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18. 私の旦那様
しおりを挟む旦那様(仮)は、私の言葉に今まで見たことの無い表情を浮かべた。
そう。まるで今にも叫び出しそうな……
(こ、これは! やっぱり……旦那様(仮)はお飾りの妻なんて望んでいなかったんだわ!)
つ、つ、つまり……旦那様(仮)は私を最初から妻にしたいと思っ……
「~~っっ……!」
その考えに至った私は恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
既に顔が赤くなっていた旦那様(仮)と互いに真っ赤な茹でダコ状態で見つめ合う形になった。
「お父様が……そう言ったのです……旦那様は本物の花嫁を求めてはいないと……」
「!!」
旦那様(仮)の目が驚きで大きく見開かれる。
ナデナデが無くても分かる。
これは何だって!? と言っている。
「だから私……」
そこまで言いかけた時、ギューッと強く抱きしめられた。
(違う! 違う! 違ーーう!!)
まるでそう叫んでいるみたい。
「……旦那様。私とシルヴィのどちらでも良かったわけじゃ……無かったんですよね?」
「……」
スリッ……
「!!」
旦那様(仮)は私から少し身体を離すと、頷きながら優しい手付きで私の頬を撫でた。
(ド、ドキドキする!!)
「私、バカみたいな勘違いをしていました」
スリスリ……
「ふふ、擽ったいです。頭とはまた違いますね」
「……」
私がそう口にしたら、旦那様(仮?)は少し何かを考える仕草を見せた後……
──ポンッ
私の頭の上に手を置く。こうなると当然───
ナデナデ……
優しいナデナデだった。
「……」
「……」
「不思議ですね、最初はナデナデ!? と戸惑ってしまったのに今ではすっかり私の生活の一部となってしまいました……」
「……」
旦那様(仮?)がすごく嬉しそうに笑う。
なんて美しい笑顔なのかしら。
私は思わずうっとり見惚れるも、すぐにナデナデにより正気に戻された。
ナデナデナデナデ……
「旦那様、このまま私はあなたと……アドルフォ様とこうしてナデナデ生活を続けて行きたいです」
「!!」
ナデナデナデナデ!
「!」
そのナデナデが“当然だ!”と、言っているように聞こえて私は嬉しくて嬉しくて微笑む。
そして、私もそろそろと旦那様(元仮)の頭に手を伸ばす。
ナデ、ナデ、ナデ……
「!」
あ、私がナデナデしたら、旦那様(元仮)の顔が更に赤くなったわ!
「私、旦那様とのこのナデナデ生活が好きみたいなんです」
「!」
ナデ、ナデ、ナデナデ……
「ですから、これからも私はナデりナデられ結婚生活を旦那様と送りた…………」
と、そこまで言いかけた時、
──チュッ
旦那様(元仮)がそっと私の額にキスをした。
(に、に、二度目だわ!!)
「旦那様……」
「……」
旦那様(元仮)、さっきよりも顔が赤くなっている。
「……もっと……して……下さい……」
「!?」
私がうっとりしながら呟いた言葉を聞いた旦那様(元仮)は、さらに顔を真っ赤にさせて私の目を見つめた。
「……」
「……」
そして、今度はチュッと私の頬へ……チュッチュッとキスをする。
(擽ったい……でも、とっても幸せ……)
「旦那様……いえ、アドルフォ様」
「……!」
私はじっと旦那様(元仮)を見つめる。
すると、そっと私の頬に旦那様(元仮)の手が触れ、
───チュッ……
旦那様(元仮)の唇がそっと私の唇に触れた。
(初めての……キス。私、キスしてる)
結婚式もしていない。初夜もナデナデで終わってしまった。
それでも、
(ようやく夫婦になれた気がする……)
と、私は思った。
(幸せ……)
初めてのキスは、旦那様も恥ずかしかったのかすぐに離れてしまった。
「だ、旦那様! も……もっと、もっとして下さい」
「!?」
「足りないです……」
「!!!」
自分でも、何て大胆な事を口にしているのかと思う。
旦那様は私のそんな言葉に少しオロオロしたけれどすぐに覚悟を決めたのか、クイッと私の顎に手をかけると、そのまま顔を上に向かせて──
チュッ……
もう一度、私達の唇が重なる。
「……んっ」
「……」
(あ!)
今度はすぐには離れてくれないし、がっしり頭を固定されていて逃げられない。
チュッ、チュッ、チュッ……!
(旦那様、さっきまでとは全然違う!)
こうして、旦那様は愛おしそうに何度も何度も私にキスをした。
──ミルフィ……
(ん?)
甘いキスに酔いしれていた私の耳元で優しく私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
*****
それからの私達のナデナデ結婚生活は、少しだけ様子が変わった。
「おはようございます、旦那様」
「……」
ポンッ……ナデナデ。
(これは、おはようのナデナデ)
そして、次に旦那様はギュッと私を抱きしめる。
──ここまでなら、前とそうは変わらない。
変わったのはこの後───……
チュッ!
そこにチューが加わった事。
場所は額だったり、頬だったり……唇だったり……その時で違う。
(ふふ、今日の旦那様は頬の気分なのね?)
チュッチュッと頬にたくさんのキスをくれる。
でもね、もう時間なの!
「旦那様……! ここまでです。朝食に遅れてしまいます!」
「……」
ナデナデ……
「もう! さぁ、行きますよ!」
「……」
私はちょっと不貞腐れた様子の旦那様の手を取って歩き出す。
旦那様も苦笑いしながらギュッと握り返してくれる。
こんなやり取りも、もうすっかり毎日の日課となっている。
とても温かくて……幸せだわと思った。
「おはよう二人共」
「おはようございます!」
「……」
「あらあら、その手……朝から仲良しね」
私と旦那様は手を繋いだまま互いに顔を見合わせてフフッと笑い合う。
(……このままずっと旦那様とこうして───)
ロンディネ子爵家で得られなかった“幸せ”という気持ちを私は今、得られているんだなと思うと嬉しい。
だけど、いつだって私の幸せをぶち壊しに来るのはシルヴィなんだって事を私はこの先、思い知る事になる──……
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