力も、
称号も。
それでも――
人は、
離れていく。
「……セラフィーナ様……」
初めて、
その名を、
誰もいない場所で
口にした。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
移住希望者の相談を受けていた。
「……怒ってはいません」
若い職人が言う。
「ただ、
動く意味が、
なくなったんです」
「……そうですか」
セラフィーナは、
頷いた。
「それは、
とても正しい判断です」
彼は、
驚いた顔をした。
「止まることも、
選択です」
彼女は、
淡々と続ける。
「声を上げない自由。
働かない自由。
期待しない自由」
「……そんな自由が、
あるんですね」
「あります。
ただし――」
一瞬、
言葉を切る。
「国は、
それを
最も恐れます」
エルディア王国では、
ついに、
次の一手が検討され始めていた。
「……動かない者に、
罰則を」
「税の加算、
営業停止処分……」
誰かが、
言い出す。
空気が、
重くなる。
ルーファスは、
目を閉じた。
縛っても、
動かない。
ならば――
押すしかない。
その選択が、
何を生むかを、
理解しながら。
人は、
声を奪われ、
去る自由を奪われ、
動く自由すら
奪われた時。
最後に残るのは、
壊す自由だけだ。
沈黙は、
今、
形を持ち始めている。
音を立てず、
だが確実に。
それが、
王国という器に
亀裂を入れていることを、
まだ、
多くの者は
理解していなかった。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路
藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。
この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。
「聖女がいなくても平気だ」
そう言い切った王子と人々は、
彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、
やがて思い知ることになる。
――これは、聖女を追い出した国の末路を、
静かに見届けた者の記録。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました
Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。
「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」
元婚約者である王子はそう言い放った。
十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。
その沈黙には、理由があった。
その夜、王都を照らす奇跡の光。
枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。
「真の聖女が目覚めた」と——
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
さよなら王子、古い聖女は去るものなのです
唯崎りいち
恋愛
元聖女の私は、自分が無能だと思い、有能な新しい聖女に任せるために王都を去ることを選んだ。しかし幼なじみの王子は、私を追いかけてくる。王子の真剣な想いと、自分の無自覚な力が国や人々に影響を与えていることに気づき、私は王都へ戻る決意をする。こうして二人は互いの気持ちを確かめ合い、結ばれる――自己評価の低い少女が本当の価値と愛に気づく、ハッピーラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる