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第十五話 王妃の視線
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第十五話 王妃の視線
王妃は、誰よりも静かに国を見ている。
祝宴の席でも、講義の場でも、廊下の端に立つ侍女の表情さえ見逃さない。
その朝、彼女は執務室で二通の報告書を並べていた。
一通は王宮財務局から。
一通は辺境から。
王宮の報告は簡潔だ。
軍費削減、宮廷維持費の再配分、夜会予算の増額。
数値は整っている。
もう一通は分厚い。
交易路の再編、補填策、兵站維持の具体案。
王妃はゆっくりと目を閉じた。
「……皮肉なものね」
王妃教育の講義室。
フロレッタは今日も席に着く。
「本日は“危機対応”です」
王妃の声は変わらない。
「仮に辺境で交易路が遮断された場合、中央はどう動くか」
フロレッタは一瞬、息を止めた。
昨日、答えられなかった問い。
「……軍の再配備を」
「どこから」
「王都守備隊から一部を」
「王都を手薄にするのか」
言葉が詰まる。
王妃は机を軽く叩く。
「王妃は、安心を失ってはならない」
静かな一言。
「王都の不安は、国全体の不安となる」
フロレッタは必死に考える。
「……外交圧力を」
「どこへ」
「隣国へ」
「根拠は」
また詰まる。
根拠。
王妃は彼女を見つめる。
責めない。
だが逃がさない。
「王妃は、王子の影ではない」
その言葉に、フロレッタの胸が強く打つ。
「殿下の判断を補い、誤りを正す立場です」
補う。
正す。
フロレッタの頭に、ルシアンの笑顔が浮かぶ。
削減は問題ない。
戦は起きない。
本当に、そうなのか。
講義後。
王妃は彼女を呼び止めた。
「努力はしていますね」
「はい……」
「ですが、努力は資格ではありません」
フロレッタは視線を下げる。
「王妃は結果で評価されます」
王妃は一瞬、窓の外を見る。
「辺境は、削減を受け入れながら自力で補填している」
フロレッタの心がざわつく。
「中央はどうですか」
問いではない。
確認だ。
フロレッタは答えられない。
一方、辺境。
交易路の再編が始まっていた。
「直販契約、締結完了です」
「輸送は?」
「北方経由で三日短縮」
セラフィーナは帳簿を確認する。
利益は上昇。
兵站費は安定。
「兵の冬支度を前倒しで」
「承知」
ヴァレントが横に立つ。
「王都からの通達は読んだか」
「はい」
「追加削減だ」
彼女は驚かない。
「想定内です」
「不満は」
「ありません」
彼はわずかに目を細める。
「なぜだ」
「削られると分かっていれば、備えます」
淡々とした答え。
ヴァレントは短く息を吐く。
「中央は、備えていない」
セラフィーナは地図を畳む。
「備えない者は、慌てます」
王宮。
フロレッタは自室で資料を広げる。
辺境の報告書。
具体的な補填策。
行動の速さ。
私は、何をしているの。
涙は流していない。
だが、結果も出していない。
夜、ルシアンが訪れる。
「母上に何か言われたか」
「……王妃は、補う立場だと」
「当然だ」
彼は軽く言う。
「私が決める」
その言葉に、胸が締めつけられる。
補う余地はあるのか。
誤りを正せるのか。
王妃の視線は冷静だ。
王子の視線は楽観だ。
そして辺境の視線は、現実を見ている。
王宮の灯りは変わらず明るい。
だがその光の下で、疑問が芽生える。
フロレッタはまだ知らない。
王妃が見ているのは、努力ではなく、国の未来だということを。
王妃は、誰よりも静かに国を見ている。
祝宴の席でも、講義の場でも、廊下の端に立つ侍女の表情さえ見逃さない。
その朝、彼女は執務室で二通の報告書を並べていた。
一通は王宮財務局から。
一通は辺境から。
王宮の報告は簡潔だ。
軍費削減、宮廷維持費の再配分、夜会予算の増額。
数値は整っている。
もう一通は分厚い。
交易路の再編、補填策、兵站維持の具体案。
王妃はゆっくりと目を閉じた。
「……皮肉なものね」
王妃教育の講義室。
フロレッタは今日も席に着く。
「本日は“危機対応”です」
王妃の声は変わらない。
「仮に辺境で交易路が遮断された場合、中央はどう動くか」
フロレッタは一瞬、息を止めた。
昨日、答えられなかった問い。
「……軍の再配備を」
「どこから」
「王都守備隊から一部を」
「王都を手薄にするのか」
言葉が詰まる。
王妃は机を軽く叩く。
「王妃は、安心を失ってはならない」
静かな一言。
「王都の不安は、国全体の不安となる」
フロレッタは必死に考える。
「……外交圧力を」
「どこへ」
「隣国へ」
「根拠は」
また詰まる。
根拠。
王妃は彼女を見つめる。
責めない。
だが逃がさない。
「王妃は、王子の影ではない」
その言葉に、フロレッタの胸が強く打つ。
「殿下の判断を補い、誤りを正す立場です」
補う。
正す。
フロレッタの頭に、ルシアンの笑顔が浮かぶ。
削減は問題ない。
戦は起きない。
本当に、そうなのか。
講義後。
王妃は彼女を呼び止めた。
「努力はしていますね」
「はい……」
「ですが、努力は資格ではありません」
フロレッタは視線を下げる。
「王妃は結果で評価されます」
王妃は一瞬、窓の外を見る。
「辺境は、削減を受け入れながら自力で補填している」
フロレッタの心がざわつく。
「中央はどうですか」
問いではない。
確認だ。
フロレッタは答えられない。
一方、辺境。
交易路の再編が始まっていた。
「直販契約、締結完了です」
「輸送は?」
「北方経由で三日短縮」
セラフィーナは帳簿を確認する。
利益は上昇。
兵站費は安定。
「兵の冬支度を前倒しで」
「承知」
ヴァレントが横に立つ。
「王都からの通達は読んだか」
「はい」
「追加削減だ」
彼女は驚かない。
「想定内です」
「不満は」
「ありません」
彼はわずかに目を細める。
「なぜだ」
「削られると分かっていれば、備えます」
淡々とした答え。
ヴァレントは短く息を吐く。
「中央は、備えていない」
セラフィーナは地図を畳む。
「備えない者は、慌てます」
王宮。
フロレッタは自室で資料を広げる。
辺境の報告書。
具体的な補填策。
行動の速さ。
私は、何をしているの。
涙は流していない。
だが、結果も出していない。
夜、ルシアンが訪れる。
「母上に何か言われたか」
「……王妃は、補う立場だと」
「当然だ」
彼は軽く言う。
「私が決める」
その言葉に、胸が締めつけられる。
補う余地はあるのか。
誤りを正せるのか。
王妃の視線は冷静だ。
王子の視線は楽観だ。
そして辺境の視線は、現実を見ている。
王宮の灯りは変わらず明るい。
だがその光の下で、疑問が芽生える。
フロレッタはまだ知らない。
王妃が見ているのは、努力ではなく、国の未来だということを。
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