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金色の瞳をした女性

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アルマンド視点です


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  物心がついた時から、僕はずっと誰かを探していた。
  それが誰かは分からない。だけど、その“誰か”はきっといつか僕の目の前に現れる。
  そう確信があった。

  そんな僕は成長すると同時に、不思議な夢を見るようになった。

  その夢に現れる女性は、自分の髪色と同じような銀灰色の髪に金色の瞳を持つ女性だった。
  5~6歳くらいの幼女の姿だったり、15歳くらいの少女であったり、もう少し成長した20歳前くらいと思われる女性の姿だったりしたが、不思議と僕にはそれが全て同一人物であると分かった。

  (だけど、どうしてもっとその先の姿では現れないのだろう?)

  そんな疑問はあったけど、その時の僕が理由など分かるはずもなく。
  ただ、一つ分かったのは、この“金色の瞳をした女性”を自分は探していたんだ、という事だけだった。

  夢に現れていた女性が誰かは知らない。
  ただ、ファルージャ王国では金色の瞳は珍しく、その色がレヴィアタン王国の王族が持つ色だという事は成長と共に知った。
  また、同時に自分の瞳の色もランドゥーニ王国の王族の色に連なる事も知った。

  (自分が探しているのは、レヴィアタン王国の王女なのだろうか?)

  そう思って、レヴィアタン王国の事を調べてみたが、近年、王女は生まれていなかった。

  それならば、彼女は誰なんだろう?
  模索する日々は数年続いた。

  そんな15歳の春。
  僕はついに彼女を見つけたのだ。


  非公認の婚約者の話は父親から聞いてはいた。
  それまで1度も会った事が無いし、父親同士の軽いノリで決まったような話だったので正直、気乗りしない。というのが、僕の本音だった。

  “彼女でないなら誰も要らない”

  と、いう自分の心のような心でないような想いが、常に僕の中にあったせいだ。

  父親もあえて非公認の婚約者としていたのは、お互いが相手を気に入らなければ婚約の話は無かった事にしようと思っていたかららしい。
  だから、そろそろ白黒はっきりさせる為に、僕とその非公認の婚約者を会わせることにしたようだった。


「アルマンド様、初めまして。レティシーナと申しま……す!?」


  その日、僕の前に現れたレティことレティシーナを見た瞬間、息が止まるかと思う程の衝撃を受けた。

  ────見つけた!
  彼女だ!  僕が探していたのはこの子だ!

  本能でそう思った。
  夢の中の女性とは、顔立ちも髪色も違う。だけど、僕には分かる。
  間違いないーー僕の探していたのは彼女だ!

  僕が、驚き固まったせいなのか、それとも彼女自身も何かを思ったのか、レティの挨拶もどこか不自然だった。
  僕を見て驚いた?
  そんな彼女の驚き固まる様子を見て、ふと気付いた。
  溢れんばかりに大きく見開いていた彼女の瞳の色は、夢の中の女性と同じ輝くような金色だった。

  僕はあまりの嬉しさと興奮で気づけば笑顔を浮かべて口を開いていた。


「初めまして、レティシーナ嬢。君みたいに可愛い人が僕の婚約者だなんてこんなに嬉しい事はないよ。これからよろしくね」
「……あ、こちらこそ、よ、よろしくお願い致します」

  どこか呆けていた彼女は父親の男爵に小突かれ意識を取り戻した後、そう答えてくれた。


  そこから先の僕は、やっと会えたという嬉しさに距離をつめたくて、グイグイ行った。
  ……若干レティは引いてた気がする。いや、彼女の事だ。間違いなく引いていた。

  だけど、浮かれるのも仕方ないと思って欲しい!
  だって、ずっとずっと探してた人にようやく会えたのだから。
  レティに会った時、ずっと僕の心の中にあった隙間が埋まった気がしたんだ。


  そこからの僕の行動は早かった。
  父に、「レティシーナ嬢との婚約を結びたい」と伝え、喜んだ両親は男爵側にもその話を伝え、向こうも喜んで承諾した。

  こうして、僕とレティは非公認から正式な婚約者となった。




  レティは、理由は分からなくとも僕がずっと探していた人だ。
  愛とか恋とか関係ない。とにかく心から大切にしようと決めていた。

  一緒に過ごす時間を持って知ったけど、彼女はとても面白い子だった。
  また、言動や物の考え方が、そんじょそこらの男爵令嬢のものでは無い。
  もっと高貴な人物を彷彿とさせる何かがあるのだ。
  だけど、それがあまりにも自然に馴染んでいて、僕だけでなく周りの人間も不快にさせる事が一切無くてとても不思議だった。

  そんな彼女は、一つ一つの所作がとても美しい。
  気付くと、いつも見蕩れている自分がいた。
  愛とか恋とか関係ないとか思っていたけど、自覚すればその先はあっという間。
  そんなレティのギャップに僕はイチコロで、気付いたらすっかり彼女の虜になっていた。
  また、不思議とあの金色の瞳で見つめられたり、睨まれたりすると、ドキドキしてゾクゾクするのだ。
  (一応言っておくが、僕はマゾでは無い!!)

