無実の罪で永遠に謹慎する女 ――謹慎していたい令嬢は、何もしないことを選びました**

鷹 綾

文字の大きさ
22 / 39

第23話 面会できない現実

しおりを挟む
第23話 面会できない現実

 

最初に門前で止められたのは、
「善意」だった。

 

王城から派遣された使者は、
正式な服装に、
正式な書類を携え、
何一つ落ち度のない形で、
謹慎区域の入口に立った。

 

「王城法務局の命により――」

 

そう名乗った瞬間、
門番は、
静かに首を振った。

 

「面会禁止です」

 

一言。

 

それで終わりだった。

 

「……内容は、
 無実の証明に関する――」

 

「理由は関係ありません。
 命令は、
 “面会禁止”です」

 

門番の声に、
感情はなかった。

 

職務として、
ただ命令を守っている。

 

使者は、
一瞬だけ言葉に詰まり、
それでも、
丁寧に続ける。

 

「では、
 書面を――」

 

「直接の通達は、
 干渉に該当します」

 

その返答は、
事前に想定されていた。

 

だが、
実際に突きつけられると、
重い。

 

使者は、
何もできずに、
踵を返した。

 

――面会できない。

 

その事実が、
王城に持ち帰られた。

 

「……本当に、
 会えないのか」

 

王太子は、
報告を受け、
低く呟いた。

 

「はい。
 門前で、
 正式に拒否されました」

 

「無実の証明だぞ」

 

「承知しております。
 ですが、
 命令は有効です」

 

その一言で、
会話は終わった。

 

正しさは、
門を開けなかった。

 

王太子は、
椅子に深く腰掛け、
天井を仰ぐ。

 

自分が出した命令が、
今になって、
ここまで強固に
立ちはだかるとは。

 

(……彼女は、
 どう思っている)

 

ふと、
そんな疑問が浮かぶ。

 

無実が証明された。

 

その知らせを聞けば、
怒るだろうか。
泣くだろうか。
抗議するだろうか。

 

――あるいは。

 

何も、
反応しないのではないか。

 

その想像が、
胸に、
奇妙な重みを残した。

 

一方――
エレシアは、
その日も、
静かな午後を過ごしていた。

 

光は、
変わらず穏やか。

 

部屋の空気は、
澄み切っている。

 

(……今日も、
 誰も来ない)

 

それを、
確認するまでもなく、
分かっている。

 

彼女は、
もはや、
「来ないこと」を
前提に生きていた。

 

だが――
その日は、
微かな違和感があった。

 

(……外が、
 少し、
 騒がしい?)

 

ほんの一瞬。

 

門の向こうで、
足音が増えた気がした。

 

だが、
それも、
すぐに消えた。

 

エレシアは、
理由を考えない。

 

考えれば、
外の出来事に、
心を引かれる。

 

それは、
彼女が望んでいないことだ。

 

(……干渉禁止)

 

その言葉を、
心の中で、
なぞる。

 

それは、
自分を守るための壁だ。

 

壁の向こうで、
何が起きていようと、
関係ない。

 

彼女は、
椅子に腰掛け、
ゆっくりと息を吐く。

 

(……会えない、
 ということは)

 

(……私の時間が、
 守られている、
 ということ)

 

その認識に、
迷いはなかった。

 

同じ頃、
王城では、
別の使者が準備されていた。

 

より高位の役人。
より正式な肩書。

 

「……これでも、
 無理か」

 

派遣前に、
誰かが呟く。

 

結果は、
変わらなかった。

 

門前で、
同じ言葉が返される。

 

「面会禁止です」

 

理由を述べても、
肩書を示しても、
結果は同じ。

 

謹慎区域は、
完全に閉じていた。

 

「……ここまで、
 徹底しているとは」

 

役人は、
唇を噛んだ。

 

面会できない。

 

それは、
単なる不便ではない。

 

謝罪できない。
説明できない。
償えない。

 

そして、
何より――
彼女の意思を、
 確認できない。

 

エレシアが、
何を望んでいるのか。

 

復帰か。
名誉回復か。
補償か。

 

それとも――
このまま、
静かに過ごすことか。

 

王城は、
彼女の考えを、
知る手段を、
完全に失っていた。

 

夜。

 

エレシアは、
ベッドに腰掛け、
灯りを見つめる。

 

(……今日は、
 少しだけ、
 外が、
 近かった気がする)

 

だが、
それ以上、
考えない。

 

近づいたとしても、
触れられなければ、
意味はない。

 

面会禁止。

 

それは、
世界が、
彼女に触れられないという
宣言だ。

 

(……悪くない)

 

むしろ――
完璧だと思った。

 

無実が証明されたとしても、
それを理由に、
引きずり出されることはない。

 

「正義」を名目に、
再び役割を与えられることもない。

 

彼女は、
静かに目を閉じる。

 

(……会えない現実)

 

それは、
残酷なようでいて、
彼女にとっては――
最上の安全だった。

 

こうして――
王城は、
初めて思い知る。

 

無実を証明しただけでは、
何も救えないということを。

 

そして、
面会できないという現実が、
ゆっくりと、
王太子の評価を、
削り始めていた。

 

だが、
その重さを、
エレシアが知ることはない。

 

彼女の世界は、
今日も、
変わらず、
静かだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは夫と婚姻してから三年という長い時間を振り返る。 その間、夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

処理中です...