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第6話 謹慎内容の説明
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第6話 謹慎内容の説明
無期限謹慎命令が下されてから、三日が経った。
エレシアは、その三日間を――
ほとんど何もせずに過ごしていた。
誰かが呼びに来ることもなければ、
説教も、確認も、再調査もない。
あるのは、決められた時間に届けられる食事と、
最低限の生活用品だけ。
(……本当に、放置なのね)
それは予想していた以上に、
**徹底した「何もしなさ」**だった。
四日目の朝。
控えめなノックの音が、部屋に響いた。
「エレシア・ヴァレンティス様」
聞き覚えのある、文官の声。
(あ、やっと来た)
ようやく、
謹慎の「詳細説明」という名目の
事務処理が始まるらしい。
応接用の小さな机を挟んで、
文官が一人、書類を並べて座った。
彼は咳払いを一つしてから、
淡々と口を開く。
「本日は、
無期限謹慎に伴う具体的な内容について、
説明を行います」
「はい」
エレシアは、
姿勢を正しつつも、
内心は驚くほど穏やかだった。
「まず――
謹慎期間中、
エレシア様は王城外への外出を禁じられます」
「……分かりました」
予想通り。
「次に、
すべての職務、役割、
および公的な責務は停止となります」
それも、想定内。
王太子妃候補としての役割など、
すでに失われている。
「続いて、
政治的活動、社交活動、
ならびに情報の発信、収集は、
全面的に禁止されます」
文官は、
書類に視線を落としたまま読み上げる。
「また、
謹慎対象者に対する
説得、交渉、同情、
復帰を目的とした接触行為は、
原則として認められません」
エレシアは、
ここで初めて、
ほんの少しだけ目を瞬かせた。
(……え?)
(今、なんて?)
「……確認させてください」
静かに、だがはっきりと。
「“接触行為”というのは、
こちらから動くことだけでなく……」
「はい」
文官は、即答した。
「第三者からの干渉も含まれます」
――干渉禁止。
エレシアは、
その言葉を、
頭の中で転がす。
(つまり……)
(誰かが私を呼び出したり、
説得したり、
様子を見に来たりすることも、
基本的には、禁止)
文官は、
さらに続ける。
「謹慎の目的は、
当該人物を
政治的、社会的影響から切り離し、
事態の沈静化を図ることにあります」
「そのため、
関係者が不用意に接触することは、
秩序維持の観点から好ましくありません」
エレシアは、
思わず、心の中で拍手しそうになった。
(……すごい)
(徹底してる)
前世で、
どれほど「休んでいるのに連絡が来る」
という理不尽に悩まされたことか。
「今すぐ対応を」
「少しだけ相談が」
「君にしかできない」
そんな言葉で、
休息は常に侵食されていた。
だが、ここでは違う。
干渉そのものが、禁止。
(……完璧じゃない)
「なお、
生活に必要な物資の補給、
住環境の維持については、
王家が責任を持ちます」
「そのための担当者が、
定期的に出入りすることになりますが……」
文官は、
一瞬、言葉を区切った。
「その者との会話は、
業務上必要な範囲に限られます」
(つまり、
雑談も、説教も、
余計な心配も、なし)
「以上が、
現時点で定められている
謹慎内容となります」
文官は、
書類を揃え、
顔を上げた。
「ご不明な点は、ありますか」
エレシアは、
少しだけ考えてから、
首を横に振った。
「……いいえ」
不明点は、ない。
むしろ――
理解しすぎるほど理解した。
文官は、
安堵したように頷く。
「では、
こちらの内容に従い、
お過ごしください」
そう言って、
一礼し、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
部屋に残されたのは、
エレシア一人。
彼女は、
椅子に深く腰掛け、
天井を見上げた。
「……外出禁止」
「……職務停止」
「……干渉禁止」
一つ一つ、
声に出して確認する。
そして、
静かに結論を出した。
「……何も、
しなくていい」
それは、
怠惰ではない。
逃避でもない。
**公式に認められた、
“何もしない権利”**だ。
(こんな命令が、
前世で欲しかった……)
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
エレシアは、
窓の外を眺めながら、
静かに微笑んだ。
王城は今日も騒がしい。
誰かが働き、
誰かが争い、
誰かが責任を背負っている。
だが――
そのすべては、
もう、彼女の世界ではない。
無期限謹慎。
それは、
牢獄ではなかった。
むしろ、
外界から切り離された、
静かな箱庭。
エレシアは、
ゆっくりと目を閉じる。
(……いいわ)
(このまま、
誰にも触れられず)
(何も起こらず)
(静かに、
過ごしましょう)
こうして、
謹慎の本当の内容が明らかになり――
エレシアは、
確信し始めていた。
