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第31話 復帰を期待する者たち
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第31話 復帰を期待する者たち
王城の回廊は、
朝からどこか落ち着かなかった。
石床に反響する足音が、
いつもより多い。
それも、
急ぎ足の音ばかりだ。
「……本当に、
これで、
よいのだろうか」
小声でそう漏らしたのは、
中級官僚の一人だった。
彼の手には、
一通の文書がある。
――元王太子妃候補エレシア
復帰に関する打診
正式な命令ではない。
あくまで、
期待に基づく文面だ。
「解除通達は出ている。
本人も、
そろそろ、
理解するはずだ」
そう言ったのは、
彼の上司にあたる人物だった。
「……戻ってくれなければ、
困るのは、
こちらですからな」
その言葉に、
誰も、
否定しなかった。
問題は、
すでに、
彼女が“戻らない”ことではない。
彼女が、
戻る気配すら見せないことだ。
「……では、
面会の許可を」
そう提案した瞬間、
空気が、
一段、
重くなる。
「……無理だ」
即座に、
否定が返った。
「謹慎中は、
干渉禁止だ」
「……ですが、
解除は……」
「解除“された”かどうかは、
本人に、
直接、
伝わっていない」
その事実が、
すべてを、
行き詰まらせていた。
彼らは、
しばし沈黙した。
そして――
誰かが、
苦し紛れに言う。
「……一度、
“お願い”として、
会いに行く、
というのは……」
その瞬間、
全員が、
顔をしかめた。
お願い。
それは、
命令ではない。
だが――
干渉であることに、
変わりはない。
「……違反になりますな」
「……しかも、
相手は、
謹慎中の者」
「……前例がない」
その言葉が、
また、
場を支配した。
だが、
彼らは、
それでも、
動くことを選んだ。
「……門前までなら、
問題ない」
「直接、
会わなければ、
干渉ではない」
その、
あまりにも、
苦しい理屈を掲げて。
一方――
その頃の、
エレシア。
彼女は、
窓際で、
本を読んでいた。
陽光が、
ページを照らし、
文字が、
柔らかく浮かび上がる。
(……今日は、
少し、
空気が違う)
そう感じたのは、
本能に近いものだった。
遠くから、
人の気配がする。
足音。
声。
だが、
それは、
この部屋に、
届くものではない。
(……謹慎中、
ですから)
彼女は、
本から目を離さない。
その時だった。
扉の向こうで、
明確に、
足音が止まった。
一拍。
そして――
ノック音。
控えめだが、
確かに、
人の意思を伴った音。
エレシアは、
ゆっくりと、
本を閉じた。
(……珍しい)
だが、
慌てない。
「……どなたですか」
声は、
穏やかだった。
扉の向こうから、
少し緊張した声が返る。
「……王城より参りました。
お話が……」
そこまで聞いて、
エレシアは、
理解した。
(……ああ)
(……復帰を、
期待している、
のね)
彼女は、
小さく、
息を吐く。
そして――
扉を開けないまま、
静かに答えた。
「……謹慎中ですが?」
その一言で、
向こうが、
言葉に詰まる気配が、
はっきりと伝わった。
「……解除は、
通達されております」
「……私に?」
短い問い。
しかし、
それは、
致命的だった。
「……いえ、
まだ……」
エレシアは、
一切、
声を荒げない。
ただ、
事実を、
並べる。
「謹慎中は、
干渉禁止、
とあります」
「面会も、
交渉も、
できないはずです」
沈黙。
彼女は、
続ける。
「それとも――
新しい命令が、
出たのですか?」
「……いえ」
声が、
弱くなる。
「では、
私は、
謹慎中です」
それで、
終わりだった。
扉は、
最後まで、
開かれなかった。
回廊。
官僚たちは、
立ち尽くしていた。
「……話にすら、
ならなかったな」
「……正論、
でした」
誰も、
反論できない。
なぜなら、
彼女は、
命令を、
一言一句、
守っているからだ。
「……期待、
していたんだが……」
その呟きが、
虚しく、
空気に溶ける。
彼らが期待していたのは、
彼女の理解でも、
協力でもない。
都合のよい復帰だ。
だが――
彼女は、
それを、
一切、
求めていなかった。
夜。
エレシアは、
ベッドに横になり、
静かに天井を見る。
(……また、
静かに、
なった)
それが、
嬉しかった。
彼女は、
誰かを拒絶したつもりはない。
ただ――
命令を守っただけだ。
だが、
その結果。
王城の人間たちは、
初めて、
理解し始めていた。
彼女は、
戻らないのではない。
戻る必要が、
どこにも、
ないのだと。
そして――
その事実こそが、
王太子を、
さらに、
