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第22話 無実の証明
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第22話 無実の証明
その書類は、
一枚で十分だった。
――事件再調査報告書
――被疑者:エレシア・ヴァレンティス
――結論:関与なし
それ以上の言葉は、
必要なかった。
王城の会議室では、
その一文が、
静かに、
だが確実に、
場の空気を変えていた。
「……完全に、
白だな」
誰かが、
低く呟く。
異論は出なかった。
証拠は揃っている。
証言も一致している。
真犯人の供述も、
すでに裏取りが済んでいる。
疑いようがない。
エレシア・ヴァレンティスは、
最初から、
何もしていなかった。
だが――
その事実が確定した瞬間、
会議室に、
奇妙な沈黙が落ちた。
「……で、
次は?」
その問いに、
誰も即答できなかった。
無実が証明された。
ならば、
謝罪し、
名誉を回復し、
処分を撤回する。
それが、
正しい手順だ。
だが、
この件は――
あまりにも、
“正しく処理されすぎていた”。
「無期限謹慎……」
法務官が、
書類をめくりながら、
ゆっくりと口にする。
「解除条件の記載、
一切なし」
「つまり?」
「……解除には、
新たな命令が必要です」
そして、
その命令を出すためには――
本人に通達する必要がある。
「だが、
面会禁止だ」
誰かが言う。
「干渉禁止も、
有効なまま」
無実が証明されたという事実は、
制度の外側にある。
命令は、
今も、
完璧に効いている。
「……これは、
想定していなかったな」
王太子が、
重く息を吐いた。
彼の前には、
二つの現実が並んでいる。
一つは、
無実の証明。
もう一つは、
自分が出した、
無期限謹慎命令。
どちらも、
否定できない。
「……彼女に、
知らせなければ」
王太子は、
そう言った。
だが、
その声には、
迷いがあった。
知らせるとは、
どういうことか。
無実だと告げる。
処分は誤りだったと認める。
王太子妃候補として、
復帰を打診する。
――それは、
干渉ではないのか。
「殿下」
法務官が、
慎重に言葉を選ぶ。
「現行命令に基づけば、
彼女への接触は、
すべて“干渉”に該当します」
「……無実を知らせることも?」
「法的には、
はい」
その瞬間、
王太子は、
言葉を失った。
正義を伝えることが、
違反になる。
救済しようとする行為が、
罰則の対象になる。
それが、
自分の出した命令の、
正確な帰結だった。
「……では、
使者を出せないのか」
「門前で止められます。
謹慎区域への立ち入りは、
禁止されています」
「文書なら?」
「直接の通達は、
やはり干渉と見なされます」
王太子は、
拳を握りしめた。
無実は、
証明された。
だが、
その事実を、
本人に届ける手段がない。
その頃――
エレシアは、
いつも通りの午後を過ごしていた。
光は、
変わらず穏やかで、
部屋は、
変わらず静かだ。
(……今日は、
少し、
空気が違う気がする)
理由は分からない。
ただ、
どこかで、
世界が動いたような、
微かな感触。
だが、
それを追わない。
(……関係ない)
彼女は、
もう、
世界の動きに、
自分を合わせないと
決めている。
無実が証明されたとしても。
それが、
この部屋の外で起きたことなら、
彼女の生活には、
関係ない。
(……命令は、
解除されていない)
それが、
彼女にとっての、
唯一の判断基準だった。
夜。
王城では、
別の書類が、
密かに作られていた。
――名誉回復案
――謝罪文草案
――復帰に関する検討資料
だが、
どれも、
実行段階に進めない。
なぜなら、
中心にいるべき本人が、
完全に、
隔離されているからだ。
「……無実を証明したのに、
何もできないとはな」
誰かが、
苦々しく言う。
それは、
責任の所在を、
誰も明確にできない
状況でもあった。
命令を出したのは、
王太子。
だが、
命令は、
法に則っている。
無実が証明された今、
誰もが、
「正しくしなければ」と思っている。
だが、
正しくする手段が、
存在しない。
一方で――
エレシアは、
静かに眠りにつこうとしていた。
(……今日も、
何も起きなかった)
その事実に、
安堵する。
彼女は、
無実が証明されたことを、
まだ知らない。
だが、
知らないことを、
不幸だとは思わなかった。
なぜなら――
それを知ったところで、
この静けさを、
手放す気はないからだ。
こうして――
無実は、
完全に証明された。
だが、
それは、
世界の中だけの話だった。
エレシアの世界は、
今日も、
何一つ変わらない。
そしてその乖離が、
やがて――
王太子にとって、
