クズな義妹に婚約者を寝取られた悪役令嬢は、ショックのあまり前世の記憶を思い出し、死亡イベントを回避します。

無名 -ムメイ-

文字の大きさ
6 / 7

6話

しおりを挟む
 この展開はゲームではなかった。
 どうやら、私が取った行動がついに世界を変えてしまったらしい。知らんけど。

 果たして、これがいい方向なのか。それとも悪い方向なのかはわからない。
 ただ、私の意思に反して体が震えているのを見るに、エリザベスちゃんにとっては、嫌な展開だろう。

 エリザベスちゃんは、たった1ヶ月ぐらい前に、エルスが寝取られた場面に遭遇してしまっているから。

 きっと、2度と会いたくなかっただろうな。

 でも、ここで引くわけにはいかない。
 私は幸せを勝ち取るのだ。

「おかえり、イザベラ」

「ふ~ん。お姉さま、生きてたんだ。死んでくれた方がよかったのに。
 でもまぁ、それでもいいわ。こうしてまた、お姉さまに再会できたから。
 だからね、お姉さま。また、私に無様を晒してね? 
 いい歳こいた女が婚約者を寝取られ、言われるがままに飛び降りたあのお姉さまは超えられないかもしれないけど」

 そう言うイザベラは、相変わらず醜い笑みを顔に貼り付けていた。
 でも、言っていることはすべて事実で、なにも言い返すことができない。

 そんな私に近づいたイザベラは、私の髪を引っ張って、

「ダッサ。なにこの髪。もしかして、髪を切っただけでエルス様を取り返せるとか思ってる?
 本当に救えないね、お姉さまは。大人しくしていれば、これ以上醜態を晒さずに済んだのに」

 と、こうなるのが当たり前であるかのように、馬鹿にしてくる。

 私のことなんか、なにも知らないくせに。

「エルス様もなにか言ってあげて? みっともないでしょ? 先に裏切っていたのはお姉さまなのに、未だにエルス様を諦めきれないこの馬鹿に」

 私はエルスに視線を向ける。……が、エルスは私なんて見ていなかった。
 その視線を辿ると、そこにはアレンがいて……今まで見たことがないぐらいに怒っていた。

 その怒りは私には向いていないのは明らかだが、それでも背筋が凍りついてしまうほどに強烈で、目を合わせられないほどの冷酷さを持った目をイザベラに向けていた。

「どうしたのですか? エルス様」

 この場において、唯一この状況に気づいていないイザベラは、エルスに問いかけた。

 しかし、エルスは、

「アレン……。なんでお前がここにいる?」

 と、イザベラなど眼中にもなかった。

「エルス」

 そう口を開いたアレン。
 しかし、その声はとても低く、いつもの優しい彼とはまるで違う人のように感じた。

「その女を今すぐ黙らせろ。不愉快だ」
「しかし……」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「いや、違うんだ。聞いてくれ! そもそも――!」

 と、少しずつヒートアップしていく2人。
 しかし、ここでまったく空気の読めないイザベラがその2人の間に入っていく。

「だって、お姉さま! 不愉快ですって!
 アレン様……でしたっけ? 見る目がありますね。
 私のお姉さまは――」

「――黙れ。不愉快なのはお前だ、イザベラ」

「……は?」

「エルス。こいつはお前の婚約者なんだろう?
 なら、今すぐに黙らせろ」

「だから、待てって! お前は騙されてる! そこにいる女はどうしようもないクズなんだよ!」

 そう言って、私を指差すエルス。
 
 その瞬間、この部屋全体が震えたような気がした。
 これは、一体……?

「アレン! なんのつもりだ!」

「それは、俺のセリフだ」

「なに!?」

「お前は俺がエリーに騙されていると言ったな? 確かに、エリーは俺を騙した」

「だろ!? だったら――」

「それでも、俺はエリーをクズだとは思わない。
 だって、そのおかげで俺はより、エリーが俺にとって1番魅力的な女性だとわかったから」

「あ、アレンっ!? なにを言って……っ!?」

 急にそんな告白みたいなことを言われて、私は顔が熱くなっていくのを感じる。

 そんな今にもどうにかなってしまいそうな私の方に、アレンは体を向けた。

「エリー、君は昔、こう言ったな? 私なんかよりアレンくんに相応しい女性はいると。
 しかし、俺は今までそんな人と出会ったことはない。
 俺の前に現れたのは、そこにいるイザベラのような金目当ての女だけだった」

「ちょ、ちょっと! 私がエルス様に近づいたのはお金のためだって言うの!?」

「そ、そうだ! そんなはずはない。イザベラは俺のことを思ってくれている!」

「……いい加減、目を覚ませ」

 そう言って、アレンはパチンと指を鳴らした。

 すると、

「な、なんで、俺はこんなことを……」

 と、エルスが膝から崩れ落ちた。

「アレン? なにをしたの?」

「エルスにかけられていた魔法を、解呪しただけだよ。
 悟られないほどの巧妙な魔法でも、魔法が使われているとわかれば簡単に解呪できる」

 なるほど。

 だから、アレンは時間をかけずに噂を払拭できると言っていたのか。

「す、すまない。エリザベス、俺は君に酷いことを……」

 そう言って、私に頭を下げるエルス。
 そんな姿を見て、イザベラは、

「な、なにをしているの!? なんでお姉さまに頭なんか下げてるのよ!」

 と、憤慨する。

 しかし、魔法が解けた今、イザベラに従う意味はない。
 エルスはひたすらに頭を下げ続ける。

 そんな彼を一目見て、アレンはイザベラに視線を向ける。

「一体、どういうつもりでエリーの噂を流した」

「違う! 噂を流したのは私じゃない!」

「わかった。聞き方を変えよう。どういうつもりで、男に噂を流させた。
 エルスのように、肉体関係を持った男を操っていただろう?」

「…………」

「もう一度、聞こう。なんのために、男を操ってエリーを貶めようとした?」

「……なんでよ。なんでいつもこうなのよ! 上手くいってたはずなのに!
 お前のせいだ! お前が生きているから! 生きてさえいなければ、なにもかも上手くいったのに!」

 そう怒鳴り散らしながら、イザベラは私の髪を引っ張り、首を絞めてくる。

 どうやら、気がおかしくなってしまったらしい。
 ヒステリックにもほどがあるでしょ。

 私はなんとか逃げようとするが、髪を引っ張る力も、首を絞める力も強くて、もがくことしかできない。

「た、助け、て……」

 首と同時に喉を締めつけられており、上手く喋ることができなかった。

 だが、アレンの耳には届いてくれたようで、

「手を離せ」

 と、魔法を使用した。
 流石に今のイザベラでも、魔法には逆らえないようだ。

「けほっ、けほ……っ」

 解放された私は、首を絞められたせいか、咳をする。
 そんな私を心配してか、アレンは駆け寄ってくる。

「エリー、大丈夫か!?」

「う、うん……」

「よかった」

 と、言った後、アレンは控えていた兵士に命令する。

「イザベラを拘束して、牢へ連行しろ」

「はっ」

 返事をした兵士は手錠を取り出して、イザベラの手首にはめて拘束する。
 そして、客間から出て行った。かと思いきや、アレンの魔法が解けたのか、イザベラがなにやら騒ぎ始める。

 しかし、そのまま連れて行かれたようで、やがて静かになった。

「さて、エルスはどうしようか?」

「どうしましょう?」

 居間に残された私たちは、未だに頭を下げ続けているエルスに視線を向けて、そう話すのだった。




 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に

ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。 幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。 だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。 特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。 余計に私が頑張らなければならない。 王妃となり国を支える。 そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。 学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。 なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。 何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。 なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。 はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか? まぁいいわ。 国外追放喜んでお受けいたします。 けれどどうかお忘れにならないでくださいな? 全ての責はあなたにあると言うことを。 後悔しても知りませんわよ。 そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。 ふふっ、これからが楽しみだわ。

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

貴方に婚約破棄をされて3ヶ月が経ちました。皆様はいかがお過ごしでしょうか。

りすい
恋愛
婚約破棄をされた悪役令嬢からのお手紙

婚約破棄?はい、どうぞお好きに!悪役令嬢は忙しいんです

ほーみ
恋愛
 王国アスティリア最大の劇場──もとい、王立学園の大講堂にて。  本日上演されるのは、わたくしリリアーナ・ヴァレンティアを断罪する、王太子殿下主催の茶番劇である。  壇上には、舞台の主役を気取った王太子アレクシス。その隣には、純白のドレスをひらつかせた侯爵令嬢エリーナ。  そして観客席には、好奇心で目を輝かせる学生たち。ざわめき、ひそひそ声、侮蔑の視線。  ふふ……完璧な舞台準備ね。 「リリアーナ・ヴァレンティア! そなたの悪行はすでに暴かれた!」  王太子の声が響く。

婚約破棄された令嬢が呆然としてる間に、周囲の人達が王子を論破してくれました

マーサ
恋愛
国王在位15年を祝うパーティの場で、第1王子であるアルベールから婚約破棄を宣告された侯爵令嬢オルタンス。 真意を問いただそうとした瞬間、隣国の王太子や第2王子、学友たちまでアルベールに反論し始め、オルタンスが一言も話さないまま事態は収束に向かっていく…。

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...