【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第34話

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  ──そういうわけで、私はエリオス殿下とお忍び?  でデートに行く事になった。
 
  しかし、私はとある問題に直面していた!

「どんな格好をしたら、町娘みたいになるのかしら?」

  クローゼットから引っ張り出したドレスやワンピースを眺めながらため息をつく。
  曲がりなりにも、一応伯爵令嬢として育ってきた私にはあまり分からない。
  万が一、そぐわない格好をしようものなら……

  (エリオス殿下に迷惑をかけてしまう)

  それだけは嫌!  楽しい時間を過ごしたいもの!

「うーん、こっち?  あ、でもこれは……」


  結局決まるまでの間は沢山悩んだけれど、こんな風に悩む時間も楽しかった。



****



「すみません、お待たせしました!」

  翌日、殿下が私を迎えにやって来た。
  支度に戸惑ったので少々待たせてしまい、ちょっと慌てながら殿下の元に向かう。

「そんなに待ってないから大丈夫だ……よ」

  と、答えながら私の方を見た殿下は何故か思いっきり固まった。

「……」
「殿下?」
「……あ、うん。そ、その格好……」
「!!  もしかしてどこか変ですか?  一生懸命考えたのですけど」

  色々悩んだ結果、黄色のワンピースに白のボレロに編み上げのブーツ。
  髪型は、いつもは流したままなのを編み込み、肩の辺りで一つにまとめてみた。
  ……手袋はしていない。
  今日は手を繋いでデートする約束だから!

「変じゃない、変じゃない!!  むしろ……」

  頭をブンブンと横に振る殿下の顔が赤い気がする。
 
  (これは、もしかして照れている……?)

「そうですか?  なら、良かったです」

  私が微笑みながら言うと、殿下は照れくさそうに目線を逸らした。
  そんな殿下の様子が可愛く見えてしまったのは黙っておこうと思う。

「……それじゃ、行こうか」
「はい」

  殿下が手を差し出したので私もその手を取りギュッと握る。
  手繋ぎデートだ。

《か、可愛すぎてびっくりした!》
《こんなの誘拐されちゃうよ》

「ゆ!?  ……な、何の心配をしているのですか!?」
「あはは」
「もう!」
「……可愛いのは本当だよ?」

《よく似合ってる》
《セシリナはいつだって可愛いけど、今日は一段と可愛い》

「だ、だから~……!」

  チュッ

「ひゃぁ!?」

  殿下が私の額にキスをする。

《今日は僕から離れないでね?》
《まぁ、離す気は無いけど》


  こうして、何故か出発前なのにも関わらず色んな意味で疲れる事になりがらも街に向かう事にした。



****




  街に行くまでに用意されていた馬車はかなり小ぶりの馬車だった。

「こんな大きさの馬車もあるんですね」
「さすがに、いつものような王家の馬車では街には行けないよ」

  ごもっとも。そんな馬車で街に行こうものなら全然お忍びではないわね。

「あ、そうだ。お忍びだけど、さすがに護衛無しってわけにはいかないから、そこは我慢してね」

《本当の二人っきりになれないのは残念だけど》

「はい、もちろんです」

  護衛はこっそり紛れてついてくるらしい。
  こればっかりは仕方の無い事。エリオス殿下は王子様で私はその婚約者なのだから。
  その自覚はしっかり持たないといけない。
  
  (それにしてもエリオス殿下、やっぱり手馴れている)

  公務をサボって街で遊んでいる──そんな“奔放王子”の噂を思い出した。






「さ、着いたよ」
「はい」

  馬車を降りると、そこはすでに人で賑わっていた。

「人が多いのですね」
「だいたい、いつもこんな感じだよ。いつ来ても活気がある」
「そうなんですか!」

  多くの人が賑わっている様子に私はなかなか目が離せなかった。

「セシリナ」

  殿下が改めて私の手を握る。慣れなくてちょっとドキドキしてしまう。
  
《キョロキョロしているセシリナも可愛いよ》

「あ、りがとうございます?」

《あはは、何でそこでお礼なの?》
《セシリナらしいけどね》

「何ででしょう?」

《そういう所も好きだなぁ……》

「っ!」

  殿下の心は本当に真っ直ぐで本当に照れくさい。

「さて、今日は市が開かれている。だから、色んな店が並んでるよ」
「まぁ!」
「どこから行こうか」
「そうですね……」

  私があれもこれもと悩んでいると、向こうの方から食欲を唆る匂いが漂ってきた。


  ぐるぅぅぅ


「……」
「……」

《……僕のお腹の音じゃなかったな》

「~~~~!!」

  私のお腹の音だった。

「ふっ、なるほどね、まずは食べ物がいい、と。セシリナのお腹は正直だね」
「っっ!!」

  殿下は笑いを堪えている。
  いや、もう笑っているといった方が正しい。声も肩もプルプルと震えている……

「もう!  殿下!!」
「ストーップ!」
「!?」

  私が抗議の声をあげようとしたら、殿下に止められた。
  ……何故?

「セシリナ。今の僕は“殿下”じゃない。こんな所でそんな呼ばれ方されたら、すぐバレちゃうよ」
「あ……」
「敬称も無しで名前で呼んで?」
「えっ、いや、その……」

  敬称つけずに名前で呼ぶなんて恐れ多すぎる。
  
「昨日、マリアン嬢の前では“エリオス様”って言ってくれたのに」

《実はあれ……すごい嬉しかったんだ》

「うっ!  あ、あれは!」
「ん?」

  そう言って殿下が私を見る顔はちょっと意地悪だ。

「ほら、早く」
「エ、エ、エリオス……様?」
「ダメダメ!  “様”もいらない。平民は敬称つけて呼んだりしないんだから」

《名前で呼ばれたい》

「っ!」

  目の前の殿下は、この事に関しては1歩も譲りません!  って顔をしている。
  分かってます、分かっていますけど!

