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第11話 面会禁止
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第11話 面会禁止
それは、予告もなく追加された。
謹慎が始まってから、
エレシアの生活は、すでに完成されていた。
何もしない。
誰とも関わらない。
干渉されない。
それ以上でも、それ以下でもない。
(……これ以上、
削るものって、
あるかしら)
そんなことを考えていた、
ちょうどその日の午後だった。
控えめなノック。
エレシアは、
反射的に身構えそうになり、
すぐに思い直す。
(……干渉禁止)
(不用意に来るはず、
ないわよね)
扉の外に立っていたのは、
見覚えのある文官だった。
彼は一礼すると、
必要最低限の動作で、
一枚の書類を差し出す。
「追加の通達です」
その言葉だけ。
感情は、
一切、含まれていない。
エレシアは、
静かに受け取り、
目を落とす。
――無期限謹慎中の当該人物に対し、
――第三者との面会を、
――原則として禁止する。
(……面会禁止)
一瞬、
頭の中で言葉を転がす。
(つまり)
(誰も、
会いに来ない)
文官は、
淡々と補足する。
「謹慎対象者に対し、
同情、説得、交渉、
あるいは復帰を目的とした接触が、
発生し始めているためです」
エレシアは、
小さく首を傾げた。
「……誰かが、
私に会いたがっているのですか」
文官は、
一瞬だけ、言葉に詰まったように見えた。
「……はい」
だが、
それ以上は語らない。
「王家としては、
これ以上の混乱を避けるため、
完全な遮断が最善であると判断しました」
エレシアは、
その説明を聞きながら、
内心で、静かに納得していた。
(なるほど)
(“何も起こらない状態”を、
守るための命令、ね)
誰かが来れば、
話が生まれる。
話が生まれれば、
期待が生まれる。
期待が生まれれば、
判断を迫られる。
(……全部、
いらない)
「ご質問は、ありますか」
いつも通りの、
形式的な問い。
エレシアは、
少し考えてから、
首を横に振った。
「……いいえ」
文官は、
安堵したように、
わずかに肩の力を抜いた。
「では、
こちらの命令は、
本日より施行されます」
一礼。
それで、終わりだった。
扉が閉まる。
部屋には、
再び、静寂が戻る。
エレシアは、
命令書を机に置き、
椅子に腰を下ろした。
「……面会禁止、か」
声に出してみる。
普通なら、
不安になるだろう。
孤立する。
切り捨てられる。
見捨てられる。
だが――
エレシアの胸に湧いたのは、
まったく逆の感情だった。
(……守られてる)
面会禁止。
それは、
孤独の宣告ではない。
侵入禁止だ。
誰かの正義。
誰かの善意。
誰かの後悔。
それらが、
この静かな生活を壊す前に、
門を閉じた。
(……ありがたいわ)
エレシアは、
窓辺に立ち、
外を眺めた。
城の中では、
相変わらず、
誰かが動いている。
誰かが、
何かを言い、
何かを決めている。
だが――
それは、
もう自分の世界ではない。
(説得、
されなくていい)
(同情、
されなくていい)
(“戻ってきて”なんて、
言われなくていい)
前世で、
どれほどそれに苦しめられただろう。
「あなたのため」
「あなたを思って」
「みんな心配している」
その言葉の裏で、
どれほど無理をさせられたか。
だが、ここでは違う。
公式に、
拒否できる。
面会禁止。
それは、
エレシアにとって、
とても優しい命令だった。
夕方。
食事が運ばれる。
無言の使用人。
必要な動作だけ。
(……この距離感)
(本当に、
完璧)
エレシアは、
ゆっくりと食事を終え、
深く息を吐いた。
(世界が、
さらに一歩、
遠ざかった)
だが、
それは不安ではない。
安心だ。
夜。
灯りを落とし、
ベッドに横になる。
(……もう)
(誰も、
来ない)
その事実を、
彼女は心から歓迎していた。
面会禁止。
それは、
彼女を閉じ込めるための命令ではない。
静寂を、
完全なものにするための、
最後の鍵だった。
エレシアは、
目を閉じながら、
小さく呟いた。
「……いい判断ね」
誰にも聞かれない声。
誰にも返されない言葉。
それこそが――
彼女が求めていた、
完璧な環境だった。
こうして、
世界はさらに閉じていく。
だが、
閉じたのは檻ではない。
扉だった。
エレシアの世界を、
外から守るための。
