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第3話
しおりを挟む(結局、エリオス殿下は現れないのね)
てっきり王妃様と一緒に登場するのかと思ったけれど、噂の王子様は会場には現れなかった。
そしてお茶会は時間が進むにつれ、仲の良い者同士で談笑するなど、だんだん自由な時間となっていった。
ちなみに、ひとりぼっちの私にはもちろん談笑する相手はいない。
お姉様の様子を見ると、王太子殿下の婚約者に決まった令嬢が来ていなかった事に気を良くしたのか友人達の輪の中でご機嫌に振舞っている。
(このままこうしていてもね……お腹がタプタプよ……)
もはや何杯目かも分からないお茶を飲みながら思う。
せっかく王宮に来たのだ。どうせなら庭園の散策をしてみたい。
立ち入り禁止の場所でもないし誰でも入れる場所なのだから、ちょっと行ってみても……いいわよね?
そう思って、私はそっとお茶会の会場から抜け出した。
「わぁ、さすがだわ!!」
庭園に足を踏み入れると、そこは色とりどりの花達。
さすが王宮!
珍しい花がたくさんある!
「凄いわ~」
お茶会なんて面倒で仕方なかったけれど、ここに来れただけでも満足だわ。
そんな風に上ばかりを見て感激していた私は、足元を全く見ていなかった。
ガッ
「へ?」
何かに躓いた私は、思いっ切り身体のバランスを崩してしまう。
「ひゃぁぁ!?」
「え? うわ、何だっ!?」
バランスを崩し倒れかけた私の目の前には…………人がいた。
そして、私はその人めがけて思いっきり倒れ込んでしまい、その見知らぬ誰かの上に覆い被さってしまう。
(ひぃぃ、やってしまったわ!!)
「~~っっ!! ごめんなさいっ!!」
「………」
「だ、大丈夫ですか!? 本当にごめんなさい! その……まさか人がいるなんて思いもせず……あ、足元も見ていなくて……!」
私は慌てて身体を起こすも、そこで気付く。
しまった!
身体が接触してしまっているじゃないの!
「……っ」
幸い直に触れていなかったので、声は聞こえない。
それでも、私が覆い被さってしまったその相手から伝わって来た感情は“混乱”だった。
とりあえず“怒り”ではなさそう? ……その事にほんの少しだけ安堵する。
「うーん。寝てたらまさか、令嬢が降ってくるとはね……さすがにビックリした」
そう言いながら、相手も身体を起こす。
本当に申し訳ない事をしてしまったわ。怪我が無ければ良いのだけど。
「け、怪我はありませんか……?」
「うん、大丈夫みたい。君は?」
「私も大丈夫です。本当に申し訳ございません」
とりあえず、相手には怪我が無さそうでこれまた安堵する。
そして、頭を上げてようやく相手の顔を初めて見た。
「………!」
目の前の彼はものすごく顔の整った美男子だった。
歳は私より少し上の20代前半くらい?
榛色の瞳に少しくすんだ金髪。
ちょっと長めの前髪に後ろは短く切り揃えられた髪。
(こんな綺麗な顔をした男の人がいるのね)
私は自分の顔を覆う長めの前髪の隙間からこの美男子を思わず凝視してしまう。
「ねぇ……君、それで前が見えてるの?」
「はい?」
急にふられた話に何事かと思い首を傾げる。
「いや、その前髪……重たくない? 目に良くないと思うんだけど。もしかしてそのせいで転んだんじゃないの?」
「え? あぁ、これですか? ずっと昔からなのでもう慣れています。なので転んだのは違う理由です……本当にすみません……」
「ふーん……でも、それ不便じゃない?」
不思議そうに尋ねてくる。
まぁ、こんな前髪をしていたらそう思われるのも当然よね。
「いいえ。この長さは確かに視界も悪く邪魔な時もありますが、見られたくないものを隠せて便利なんです」
「え? 見られたくないもの?」
「あ……いえ」
美男子は何だそれって顔をした。
私もつい余計な事まで口走ってしまったなと反省する。
「私、珍しい瞳の色をしているらしく……じろじろと人に顔を見られる事も多くて嫌な思いをたくさんして来まして」
って、初対面の人相手に私ってば何を話しているのかしら?
ついつい口に出してしまった。
「そんなに珍しい色なの? ふーん……」
そう言ってその美男子は、私に向かって手を伸ばした。
(……え?)
そしてそっと私の前髪をかきあげて瞳を覗き込んで来た。
「……琥珀色?」
───しまった! いけない……美男子が私に触れている!!
私は焦るも時すでに遅し。彼の心の声が聞こえて来る。
《綺麗な瞳じゃないか。隠してるの勿体ないくらい》
「……!?」
頭の中になだれ込んできたその心の声に驚いてしまい私は思わず固まってしまう。
(……綺麗? 今、綺麗って言った?)
「……っ、あ、の!」
私が戸惑いの声を出すと、美男子は笑顔を浮かべながら言った。
「ん? あぁ、失礼。女性に許可なく触れるものじゃなかったね。君が魅力的だったから、つい……ごめんね?」
《あぁ、しまった! つい気になって触ってしまった。大丈夫だろうか? 不快な思いをさせてしまっただろうか。気分を害していないといいのだが……》
「…………??」
えっと?
私は今までもつい触れてしまった人の心の中を読んでしまった事は何度もあるけれど。
今のは何だったの?
……何で心の中は紳士的なのに口から出ている言葉はこんなに軽いのかしら。意味が分からない。
ここまで凄い人は初めてで。私はあまりの事に暫し呆然としてしまった。
その間に目の前の美男子は私に触れていた手を離しながら口を開いた。
「ねぇ、君の名前を聞いても?」
「…………」
「ちょっと? おーい、お嬢さん?」
私の反応が無かったからか、美男子が首を傾げながら再度呼びかけてくる。
「……はっ! い、いえ。私は名乗る程の者ではございません!」
「え?」
美男子は私の返答に目を丸くして驚いている。
我ながら何を言っているのだろうとは思う。
でも、私はその隙に逃げる事にした。
だって何だかこれ以上この人と話しているとおかしくなりそうなんだもの!
「えぇぇと、怪我も無さそうで良かったです。本当に申し訳ございませんでした!! ……それでは私はこれで失礼させて頂きます!」
「へ?」
私はそれだけ言って申し訳ないと思いながらも、ポカンとした顔の彼を置き去りにしてその場から走り出した。
───のだけど……
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