45 / 171
5章 五日目 部活は大変だ
5-9 いつもどおりといえばいつもどおりな夜
しおりを挟む「今日はなんかすごい一日だったね」
「ああ、そうだな」
就寝前のいつもの時間。
俺と咲はアプリ通話をしながら、芸術鑑賞会の感想レポートを書いていた。
「私そろそろ終わるけど、そっちはどう?」
「まだ全然。ってかもう3枚書いたのか? 確か3枚以上だよな」
「ううん。8枚でなんとかまとめた。もっと書きたいことあったけど、10枚以内って決まってるから」
「はあ!?」
俺は驚愕の声を漏らす。
俺の方がどうにかこうにか2枚目を埋め終え、3枚目をどうごまかそうか考えている間に、咲の方は8枚も書いていたとは……。
「っていうか、そうか。そういえばお前の得意ジャンルだったもんな」
「ふっふっふー。信長公の敦盛との違いについていろいろ書いてたらすぐに埋まっちゃった」
「はいはい。そこらへんは陽ちゃんか白藍あたりと好きなだけ語り合ってな」
まあ、そんなことは俺が言わなくてもするだろうけど。
「どう? ちょっとしたアイデアとか欲しい? 書きたかったけど分量考えて盛り込まなかったこととかまだあるけど」
「いや、遠慮しとく。どうせ聞いてもわからんし」
「そんなことないよー。それに、わからなかったらわかるまで説明するし」
「マジでいいわ。それ聞いてたら朝になっちまいそうだし」
「あははー」
カチャカチャジーッと通話アプリの向こうから咲が筆記用具を片付ける音が聞こえてきた。
「お前まさか俺を置いて寝るつもりだな?」
「とーぜん。だって私、もう終わってもん」
「くっ……事実なだけに何も言い返せない」
「あははっ。まあ、がんばってね。明日寝坊しないように」
「まだ寝てたら起こしてくれ」
「はーい。じゃあおやすみ」
「うむ。おやすみ」
椅子を引いて立ち上がる音、軽い衣擦れの音とベッドに入るわずかな軋みの音。
そしてパチンとたぶん電気が消された音がした。
顔を上げて窓の方を見ると、カーテンの隙間から見える咲の部屋の電気は予想通り消えていた。
(うーん……せめて3枚目の半分くらいまでは書かないと3枚とは認めてもらえないよなあ)
俺の目の前には大きめの文字で強引に埋めた2枚のレポート用紙と、まだ一行しか書かれていないほぼ真っ白なソレが並んでいた。
(もう思いついたことはほとんど書いちまったし、あとは……どうする? カレーのレシピでも書いちゃうか?)
などと考えたところで、フッと別の考えが思い浮かんできた。
(そういえばこれ、芸術鑑賞会のレポートだよな? ってことは、あの能の舞台の感想じゃなくてもいいんだよな?)
なんとなく先入観で、感想といえばあの舞台の感想のことなんだと思い込んでしまっていた。
言われてみれば、レポートの題名は芸術鑑賞会の感想だ。
となれば、精進料理のことだっていいし、行き帰りのバスの中の出来事についてだっていい。
さらに拡大解釈するなら、途中のトイレ休憩の出来事とかそれ以外の家に帰るまでのことだって構わないのかもしれない。
(なんてったって、家に着くまでが芸術鑑賞会だからな)
半ばこじつけのようなアイデアを思いついたことで、どうにか俺はレポート用紙の3枚目を埋めることができそうだった。
もちろん、その出来についてはとやかく言わない。
とにかく、提出さえできればいいのだ。
(うむ。この分なら日付が変わる前に眠れそうだな。やれやれ)
そうして夜が更けていった。
結局俺が布団の中に入れたのは、時計の針がもうすぐ2時を指し示すころになってしまっていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる