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第2話

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「……お茶会?  招待が私にも来ているのですか?」
「あぁ。マリアンとセシリナ宛てで届いている」

  そう私に告げるお父様の顔は……心底嫌そうだ。
  まぁ、家名に泥を塗るような噂をされている私の事が疎ましくて仕方ないのは分かるけれど、実の娘に向ける顔ではないと思う。

「お断りは出来ないのでしょうか?」
「王妃様主催なんだぞ!?  断れるわけないだろう!」
「……そうですか」

  それは、確かに難しそうだ。

  私は憂鬱な気分になって目を伏せる。
  出来ることなら断りたい気持ちでいっぱい。
  何を好き好んで、人との接触を計らなくてはならないの。

「マリアンはマリアンで王太子殿下を追いかけていたから婚期を逃しているし、お前はお前で訳の分からぬ噂のせいで婚約話の1つも舞い込んでこない!!  我が家の娘達は何なんだ?  嫁にも行かずずっと家にいる気なのか!?」

  お父様は憤慨している。
  なるほど、お姉様の婚期の心配もあったからより一層不機嫌だったのね、と納得する。
  

「とにかく、だ!  3日後だ。いいな、逃げるんじゃないぞ!  そして、王宮で結婚相手を見つけて来い!!  いいな!」

  お茶会ってご令嬢ばかりが集まるのでは無いのかしら?
  そう思ったけれど口には出さなかった。お父様の事だもの、きっと話が延々と伸びてしまう。

  とりあえず私は適当に相槌を打ちながら、ますます憂鬱な気持ちになった。



****




「何で招待が私だけじゃないのかしら?  セシリナなんて居ても居なくても構わないでしょうに」
「……」

  3日後、王宮に向かう馬車の中でお姉様が心底嫌そうな顔で言った。

「お願いだから、私の迷惑になるような事だけはするんじゃないわよ!」

  そう言われてもなんと答えれば良いのか分からない。
  私だって行かなくてすむなら行きたくなんて無かったのに。

「それにしても……野暮ったいわねぇ、私の妹だとは思えないわ。そもそも何なのよ、その前髪は。長すぎるんじゃなくて?  ますます陰気くさいわよ?  まぁ、セシリナは私と違って美しさの欠けらも無いのだからそれでも構わないのかもしれないけどね」
「………」

  相変わらずお姉様の口はよく回る。
  とりあえず、私の長すぎる前髪がお気に召さないらしい……

  (だって、みんな私の瞳を見ると変な顔をするんだもの)

  家族の中に誰もいないだけでなく、私の持つ瞳は珍しい色らしく、ジロジロ見られる事が多くて苦痛だった為、私は長めに前髪を伸ばして隠していた。

  (この長い前髪も薄気味悪い令嬢と言われる理由の一つだと分かってはいるのだけれど)
 
「あぁ、それにしても、今、王宮に行くなんて本当に嫌だわ!  あの忌々しい令嬢がいるかもしれないじゃないの!」
「……」

  お姉様の言う忌々しい令嬢とは、きっとこの度決まった王太子殿下の婚約者となった令嬢の事だろう。
  この様子では件の令嬢を見つけてしまったらお姉様は何をしでかすか分からない。

  (どうかいませんように!!)

  そんな事を願いながら向かうお茶会に私は不安しか抱けなかった。










 ヒソヒソと陰口を叩かれているのが分かる。

「……バルトーク伯爵家の令嬢よ」
「あぁ、あの薄気味悪いって言う妹の方……」
「何でしたっけ?  正装でもないのに常に手袋をしているとか何とか」

  同じテーブルに着いてるのに、目の前でヒソヒソと私の事を話すので全て丸聞こえだった。


  私は、はぁ……とため息をつく。
  もうため息をつくのは何度目かしら?


「あぁ。そう言えば、このお茶会ってエリオス様の婚約者候補を集めてるって噂よ」

  どうやら話題は私の陰口から別の話へと移ったようだ。

「あぁ、王太子殿下が婚約されたから、次はエリオス様なのね」
「じゃあ、このお茶会に姿を見せてくださるのかしら?」
「でも、エリオス様って……」
「ねぇ?」

  テーブルに同席している令嬢達は顔を見合せながら微妙な顔をしている。

  なるほど。
  王妃様主催のこのお茶会にはそんな目的があったのね、とようやく私は納得する。

  噂のエリオス殿下はこの国の第2王子。
  そんな殿下の婚約者探しとなれば、お姉様みたいに王子様との結婚を夢見る令嬢達なら是非にでも飛び付きたい話……

  なのに、私の目の前にいる令嬢達があまり積極的にならない理由……
  それはエリオス殿下があまり評判が良くない王子様だからだった。

  (人付き合いもなく、あまり外に出ない私ですらその噂は耳にした事があるんだもの。噂とはいえ相当なのよね……)

  エリオス殿下は普段からあまり城におらず街で遊んでいるとも、女性関係が派手でどこぞに隠し子がいるだの。それはそれは、もう周りが言いたい放題でちょっと気の毒になるくらいだった。

  (いまだに広がり続ける私の噂と同じくらいエリオス殿下も言われたい放題なのよねぇ……ちょっと親近感)

  と、勝手に失礼ながら一度も会った事がないくせに仲間意識を覚えてしまう。

  まぁ、このお茶会に集まっている令嬢達が、本当にエリオス殿下の婚約者選びの為に集められていたのだとしても、私には関係の無い話だわ。



  ──と、この時まではそう思っていた。




  まさかこの後、そのエリオス殿下本人と出会う事になるなんて誰が予想出来たかしら。

  ましてやその後、何故か彼に恋人のフリを頼まれる事になるなんて、この時の私は夢にも思っていなかった。


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