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第23話

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  初めてリンの心の声を聞いてショックを受けたあの日……
  自分が人の心の声を聞いてしまう体質だと知ったあの日から本当に本当にこの力を嫌っていた。
  人と距離を置いて壁を作って、なるべく力を使う事が無いように……と。

  ──なのに今、自分からこの力を使う事を望むなんて……皮肉なものね。

  (だけど、やっぱりこんな事をしたお姉様を許せないから)

  手袋を外して素手となった自分の両手を見ながらそんな事を思った。






  広間には本日、屋敷で働いている使用人達が集められた。

「ちょっとセシリナ。使用人を集めてどうするつもりよ。まさか一人一人に確認でもする気じゃないでしょうね?  無駄だと言ったでしょう?」
「……お姉様」

  部屋に引っ込んだはずのお姉様もやって来た。
  最高潮に機嫌が悪い。
  さっきまで泣いて震えていた人には到底見えない。泣き真似だから当然だけれど。

「無駄かどうかはこれから分かります」
「なっ!」
「そうだ、お姉様。私がを無事に見つける事が出来たらお姉様も約束をしてくれませんか?」
「は?  何をよ?」

  お姉様が心底嫌そうな顔で私を見る。

「私の部屋から盗った物を返して下さい」

  私はにっこり笑って言う。
  中身を見られた以上、内容に関しては今更隠し立てをしても無駄だけれど、現物は返してもらわなくてはならない。
  私が持っているのは複写で原本はエリオス殿下が持っている。
  それでも、お姉様は必ず悪用しようとするだろうから。

「……何でよ!」

  案の定、不満そうだ。
  だから、私は挑発する事にした。

「あら?  お姉様は私が今からしようとしている事は無駄だと思っているんですよね?  なら、痛くも痒くもないはずです。それなら約束くらいしてくれてもいいではありませんか」
「はぁ?  ……本っ当に生意気!  分かったわよ!  もし、本当に見つけられた時は返すわよ、返せばいいんでしょ!」

  お姉様は怒りながらもそう口にした。
  単純なお姉様は簡単に挑発に乗ってくれた。

  (良かった……)

「……約束ですよ?  ちゃんと誓ってくださいね?」
「あぁ、もう!  うるさいわね!  誓うわよ。ふんっ!  どうせ無駄だもの。彼らがセシリナなんかに心を開くはずがないんだから!」
「……」

  そんな事は分かっているわ。だから、心の声に聞くんだもの。
  自分がこれからする事は、とても卑怯な手だけどそれ以上にお姉様の事が許せないの。

  (だから勝手に心の中を除く事を許して……ごめんなさい)

  私は心の中で謝りながら、一列に並ばされて何事かと怯えている使用人達に顔を向けた。

「突然、ごめんなさい。仕事中の方も多かったでしょう?  手を止めさせて申し訳ないわ。けれど、私がどうしても一人一人に確認したい事があって無理を言ってこうして集まって貰いました」

  私の言葉に使用人達はますます困惑した顔をする。
  お姉様に協力した使用人達以外には、本当に申し訳ない事をしている。
  だけど、今回ばかりは譲れないので付き合ってもらうしかない。

「あぁ、そんな不安な顔をしなくても大丈夫よ。する事は簡単だから。私が一人一人に質問をするのでそれに答えてもらえるかしら?  それだけよ」
 
  私の言葉に質問……?  と、困惑はしつつも、それくらいなら……といった空気が流れる。
  チラリとお姉様を横目で見ると、余裕綽々な顔を浮かべていた。

  (完全に無理だと決めつけているわね)

「時間ももったいないのでさっさと始めましょうか?」

  私は並んでいる使用人達を見渡しながら言った。







「手を出して?」
「え?」
「いいから手を出して」

  戸惑う使用人の手を取り私は軽く握りながら質問をする。

「あなた、今日私の部屋に入ったかしら?」
「いいえ?  私はお嬢様の部屋には入っていませんけど……?」

《え!  これが質問?》
《お嬢様は何を聞きたいのかしら?  私は掃除担当では無いからお部屋に用なんてないわよ》
《それでなくてもお嬢様にはあまり近付きたくないし》
《こんなに喋るところは初めて見たかも》

「そう、ありがとう」
  
  私はにっこり微笑んでお礼を言った。
  なかなかハッキリした心の声の持ち主だわ。
  この行動は使用人が普段私の事をどう思い見ているのかも分かってしまうので、正直に言えば辛いけど……

  (いいえ。もともと壁を作っていたのは私。どう思われていてもこれは自業自得よ)

  私は皆の思いをきちんと受け止めないといけない。
  そう思い直して次の人物へと移る。

「はい。入りましたが?」

《掃除の為に部屋には入ったけどそれが何なのかしら?  まさか不満でも言う気?》

「いや? 入る理由なんて無いし……あ、やべ……入ってないです」

《俺の仕事は外仕事だぞ?  部屋に入るわけ無いだろ。何を言ってんだ?》

「いいえ。入っていません!」

《入るわけないでしょ?  それより何故、手を……って、あら?  手袋をしていないわ!  あのお嬢様が!  それに雰囲気がいつもと違う……これは逆らわない方が良さそう》

