誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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ガーネットの狙い ②

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「───さて、フォースター伯爵。そして、マーリーン様?  どうなさいます?」

 私はにっこり笑ったまま二人に訊ねる。
 二人は無言で顔を見合せた。
 そして伯爵はお父様からの手紙をそっと手に取ると中身を開封して目を通すと呟いた。

「ほ……本当にガーネット嬢に一任すると書いてある……」
「……」

 伯爵は私の顔をチラッと見た。
 目が合った私はにっこり笑みを深める。

 マーリーン嬢がこの話に乗るだけの覚悟と決意があるのなら、私は彼女の能力が最大限に発揮出来る場を用意する。
 しかし……この選択を選ぶということは当然、イザード侯爵家との話は破談。
 そのせいで、事業のための援助が受けられくなる部分はウェルズリー家我が家が補う。

(───まあ、普通ならこんな降って湧いた美味しい話、胡散臭いとしか思えないけれど)

 この話が絶対に実現不可能な嘘ではなく、それだけのことをやってのける財力と人材がウェルズリー家にはあると知られているからこそ出来る交渉。
 でも、私のような成人なりたてホッヤホヤな小娘が交渉の窓口では、いまいち信頼しきれないのもまた事実。
 だから、当主であるお父様を脅してこの手紙を書いてもらった。

(ふふふ、───その、なけなしのチョビ髭を全部剃ってやる!  は効果絶大だったわ……)

「私の手を取るなら、このガーネット・ウェルズリーの名にかけて、悪いようにはしないと約束するわ。でも───」
「や、やりたい……!」

 マーリーン嬢が勢いよく立ち上がる。

「お、お父様……私、や、やりたい」
「マーリーン!?」
「本当にもう一度……チャンスを……貰えるのなら私は……!」
「マー……」
「お父様!!」

 父親の伯爵に向かって必死にそう懇願する彼女の目は、覇気のなくなった今と違って学生時代に見かけた溌剌としていた頃の彼女を彷彿とさせた。
 そう思ったのは父親の伯爵も同じようで、彼の瞳が揺れている。

「───この話に乗るなら、あなた方には更なる“特典”を上乗せするわよ?」

 私はフッと微笑みながら言った。
 伯爵とマーリーンが勢いよく私を見る。
 私は先程と同じようにジョルジュを呼んだ  

「───ジョルジュ」
「ああ。今度はこっちの出番だな?」
「ええ、そうよ」

 ジョルジュは顔を上げると、また懐から別の封筒を取り出した。
 これも予め私が手紙と一緒にジョルジュに預けていたもの。

(ジョルジュ、こんなことを思うのは失礼かもしれないけど…………便利だわ)

「そ、それは……?」

 まだ、怪訝そうな様子の伯爵。

「───上乗せ特典の詳細ね」
「……!」

 伯爵は目を見開くと小さく息を呑んだ。

「お父様!  お願い、私……一度は家のためにと思って受け入れて……夢は諦めたわ。でも、やっぱり……」

 その間もマーリーン嬢は必死に父親に訴える。

「でも、またチャンスを貰えるなら……もう後悔はしたくないの!」
「マーリーン……」

(また、チャンス───)

 その言葉を聞いて私は思った。
 やっぱり後悔していたのね、と。
 成績優秀だった彼女は、学院の卒業と同時に上級機関で学べる資格を与えられていた。
 …………辞退していたけれど。

「ガーネット嬢。そ、その更なる上乗せ特典とは何なのだ?」

 伯爵の目線が封筒に向いている。
 中身が気になっているらしい。

「ふふ、それはまだ言えないわ。教えるのはこの話を受けると返答を貰った後ね」
「……ぐぬっ」

 ホホホ、特典につられて受諾するようでは困るのよ。
 これは遊びじゃないのだから。

 伯爵は少し時間をくれと言ってマーリーンを連れて一旦部屋から退出した。




「……伯爵はどうするつもりなのだろう」
  
 ジョルジュが二人が出て行った扉を見ながらそう言った。

「どうかしらね?」

 私がそう答えるとジョルジュはなにか言いたそうに私を見た。
  
「何かしら?」
「なぁ、ガーネット。確かにこの話、フォースター伯爵家にとっていい話だろう」
「……そうね」

 マーリーン嬢は夢を諦めずに再度挑戦が出来る。
 事業もそのまま進められる……

「もしフォースター伯爵家が受諾すれば、イザード侯爵家との縁談は破談……」
「そうね」
「だが、そうなるとフォースター伯爵家はイザード侯爵家に慰謝料の支払いをすることにならないか?」
「……」