この命令は、
罰ではない。
これは、
祝福に変わり得る命令だということを。
無期限謹慎命令が下されてから、三日が経った。
エレシアは、その三日間を――
ほとんど何もせずに過ごしていた。
誰かが呼びに来ることもなければ、
説教も、確認も、再調査もない。
あるのは、決められた時間に届けられる食事と、
最低限の生活用品だけ。
(……本当に、放置なのね)
それは予想していた以上に、
**徹底した「何もしなさ」**だった。
四日目の朝。
控えめなノックの音が、部屋に響いた。
「エレシア・ヴァレンティス様」
聞き覚えのある、文官の声。
(あ、やっと来た)
ようやく、
謹慎の「詳細説明」という名目の
事務処理が始まるらしい。
応接用の小さな机を挟んで、
文官が一人、書類を並べて座った。
彼は咳払いを一つしてから、
淡々と口を開く。
「本日は、
無期限謹慎に伴う具体的な内容について、
説明を行います」
「はい」
エレシアは、
姿勢を正しつつも、
内心は驚くほど穏やかだった。
「まず――
謹慎期間中、
エレシア様は王城外への外出を禁じられます」
「……分かりました」
予想通り。
「次に、
すべての職務、役割、
および公的な責務は停止となります」
それも、想定内。
王太子妃候補としての役割など、
すでに失われている。
「続いて、
政治的活動、社交活動、
ならびに情報の発信、収集は、
全面的に禁止されます」
文官は、
書類に視線を落としたまま読み上げる。
「また、
謹慎対象者に対する
説得、交渉、同情、
復帰を目的とした接触行為は、
原則として認められません」
エレシアは、
ここで初めて、
ほんの少しだけ目を瞬かせた。
(……え?)
(今、なんて?)
「……確認させてください」
静かに、だがはっきりと。
「“接触行為”というのは、
こちらから動くことだけでなく……」
「はい」
文官は、即答した。
「第三者からの干渉も含まれます」
――干渉禁止。
エレシアは、
その言葉を、
頭の中で転がす。
(つまり……)
(誰かが私を呼び出したり、
説得したり、
様子を見に来たりすることも、
基本的には、禁止)
文官は、
さらに続ける。
「謹慎の目的は、
当該人物を
政治的、社会的影響から切り離し、
事態の沈静化を図ることにあります」
「そのため、
関係者が不用意に接触することは、
秩序維持の観点から好ましくありません」
エレシアは、
思わず、心の中で拍手しそうになった。
(……すごい)
(徹底してる)
前世で、
どれほど「休んでいるのに連絡が来る」
という理不尽に悩まされたことか。
「今すぐ対応を」
「少しだけ相談が」
「君にしかできない」
そんな言葉で、
休息は常に侵食されていた。
だが、ここでは違う。
干渉そのものが、禁止。
(……完璧じゃない)
「なお、
生活に必要な物資の補給、
住環境の維持については、
王家が責任を持ちます」
「そのための担当者が、
定期的に出入りすることになりますが……」
文官は、
一瞬、言葉を区切った。
「その者との会話は、
業務上必要な範囲に限られます」
(つまり、
雑談も、説教も、
余計な心配も、なし)
「以上が、
現時点で定められている
謹慎内容となります」
文官は、
書類を揃え、
顔を上げた。
「ご不明な点は、ありますか」
エレシアは、
少しだけ考えてから、
首を横に振った。
「……いいえ」
不明点は、ない。
むしろ――
理解しすぎるほど理解した。
文官は、
安堵したように頷く。
「では、
こちらの内容に従い、
お過ごしください」
そう言って、
一礼し、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
部屋に残されたのは、
エレシア一人。
彼女は、
椅子に深く腰掛け、
天井を見上げた。
「……外出禁止」
「……職務停止」
「……干渉禁止」
一つ一つ、
声に出して確認する。
そして、
静かに結論を出した。
「……何も、
しなくていい」
それは、
怠惰ではない。
逃避でもない。
**公式に認められた、
“何もしない権利”**だ。
(こんな命令が、
前世で欲しかった……)
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
エレシアは、
窓の外を眺めながら、
静かに微笑んだ。
王城は今日も騒がしい。
誰かが働き、
誰かが争い、
誰かが責任を背負っている。
だが――
そのすべては、
もう、彼女の世界ではない。
無期限謹慎。
それは、
牢獄ではなかった。
むしろ、
外界から切り離された、
静かな箱庭。
エレシアは、
ゆっくりと目を閉じる。
(……いいわ)
(このまま、
誰にも触れられず)
(何も起こらず)
(静かに、
過ごしましょう)
こうして、
謹慎の本当の内容が明らかになり――
エレシアは、
確信し始めていた。
この命令は、
罰ではない。
これは、
祝福に変わり得る命令だということを。
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