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第37話 最初から信じていれば
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第37話 最初から信じていれば
夜明け前の王城は、
音がしない。
鳥の声も、
足音も、
まだ、
遠い。
王太子は、
一人で執務室にいた。
灯りは、
最低限。
書類も、
広げていない。
ただ、
椅子に座り、
窓の外の、
薄い闇を、
見つめている。
(……最初から、
信じていれば)
その言葉が、
何度も、
頭の中を、
巡る。
最初から。
疑惑が持ち上がった、
あの日。
証拠は、
弱かった。
動機も、
薄かった。
それでも――
王太子は、
彼女を、
疑った。
いや、
正確には。
信じることを、
選ばなかった。
(……秩序を、
優先した)
それは、
言い訳として、
よく出来ている。
一人を切れば、
騒ぎは収まる。
一人を遠ざければ、
城は静かになる。
それが、
王太子としての、
合理的判断だと、
信じていた。
だが――
今、
城は静かだ。
静かすぎるほどに。
彼女が、
謹慎を始めてから。
(……皮肉だな)
王太子は、
自嘲する。
秩序を守るために、
下した命令が。
秩序そのものを、
凍らせてしまった。
彼女は、
抗議しなかった。
弁明もしなかった。
泣き叫ぶことも、
許しを請うことも、
なかった。
ただ、
命令を受け入れた。
それが、
どれほど、
異常だったか。
当時の自分は、
理解していなかった。
(……あの時)
(……一言でも、
話を、
聞いていれば)
王太子は、
目を閉じる。
彼女の姿が、
思い浮かぶ。
静かな瞳。
抑揚のない声。
野心も、
欲も、
感じさせない。
それを、
「存在感が薄い」
と、
切り捨てた。
(……王太子妃候補には、
向かない、
と思った)
だが、
今なら、
分かる。
彼女は、
王太子妃になろうと、
していなかった。
最初から。
「……彼女は、
何も、
望んでいなかった」
それなのに、
自分は。
勝手に、
役割を与え。
勝手に、
期待し。
勝手に、
失望し。
最後には、
勝手に、
切り捨てた。
それが、
すべてだった。
夜が、
少しずつ、
明け始める。
窓の外に、
薄い光が、
差し込む。
(……今さら、
遅い)
その自覚は、
はっきりしている。
謝罪しても、
意味はない。
取り消しても、
戻らない。
彼女は、
もう、
そこにいない。
正確には――
存在しているが、
関われない。
それが、
最も、
残酷だった。
朝。
王城に、
人の気配が、
戻ってくる。
だが、
王太子は、
執務室を、
出なかった。
誰も、
彼を、
呼ばない。
呼べない。
この件について、
王太子に、
進言できる者は、
もう、
いない。
「……殿下」
ようやく、
側近が、
控えめに、
声をかける。
「……何だ」
「……民の間で、
噂が……」
王太子は、
それ以上、
聞かなくても、
分かった。
噂は、
一つしかない。
――無実の女を、
永遠に、
謹慎させた王太子。
「……止めろ」
「……はい」
止められるものでは、
ない。
それも、
理解している。
なぜなら――
噂は、
事実に、
基づいているからだ。
彼女は、
無実だった。
そして――
今も、
謹慎している。
王太子の、
命令のままに。
一方――
エレシアは、
いつも通り、
静かな朝を迎えていた。
光が、
カーテンの隙間から、
差し込む。
(……今日も、
変わらない)
それが、
心地いい。
メイドが、
食事を運ぶ。
「……おはようございます」
珍しく、
声があった。
エレシアは、
少しだけ、
驚く。
「……おはよう」
それ以上、
会話は、
続かない。
だが、
それで、
十分だった。
(……誰かが、
後悔している、
のかしら)
ふと、
そんな考えが、
浮かぶ。
だが、
すぐに、
消える。
(……でも、
それは、
私の、
問題じゃない)
後悔は、
後悔する者の、
ものだ。
彼女は、
何も、
奪っていない。
ただ、
命令を、
守っている。
それだけだ。
その日の午後。
王太子は、
公式記録の、
最終文書に、
目を通していた。
そこには、
簡潔に、
こう記されている。
――本件は、
法的に、
問題なし。
それを見た瞬間、
王太子は、
苦く、
笑った。
「……最初から、
信じていれば」
その言葉は、
もう、
誰にも、
届かない。
届く相手は、
干渉禁止の、
向こう側にいる。
こうして――
王太子の後悔は、
誰にも、
修正されることなく。
ただ、
彼自身の中で、
積み重なっていく。
一方、
エレシアは、
今日も、
静かに、
謹慎している。
彼女の世界には、
後悔も、
謝罪も、
届かない。
それが――
彼女にとっての、
完全な、
自由だった。
第37話は、
ここで終わる。
後悔は、
