王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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244. 名探偵フルール、行動開始?

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「えっと……フ、フルールさん?  まさかとは思うけど……い、今から脅しに行くの?」
「いいえ!  今はまだ脅しませんわ!」
「まだ……」

 私はきっばりと否定し、首を横に振る。
 リシャール様は不安と安堵が入り交じったような表情でゴクリと唾を飲み込んだ。
 私はチラッと王弟殿下の方に視線を向ける。

「まだ脅すには情報が足りない所もありますし、何より今の王弟殿下はメリザンド様の姿にショックを受けていますから」
「あー……」

 つられて視線を向けた旦那様も頷く。

「旦那様───これはお母様の教えですけど、“脅す”という行為には時と場合、タイミングの見極めが肝心だそうですわ」
「フルール……」
「そのタイミングを間違えると、ただただ相手に警戒されてしまうだけ」
「……」
「ですから最も効果的な時を狙って行わねばなりません!」

 リシャールさまがハハハと笑う。

「……義母上はどこかの組織の一員か何かかな?」
「いいえ、ただの最強の舞姫ですわ!!」
「そう……か」

 王弟殿下に隠し子がいる──このことをどれくらいの人が知っているのか……という点でも、効力は変わってくる。
 最悪、女性がこっそり産んでいた場合は王弟殿下本人も知らない……なんて事も有り得る話。

(そこは慎重にいかないと)

「───よってまずは、幻の令息が“元気になること”が最重要事項ですわ」

 明日からまた一週間寝込んでしまうようでは、とてもとても意中の令嬢に会いになんて行けませんもの。
 その為にも、まずは“美味しいもの”をたくさん食べてもらいましょう。
 そこで、私の育てた野菜さんたちの登場ですわ!

 私がニンマリ笑っていると、リシャール様がそっと私を抱き寄せる。
 そんな私たちの様子を見ていたパーティー参加者が、キャーーッ!  と黄色い悲鳴をあげた。

「旦那様?」
「全く……うちのフルールさんは、そんな可愛い顔をして今度は何を企んでいるやら……」
「ふふふ……」

 愛する夫、リシャール様は頭ごなしにいきなり反対はしない。
 きちんと私の話を聞いた上で意見をくれる素敵な旦那様ですわ。

「ほら!  ……なにか企んでるのにこんなに可愛い顔をして笑う…………本当に本当に君はとんでもない人だよ」
「当然です。色んな魅力溢れる最強の公爵夫人を目指していますもの!」

 色んな魅力……と言った所でリシャール様が吹き出す。

「肉食だったり野菜になったり……僕の妻──モンタニエ公爵夫人は美味しそうだよね」
「ふふ」

 その言葉に笑っていたらリシャール様の顔がそっと近付いて来て、私の額にチュッとキスを落とした。
 キャーーーー!  と一際大きな黄色い悲鳴をバックに、私はパチパチと目を瞬かせる。

「だ、旦那様?  皆が見ています……わ?」
「うん、見せつけた」
「……」

 リシャール様は国宝級のキラッキラの笑顔で眩しい光線を放ちながら堂々と言い切った。

「フルールは、えっと国宝泥棒?  そう言って僕のことを狙っているらしい人のことばかり気にしているけど──」
「だって、旦那様はとても素敵で魅力的でモテモテですもの!」

 私が力説すると、リシャール様は苦笑した。
 そしてコツンと額をくっつけてくる。

「……っ!」

(顔が……国宝の美しい顔が近いですわ!)

 キャーー!  イヤーー!  
 そんな悲鳴があちこちから上がり、あまりの眩しさに耐えられなかった人がバタバタとその場に倒れる音まで聞こえてくる。
 けれど、私は目の前の美しいドアップのリシャール様から目が離せない。

(国宝が色気を振り撒き始めましたわーー!?)

「ありがとう。でもね?  そんな僕の可愛い奥さんのフルールだって、とても素敵で魅力的な女性なんだって分かってる?  僕だって気が気じゃない」
「私はまだまだですわよ?」

 私がそう答えると、リシャール様は優しく微笑んだ。

「君はそうやって、ますます輝いていくんだろうな」
「旦那様?」
「フルール。君に置いていかれないように……僕ももっと頑張るよ!」
「もっと!?」

 たった今放った輝きで会場内の女性(既婚未婚問わず)を魅了して次から次へと卒倒させておきながら、まだまだ更に磨きをかける宣言をするリシャール様。

(現状に満足しないその姿勢……)