取り返しのつかない
“評価”へと変わっていくことを、
まだ、
誰も知らなかった。
その書類は、
一枚で十分だった。
――事件再調査報告書
――被疑者:エレシア・ヴァレンティス
――結論:関与なし
それ以上の言葉は、
必要なかった。
王城の会議室では、
その一文が、
静かに、
だが確実に、
場の空気を変えていた。
「……完全に、
白だな」
誰かが、
低く呟く。
異論は出なかった。
証拠は揃っている。
証言も一致している。
真犯人の供述も、
すでに裏取りが済んでいる。
疑いようがない。
エレシア・ヴァレンティスは、
最初から、
何もしていなかった。
だが――
その事実が確定した瞬間、
会議室に、
奇妙な沈黙が落ちた。
「……で、
次は?」
その問いに、
誰も即答できなかった。
無実が証明された。
ならば、
謝罪し、
名誉を回復し、
処分を撤回する。
それが、
正しい手順だ。
だが、
この件は――
あまりにも、
“正しく処理されすぎていた”。
「無期限謹慎……」
法務官が、
書類をめくりながら、
ゆっくりと口にする。
「解除条件の記載、
一切なし」
「つまり?」
「……解除には、
新たな命令が必要です」
そして、
その命令を出すためには――
本人に通達する必要がある。
「だが、
面会禁止だ」
誰かが言う。
「干渉禁止も、
有効なまま」
無実が証明されたという事実は、
制度の外側にある。
命令は、
今も、
完璧に効いている。
「……これは、
想定していなかったな」
王太子が、
重く息を吐いた。
彼の前には、
二つの現実が並んでいる。
一つは、
無実の証明。
もう一つは、
自分が出した、
無期限謹慎命令。
どちらも、
否定できない。
「……彼女に、
知らせなければ」
王太子は、
そう言った。
だが、
その声には、
迷いがあった。
知らせるとは、
どういうことか。
無実だと告げる。
処分は誤りだったと認める。
王太子妃候補として、
復帰を打診する。
――それは、
干渉ではないのか。
「殿下」
法務官が、
慎重に言葉を選ぶ。
「現行命令に基づけば、
彼女への接触は、
すべて“干渉”に該当します」
「……無実を知らせることも?」
「法的には、
はい」
その瞬間、
王太子は、
言葉を失った。
正義を伝えることが、
違反になる。
救済しようとする行為が、
罰則の対象になる。
それが、
自分の出した命令の、
正確な帰結だった。
「……では、
使者を出せないのか」
「門前で止められます。
謹慎区域への立ち入りは、
禁止されています」
「文書なら?」
「直接の通達は、
やはり干渉と見なされます」
王太子は、
拳を握りしめた。
無実は、
証明された。
だが、
その事実を、
本人に届ける手段がない。
その頃――
エレシアは、
いつも通りの午後を過ごしていた。
光は、
変わらず穏やかで、
部屋は、
変わらず静かだ。
(……今日は、
少し、
空気が違う気がする)
理由は分からない。
ただ、
どこかで、
世界が動いたような、
微かな感触。
だが、
それを追わない。
(……関係ない)
彼女は、
もう、
世界の動きに、
自分を合わせないと
決めている。
無実が証明されたとしても。
それが、
この部屋の外で起きたことなら、
彼女の生活には、
関係ない。
(……命令は、
解除されていない)
それが、
彼女にとっての、
唯一の判断基準だった。
夜。
王城では、
別の書類が、
密かに作られていた。
――名誉回復案
――謝罪文草案
――復帰に関する検討資料
だが、
どれも、
実行段階に進めない。
なぜなら、
中心にいるべき本人が、
完全に、
隔離されているからだ。
「……無実を証明したのに、
何もできないとはな」
誰かが、
苦々しく言う。
それは、
責任の所在を、
誰も明確にできない
状況でもあった。
命令を出したのは、
王太子。
だが、
命令は、
法に則っている。
無実が証明された今、
誰もが、
「正しくしなければ」と思っている。
だが、
正しくする手段が、
存在しない。
一方で――
エレシアは、
静かに眠りにつこうとしていた。
(……今日も、
何も起きなかった)
その事実に、
安堵する。
彼女は、
無実が証明されたことを、
まだ知らない。
だが、
知らないことを、
不幸だとは思わなかった。
なぜなら――
それを知ったところで、
この静けさを、
手放す気はないからだ。
こうして――
無実は、
完全に証明された。
だが、
それは、
世界の中だけの話だった。
エレシアの世界は、
今日も、
何一つ変わらない。
そしてその乖離が、
やがて――
王太子にとって、
取り返しのつかない
“評価”へと変わっていくことを、
まだ、
誰も知らなかった。
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