1 / 32
1. 持ち込まれた結婚話
しおりを挟む───その日、お父様は悲痛な顔をして私達姉妹に言った。
「すまないが、お前達のどちらか、ロイター侯爵家のアドルフォ殿の元に嫁いでくれないか? ただし、本物の花嫁じゃなくて、契約の花嫁としてなんだが」
「はい?」
「ふふふ、やぁだ、お父様ったら私達をからかっているの~?」
私、ミルフィと、妹のシルヴィは二人揃って首を傾げた。
だって意味が分からないわ。
本物ではない花嫁って何? 契約の花嫁?
「からかってなどいない! その……ロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ殿が花嫁を必要としている……のだが……本物の花嫁は要らない、と……」
お父様はポツポツとそう語り出すも、汗は吹き出し目は泳ぎ明らかに何かを隠している。
耐え切れなくなった私は訊ねる。
「……お父様。本物の花嫁だの偽物の花嫁だのというよく分からない話は置いておくとして、何故、我が家にその話が来るのですか? おかしくないですか?」
言っては悪いけれど、我が家は貧乏子爵家。むしろ、現在はなんと借金まで背負ってしまっている。
色んな意味でも侯爵家とは全く釣り合いが取れない。
だからこそ、この話はおかしい……のだけど。
ギクッ!
私のした質問にお父様の身体が大きく跳ねた。
(間違いない! これは……何か裏があるわ!)
「お父様!」
「……」
「ちゃんと説明してくださいませ!」
私はお父様を問い詰めた。
────……
「……つまり、お父様はロイター侯爵家のアドルフォ様に借金を肩代わりしてもらったと」
「そういう事になる」
「その代わりに、侯爵家は花嫁を要求してきたと」
「そういう事になる」
「でも、それは本物の花嫁ではなく、お飾りの妻が欲しいというお話だと」
「そういう事になる」
あぁ、お父様のその受け答え! かなりイラッとするわ!
「……では、ロイター侯爵家のアドルフォ様がお飾りの妻を欲しがる理由は何ですの?」
「そこまでは聞いておらん。ただ、娘のどちらでも構わないから花嫁として欲しいと言われただけだ」
「……」
(……お飾りのでしょう!?)
と、怒鳴りたくなる。
でも、怒鳴った所で話が変わる訳では無いので、私は、はぁ……とため息を吐いてから、どうにか心を落ち着かせた。
「私かシルヴィのどちらかが嫁がなくてはいけない。もうこれは決定事項なのですよね?」
「あぁ」
お父様が頷く。
これは、どうしたものかしら……と思った時、私の横にいたシルヴィが悲痛な声を上げた。
「私は嫌よ! 絶対に嫌!!」
(シルヴィ……言うと思ったわ)
「だって、ロイター侯爵家のアドルフォ様ってとってもとっても有名じゃない!」
「有名?」
私が聞き返すとシルヴィは呆れたように私を見ながら言う。
「お姉様知らないの?」
「知らないわ」
「そうね、引きこもりのお姉様はきっと、知らないわよね! ロイター侯爵家のアドルフォ様って社交界ではとーーーーっても有名な方なのよ!」
「どう有名なの?」
私の質問にシルヴィは言った。
「社交界に顔を出しても愛想が無くてとにかく無口! 彼の声を聞いた人はほとんど居ない! 性格も冷酷無慈悲だと言われている方なのよ!!」
(えーー……何それ? 言われたい放題……)
「だから私、例え、お飾りでもそんな人の妻になるなんて嫌! 絶対に絶対に嫌!!」
「シルヴィ、落ち着いてくれ」
「落ち着いてなんかいられないわ! 嫌よ、お父様! 私は絶対にお断りよ!」
(出たわ……シルヴィのイヤイヤ攻撃)
これが出るともう決まっているの。お父様は私にこう言うのよ。
「───すまない、ミルフィ。お前に頼む」
……ほらね。
ロンディネ子爵家の姉妹である私、ミルフィとシルヴィ。
私達は似ていない姉妹として有名。
お母様に似た蜂蜜色の金の髪にくりっとした菫色の瞳。
花のような笑顔を見せる妹──シルヴィ。
性格も明るく社交的。いつもワガママを言って家族を困らせる妹。
シルヴィは可愛い。
美少女とはこういう子の事を言うのだと私も常々思っている。
お父様に似た……亜麻色の髪、ヘーゼル色の瞳の私とは大違い。
いつしか、シルヴィと比べられるのが嫌で社交界から遠のいていった私は、ロンディネ子爵家の引きこもりの姉と呼ばれているそう。
(そんなシルヴィは私から何でも奪って行く……)
「いいじゃない、譲ってあげれば。あなたは、お姉さんなんだから」
お母様もいつだってシルヴィの味方だった。
大好きだったぬいぐるみ、お気に入りの刺繍がされたハンカチ、いつも使っていた髪留め……
これまで譲って来たものは多分、言い出したらキリが無い。
「お姉様の持っている物が私も欲しいの!」
いつもそんな事を言うものだから、どうして? と、聞いてみた事がある。
「よく分からないけれど、お姉様の物はとっても素敵に見えるのよ!」
無邪気な笑顔でそう返された。
そうしていつも私から何でも奪っていったシルヴィ。
そう……それは、 かつての私の婚約者さえもそうだった───……
114
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。
千紫万紅
恋愛
魔塔で働く平民のブランシェは、婚約者である男爵家嫡男のエクトルに。
「醜くボロボロになってしまった君を、私はもう愛せない。だからブランシェ、さよならだ」
そう告げられて婚約破棄された。
親が決めた相手だったけれど、ブランシェはエクトルが好きだった。
エクトルもブランシェを好きだと言っていた。
でもブランシェの父親が事業に失敗し、持参金の用意すら出来なくなって。
別れまいと必死になって働くブランシェと、婚約を破棄したエクトル。
そしてエクトルには新しい貴族令嬢の婚約者が出来て。
ブランシェにも父親が新しい結婚相手を見つけてきた。
だけどそれはブランシェにとって到底納得のいかないもの。
そんなブランシェに契約結婚しないかと、職場の上司アレクセイが持ちかけてきて……
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】
幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。
そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。
クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる