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2. 失礼なクラスメート
しおりを挟む「……今、わたくしに向かってバカと仰いました?」
「うん。申し訳ないけれどね」
──なっ!
何なんですの!? バカですって!?
このわたくしに向かって!!
「ラファエル殿下、いくらあなた様が王子という大層お高い身分の方でしても言っていい事と悪い事があると思いますの」
「まぁ、そうだね」
「!」
ひ、開き直りましたわ!?
わたくしは怒りで身体がプルプルと震えているのが自分でも分かります。
「だってさ、あまりにも面白いから入学してからずっと君を見ていたけど、ルフェルウス殿下へのアピールも中途半端だし」
「……くっ!」
「あのピンク頭にも、毎日毎日、飽きもせず戦いを挑んでは殆ど負けてたし」
「……くっ!」
「あとさ、その縦ロール何? 生きてるの?」
「……は?」
この王子様は一体、何を言っているのでしょう?
縦ロールが生き物? 髪の毛ですわよ??
生き物だなんてそんなはず無いでしょう??
もしかしたら、この方……髪の毛が生き物にでも見える病気なのかしら?
なので、わたくしは彼の言っている意味が分からず首を傾げながら聞き返す。
「わたくしの自慢の縦ロールが何か?」
「自慢……コホッ……だ、だってさ、凄いよね?」
ラファエル様は今にも吹き出しそうなお顔をしてそんな事を仰います。
凄い、とは?
えっと、これは褒めて下さっているのかしら?
それなら、少しは先程の暴言を許して差しあげてもよくってよ!
けれど……
わたくしは本日も絶好調に巻かれた自分の縦ロールに視線を移す。
確かにこの縦ロールはわたくしの侍女達が四人がかりで、毎朝格闘しながら作り上げているロールですけども……
──お嬢様の髪は中々の強情ですからね! 巻くのが大変なのです!
と言って頑張ってくれていますのよ。
彼女達には感謝しかありませんわ。
ちなみに、わたくしが縦ロールにこだわっているのは、昔憧れて大好きだったお話に出てくるお姫様が縦ロールだったからでしてよ!
わたくしも縦ロールにさえすれば、あの物語のお姫様のように幸せになれると信じてましたの。
(…………現実はこれですけれども)
想いを寄せた王太子殿下には選ばれず、惨めに失恋。
ピンク頭との毎日の無意味な戦いの名残で、どうやら“怖い令嬢”と思われてしまっているようでわたくしに近づいて来る方は殆どいなくなりましたわ。
今回、珍しく近づいて来た方が!
と思えばこの暴言ですわよ!
「……前々から……そうだね、あのピンク頭との戦いの日々の時から思っていたのだけど」
「はぁ」
「オコランド侯爵令嬢って自覚無いの?」
「自覚……?」
「そのご自慢? の縦ロールが“凶器”だって」
────何ですって!?
今、この方何と仰いました?
まさかの凶器……凶器よ? このわたくしの縦ロールを!
今すぐこの縦ロールを振り回して「どこが凶器なんですのー!? よく見て下さいませーー!」と、文句を言ってやりたい気持ちを抑えながらわたくしは微笑んで優しく問いかける。
「……ラファエル殿下は髪の毛が凶器になるとお思いですの?」
「うん。俺も初めて見た時は目を疑ったよ。こんな事があるのか。こんな髪が世の中に存在するのか、とね」
「……」
絶句。
わたくしは言葉を失いました。
だって、ラファエル様は物凄く真面目で真剣なお顔で仰っているんですもの!!
「何か勘違いしておりませんか? わたくしの髪は少し強情なだけで至って普通の髪ですもの」
「……な、なんだって!? ふ、普通、だと?」
ラファエル様ったら、大袈裟ですわね。
大変驚いていらっしゃるわ……
「えぇ、普通ですわ。ほら」
そう言ってわたくしは、頭を軽く振ってみる。
……ぶぉん
ほら、いつもの“ぶぉん”という音もします。絶好調ですわ!
「うわっ! ぶなっ……」
「? どうかしまして? ほら、音もいつも通りでございましょう?」
「……!」
あら? ラファエル様が黙り込んでしまわれたわ。
そして、頭を抱えて何か唸り始めたわ。
「…………すまない。今日はこれで失礼する」
「は?」
「君が色々無自覚だという事がよく分かったよ。最初の発言も……あぁ、申し訳なかった……すまない」
「はぁ」
これは一応、謝罪をされているのかしら?
よく分からない方ね。
でも、わたくしそんな簡単に許しません事よ!!
結局、ラファエル様はそれだけ言ってトボトボとわたくしの前から去って行かれましたわ。
とにかく、なんて失礼なクラスメート(の王子様)かしら!
それが彼の第一印象でした。
応援ありがとうございます!
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