動かなかった者には、
届かない。
それを、
最も深く、
理解したのは――
王太子自身だった。
夜明け前の王城は、
音がしない。
鳥の声も、
足音も、
まだ、
遠い。
王太子は、
一人で執務室にいた。
灯りは、
最低限。
書類も、
広げていない。
ただ、
椅子に座り、
窓の外の、
薄い闇を、
見つめている。
(……最初から、
信じていれば)
その言葉が、
何度も、
頭の中を、
巡る。
最初から。
疑惑が持ち上がった、
あの日。
証拠は、
弱かった。
動機も、
薄かった。
それでも――
王太子は、
彼女を、
疑った。
いや、
正確には。
信じることを、
選ばなかった。
(……秩序を、
優先した)
それは、
言い訳として、
よく出来ている。
一人を切れば、
騒ぎは収まる。
一人を遠ざければ、
城は静かになる。
それが、
王太子としての、
合理的判断だと、
信じていた。
だが――
今、
城は静かだ。
静かすぎるほどに。
彼女が、
謹慎を始めてから。
(……皮肉だな)
王太子は、
自嘲する。
秩序を守るために、
下した命令が。
秩序そのものを、
凍らせてしまった。
彼女は、
抗議しなかった。
弁明もしなかった。
泣き叫ぶことも、
許しを請うことも、
なかった。
ただ、
命令を受け入れた。
それが、
どれほど、
異常だったか。
当時の自分は、
理解していなかった。
(……あの時)
(……一言でも、
話を、
聞いていれば)
王太子は、
目を閉じる。
彼女の姿が、
思い浮かぶ。
静かな瞳。
抑揚のない声。
野心も、
欲も、
感じさせない。
それを、
「存在感が薄い」
と、
切り捨てた。
(……王太子妃候補には、
向かない、
と思った)
だが、
今なら、
分かる。
彼女は、
王太子妃になろうと、
していなかった。
最初から。
「……彼女は、
何も、
望んでいなかった」
それなのに、
自分は。
勝手に、
役割を与え。
勝手に、
期待し。
勝手に、
失望し。
最後には、
勝手に、
切り捨てた。
それが、
すべてだった。
夜が、
少しずつ、
明け始める。
窓の外に、
薄い光が、
差し込む。
(……今さら、
遅い)
その自覚は、
はっきりしている。
謝罪しても、
意味はない。
取り消しても、
戻らない。
彼女は、
もう、
そこにいない。
正確には――
存在しているが、
関われない。
それが、
最も、
残酷だった。
朝。
王城に、
人の気配が、
戻ってくる。
だが、
王太子は、
執務室を、
出なかった。
誰も、
彼を、
呼ばない。
呼べない。
この件について、
王太子に、
進言できる者は、
もう、
いない。
「……殿下」
ようやく、
側近が、
控えめに、
声をかける。
「……何だ」
「……民の間で、
噂が……」
王太子は、
それ以上、
聞かなくても、
分かった。
噂は、
一つしかない。
――無実の女を、
永遠に、
謹慎させた王太子。
「……止めろ」
「……はい」
止められるものでは、
ない。
それも、
理解している。
なぜなら――
噂は、
事実に、
基づいているからだ。
彼女は、
無実だった。
そして――
今も、
謹慎している。
王太子の、
命令のままに。
一方――
エレシアは、
いつも通り、
静かな朝を迎えていた。
光が、
カーテンの隙間から、
差し込む。
(……今日も、
変わらない)
それが、
心地いい。
メイドが、
食事を運ぶ。
「……おはようございます」
珍しく、
声があった。
エレシアは、
少しだけ、
驚く。
「……おはよう」
それ以上、
会話は、
続かない。
だが、
それで、
十分だった。
(……誰かが、
後悔している、
のかしら)
ふと、
そんな考えが、
浮かぶ。
だが、
すぐに、
消える。
(……でも、
それは、
私の、
問題じゃない)
後悔は、
後悔する者の、
ものだ。
彼女は、
何も、
奪っていない。
ただ、
命令を、
守っている。
それだけだ。
その日の午後。
王太子は、
公式記録の、
最終文書に、
目を通していた。
そこには、
簡潔に、
こう記されている。
――本件は、
法的に、
問題なし。
それを見た瞬間、
王太子は、
苦く、
笑った。
「……最初から、
信じていれば」
その言葉は、
もう、
誰にも、
届かない。
届く相手は、
干渉禁止の、
向こう側にいる。
こうして――
王太子の後悔は、
誰にも、
修正されることなく。
ただ、
彼自身の中で、
積み重なっていく。
一方、
エレシアは、
今日も、
静かに、
謹慎している。
彼女の世界には、
後悔も、
謝罪も、
届かない。
それが――
彼女にとっての、
完全な、
自由だった。
第37話は、
ここで終わる。
後悔は、
動かなかった者には、
届かない。
それを、
最も深く、
理解したのは――
王太子自身だった。
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