【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第22話

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  私の顔が真っ青になったのを見て、お姉様が笑みを深める。

「ふふっ、アンネマリー様が帰られた後、ちょっとセシリナの部屋にお邪魔させて貰ったの。それで見つけてしまったのよ、
「……っ!?  お姉様は!  勝手に私の部屋に入り、更に漁ったのですか!?」
「まぁ!  人聞きの悪い言い方をしないでちょうだいな」

  姉妹といえどそれはさすがに看過出来ない!
  お姉様が手に持ってる契約書は誰かに見つかったらまずいし、大切な物でもあるので厳重に管理していたのに!
  それこそ鍵をかけた所に隠して──……そうよ、鍵!

  (まさか、鍵まで壊した!?)

「……っ!」

  私はくるりと向きを変えてお姉様を置き去りにして、自分の部屋に向かって走り出す。

  (いくら何でもそこまで……)

  そして自分の部屋の扉を開けて愕然とした。

「酷い……」

  私の部屋は荒らされていた。
  机の引き出しは全て開けられ、クローゼットも中身が引っ張り出されていてドレスが散乱している。

「ちょっとセシリナの物で貰いたい物があったから探させてもらったのよ。セシリナの物はどうせ私の物なんだから問題ないでしょう?」

  後ろからついて来たお姉様が悪びれる事なくそう言った。
  また出た!  その意味不明の理屈。

「そうしたら珍しく鍵なんてかけてる物を見つけちゃったから気になっちゃって!  使用人に頼んでこじ開けさせたのよ」
「……」
「中身を見て読んでびっくりしたわ~。まさか、あなたと殿下の関係が契約していただけなんて、ね」
「返してください」
「嫌よ。でも、納得。それならエリオス殿下が私ではなくあなたを選んだのも分かるわ」
「……どういう意味ですか?」

  怒りなのか動揺なのか……自分の声が震えていた。
  
「だって、恋人のフリなんて、殿下にとってセシリナがだからこそ頼んだわけでしょう?  だって、別れた後どうするの?  王子の元恋人なんて何処にも嫁げないわよ?  まぁ、この紙を見る限りあなたは結婚する気は無いみたいだけど。と、言うより元々出来ないわよね~薄気味悪い令嬢だもの。ふふっ」

  お姉様はバカにしたように笑う。

「だから、ね?  私と代わってちょうだい?  私の方が社交的だし顔も広いし。殿下の恋人のフリを上手くやれると思うわ」
「……どうでもいい存在だから選ばれたと言った口で、お姉様は自分が殿下の恋人のフリをする事を望むのですか?」
「えぇ、もちろんよ。あなたと違って私の魅力ならエリオス殿下も後々、本当の恋人になって欲しいと願うはずだもの。それでゆくゆくは王子妃よ!」

  また、お姉様の根拠の無いわけの分からない自信。
  色んな意味で尊敬する。だけど……

「嫌です!」
「は?  どうしてよ。本当に相変わらず……生意気ね」

  お姉様が鋭い目を私に向ける。

「お姉様はエリオス殿下の事を好きなのですか?」

  私のその質問にお姉様は顔を歪めながら言った。

「まさか!  王子だから手に入れたいだけよ。そうね……あわよくばもう一度、ギルディス様に近付く為に利用出来るかもって気持ちもあるわね!」
「何を言っているんですか?  ギルディス殿下はもう婚約をしています」
「そんなもの!  ぶち壊せばいいだけよ!  婚姻前ですもの。まだ間に合うわ」

  そう口にするお姉様の顔は更に酷く歪んでいた。
  まさか、まだ諦めていなかったとは。 

「駄目です!  そんなお姉様をエリオス殿下にもギルディス殿下にも近付けさせるわけにはいきません!」
「黙りなさい!!  うるさいのよ!」

  パシンッ

  お姉様が私を平手で叩いた。
  叩かれた左頬がジンジンと痛み出す。
  お姉様はいつも口ばかりだったから手を挙げられた事に驚いた。

「口答えするんじゃないわよっ!  あなたは黙って私の言う事を聞いていればいいの!」
「……っ」
「何なのその目は!」

《本当に昔からセシリナのその目が大嫌い!!》
《気色悪い色!》
《こんなのが家族……血の繋がった妹だなんて思いたくもない!》

  流れ込んでくる悪意の塊。その言葉に怯みそうになる。

  お姉様の場合は口から出る言葉も心の中の言葉も変わらないけれど。
  どちらにせよ、言葉の刃は変わらない。

  “珍しくて気色悪い”

  お姉様以外にもずっとずっと言われ続けて来たからか昔はこの目が嫌いだった。
  家族とも誰とも違う色。
  だから、私は下ばかり見ていた。前髪を伸ばして隠そうとした。自分からも他人からも見えなければいい、そう思って。

  ──だけど。

《綺麗な瞳じゃないか。隠してるの勿体ないくらい》

  エリオス殿下は初めて会った時にこの瞳を綺麗だって言ってくれた。
  前髪を切って欲しいと言われてちょっと強引だったのも、きっと下ばかり向いてる私に前を向かせる為。


   ──そういう人なのよ。私は殿下のそういう所を好きになったの!