 さすが、私の愛する旦那様ですわ!
 私たちはにっこり笑ってしばらくの間、見つめ合った。


 その光景は、幽霊令嬢となったメリザンド様にかなりの大ダメージを与えていた……らしい。


─────


「え!  プリュドム公爵令息とナタナエル殿の顔がそっくり!?」
「そうなんですの」

 パーティーを終えて、屋敷に戻った私たち。
 夜、夫婦の寝室で幻の令息とナタナエル様のことを旦那様に報告する。

「そんなに似ていたの?  ちょっと似ているではなく?」
「いえ、とてもそっくりで最初はナタナエル様かと驚きましたが、すぐに別人認定しましたわ」

 私がそう言うとリシャール様は、なんだ……と胸を撫で下ろす。

「すぐに別人認定出来るくらいなら、そっくりと言うほどじゃ……」
「いえ。二人のパーツは殆ど同じです!  違いは───眉毛の角度が幻の令息の方が若干下がっていまして、目の離れ方も幻の令息がナタナエル様より数ミリ程度だけど離れていましたわ!」
「え……」
「それから、鼻はナタナエル様の方が少し高めで、唇は幻の令息の方が厚め。耳たぶはナタナエル様のほうが厚みがありそうでした───よって、別人認定しましたわ!」
「……」

 あの時、ぶつかった一瞬で判断した部分を力説すると、何故かリシャール様が黙り込んだ。

「……フルールさん」
「はい!」
「二人の顔の違いはそれだけ?」
「ええ!」

 私は大きく頷く。

「…………僕にはそんな細かい数ミリ程度の顔のパーツの違いが分かる気がしないんだけど。しかもそれを一瞬で判断するって、なにごと……?」
「旦那様?」
「いや、もうこれはフルールだから、フルールだからなんだ……うん!」

 何やら目を瞑ってブツブツ大きな独り言を唱えていた旦那様が、よし!  と顔を上げる。

「……とにかく、二人はそっくりなんだね?」
「──はい!!」

 私はさっきより元気いっぱい大きな声で頷く。
 リシャール様はうーんと考え込む。

「そうか。プリュドム公爵令息は全然、公に姿を見せていないし……ナタナエル殿は王都から離れた辺境伯領の騎士だった……そりゃ、二人がどんなに似ていても接点が無さすぎて気付く人はいないよね」

 そう。だから、腕相撲力比べ大会にナタナエル様が参加していても誰からも騒がれなかった。

「お母様たちですら、ナタナエル様を見ても何も言っていませんでしたわ」
「すると、ナタナエル殿が王弟殿下の子どもかも?  ということは、かなり重大レベルな秘密事項なんじゃ?」

 リシャール様はそこまで言ってハッとした。
 じっと私を見つめる。

「フルール……君が王弟殿下を脅すと言ったのは……」
「そうですわ。もちろん、幻の令息の意中の令嬢との“本物”の真実の愛を成就させるため……というのもありますけど、私は大親友アニエス様も守りたいんですの」

 私が唯一認めたアニエス様を愛でる会、会員のナタナエル様ほどぴったりな方はいませんわ。
 しかし今後、幻の令息が元気いっぱいになって表に出れば間違いなく騒がれる。
 その時に、子ども?  知りません──では困りますのよ!

「ですから……皆の幸せを邪魔するなら、次期国王であっても容赦しません!」
「メラー……じゃない、フルール」
「そういうことですので。まず明日は、アニエス様の元に突撃しますわ!!」

 名探偵フルールの活動開始ですわ!!
 どんな難事件でも華麗な名推理でマルッと解決してみせますわよ!




「───というわけで、アニエス様、こんにちは~!」
「~~~~っっ」

 宣言通りに翌日、私はアニエス様の元を突撃した。
 相変わらず、アニエス様は嬉しそうに出迎えてくれましたわ!
 今日も顔が赤いので、照れ屋さんが発動中ですわね。

「アニエス~?  大丈夫?  すごい可愛い顔で“来やがった!!”って叫んで飛び出して行ったけど───あ、夫人!」
「こんにちは、ナタナエル様!」
「───そっか、来客は夫人だったんだね!  それでアニエスは可愛い顔をして……」
「っっ!  お黙り!  ナタナエル!!」
「あはは、アニエス照れてる?」
「どこがよっ!」

 なんと、ナタナエル様もいらっしゃいましたわ。
 名探偵フルール、幸先の良さそうなスタートです!

 そうして私は、仲良く目の前でアニエス様とじゃれ合っているナタナエル様の顔をじっと観察する。

(───やはり私の見立てに間違いありませんわね!)

 鼻の高さも目の離れ具合も眉毛の角度も唇や耳たぶの厚さも記憶通りですわ!
 ついでに掴みどころがない感じの性格もそっくりですけど。

 本物の真実の愛のため……そして大親友の幸せを守るため……
 ───さあ、名探偵フルールの情報収集開始ですわ!

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