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第二十二話 沈黙が、形を持ち始める
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第二十二話 沈黙が、形を持ち始める
沈黙は、永遠には続かない。
言葉を失った人間は、
やがて――
別の形で意思を示す。
エルディア王国の各地で、
小さな異変が起き始めていた。
それは、
暴動でも、
抗議でもない。
**「動かない」**という選択。
王都の工房街。
朝になっても、
煙突から煙が上がらなかった。
「……休業、ですか?」
巡回の兵士が尋ねる。
工房主は、
道具を整えながら答えた。
「ええ。
しばらく」
「理由は?」
「ありません」
視線は、
布告の貼られた掲示板に
一瞬だけ向けられ、
すぐに逸らされた。
市場でも、
同じことが起きる。
露店が、
開かれない。
「今日は、
仕入れがなくて」
「明日も?」
「……わかりません」
誰も、
声を荒げない。
ただ、
動かない。
王宮では、
報告が積み上がっていた。
・工房稼働率、低下
・流通量、減少
・税収、想定以下
「……ストライキ、
というわけではありません」
官僚が、
困惑したように言う。
「彼らは、
何も要求していない」
「要求がない?」
「はい。
ただ……
手を止めています」
ルーファス・ヴァルディオスは、
報告書を閉じ、
ゆっくりと息を吐いた。
「……声を出さずに、
国を止め始めたか」
それは、
最も厄介な形の抵抗だった。
教会でも、
変化は現れる。
寄進が、
減った。
理由は、
誰も言わない。
ただ、
箱が満たされなくなった。
「……信仰心の低下でしょうか」
誰かが呟く。
だが、
違う。
祈りは、
続いている。
**「支える気が、
なくなった」**だけだ。
ミレイア・ルミナスは、
聖堂の奥で、
一人、
寄進箱を見つめていた。
「……私は、
何も失っていないのに」
聖女の座も、
光の力も、
称号も。
それでも――
人は、
離れていく。
「……セラフィーナ様……」
初めて、
その名を、
誰もいない場所で
口にした。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
移住希望者の相談を受けていた。
「……怒ってはいません」
若い職人が言う。
「ただ、
動く意味が、
なくなったんです」
「……そうですか」
セラフィーナは、
頷いた。
「それは、
とても正しい判断です」
彼は、
驚いた顔をした。
「止まることも、
選択です」
彼女は、
淡々と続ける。
「声を上げない自由。
働かない自由。
期待しない自由」
「……そんな自由が、
あるんですね」
「あります。
ただし――」
一瞬、
言葉を切る。
「国は、
それを
最も恐れます」
エルディア王国では、
ついに、
次の一手が検討され始めていた。
「……動かない者に、
罰則を」
「税の加算、
営業停止処分……」
誰かが、
言い出す。
空気が、
重くなる。
ルーファスは、
目を閉じた。
縛っても、
動かない。
ならば――
押すしかない。
その選択が、
何を生むかを、
理解しながら。
人は、
声を奪われ、
去る自由を奪われ、
動く自由すら
奪われた時。
最後に残るのは、
壊す自由だけだ。
沈黙は、
今、
形を持ち始めている。
音を立てず、
だが確実に。
それが、
王国という器に
亀裂を入れていることを、
まだ、
多くの者は
理解していなかった。
沈黙は、永遠には続かない。
言葉を失った人間は、
やがて――
別の形で意思を示す。
エルディア王国の各地で、
小さな異変が起き始めていた。
それは、
暴動でも、
抗議でもない。
**「動かない」**という選択。
王都の工房街。
朝になっても、
煙突から煙が上がらなかった。
「……休業、ですか?」
巡回の兵士が尋ねる。
工房主は、
道具を整えながら答えた。
「ええ。
しばらく」
「理由は?」
「ありません」
視線は、
布告の貼られた掲示板に
一瞬だけ向けられ、
すぐに逸らされた。
市場でも、
同じことが起きる。
露店が、
開かれない。
「今日は、
仕入れがなくて」
「明日も?」
「……わかりません」
誰も、
声を荒げない。
ただ、
動かない。
王宮では、
報告が積み上がっていた。
・工房稼働率、低下
・流通量、減少
・税収、想定以下
「……ストライキ、
というわけではありません」
官僚が、
困惑したように言う。
「彼らは、
何も要求していない」
「要求がない?」
「はい。
ただ……
手を止めています」
ルーファス・ヴァルディオスは、
報告書を閉じ、
ゆっくりと息を吐いた。
「……声を出さずに、
国を止め始めたか」
それは、
最も厄介な形の抵抗だった。
教会でも、
変化は現れる。
寄進が、
減った。
理由は、
誰も言わない。
ただ、
箱が満たされなくなった。
「……信仰心の低下でしょうか」
誰かが呟く。
だが、
違う。
祈りは、
続いている。
**「支える気が、
なくなった」**だけだ。
ミレイア・ルミナスは、
聖堂の奥で、
一人、
寄進箱を見つめていた。
「……私は、
何も失っていないのに」
聖女の座も、
光の力も、
称号も。
それでも――
人は、
離れていく。
「……セラフィーナ様……」
初めて、
その名を、
誰もいない場所で
口にした。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
移住希望者の相談を受けていた。
「……怒ってはいません」
若い職人が言う。
「ただ、
動く意味が、
なくなったんです」
「……そうですか」
セラフィーナは、
頷いた。
「それは、
とても正しい判断です」
彼は、
驚いた顔をした。
「止まることも、
選択です」
彼女は、
淡々と続ける。
「声を上げない自由。
働かない自由。
期待しない自由」
「……そんな自由が、
あるんですね」
「あります。
ただし――」
一瞬、
言葉を切る。
「国は、
それを
最も恐れます」
エルディア王国では、
ついに、
次の一手が検討され始めていた。
「……動かない者に、
罰則を」
「税の加算、
営業停止処分……」
誰かが、
言い出す。
空気が、
重くなる。
ルーファスは、
目を閉じた。
縛っても、
動かない。
ならば――
押すしかない。
その選択が、
何を生むかを、
理解しながら。
人は、
声を奪われ、
去る自由を奪われ、
動く自由すら
奪われた時。
最後に残るのは、
壊す自由だけだ。
沈黙は、
今、
形を持ち始めている。
音を立てず、
だが確実に。
それが、
王国という器に
亀裂を入れていることを、
まだ、
多くの者は
理解していなかった。
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