  だったら今、私がすべき事は下を向く事じゃない。
  少しでも殿下が望んでくれた私で在りたいから。

  私は顔を上げてしっかりお姉様の目を見つめて叫んだ。

「嫌です!  お姉様のその命令は絶対に聞けません!」
「はぁ?  何ですって!?」

  お姉様の顔色が変わる。かなり怒っている。

「お姉様はエリオス殿下の事を何も分かっていない!  “王子だから”なんて理由だけで彼に近付くのは絶対に許せない!」
「はぁ?  偽物の恋人のくせに何を偉そうに言ってるのよ!」
「偽物だろうと本物だろうとエリオス殿下はお姉様ではなく、!  でもお姉様は何一つ望まれていないわ!」

  ──エリオス殿下は言っていた。
  頼むなら私がいい……そう思ったって。もっと私と話してみたかったって。
  お姉様でも他の女性でもなく私を選んでくれた!
  エリオス殿下は“都合が良かったから”“どうでもいい存在だから”そんな理由で恋人のフリこんな事を私に頼んだわけじゃない!  そう信じてる!
  
  私の反論にお姉様の顔色がさらなる怒りの色に変わる。

「言ってる事も口調も……生意気ね!!  本当に調子に乗って!」
「何を言われても私の気持ちは変わらないわ!」

  お姉様が再び私を叩こうと手を挙げたので無我夢中でその手を掴んで止めた。
  そんなに何回も叩かれるなんて冗談じゃない!

  手袋越しに手を掴んだからかお姉様からは“憎悪”の感情が流れ込んで来る。
  分かりすぎるくらいの一択だった。
  憎まれようとも譲れないものは譲れない!

「痛っ!  離しなさいよ!」
「嫌です!」



  そんな攻防がしばらく続いた後──



「何をやっているんだ!  お前達はっ!!」
「「!!」」

  使用人からの連絡を受けて屋敷に急いで戻って来たであろうお父様はこの状況を見て怒鳴った。

「セシリナの部屋が騒がしい、どうも二人が喧嘩しているのではと聞いて慌てて帰宅してみれば!」

  お父様が怒りたい気持ちも分かる。

「お父様!  これはセシリナが!」
「何だと?」
「セシリナが部屋を荒らしているので注意しただけなのに、逆上して私に掴みかかって来たの!」

  こういう時のお姉様の変わり身は本当に凄い。
  お父様に抱き着きながらプルプルと震えているお姉様は被害者に見える。
  お父様は私の部屋をざっと見渡すとため息を吐きながら言った。

「はぁ……確かに酷い惨状の部屋だな。本当なのか?  セシリナ」
「違います!  私の部屋に無断で入って荒らしたのはお姉様です!」
「あぁ、酷いわ!  セシリナ……そんなに私を悪者にしたいの……?」

  お姉様がクスンと泣き真似を始めた。

「あぁ、泣くなマリアン。セシリナにはキツく言っておく。お前はもう休め」
「はい……お父様……」

  泣き真似をしながら下がろうとするお姉様。
  すれ違いざまにお姉様は、私にだけ聞こえる声で言った。

「泣き落としの一つも出来ないなんてバカな子、無実を訴えても無駄よ……セシリナの味方はこの家の中には誰もいないのだから」
「!」

  その言葉でお姉様が使用人を味方につけている事が分かる。
  お姉様と一緒に部屋を荒らした使用人も、鍵をこじ開けた使用人も知らぬ存ぜぬを通すのだろう。

「セシリナ!  お前は私の部屋に来い!」

《可哀想に。マリアンはあんなに泣いて震えていた。それに比べてセシリナのすました顔……悪いなんて全く思っていなさそうな顔だな》
《これではどちらの言い分が正しいかなど考えるまでも無い》

  お父様に腕を掴まれたせいで心の声が聞こえて来た。

「待ってお父様、私の部屋を荒らしたのは本当にお姉様です!」
「お前はマリアンが嘘をついたと言うのか?」
「そうです!」

  私の言葉にお父様は、またため息を吐きながら呆れた声で言った。

「自分の罪を認めないだけでなく、マリアンに罪を着せるのか……本当にセシリナお前って奴は……」
「!!」

  ……悔しい。お父様は最初から私の事なんて信じる気が無いんだわ。
  あまりの悔しさに下を向き拳を強く握る。

  もう何もかもどうでもいい……昔からそうだもの。
  私の味方なんて誰もいない。抗うだけ無駄……


「……」

  
  そう思いたくなったけれど、ふとエリオス殿下の顔が頭の中に浮かんだ。

  (違う……私は下ばかり向いてた自分をやめたの……)

  ───ならば!  私は顔を上げてお父様に向かって言った。

「……では、お父様。私が使を見つけられたら私の言い分を信じてお姉様を罰してくれますか?」
「何だと?  そんな人間いるわけないだろ?」
「ですから、……と言っています」

  私はお父様に冷ややかな視線を向ける。

「セ、セシリナ……どうした?  いつものお前なら……」

  お父様が狼狽えている。私の変わり様についていけていないみたい。

「お父様。いつもの私……とかどうでもいい事を言っていないで、早く使用人達を集めてください。そして、お姉様の協力者を見つけた際には私の言い分を信じて、お姉様を罰するとの約束を!」
「わ、分かった……約束……する」

  お父様はたじろぎながらも頷いた。
  そして使用人を集める指示を出すお父様を横目に私はそっと手袋を外す。


  (このまま泣き寝入りなんてするものですか!)


  ──私はこの日、忌み嫌ってたこの力を初めて自分の為に使う事を決めた。


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