  僕は彼女と過ごす内に、どんどんレティに夢中になっていき、自然と夢の中の女性の事を考える回数は減っていった。
  あの僕を惑わす金色の瞳も、夢の中の女性の瞳だからではなく、レティの瞳だからなのだと思うようにもなった。

  ただ、一つ納得いかないのは、レティが僕との婚約を解消したがっている点だ。
  僕に対して何が不満だとか文句があるわけでもないようなのに、度々彼女はそれを口にする。
  単なる軽口なのか本気なのか分からなくて、僕が毎回内心とてもヒヤヒヤしている事を彼女はきっと知らない。



「アルマンドは、レティシーナ嬢にゾッコンなんだな」
「は?」

  学院に入学して間もない頃に、友人にそう言われた事がある。

「いやー、婚約者だってのは、聞いてるけどさぁ」

  友人のその言葉の続きは言われなくても分かった。

  ─────普通じゃね?  お前がそんな夢中になる女性とは思えないんだよなぁ。

  ……だ。
  皆、口を揃えてそう言う。僕はその度に不快感を覚えるのだけど、レティの魅力は僕だけが知っていればいい。他の男が知る必要なんて無い。

  だけど何で皆、分からないのだろう?
  確かにレティの容姿は客観的に言うと普通なんだと思う。黒い髪はこれと言って特徴的では無いし、容姿も特別美しいと騒がれる事も無い。
  どうやら、僕の容姿はそれなりに整っている部類に入るらしく、家柄も含め釣り合ってないと影でコソコソ言われている事は知っている。
  正直、不快だったがレティがそんな噂を口にしたり、直接レティに嫌味を振り撒く令嬢達を自ら事ごとく返り討ちにしている為、僕の出番があまり無い。
  そこは、男としても婚約者としても情けなくはある。

  レティは可愛い。
  ちょっと僕の前では口が悪い時があるけど、それはただ意地っ張りで照れ屋なだけだ。そんな素直じゃない所も僕にとってはたまらなく愛しい。
  くるくる変わる表情はずっと見ていたくなる。

  僕はそんな想いを隠さずにレティに伝えるようにしている。

  何故かは分からないけれど、
  正直に伝えないと、後悔する──そんな気持ちがいつも渦巻くのだ。


  いつだったか食堂で交わした会話、

「何で貴方は公衆の面前でそんな事を平然と言えるわけ?」
「何でって……僕がレティを好きな事は隠す事じゃないし」
「だからって……!」
「それにこういった事は下手に隠せば隠すほど誤解を生むからね」
「は?」

  その時のレティは、何言ってんだ、コイツ?
  って目で僕を見たけれど、本当にそう思ったんだ。
  ちゃんと気持ちは素直に伝えないとダメだ、と。

  照れ屋なレティは、僕の愛の言葉に迷惑がっている様子を見せるけど、この先も僕は口にするのを止める事は無いだろうなと思っている。早く観念して欲しいところだ。


  また、これも不思議なんだけど、レティが怒ったり笑ったりしてくれていると僕はとても幸せに気持ちになる。笑うのはともかく、怒らせてるのに、だ。
  それは、単純に彼女の事が好きだから、という理由だけでは無い気がしていて。
  反面、レティの泣く所は見たくないとも強く思っているのだけど、それは、好きな子の悲しむ姿が見たくないというだけじゃない何かが僕の中にあるとずっと感じていた。



  “もし、次があるなら。赦されるなら、二度とあんな風には泣かせたりしないから”




「────ん?」

  僕のようだけど、どこか僕じゃない人の想いが聞こえた気がした。

  ふと思い出すのは、夢の中の金色の瞳の女性。
  レティと会ってから、夢を見る事は無くなっていた。

  夢の中の女性は、大抵いつも笑っていた。楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに。
  だけど、彼女があの瞳を絶望の色に染めて泣いている夢を1度だけ見た事がある。
  その時は酷く胸が締めつけられるような思いだった。

  (レティには絶対にあんな顔をさせたくないな)

  僕の横でいつものように、軽口をたたきながら笑っていて欲しい。

  僕のありったけの想いを綴った恋文の返信が、

『愛が重い』

  こんな一言でも僕は堪らなく嬉しい。

  どれだけ愛が重いと思われようとも、僕はレティの事が大好きなんだ。



◇ ◇ ◇



  ──そんなある日の晩、久しぶりに夢を見た。

  だけど、その夢は今までとは少し違っていて。
  今まで夢に現れるのは金色の瞳の女性だけだったのに、今日はもう一人誰かいる。
  彼女と寄り添っているその人はー

  黒髪のーー………

  (アメジスト色の瞳を持った男……?)

   僕はこの男を知っている。

  ーーとてもよく知っている。



  あぁ、そうか。そうだったのか。




  そして、その日、僕は全てを思い出した。
 
  遠い遠い200年前の自分を。

  ランドゥーニ王国の王太子、エミリオとして生きたかつての自分を。

  そして、最愛の……エミリオが婚約者でもあった、レヴィアタン王国の王女シャロン。
  ──そう、夢の中の女性──の事も。

  また、そんなシャロンの生まれ変わりが今の僕の最愛の婚約者のレティである事も。

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