28 / 31
28. 不穏(ジュリエッタ視点)
しおりを挟む✣
「───まずは、リネットへの謝罪から始めようか?」
殿下が冷ややかな目で私たち家族を見ながらそう言った。
リネットに謝るですって!?
(嫌、嫌、嫌……そんなの絶対に嫌!)
どうしてこの私がリネットなんかに謝らなくちゃいけないのよ!
(意味が分からない……!)
いったいどうしてこんなことになってしまったの?
次から次へと明かされていく話に私はついて行くのに精一杯だった。
分厚い眼鏡を外し、髪色を元の銀色に戻し、堂々とした姿で喋るリネット。
これは本当にリネットなの……?
私が散々馬鹿にして踏みつけて来たはずのリネットは今、私の焦がれた殿下の隣に立ち、愛されオーラを出して輝いていた。
(こんなのおかしい!)
どうして私がこんなにボロボロなのにリネットだけは輝いているのよ!
昨夜は一睡も出来なかった。
牢屋なんかに連れていかれた屈辱と……そして、何よりも怖さ。
離宮が古いせいなのか、地下のはずなのにどこかの隙間から入ってくる風の音が人の声に聞こえて一晩中怯え震えていた。
また、ここに来る前に着替えだけはさせてもらったけれど、格好もスケスケの下着にガウンを羽織っただけ……寒いなんてものじゃなかった。
あんな所……二度と入るのはごめんよ。
(私が牢屋の中で怯えている間にリネットは殿下と……イチャ……)
想像するだけで悔しい。
入れ替わるまでは全てが順調だったはずなのに。
(ピアノ……)
私の自慢のピアノを独りよがりだとコケにされた。
相手のことを気遣う? 人を思いやる心を込めた演奏?
何それ?
そんなこと一度だって考えて弾いたたことなんてなかった。
「───いつまでそうして固まっているつもりだ?」
「……っ!」
殿下に声をかけられてハッとする。
顔を上げて前を見ると殿下は大事そうにリネットを胸の中に囲っていた。
その光景が悔しくてまた唇を噛んだ。そろそろ血が出そう。
「ジュリエッタ。君が長年リネットにし続けたことは簡単に許されることではない」
「!」
まるで定期的にリネットをストレスの捌け口にしていたことがバレているかのような発言にビクッとしたけどやっぱりどう考えても私は自分が悪いことをしていたなんて思えない。
(いいえ、だって私は何も知らなかったのよ!)
没落したはずの伯爵位は王家預りだった?
だからリネットが伯爵家を継ぐ?
私は子爵令嬢なのに? リネットの方が上?
落ちぶれた平民ではない?
そんなの知らない! 聞いてない!
お父様とお母様は私にもその話を隠していたのだから。
それに……
私はチラッとテーブルの上にある手紙に目を向ける。
(あの手紙……覚えがある)
我が家はあまり裕福ではないという自覚はあったのに、定期的にお父様とお母様がニコニコ笑顔でドレスや宝石をたくさん買ってくれる時がある。
こんなに大丈夫なの?
そう聞いてみたらお母様が───
「私の実家がね、可愛い孫のジュリエッタのためにってお金をくれているのよ」
確かにそう言っていた。
「だから、お礼の手紙を書きましょうね?」
リネットだって孫のはずなのに私だけ?
私だけの特別扱いが嬉しくて嬉しくて言われるがままにお礼の手紙を書いた……わ。
(でも、そうだった……お母様は最後に名前まで書かなくてもいいのよって……)
自分の手紙と一緒に同封するし、名前なんか無くてもジュリエッタからだと分かるから書かなくて構わないわ。
そう言っていた……
あれはどこからどう見ても私の書いた手紙。
なんの誤魔化しもしていない。
つまり調べられたら……すぐに私の筆跡だと分かってしまう。
(どうしよう……とにかく……私は悪くないってことを訴えなくちゃ!)
お母様が亡くなった伯母をどれだけ恨んでるかなんて私は知らない。
とにかく言われるがまま謝ってどうにか……どうにか私への処罰だけは穏便に済ませてもらう。
これしかない!
そう思った私は瞬時に目に涙を浮かべる。
泣き真似は得意だからこんなの簡単よ!
あとは適当に謝罪の言葉を並べておけばいいんでしょ?
(簡単、簡単、リネットは単純だからコロッと騙されるてくれるに違いないわ!)
そう思って私は涙を流しながら頭を下げる。
「……くすん、ごめんなさい、リネット……」
「……」
「そんなつもりじゃなかったの……だって私、何も知らされていなかったし……」
「……」
何故かリネットからの反応がない。
そっと顔を上げると無表情のリネットと目が合った。
ドクンッと心臓が嫌な音を立てる。
(な、に……その顔……リネットのこんな顔、知らない)
「ジュリエッタ……私にはどう考えても分からないのだけど」
「な、なによ?」
「何も知らされていなかったら、頭から水をかけても許されるの? 気分で熱湯の入ったポットを投げつけても問題にはならないの?」
「え……?」
「あなたがこれまで私にしてきた行為に、子爵夫妻の企みを知っていたとか知らなかったは関係ないと思うの」
しまった……と思った。
自己弁護に走りすぎた?
余計なことは言わずに上辺だけでもいいから謝罪の言葉だけ述べておけばよかったと瞬時に後悔する。
「……それから、ジュリエッタって泣き真似が得意よね?」
「えっ」
またドクンッと心臓が嫌な音を立てた。
見抜かれてる? なんで? リネットのくせに?
「今も私なんかに見抜かれるなんてって驚いているでしょうけど……」
「!?」
「ジュリエッタは分かりやすく考えていることが全て顔に出ているわ」
顔!?
そう言われて反射的に自分の顔を手で触る。
「散々、馬鹿にしてきた私に謝罪をしろと言われて、どんな反応するのか見てみたかったのだけど……あなたも叔母様と一緒なのね。適当に口先だけで謝っておけばいいと思っている」
「!」
その言葉でお母様の顔を見ると悔しそうな表情をしていた。
「私はこの後、レジナルド殿下と一緒に本宮へ爵位の返還についての話をしに行くわ。その際にきっちりメイウェザー子爵家のことも報告させてもらいます」
リネットは殿下が用意していた資料や手紙を手に取って抱える。
あれを……全部提出……?
「これだけの証拠が揃っているんだもの。言い逃れは出来ないでしょうね」
「ああ。事情聴取と正式な裁判がこれから行われる。子爵家の三人はそれまでは──そうだな。逃げられたら大変だから牢屋にいてもらおうか」
殿下がチラッと私の顔を横目で見ながらそう言った。
「牢……っ!」
殿下はきっと昨夜、私が恐怖で震えていて一睡も出来なかったことを知っていて言っているのだと分かった。
酷い……
絶対に嫌だと目で訴えたけど無視された。
(まさかとは思うけど、子爵家……お取り潰しとかにはならない……わよね?)
そんな不安が頭の中を過ぎっていく。
どうして? リネットにはこれから幸せが待っているのに私は───……
散々リネットをバカにしてきた分の大きな大きなしっぺ返しが私に迫っている。
そんな予感がした。
356
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる