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5章 五日目 部活は大変だ
5-9 いつもどおりといえばいつもどおりな夜
しおりを挟む「今日はなんかすごい一日だったね」
「ああ、そうだな」
就寝前のいつもの時間。
俺と咲はアプリ通話をしながら、芸術鑑賞会の感想レポートを書いていた。
「私そろそろ終わるけど、そっちはどう?」
「まだ全然。ってかもう3枚書いたのか? 確か3枚以上だよな」
「ううん。8枚でなんとかまとめた。もっと書きたいことあったけど、10枚以内って決まってるから」
「はあ!?」
俺は驚愕の声を漏らす。
俺の方がどうにかこうにか2枚目を埋め終え、3枚目をどうごまかそうか考えている間に、咲の方は8枚も書いていたとは……。
「っていうか、そうか。そういえばお前の得意ジャンルだったもんな」
「ふっふっふー。信長公の敦盛との違いについていろいろ書いてたらすぐに埋まっちゃった」
「はいはい。そこらへんは陽ちゃんか白藍あたりと好きなだけ語り合ってな」
まあ、そんなことは俺が言わなくてもするだろうけど。
「どう? ちょっとしたアイデアとか欲しい? 書きたかったけど分量考えて盛り込まなかったこととかまだあるけど」
「いや、遠慮しとく。どうせ聞いてもわからんし」
「そんなことないよー。それに、わからなかったらわかるまで説明するし」
「マジでいいわ。それ聞いてたら朝になっちまいそうだし」
「あははー」
カチャカチャジーッと通話アプリの向こうから咲が筆記用具を片付ける音が聞こえてきた。
「お前まさか俺を置いて寝るつもりだな?」
「とーぜん。だって私、もう終わってもん」
「くっ……事実なだけに何も言い返せない」
「あははっ。まあ、がんばってね。明日寝坊しないように」
「まだ寝てたら起こしてくれ」
「はーい。じゃあおやすみ」
「うむ。おやすみ」
椅子を引いて立ち上がる音、軽い衣擦れの音とベッドに入るわずかな軋みの音。
そしてパチンとたぶん電気が消された音がした。
顔を上げて窓の方を見ると、カーテンの隙間から見える咲の部屋の電気は予想通り消えていた。
(うーん……せめて3枚目の半分くらいまでは書かないと3枚とは認めてもらえないよなあ)
俺の目の前には大きめの文字で強引に埋めた2枚のレポート用紙と、まだ一行しか書かれていないほぼ真っ白なソレが並んでいた。
(もう思いついたことはほとんど書いちまったし、あとは……どうする? カレーのレシピでも書いちゃうか?)
などと考えたところで、フッと別の考えが思い浮かんできた。
(そういえばこれ、芸術鑑賞会のレポートだよな? ってことは、あの能の舞台の感想じゃなくてもいいんだよな?)
なんとなく先入観で、感想といえばあの舞台の感想のことなんだと思い込んでしまっていた。
言われてみれば、レポートの題名は芸術鑑賞会の感想だ。
となれば、精進料理のことだっていいし、行き帰りのバスの中の出来事についてだっていい。
さらに拡大解釈するなら、途中のトイレ休憩の出来事とかそれ以外の家に帰るまでのことだって構わないのかもしれない。
(なんてったって、家に着くまでが芸術鑑賞会だからな)
半ばこじつけのようなアイデアを思いついたことで、どうにか俺はレポート用紙の3枚目を埋めることができそうだった。
もちろん、その出来についてはとやかく言わない。
とにかく、提出さえできればいいのだ。
(うむ。この分なら日付が変わる前に眠れそうだな。やれやれ)
そうして夜が更けていった。
結局俺が布団の中に入れたのは、時計の針がもうすぐ2時を指し示すころになってしまっていた。
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