「──エ、エリオス……」
「……うん」

  意を決して呼んでみたのに反応が薄かったのであれ?  と思ったら……

《うわぁぁ》
《好きな子に名前を呼ばれるってすごい破壊力!》
《すごい幸せを感じる》

「え?  ちょっと……エ、エリオス」
「うん、何だい?  セシリナ」

  殿下は、とても嬉しそうに甘く蕩けそうな笑顔を私に向けた。

「っ!!」

  ちょ、直視出来ない!
  カッコよすぎます。
  名前で呼ぶだけでこんなに嬉しそうな顔をしてもらえるなんて!
  恋心とはなんて恐ろしいの……

「よし、これで大丈夫かな?  それじゃ、行こうか?  セシリナ」
「は、は、はい……」

  殿下は繋いでいた手を更にギュッと握って歩き出す。
  私の心臓はもう爆発寸前だ。

「では!  ……まずはセシリナのお腹の虫を静かにさせないとだね」

《しかし、可愛らしい音だったなぁ》

「!?」

  気のせいかしら?
  殿下にかかれば、私は何でも可愛くなってしまう気がする。

  (なんてさすがに自惚れかしらね?)


「なんて顔しているの?  さ、行こうか」
「は、はい!」

  殿下は可笑しそうに笑っていた。






「はい、僕のオススメ」
「これは?」
「パンに具を挟んだもの。食べやすくて美味しいよ」

  そうして渡されたパンを見つめながら私はしばし固まる。

「どうしたの?」

  殿下は不思議そうな顔で私の様子を伺ってくる。

「あ、の?  これって……」
「うん?  あぁ!  もしかして食べ方?」
「これはね、そのままかぶりつくんだよ。こんな風に」

  そう言って殿下は手に持っていたパンにそのままかぶりついた。

「!!」

  これは間違いなく王宮にいたら怒られる食べ方だわ!

「どうしたの?  セシリナ」

  貴族令嬢としては、マナーのなってない食べ方だと言われるのは間違いない。
  でも、今の私は町娘としてここにいる。
  ならば!

  えいっ!  と、私も手に持っていたパンにかぶりついた。

「……美味しい」

  私が思わずそう言うと、殿下は嬉しそうに笑った。

「でしょ?  それに、こうして食べるから美味しいのだと僕は思ってる」
「あ……」

  確かにそうだと思った。
  これをお上品にナイフとフォークで食べても、こんなに美味しいと思える?
  ──答えは否だ。

「私も、そう思います」

  私がそう答えると、殿下の顔はますます嬉しそうだった。
 




  その後も、殿下とあちこちのお店を回った。
  さすが、何度もお忍びでやって来ているらしいエリオス殿下は、とても詳しくて街に馴染んでいた。

「少し休憩しようか?  たくさん歩かせちゃったし」
「いえ、大丈夫です!」

  私は目に映るもの何もかもが新鮮で、ずっとはしゃいでばかりだった。
  そんな私を殿下はずっと優しく微笑んで見ていた。

「いやいや、本当に一旦休もうよ。飲み物を買ってくるからさ」

《絶対あとでバテちゃうよ》
《気持ちは分かるけどね》

「それじゃ、行ってくるよ、待っててね」

  そう言って殿下は飲み物を買いに人混みの中に入って行く。
  もちろん、こっそり護衛も着いて行くし、私の周りにもさりげなく護衛を配置している。

  (自由のようで自由が無い)

  改めて、殿下の王族という身分を感じさせられた。
  色々、窮屈な事も多い毎日の中で、こうして平民に扮して街に出る事はきっとエリオス殿下にとっては良い息抜きの1つだったのかもしれない。
  そんな中、人々の様子もしっかり自分の目で確認してお仕事をしていたのではないかしら?

  そんな場に私を連れて来てくれた事がたまらなく嬉しかった。





「ぼんやりしてどうしたの?」

  いつの間にか、飲み物を手に戻ってきた殿下が不思議そうに訊ねてくる。
  私はお礼を言いながらそれを受け取る。

「いえ、ここには、まだまだ私の知らなかった世界が広がっているのだな、と思いまして」
「うん、教師から椅子に座って講義を受けていてもさ、やっぱり自分の目で見る事以上に分かる事は無いと思うんだ」

《だから、僕は頻繁に街に降りていた》

  (あぁ、やっぱり……)

「遊び歩いてるわけじゃなかったんですね」
「……酷いなぁ。それは噂の僕だろう?」
「ふふ、そうですね」


  エリオス殿下とこうして過ごせる時間が楽しくて幸せで、この先もこうして一緒に過ごせるのだと思うと堪らなく嬉しかった。

「セシリナ」
「はい」

  殿下の声が少し真面目なものに変わる。

「僕は人々のこんな笑顔が守れる国となるように、この先も兄上の助けになっていきたい」
「えぇ」

《ずっと隣にいてくれ》
《人々の笑顔と大事な人の笑顔……セシリナの笑顔をこれからも守りたい》
《セシリナが笑ってくれるなら僕は何だって頑張れる》

「……エリオス」
「まずは一番大事な人セシリナを笑顔に出来なきゃ大勢を笑顔に……なんて無理だからね」

《セシリナの笑顔が大好きだ》

「だから、これからも僕の隣でこうして笑っていて?」
「もちろんです!」


  ──エリオス殿下の隣で私はあなたを支えていく!
  改めてその決意を胸に刻んだ。


 
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