「入りましたよ。私は掃除担当ですから」

《担当なんだから入るに決まってるでしょう!?》

  順番に尋ねていくと、だいたい皆「はい」か「いいえ」で答えながらも心の中では雄弁に語ってくれた。

「さて、次はー……あら?」

  次はルナだった。
  そう言えば帰宅早々にお姉様とやり合ってしまったから、手袋がどうなったのか聞いていない。気になるけど聞くのは今じゃない。

「ルナ。あなたは今日私の部屋に入ったかしら?」
「いいえ?  入っていません」

《お嬢様、どうされたのかしら?》
《手袋はキレイになったんですよ!  今、干してあります!  とお伝えしたいけど……今、言う事では無い気がするなぁ……》
《後でお伝え出来るかな?》
《あんなに悲しそうな顔をして洗おうとしていたのだからきっと喜んでもらえるはず!》
《キレイになって気持ちよかったわ~》

「……!」

  手袋はキレイになったらしい。
  今すぐルナに感謝の気持ちを伝えたいけど、どうにかそれを飲み込んだ。

  (ルナの心は殿下に負けず劣らず素直で真っ直ぐね)

  ルナの心の声から私をバカにする言葉が出てこない事がただひたすら嬉しかった。

  (全員が全員、私を嫌ってるわけではないんだわ……)

「そう、分かったわ。ありがとう」

  ルナに言いたい事はたくさんあるけど、それは事が済んでからだ。
  そう思いながら、次の人物の前に立って手を取る。

「あなたは?  今日私の部屋に入ったかしら?」
「まさか!  今日の掃除担当は別の者でしたから」

《……やめてよ、何なの?》
《部屋を荒らした犯人探しでもしているわけ?》
《だとしても、こんな質問に馬鹿正直に答えるわけ無いでしょ?  お嬢様ってバカなのかしら?》
《そもそもマリアン様の命令でやった事よ。私は悪くないわ》

  ──見つけたわ。一人目!
 
「そうなのね、ありがとう」
「いいえ……」

  彼女は私の言葉にホッとしたのか、心の声は更に語った。

《ほらほら、あっさり信じてるし!  やっぱりこんな事意味無いわね。この調子なら他の3人も大丈夫でしょ》

  有難い事に人数まで教えてくれた。
 
  (4人だったのね……最低2人はいるだろうと思っていたけれど)


  こうして続けていった結果、この使用人の他に2人の関与が判明した。

  (いよいよ最後の一人……鍵をこじ開けた使用人だけがまだ不明……この人かしら?)

「あなたは?  今日私の部屋に入ったかしら?」
「そんなまさか!  私のような者がお嬢様の部屋になど入るはずがありません……!」

《まさかバレてるのか!?  いや、そんなはずは無い》
《お嬢様が大切にしまっていたであろう物の鍵を壊して、更にこじ開けたなんて知られたら俺はクビだ!》
《マリアンお嬢様は黙っていれば誰がやったかなんて絶対にバレないと言っていたが……》

  最後の一人はこの人らしい。
  皆、表情はポーカーフェイスを保っているけれど心の中はよく喋る。

「そう、分かったわ。ありがとう」

  最後の一人から手を離して私は全員に向かって微笑んだ。

「皆さん、お忙しいのにわざわざありがとう」
「セシリナ。気は済んだか?  掃除担当以外の者は誰もお前の部屋に入っていなさそうじゃないか」

  お父様がそれ見た事か、といった表情で近寄って来て私の肩にポンッと手を置いた。

《特に不審な様子を見せている者はいないようだ》
《まったく……部屋を荒らしたのをマリアンと使用人のせいにするとはな》
《やはり、マリアンの言うように、逆上したセシリナから掴みかかったのだろう》
《さっきは何やら今までにない迫力があったから何事かと思って言うことを聞いてやったが……相変わらず気味の悪い人騒がせな娘だ》

「……」
「それでセシリナ?  何か分かったかしら?」

  お姉様も勝ち誇った顔で近付いてくる。

「お父様もお姉様も、約束は守ってくださいますよね?」
「「は?」」

  驚いた二人の声がキレイに重なる。

「約束です。しましたよね?」
「あ、あぁ。だが……」
「まぁね。でも無駄だったみたいだけどね!  ふふっ」
「…………お父様は私の言い分を信じ、お姉様を罰する約束。お姉様は私から奪った物を返す約束です。守ってくださいね?」
「は?  私を罰する?  お父様ったら酷いわ。なんて約束をしているの!」
「仕方ないだろう?  だがどうせ無駄に終わると思ったし構わんだろう」

   二人は無駄な悪あがきをしやがって……そんな顔を私に向けながらもとりあえずは約束を守ると頷いた。
  まだ、使用人は解散させていない。万が一ゴネたら彼らが証人だ。
  

「それでは……そこの侍女のあなたと、あなたとあなた。そして最後……庭師のあなた……この4人がお姉様に協力して私の部屋を荒らした犯人です」

  私はにっこり微笑みながら言った。

「「「「えっ!?」」」」
「は?」
「ちょっ……何で……!?」

  私に指名された4人、お父様、お姉様の順番で驚きの声を上げた。

  その中でもお姉様の顔色は一瞬で真っ青になったのが分かった。

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