そして彼女は、
その内側で、
何一つ失うことなく、
静かに息をしていた。
それは、予告もなく追加された。
謹慎が始まってから、
エレシアの生活は、すでに完成されていた。
何もしない。
誰とも関わらない。
干渉されない。
それ以上でも、それ以下でもない。
(……これ以上、
削るものって、
あるかしら)
そんなことを考えていた、
ちょうどその日の午後だった。
控えめなノック。
エレシアは、
反射的に身構えそうになり、
すぐに思い直す。
(……干渉禁止)
(不用意に来るはず、
ないわよね)
扉の外に立っていたのは、
見覚えのある文官だった。
彼は一礼すると、
必要最低限の動作で、
一枚の書類を差し出す。
「追加の通達です」
その言葉だけ。
感情は、
一切、含まれていない。
エレシアは、
静かに受け取り、
目を落とす。
――無期限謹慎中の当該人物に対し、
――第三者との面会を、
――原則として禁止する。
(……面会禁止)
一瞬、
頭の中で言葉を転がす。
(つまり)
(誰も、
会いに来ない)
文官は、
淡々と補足する。
「謹慎対象者に対し、
同情、説得、交渉、
あるいは復帰を目的とした接触が、
発生し始めているためです」
エレシアは、
小さく首を傾げた。
「……誰かが、
私に会いたがっているのですか」
文官は、
一瞬だけ、言葉に詰まったように見えた。
「……はい」
だが、
それ以上は語らない。
「王家としては、
これ以上の混乱を避けるため、
完全な遮断が最善であると判断しました」
エレシアは、
その説明を聞きながら、
内心で、静かに納得していた。
(なるほど)
(“何も起こらない状態”を、
守るための命令、ね)
誰かが来れば、
話が生まれる。
話が生まれれば、
期待が生まれる。
期待が生まれれば、
判断を迫られる。
(……全部、
いらない)
「ご質問は、ありますか」
いつも通りの、
形式的な問い。
エレシアは、
少し考えてから、
首を横に振った。
「……いいえ」
文官は、
安堵したように、
わずかに肩の力を抜いた。
「では、
こちらの命令は、
本日より施行されます」
一礼。
それで、終わりだった。
扉が閉まる。
部屋には、
再び、静寂が戻る。
エレシアは、
命令書を机に置き、
椅子に腰を下ろした。
「……面会禁止、か」
声に出してみる。
普通なら、
不安になるだろう。
孤立する。
切り捨てられる。
見捨てられる。
だが――
エレシアの胸に湧いたのは、
まったく逆の感情だった。
(……守られてる)
面会禁止。
それは、
孤独の宣告ではない。
侵入禁止だ。
誰かの正義。
誰かの善意。
誰かの後悔。
それらが、
この静かな生活を壊す前に、
門を閉じた。
(……ありがたいわ)
エレシアは、
窓辺に立ち、
外を眺めた。
城の中では、
相変わらず、
誰かが動いている。
誰かが、
何かを言い、
何かを決めている。
だが――
それは、
もう自分の世界ではない。
(説得、
されなくていい)
(同情、
されなくていい)
(“戻ってきて”なんて、
言われなくていい)
前世で、
どれほどそれに苦しめられただろう。
「あなたのため」
「あなたを思って」
「みんな心配している」
その言葉の裏で、
どれほど無理をさせられたか。
だが、ここでは違う。
公式に、
拒否できる。
面会禁止。
それは、
エレシアにとって、
とても優しい命令だった。
夕方。
食事が運ばれる。
無言の使用人。
必要な動作だけ。
(……この距離感)
(本当に、
完璧)
エレシアは、
ゆっくりと食事を終え、
深く息を吐いた。
(世界が、
さらに一歩、
遠ざかった)
だが、
それは不安ではない。
安心だ。
夜。
灯りを落とし、
ベッドに横になる。
(……もう)
(誰も、
来ない)
その事実を、
彼女は心から歓迎していた。
面会禁止。
それは、
彼女を閉じ込めるための命令ではない。
静寂を、
完全なものにするための、
最後の鍵だった。
エレシアは、
目を閉じながら、
小さく呟いた。
「……いい判断ね」
誰にも聞かれない声。
誰にも返されない言葉。
それこそが――
彼女が求めていた、
完璧な環境だった。
こうして、
世界はさらに閉じていく。
だが、
閉じたのは檻ではない。
扉だった。
エレシアの世界を、
外から守るための。
そして彼女は、
その内側で、
何一つ失うことなく、
静かに息をしていた。
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