王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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83. 自業自得ですね!

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 オリアンヌ様の言葉に教育係の人たちの顔が引き攣っていく。

「──それと、エリーズ様はとても距離が近くて、スキンシップが激しい方だそうですね!  こんなに可愛らしい方に目をうるうるされてなんてされたら……断れませんよね?」
「……」

 言葉を失って立ち尽くす教育係たち。

「え……目を潤ませてお願い?  近い距離でのスキンシップ?  ……それってエリーズがよく私に対してしてくれる……え?  あれ、を」

 貧弱王太子が呆然とした表情で呟く。
 その横で顔を真っ青にしたエリーズ嬢が叫ぶ。

「な、なななな何の話ですか!!  ひ、酷い!  言いがかりですっ!」

 そう言って目を潤ませるエリーズ嬢。
 確かに女優もびっくりの早業だった。

(すごいわ!)

 笑いすぎて涙が出る時以外には、泣くという経験が殆どない私には到底真似出来ない技術!
 でも……
 私はリシャール様に訊ねる。

「……リシャール様。涙というものは特訓したら自由自在に操れるようになるものなのでしょうか?」
「え?  フルール?」

 リシャール様がギョッとした顔で私を見る。

「な、何だかフルールの顔が……メラー……ケホッ」
「私、思ったのです!  もしや、最強の令嬢を目指す者としては、涙の一つや二つくらいは自在に───」
「いいや!  操らなくていい!」 

 慌てた様子のリシャール様に言葉を遮られてガシッと肩を掴まれた。

「大丈夫だ!  フルールは涙なんか操らなくても最強令嬢だから!」
「そ、そうですか……?」
「ああ!  僕が保証する!!」

 リシャール様がすごい勢いでコクコクと首を縦に振る。
 そこまで言ってくれるなら無理しなくてもよさそうなのでホッと胸を撫で下ろした。

「それなら良かったです。私、涙とはあまり縁がないものですから。習得にはかなりハードな特訓が必要になるかと思いました」
「え!」
「え?」

 リシャール様の声が裏返っていたので、そんなに驚くことかしらと私の方がびっくりした。

「……涙とは縁がない……?  そういえばフルールが泣いたところは見たことが……ない」
「いいえ!  赤ちゃんの時は誰よりも大泣きしていたそうですわ!」

 私はえっへんと胸を張る。 
 お父様やお母様曰く、とにかく赤ちゃんの私は元気いっぱいだったという話よ!

「そっち…………でも、それは何だか想像がつく」

 リシャール様はくくっとおかしそうに笑った。

「ええ。ですから、たくさん泣いて笑って食べて今の私がいますわ!」

 そう言って、もう一度どーんと胸を張ったらリシャール様は顔をくしゃくしゃにして笑った。

「フルール。本当に君って人は……」
「あ!  それにしても……エリーズ嬢って前に私が読んだ本に出て来た“魔性の女”と呼ばれていた女性にそっくりです」
「え?  本?  今度は何の話だ!?」

 聞き返してきたリシャール様に私は真面目な顔で頷く。

「そうですわ。そして、その本の中に出てきた“魔性の女”も目をうるうるさせるのが得意でした」
「うーん?  そんなに目を潤ませて泣き虫アピールしてその魔性の女は何がしたいんだ?」
「それはもちろん、エリーズ嬢と同じで───」

 興奮して来ていた私は、いつの間にか声が大きくなっていたことに気付かず堂々と答えた。

「涙で油断させた所での色仕掛け!  そして、見た目しかみていない、人を見る目のない阿呆な方々がそれにコロッと騙されるのですわ。そして騙された方が悪いのよとほくそ笑みながら、更なる悪事を働くのです!!」

 しーん……

(……んん?)

 妙に自分の声が響いた気がして我に返ると、何故か私の周り……いや、会場内がしんっと静まり返っていた。

「……えっと?」

(どうして皆、静かで私を見ているの?)

