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第23話 面会できない現実
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第23話 面会できない現実
最初に門前で止められたのは、
「善意」だった。
王城から派遣された使者は、
正式な服装に、
正式な書類を携え、
何一つ落ち度のない形で、
謹慎区域の入口に立った。
「王城法務局の命により――」
そう名乗った瞬間、
門番は、
静かに首を振った。
「面会禁止です」
一言。
それで終わりだった。
「……内容は、
無実の証明に関する――」
「理由は関係ありません。
命令は、
“面会禁止”です」
門番の声に、
感情はなかった。
職務として、
ただ命令を守っている。
使者は、
一瞬だけ言葉に詰まり、
それでも、
丁寧に続ける。
「では、
書面を――」
「直接の通達は、
干渉に該当します」
その返答は、
事前に想定されていた。
だが、
実際に突きつけられると、
重い。
使者は、
何もできずに、
踵を返した。
――面会できない。
その事実が、
王城に持ち帰られた。
「……本当に、
会えないのか」
王太子は、
報告を受け、
低く呟いた。
「はい。
門前で、
正式に拒否されました」
「無実の証明だぞ」
「承知しております。
ですが、
命令は有効です」
その一言で、
会話は終わった。
正しさは、
門を開けなかった。
王太子は、
椅子に深く腰掛け、
天井を仰ぐ。
自分が出した命令が、
今になって、
ここまで強固に
立ちはだかるとは。
(……彼女は、
どう思っている)
ふと、
そんな疑問が浮かぶ。
無実が証明された。
その知らせを聞けば、
怒るだろうか。
泣くだろうか。
抗議するだろうか。
――あるいは。
何も、
反応しないのではないか。
その想像が、
胸に、
奇妙な重みを残した。
一方――
エレシアは、
その日も、
静かな午後を過ごしていた。
光は、
変わらず穏やか。
部屋の空気は、
澄み切っている。
(……今日も、
誰も来ない)
それを、
確認するまでもなく、
分かっている。
彼女は、
もはや、
「来ないこと」を
前提に生きていた。
だが――
その日は、
微かな違和感があった。
(……外が、
少し、
騒がしい?)
ほんの一瞬。
門の向こうで、
足音が増えた気がした。
だが、
それも、
すぐに消えた。
エレシアは、
理由を考えない。
考えれば、
外の出来事に、
心を引かれる。
それは、
彼女が望んでいないことだ。
(……干渉禁止)
その言葉を、
心の中で、
なぞる。
それは、
自分を守るための壁だ。
壁の向こうで、
何が起きていようと、
関係ない。
彼女は、
椅子に腰掛け、
ゆっくりと息を吐く。
(……会えない、
ということは)
(……私の時間が、
守られている、
ということ)
その認識に、
迷いはなかった。
同じ頃、
王城では、
別の使者が準備されていた。
より高位の役人。
より正式な肩書。
「……これでも、
無理か」
派遣前に、
誰かが呟く。
結果は、
変わらなかった。
門前で、
同じ言葉が返される。
「面会禁止です」
理由を述べても、
肩書を示しても、
結果は同じ。
謹慎区域は、
完全に閉じていた。
「……ここまで、
徹底しているとは」
役人は、
唇を噛んだ。
面会できない。
それは、
単なる不便ではない。
謝罪できない。
説明できない。
償えない。
そして、
何より――
彼女の意思を、
確認できない。
エレシアが、
何を望んでいるのか。
復帰か。
名誉回復か。
補償か。
それとも――
このまま、
静かに過ごすことか。
王城は、
彼女の考えを、
知る手段を、
完全に失っていた。
夜。
エレシアは、
ベッドに腰掛け、
灯りを見つめる。
(……今日は、
少しだけ、
外が、
近かった気がする)
だが、
それ以上、
考えない。
近づいたとしても、
触れられなければ、
意味はない。
面会禁止。
それは、
世界が、
彼女に触れられないという
宣言だ。
(……悪くない)
むしろ――
完璧だと思った。
無実が証明されたとしても、
それを理由に、
引きずり出されることはない。
「正義」を名目に、
再び役割を与えられることもない。
彼女は、
静かに目を閉じる。
(……会えない現実)
それは、
残酷なようでいて、
彼女にとっては――
最上の安全だった。
こうして――
王城は、
初めて思い知る。
無実を証明しただけでは、
何も救えないということを。
そして、
面会できないという現実が、
ゆっくりと、
王太子の評価を、
削り始めていた。
だが、
その重さを、
エレシアが知ることはない。
彼女の世界は、
今日も、
変わらず、
静かだった。
最初に門前で止められたのは、
「善意」だった。
王城から派遣された使者は、
正式な服装に、
正式な書類を携え、
何一つ落ち度のない形で、
謹慎区域の入口に立った。
「王城法務局の命により――」
そう名乗った瞬間、
門番は、
静かに首を振った。
「面会禁止です」
一言。
それで終わりだった。
「……内容は、
無実の証明に関する――」
「理由は関係ありません。
命令は、
“面会禁止”です」
門番の声に、
感情はなかった。
職務として、
ただ命令を守っている。
使者は、
一瞬だけ言葉に詰まり、
それでも、
丁寧に続ける。
「では、
書面を――」
「直接の通達は、
干渉に該当します」
その返答は、
事前に想定されていた。
だが、
実際に突きつけられると、
重い。
使者は、
何もできずに、
踵を返した。
――面会できない。
その事実が、
王城に持ち帰られた。
「……本当に、
会えないのか」
王太子は、
報告を受け、
低く呟いた。
「はい。
門前で、
正式に拒否されました」
「無実の証明だぞ」
「承知しております。
ですが、
命令は有効です」
その一言で、
会話は終わった。
正しさは、
門を開けなかった。
王太子は、
椅子に深く腰掛け、
天井を仰ぐ。
自分が出した命令が、
今になって、
ここまで強固に
立ちはだかるとは。
(……彼女は、
どう思っている)
ふと、
そんな疑問が浮かぶ。
無実が証明された。
その知らせを聞けば、
怒るだろうか。
泣くだろうか。
抗議するだろうか。
――あるいは。
何も、
反応しないのではないか。
その想像が、
胸に、
奇妙な重みを残した。
一方――
エレシアは、
その日も、
静かな午後を過ごしていた。
光は、
変わらず穏やか。
部屋の空気は、
澄み切っている。
(……今日も、
誰も来ない)
それを、
確認するまでもなく、
分かっている。
彼女は、
もはや、
「来ないこと」を
前提に生きていた。
だが――
その日は、
微かな違和感があった。
(……外が、
少し、
騒がしい?)
ほんの一瞬。
門の向こうで、
足音が増えた気がした。
だが、
それも、
すぐに消えた。
エレシアは、
理由を考えない。
考えれば、
外の出来事に、
心を引かれる。
それは、
彼女が望んでいないことだ。
(……干渉禁止)
その言葉を、
心の中で、
なぞる。
それは、
自分を守るための壁だ。
壁の向こうで、
何が起きていようと、
関係ない。
彼女は、
椅子に腰掛け、
ゆっくりと息を吐く。
(……会えない、
ということは)
(……私の時間が、
守られている、
ということ)
その認識に、
迷いはなかった。
同じ頃、
王城では、
別の使者が準備されていた。
より高位の役人。
より正式な肩書。
「……これでも、
無理か」
派遣前に、
誰かが呟く。
結果は、
変わらなかった。
門前で、
同じ言葉が返される。
「面会禁止です」
理由を述べても、
肩書を示しても、
結果は同じ。
謹慎区域は、
完全に閉じていた。
「……ここまで、
徹底しているとは」
役人は、
唇を噛んだ。
面会できない。
それは、
単なる不便ではない。
謝罪できない。
説明できない。
償えない。
そして、
何より――
彼女の意思を、
確認できない。
エレシアが、
何を望んでいるのか。
復帰か。
名誉回復か。
補償か。
それとも――
このまま、
静かに過ごすことか。
王城は、
彼女の考えを、
知る手段を、
完全に失っていた。
夜。
エレシアは、
ベッドに腰掛け、
灯りを見つめる。
(……今日は、
少しだけ、
外が、
近かった気がする)
だが、
それ以上、
考えない。
近づいたとしても、
触れられなければ、
意味はない。
面会禁止。
それは、
世界が、
彼女に触れられないという
宣言だ。
(……悪くない)
むしろ――
完璧だと思った。
無実が証明されたとしても、
それを理由に、
引きずり出されることはない。
「正義」を名目に、
再び役割を与えられることもない。
彼女は、
静かに目を閉じる。
(……会えない現実)
それは、
残酷なようでいて、
彼女にとっては――
最上の安全だった。
こうして――
王城は、
初めて思い知る。
無実を証明しただけでは、
何も救えないということを。
そして、
面会できないという現実が、
ゆっくりと、
王太子の評価を、
削り始めていた。
だが、
その重さを、
エレシアが知ることはない。
彼女の世界は、
今日も、
変わらず、
静かだった。
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