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第3章 獣人族の町〈ヒュユク〉

ゴンドラ内では・・・・・・

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タクミに送り出されてからどれだけ時間を経ったのか、そう思うくらい長く時間を感じているのはイルーヴァタールの王女である。

皇太子が生まれてからこのような時間は減り、お互いが好意を持っていたことを忘れていた二人。

日は暮れ、明かりが無くなったこの地の夜は暗い。だから遠くまで見渡せず、ジェットコースターより景色が悪いと感じている。

しかし、知識が豊富の国王はこれから広がる景色が待ち遠しそうにタクミの魔法で作られたゴンドラのガラス越しの景色を眺めている。

会話がないこの空間は王女にとって苦痛かもしれない。今更になって国王を異性と意識してしまっている自分をバカバカしいと思い、首を振っている。

「そろそろだぞ」

そのときこの沈黙を壊す国王はガラスの先の景色から目を離さず王女にそう言った。

王女は国王が見る景色の先に目をやる。

真っ暗で何も見えない景色。

「何がそろそろ何です‥‥‥!」

王女の口は目の前に広がる景色で閉ざされる。

王女が目詰めているのは、一つの星。違う。今生まれたような星たちが光り輝き始めたのだ。この星々の中にさっき見つめていた星があるのだが、それを見失うほどたくさんの星が東から西に向かって輝くのだ。

そして、それらの星を輝かせる、太陽と同じ恒星の月が昇り始めた。

「今日は3月日だ」

そう言った瞬間、王女はとあることを思い出す。

それと同時に二つの月が上がってくる。年に一回、三つの月が並んで回る日を3月日《3げつにち》という。

その日は王女にとって思いで深い日である。国王と初めて出会い、ともに夜を散歩し、恋に落ちた日だった。

「覚えていたの?」

「忘れるわけがないだろ」

国王として妻と初めて会った日を忘れるなど恥以上に罪に問われているもの。

それほど、国王はこの日を大事にしている。それは王女も同じであった。

二人は互いに見つめ合い、甘酸っぱい空気をただ寄せる。

ゴンドラが頂上に行ったとき、3月に照らせれる二人はその空気に流されるがまま、そっと口を寄せ合うのだ。

まだ若い国王と王女は皇太子が生まれる前にいくつもやってきたはずの唇付けは、初めてのころより初々しいものとなった。

そっと、二人は手を握り、お互い見つめ合う。

久々の唇付けは二人にとって可笑しかったのか、それともこの甘酸っぱい空気に溺れすぎたのか、笑いが零れる。

「あの少年には感謝をせねばな」

「あの子は成人よ」

それでもタクミの事を子供と思う国王。

「大人だったら、こんなものは作ることはできないだろうな」

子供だからこそ、こんなものが作れると思う国王。タクミに異世界の前世があることを知らない国王はそう思うしかないのだ。

「それもそうですね」

そっと答える王女。二人はまた甘酸っぱい空気に流されるのだ。

今宵は第2子誕生となるだろう、大人の夜を二人は迎えたのだ。
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