無実の罪で永遠に謹慎する女 ――謹慎していたい令嬢は、何もしないことを選びました**

鷹 綾

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第21話 真犯人逮捕

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第21話 真犯人逮捕

 

その知らせは、
騒ぎとしてではなく、
事務連絡として王城に流れた。

 

「――被疑者、確保」

 

短い一文。

感情も、
強調も、
劇的な表現もない。

 

だが、それは確かに――
あの事件の終わりを告げる言葉だった。

 

王太子妃候補が、
無実の罪で告発され、
婚約を破棄され、
無期限謹慎に追い込まれた一連の騒動。

 

その真犯人が、
ついに捕らえられたのだ。

 

城内の一室。

複数の文官が集まり、
机の上に並べられた書類を、
黙って見下ろしていた。

 

「証拠は十分だな」

「虚偽証言の誘導、
 証拠品の差し替え、
 動機も明確」

 

誰も、
疑問を挟まない。

 

事件は、
完全に“黒”だった。

 

そして、
それと同時に――
一つの事実が、
避けようもなく浮かび上がる。

 

「……つまり」

 

誰かが、
低い声で言った。

 

「エレシア・ヴァレンティスは、
 完全に無実だった」

 

沈黙。

 

誰も、
その名前を大きな声で呼ばなかった。

 

それは、
罪人の名ではない。

 

だが、
同時に――
触れてはいけない名でもあった。

 

「無期限謹慎……」

 

別の文官が、
書類をめくりながら呟く。

 

「解除条件、
 一切、記載なし」

 

「……ある意味、
 完璧な命令だな」

 

誰かが、
苦笑混じりに言った。

 

無実の者に下された、
期限も、条件もない謹慎命令。

 

それは、
処罰としては異常だ。

 

だが、
法的には――
有効だった。

 

「では、
 どうする?」

 

その問いに、
即答できる者はいなかった。

 

彼女は、
面会禁止。

 

干渉禁止。

 

命令を解除するためには、
本人に接触し、
新たな命令を告げる必要がある。

 

だが――
それ自体が、
現在の命令に違反する可能性を孕んでいた。

 

「……王太子殿下に、
 報告を」

 

そうして、
話は王太子のもとへ運ばれる。

 

王太子は、
書類に目を通し、
しばらく言葉を失った。

 

「……私が」

 

彼は、
低く呟く。

 

「私が、
 命令したのか」

 

秩序を守るため。

混乱を避けるため。

疑惑が晴れるまで、
一時的に遠ざける――
そのつもりだった。

 

だが、
結果はどうだ。

 

無実の者を、
無期限で、
世界から切り離した。

 

「……彼女は?」

 

「現在も、
 命令通り、
 謹慎中です」

 

その報告に、
王太子は、
目を閉じた。

 

彼女は、
抗議しなかった。

 

弁明もしなかった。

 

潔白を主張する声も、
一度も上げなかった。

 

ただ、
命令を受け入れ、
沈黙した。

 

「……知らせを、
 届けるべきだな」

 

王太子は、
そう言った。

 

だが、
その言葉に、
誰もすぐには頷かなかった。

 

「殿下」

 

法務官が、
慎重に口を開く。

 

「現在、
 彼女には
 面会禁止命令が出ております」

 

「……解除すればいい」

 

「解除命令を出すためにも、
 接触が必要です」

 

王太子は、
唇を噛んだ。

 

制度が、
完全に噛み合っていない。

 

いや――
噛み合いすぎて、
身動きが取れなくなっている。

 

その頃。

 

エレシアは、
いつもと変わらぬ午後を過ごしていた。

 

光。
静寂。
変化のない空気。

 

(……少し、
 外が、
 ざわついている気がする)

 

そう感じはした。

 

だが、
理由を知ろうとはしなかった。

 

知れば、
干渉される。

 

干渉されれば、
静けさが壊れる。

 

彼女は、
もう、その選択を終えている。

 

(……関係ないわ)

 

真実が、
どうであれ。

 

正義が、
どう裁かれようと。

 

無期限謹慎という命令が、
有効である限り、
彼女は、
動かない。

 

その夜。

 

王城では、
「真犯人逮捕」の話題が、
静かに広がっていた。

 

だが、
同時に、
もう一つの囁きも、
生まれ始めていた。

 

――無実の令嬢は、
 今も、
 閉じ込められたままだ。

 

それが、
誰の責任なのか。

 

誰も、
はっきりとは言わない。

 

だが、
確実に、
空気が変わり始めていた。

 

そして、
その変化だけが――
エレシアの世界に、
まだ、
届いていなかった。

 

第5章は、
こうして始まる。

 

真実が明らかになったにもかかわらず、
 何も変わらない世界として。

 

そしてこの停滞こそが、
やがて――
王太子にとって、
逃れられない“ざまぁ”へと
変わっていくことを、
まだ、
誰も知らなかった。
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