太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら

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日が落ち星が隠れたとしても

『リアライズ』にて

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「弧峰さん、どうですか?」

 就業時間後の『リアライズ』では、弧峰チームのメンバーが弧峰のデスクの周りに集まっていた。

 百合がポスターを広げて見せる。
 メイクでエキゾチックな顔立ちに見えるダンサーが大写しにされ、イベント情報がバランスよく記載されている。
 先日渡会がつくったドラフト版では当てで入っていたコピーは、百合が書いたキャッチコピーに置き換わっていた。大写しのダンサーの横で、そのキャッチコピーはフォントやカラーだけではなく、言葉の力でも目を引く仕上がりになっていた。

『サンバが照らす! 太陽と星の商店街‼︎』

「うわ、すごく良い!」慈杏はポスターをしげしげと眺め、感嘆の声を上げた。
 まだ色校の段階だが、既に荘厳さの中に勢いを感じさせる仕上がりとなっていた。

「コピーはいまいち意味わからないけどなんとも言えない迫力あるね!」

「ぷぷ、ランちゃんのコピー意味わからないって」

「ええねん! 意味のわからなさと勢いをフックにする、そういう種類のやつや!」

 軽口を叩き合いながらも、その口調や表情には、お互いのクリエイティブの出来に、その相乗効果による成果物の仕上がりに、満足感が滲んでいた。

「ほー、これが例の?」

「あ、社長! ちゃいますよ? 時間外に作業してますからね?」

 いつの間にか現れ、ポスターを覗き込んでいた新町に、百合は慌てて言い訳じみたことを言った。

「印刷も自宅で?」

「あ、いや、それは、あの、色確認の参考として印刷を、これ、サンプルでして」

 不敵に微笑んで返す新町としどろもどろになる百合。なぜか嬉しそうに笑いを堪えてる渡会。

「ふふ、冗談よ。慈杏には協力するって言ったし。印刷機くらいでガタガタ言わないわ」

「ありがとうございます!」

「さすが社長! もう呼んで良いですよね? おかあさん、と!」

「だめ」即答する新町。

「あの、社長。今日の夕方の打ち合わせなんですけど」

 探るようにしていた慈杏が新町に話しかけた。

「十六時に日本橋の案件でしょ?
良いよ、直帰して。練習でしょ? 渡会も一緒?」

「一心同体であります!」

「百合に負担かかりすぎないようにしなさいよ。百合、焼肉でも奢ってもらいな」

「既にケーキバイキング予約してもろてまして。
俺も弧峰さんの計画の仲間ですから、全然頼ってくれて良いですしね。むしろパフォーマンスの方は参加しないんで仕事のフォローと簡単なクリエイティブくらいは手伝わせてもろてます。
残業はしませんし週に少しだけ、時間外にPCやプリンター使わせてもらうかもしれませんが、それだけ見逃してください」

「もちろん、ガシガシ使って。
二ヶ月後くらいだっけ? 簡単なので良ければWeb広告わたしが作ろうか? 弧峰、ケーキ一名追加ね。いつ行くの? 予定調整しなきゃ」

 新町は慈杏の答えも聞かず、一方的に空き予定を慈杏に伝えていた。
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