追い詰めていく。
何もしない彼女。
それでも、
周囲の期待だけが、
崩れていく。
王城の回廊は、
朝からどこか落ち着かなかった。
石床に反響する足音が、
いつもより多い。
それも、
急ぎ足の音ばかりだ。
「……本当に、
これで、
よいのだろうか」
小声でそう漏らしたのは、
中級官僚の一人だった。
彼の手には、
一通の文書がある。
――元王太子妃候補エレシア
復帰に関する打診
正式な命令ではない。
あくまで、
期待に基づく文面だ。
「解除通達は出ている。
本人も、
そろそろ、
理解するはずだ」
そう言ったのは、
彼の上司にあたる人物だった。
「……戻ってくれなければ、
困るのは、
こちらですからな」
その言葉に、
誰も、
否定しなかった。
問題は、
すでに、
彼女が“戻らない”ことではない。
彼女が、
戻る気配すら見せないことだ。
「……では、
面会の許可を」
そう提案した瞬間、
空気が、
一段、
重くなる。
「……無理だ」
即座に、
否定が返った。
「謹慎中は、
干渉禁止だ」
「……ですが、
解除は……」
「解除“された”かどうかは、
本人に、
直接、
伝わっていない」
その事実が、
すべてを、
行き詰まらせていた。
彼らは、
しばし沈黙した。
そして――
誰かが、
苦し紛れに言う。
「……一度、
“お願い”として、
会いに行く、
というのは……」
その瞬間、
全員が、
顔をしかめた。
お願い。
それは、
命令ではない。
だが――
干渉であることに、
変わりはない。
「……違反になりますな」
「……しかも、
相手は、
謹慎中の者」
「……前例がない」
その言葉が、
また、
場を支配した。
だが、
彼らは、
それでも、
動くことを選んだ。
「……門前までなら、
問題ない」
「直接、
会わなければ、
干渉ではない」
その、
あまりにも、
苦しい理屈を掲げて。
一方――
その頃の、
エレシア。
彼女は、
窓際で、
本を読んでいた。
陽光が、
ページを照らし、
文字が、
柔らかく浮かび上がる。
(……今日は、
少し、
空気が違う)
そう感じたのは、
本能に近いものだった。
遠くから、
人の気配がする。
足音。
声。
だが、
それは、
この部屋に、
届くものではない。
(……謹慎中、
ですから)
彼女は、
本から目を離さない。
その時だった。
扉の向こうで、
明確に、
足音が止まった。
一拍。
そして――
ノック音。
控えめだが、
確かに、
人の意思を伴った音。
エレシアは、
ゆっくりと、
本を閉じた。
(……珍しい)
だが、
慌てない。
「……どなたですか」
声は、
穏やかだった。
扉の向こうから、
少し緊張した声が返る。
「……王城より参りました。
お話が……」
そこまで聞いて、
エレシアは、
理解した。
(……ああ)
(……復帰を、
期待している、
のね)
彼女は、
小さく、
息を吐く。
そして――
扉を開けないまま、
静かに答えた。
「……謹慎中ですが?」
その一言で、
向こうが、
言葉に詰まる気配が、
はっきりと伝わった。
「……解除は、
通達されております」
「……私に?」
短い問い。
しかし、
それは、
致命的だった。
「……いえ、
まだ……」
エレシアは、
一切、
声を荒げない。
ただ、
事実を、
並べる。
「謹慎中は、
干渉禁止、
とあります」
「面会も、
交渉も、
できないはずです」
沈黙。
彼女は、
続ける。
「それとも――
新しい命令が、
出たのですか?」
「……いえ」
声が、
弱くなる。
「では、
私は、
謹慎中です」
それで、
終わりだった。
扉は、
最後まで、
開かれなかった。
回廊。
官僚たちは、
立ち尽くしていた。
「……話にすら、
ならなかったな」
「……正論、
でした」
誰も、
反論できない。
なぜなら、
彼女は、
命令を、
一言一句、
守っているからだ。
「……期待、
していたんだが……」
その呟きが、
虚しく、
空気に溶ける。
彼らが期待していたのは、
彼女の理解でも、
協力でもない。
都合のよい復帰だ。
だが――
彼女は、
それを、
一切、
求めていなかった。
夜。
エレシアは、
ベッドに横になり、
静かに天井を見る。
(……また、
静かに、
なった)
それが、
嬉しかった。
彼女は、
誰かを拒絶したつもりはない。
ただ――
命令を守っただけだ。
だが、
その結果。
王城の人間たちは、
初めて、
理解し始めていた。
彼女は、
戻らないのではない。
戻る必要が、
どこにも、
ないのだと。
そして――
その事実こそが、
王太子を、
さらに、
追い詰めていく。
何もしない彼女。
それでも、
周囲の期待だけが、
崩れていく。
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