 ジョルジュのその疑問に私は高らかに笑う。

「オーホッホッホッ!  甘いわねぇ、ジョルジュ。この私がそのことを考えなかったとでも?」
「いや……」
「この私がラモーナの懐を潤わせるような真似をするはずがないでしょう?」

 ホーホッホッホッ!  と私はもう一度笑う。
 そして、伯爵たちに見せた“上乗せ特典”が書かれた封筒を指さした。

「だからね?  そのための“コレ”なのよ、ジョルジュ」
「ガーネット……」

 私はジョルジュに向かってにっこりと意味深に笑った。

「まあ、伯爵の決断がどうなるかは分からないけれど───とりあえず今、この場ですぐ即決即断しなかったのは賢明な判断だと思うわよ?」
「ガーネット?」

 私は出されたお茶をそっと一口飲む。

「……」

 おそらく、夫人や側近たちの意見も聞くつもりなのでしょう。
 それと、マーリーンの覚悟が本当にどこまであるのかも確かめたい……ってところかしら?

「───そういう慎重さ、嫌いではないわね」
「!」 

 私がポツリと呟くとジョルジュが大きく反応した。

「嫌いではない?  それは───好き、ということか?」
「は?」

 飲んでいたお茶のカップをソーサーに戻してからジョルジュの顔を見る。

「あなた、また何を言い出したのよ」
「嫌いではない……つまり好き……」
「何をブツブツ言っているのかしら?  ジョル……」

 ジョルジュがクワッと目を大きく見開くとグイグイと私に迫って来た。

「ひぇっ!?」
「ガーネットは慎重な男が好きなんだな!?」
「ちょっ…………近っ……近いわよ!?」

 迫って来るジョルジュから距離を取ろうとしたのにガシッと肩を掴まれた。

「なるほど。俺も慎重な男になれば……ガーネットに好かれる、ということだな」
「ねぇ、ジョルジュ?  本当に落ち着い……」
「───慎重な人とは……注意深く、熟慮してから行動に移すような人…………つまり!」
「つまり?」

 ジョルジュの勢いが止まらないので、仕方がないからそのまま話を聞くことにする。

「───俺だ!!」
「慎重とは真逆を生きているような男が何を言っているのよーーーー!?」
「な……に!?  真逆……!?」

 ジョルジュは信じられない……そんな表情をした。

「だが、ウェルズリー家への訪問の際はじっくり時間をかけて……」
「あれは、ただの迷子ーー!!」
「……おかしいな?」
「おかしくないわよ?  私は全然おかしくないからね!?」

 私がそう言うと、ジョルジュはこの世の終わりみたいな顔をして頭を抱えた。

「……」

(もう!  本当なんなの?)

 なんでジョルジュはそんなに私に好かれたい……だなんて考えちゃっているわけ?
 確かに我が家の財力や人材は厚くて魅力的だろうけれど!

(ギルモア侯爵家は安定しているんだから、別に我が家の力は必要ないと思うし───……)

 ───コンコンッ
 ちょうどそう考えた所で、フォースター伯爵とマーリーン嬢が戻って来た。

(ふぅん……もう、腹はくくった……そんな表情ねぇ)

 揉めたかどうかは知らないけど、結論は出た──ということね。

「意見はまとまったかしら?  フォースター伯爵?」
「……」

 コクリと頷くフォースター伯爵。

「では、聞きましょう」
「…………娘の願いと幸せ……そして我が家のこれからの事業発展…………本当にあなたに託しても大丈夫ですね?」
「当然よ」

 私は自信満々にきっぱりと言い切る。

「悪いようにしないと言ったでしょう?  後悔はさせないわ」
「……」

 伯爵はマーリーン嬢と頷き合うと顔を上げ、しっかり私の目を見つめた。

「…………あなたの言葉を信じます、ガーネット・ウェルズリー侯爵令嬢」

 その言葉に私はニンマリと微笑む。

「ええ、もちろんよ。信じてちょうだい?  フォースター伯爵」

 無事に受諾を得られたので、私は用意していた封筒を手に取る。

「交渉成立───それでは最後に上乗せ特典について、ね」

 ゴクリ……
 皆の視線が封筒に集まる。

(……ジョルジュ!)

 特に、横のジョルジュからすごい圧を感じる。
 全くしょうがない人ね……と内心で苦笑しながら私はその封筒を開封した。

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