 注目されている理由が分からずキョロキョロと辺りを見回すと、オリアンヌ様が私を見て嬉しそうにクスクスと笑う。

「……エリーズ様、たった今あなたが嘆いていらした“そんなことして何の意味があるの?”という疑問にはあちらの令嬢、フルール様が答えてくれましたよ?」
「……なっ!」
「彼女の言ったように──あなたがしたことは、色仕掛けによる不正です!」
「──っっ!」

 オリアンヌ様はきっぱりそう言うと、エリーズ嬢は息を呑んで悔しそうに唇を噛んだ。
 そのままエリーズ嬢は私のことを睨んできたのだけれど、そんな顔されても私には状況がさっぱり分からないので困るわ……

「さてさて、エリーズ様のそんなお得意の涙と色仕掛けにコロッと騙された阿呆な方々とはいったい誰のことかしら───?  ねぇ、先生方?  そしてヴァンサン殿下?」

 オリアンヌ様の言葉にビクッと貧弱王太子と教育係たちが肩を震わせる。

「オ、オリアンヌ様!  わ、我々は……決してや、疚しいことなどはしていない!」
「そ、そうです!  この国の未来の王妃に相応しいかどうかを確かめるための試験なのに結果を操作するなんて……」
「そんなことをしても我々にはなんのメリットも──」
「───あら嫌だ。何を言っているんですか?  先生方にメリットならたくさんあるでしょう?  だって未来の王妃様に恩を売ったのですから」

 ここで反論を始めた教育係たちにオリアンヌ様は冷たい微笑みで一刀両断した。

「ぐっ……」

 何も言えなくなった教育係には冷たい視線が向けられる。
 彼らは悔しそうに下を向くとそれ以上は何も言えなくなっていた。

 そして、同じく阿呆な人扱いをされた貧弱王太子は……

「……エリーズ!」
「ひっ!」

 エリーズ嬢の両肩を掴むと強く前後に勢いよく揺さぶる。

「ひっ、や……」
「───どういうことなんだ!  嘘だと言ってくれ! い、色仕掛け……今の話はオリアンヌのついたデタラメの嘘なのだろう!?」
「……っ」
「な、ぜ、目を逸らす……?」

 エリーズ嬢が目を逸らしたことで、貧弱王太子が大きなショックを受ける。

「まさか、本当に私にしていたようなことを彼らにもしたのか……?  合格のため……に?」
「……」
「私と一緒にいるために試験頑張ります!  という健気な言葉は全部嘘だったのか……?」
「……」
「答えてくれ!  エリーズ。───全部、違うと言ってくれ!!」

 それでも頑なに答えようとしないエリーズ嬢。
 違うと言えないのだから答えようがないわよね、と私は思った。

「そんな……エリーズ、君は私の真実の愛の相手……で……」

 エリーズ嬢から手を離した貧弱王太子がガクッと膝をつく。

「どうして……何がいけなかった?  なぜこんなことに……」

 身体を震わせながらそう嘆く貧弱王太子。
 真実の愛が崩れてゆく────

(ああ……)

 私はその様子を見ながら思った。
 しなしなに萎れ始めたので貧弱さにますます磨きがかかっていくわ、と。



「───くっ!  オリアンヌ……!」

 そんな貧弱しなしな王太子はしばらくはその場に打ちひしがれていた。
 けれど、突然顔を上げてオリアンヌ様のこときつく睨むと怒鳴り出した。

「……貴様!  こんなことを暴露して……何が目的なんだ!」
「目的?」
「私に嫉妬したことはない、婚約は仕事だった、王妃になることは望んでいなかった──そう言っていたが、実はどれも全部嘘だったんだろう!」
「……え?」

 オリアンヌ様の美しい顔が思いっきり不快そうな表情になる。

「あれは、全て私への愛情の裏返し……悔しさから出た言葉だったのではないのか?  だから、私とエリーズをこんな風に揺さぶって真実の愛を壊して……」
「いいえ、それは殿下の勘違い……真実の愛が壊れたのは見る目のなかった殿下の自業自得です!」
「なっ……!」

 貧弱しなしな王太子の顔がカッと赤くなった。

「調べてもらったところ、エリーズ様のそういう性格は知れ渡っていたそうですから!」
「……は?」
「それに、あちらの国で殿下にきちんと忠告した方もいたそうですよ?」
「な、に?  バカを言うな……そんな忠告は知らん!」

 嘘だろう?  そんな覚えは無い!  という顔した殿下にオリアンヌ様が首を傾げる。

「え?  ですが、殿下は───“真実の愛の相手を見つけた私のことが羨ましくて、でまかせを言っているのだな?  哀れな奴め”と鼻で笑ってその方をあしらったそうですけど」
「…………あ!!」

 その発言には覚えがあったのか、慌てて口を押さえる貧弱しなしな王太子。
 今度は青くなり、ますます萎びれていく殿下にオリアンヌ様は笑顔で駄目押しの一言を告げる。

「きちんと人の話を聞かなかったから───やっぱり自業自得ですね、殿下!」

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