36 / 39
第32話
しおりを挟む「全く……イチャイチャも程々にしておいてくれよ」
「いや、兄上。分かっているんだけど、セシリナが可愛すぎて我慢出来ない」
「それは惚気か!? そこは我慢しろ!!」
「だから、可愛い過ぎて無理なんだって……」
エリオス殿下が恥ずかしい事を物凄く真面目な顔で言っている。
一方のギルディス殿下はとっても呆れている。
「ったく、婚約でそれなら結婚したらどうなるんだよ……」
《もちろん、デロデロに甘やかすに決まってる》
《セシリナは甘やかされる事に慣れていないだろ?》
──あれ?
何で声が? と思ったらエリオス殿下がそっと手を繋いできていた。
(そう言えば、手袋を外したままだったわ)
私はコクリと頷く。
両親に甘やかされた記憶……どう辿っても思い当たらない。
《やっぱりな》
《今のうちに覚悟しておいてね?》
「!」
殿下の言葉にポポポと私の顔が赤くなる。
それに、この心の声とのやり取りは何だかエリオス殿下と秘密の会話をしているみたい……
(どうしよう! すっごく気恥しいわ!!)
……こんな風に力を使う日が来るとは思いもしなかった。
「──そして、最後にもう既に知っている者も多いとは思うが、第二王子、エリオスの婚約がこの度正式に決まった。エリオス、バルトーク伯爵令嬢こちらへ」
「はい」
「は、はい」
ギルディス殿下の言葉を受けて私とエリオス殿下は前に進み出る。
既に足はガクガクよ……
「この度、エリオス殿下と婚約しました、バルトーク伯爵家の次女のセシリナでございます。よろしくお願いいたします」
私がそう挨拶をすると会場からは拍手があがったのでホッとする。
それでも、所々で「あの噂の……」「薄気味悪い」と言った声が漏れ聞こえてくる。
だけど、もう下は向かない。そう決めた。
誰が何と言おうとも、エリオス殿下が私を選んでくれたのだから。
「……セシリナ」
「?」
横にいるエリオス殿下が小声で私の名前を呼んだので顔を向けると、
チュッ
「!?」
エリオス殿下が私の額にキスをした。
その瞬間、黄色い悲鳴があちこちからあがる。
《ほら、見せつけておかないとね》
《セシリナは可愛いからさ》
「~~っ!」
公衆の面前で婚約者にキスをする王子と顔を真っ赤にする初心な婚約者の様子を、周囲は微笑ましい気持ちで見てくれていた。
…………けれど、すぐにそんな雰囲気を壊すような声があがる。
「ははは、これはこれは見せつけてくれますね、エリオス殿下」
私は声のした方へと顔を向ける。
(……誰かしら?)
と、思っていたら、エリオス殿下がとても嫌そうな顔をして小さな声で呟いた。
「……出た。スプラウクト侯爵」
「え!」
どうやら、その声の主はアンネマリー様の父親、スプラウクト侯爵らしい。
(ダメだわ。まだまだ、人の顔は覚えきれない……)
「この度は、婚約おめでとうございます、と言いたい所ですがね……本来であれば我が娘がそこに居たはずだと思うと、なにぶん複雑な気持ちですな」
はっはっは、と笑うスプラウクト侯爵の目の奥は笑っていなかった。
「そなたもしつこいな、侯爵」
「いやいや、家柄も美貌も教養も何もかも優れている我が娘を差し置いてどんな令嬢を選ぶのかと思ったらあまりにも娘の足元にも及ばなかったものでつい……失礼!」
「彼女の魅力は僕だけが知っていればいいので、どうぞお構いなく」
「ははは、そうですか」
エリオス殿下とスプラウクト侯爵の間には明らかに火花が散っていた。
(そう言えば、いくら話しても平行線だったと言っていたわ)
「……今、我が娘はちょっとした手違いでこの場にはおりませんがー……」
「何を言っている。手違いなどでは無いだろう」
そう言いながら、ギルディス殿下が割り込む。
「ちょうど良かった。スプラウクト侯爵、先程そなたの自慢の娘が面白い事を言っていてね」
「!?」
ギルディス殿下の言葉にスプラウクト侯爵の顔が引き攣る。
「は、はて? お……面白い事……ですか?」
「そうなんだよ。侯爵とアンネマリー嬢はどうもこのパーティーでとても楽しそうな余興を考えてくれていたそうだね?」
「……よ、余興……」
「ぜひとも、その話をじっくり聞かせてもらいたいなと思っていたのだ」
「え……あー……それは……」
「とても楽しそうな計画だったそうだな?」
「で、ですから……それは……」
ギルディス殿下がジリジリとスプラウクト侯爵を追い詰めていく。
一方のスプラウクト侯爵はますます、顔を引き攣らせていく。
(え、何これ……)
「エ、エリオス殿下……これって……」
「うん。兄上は相当ご立腹だね」
《僕もセシリナがエンジューラ嬢と同じ目に合わされそうになったら同じ事をするだろうな》
《いや、もっと……地獄の苦しみを……》
私の肩を抱き寄せたエリオス殿下が物騒な事を言う。
「地獄の苦しみ……ですか?」
「そう。生きてる事を後悔するような、ね。でも簡単には死なせない」
《セシリナに手を出した事を一生かけて後悔させてやるとも》
「そ、そうですか……」
「うん」
エリオス殿下の目は本気だった。
こ、これは、この先私がうかつに拐われでもしたら、犯人達は死ぬより辛い目にあいそうだ。
(色んな意味で気をつけなくては!)
「……それで結局、スプラウクト侯爵は何がしたかったのでしょう?」
私はギルディスに連行されて行くスプラウクト侯爵を見ながら呟いた。
どうもあの様子だと侯爵はアンネマリー様の今回の計画に手を貸していたみたいだ。
(招待状の無いお姉様が、ここに入れたのも侯爵の力があったからなのね……)
「最後の悪あがき……かな? あとは単純に黙っていられなかったんじゃないかな?」
「あー……」
娘可愛さに物事がよく見えなくなっていたのかもしれない。
……お父様と同じね。
そして、思う。
──お姉様。
お父様もさすがに、そろそろお姉様のしでかした話を聞いたところでしょうね。
今、どんな気持ちでいるのかしら?
「……エリオス殿下」
「うん。マリアン嬢に会いたい?」
「!」
驚いた。
私はまだ何も言っていないのに!
「はは、僕はセシリナみたいに心の声は聞こえないけど、セシリナの事なら分かるよ」
「うー……そんなに私は分かりやすいですか?」
それは、未来の王子妃としてどうなのだろう?
心配になってしまう。
「違う。僕がセシリナをずっと見て来たから分かるだけだよ。僕はセシリナの事ばかり考えてるからね」
エリオス殿下はとても優しい目で私を見つめながら言った。
「……!」
なんてずるいの!
そんな優しい目でそんな事を言うなんて!!
「その反応……本当に可愛いな」
「殿下!!」
あはは……とエリオス殿下は、私をからかうように笑った後、真面目な顔付きになって言った。
「それで真面目な話に戻すけど、マリアン嬢はこのまま拘束して事情聴取を終えた後はもう伯爵令嬢を名乗る事は出来なくなる」
「……!」
「細かい点はこれからの供述次第でもあるから確定では無いけど、そういう処分がくだされる事だけは決定している。マリアン嬢は前科が多過ぎたからね」
「それは……」
そんな予感はしていた。お姉様はこのまま追い出される事になる、と。
つまりお姉様と私はこのままだと二度と会う事は無い。
だから私は……
「……会わせて貰えますか?」
「一度だけだよ。それと僕も立ち会う。それが条件だ」
「それで構いません。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、エリオス殿下は何も言わず私をただそっと抱き締めてくれた。
111
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたがそうおっしゃったのに。
友坂 悠
恋愛
どうして今更溺愛してくるんですか!?
メイドのエーリカは笑顔が魅力的な天真爛漫な少女だった。ある日奉公先の伯爵家で勧められた縁談、フォンブラウン侯爵家の嫡男ジークハルトとの婚姻を迫られる。
しかし、
「これは契約婚だ。私が君を愛することはない」
そう云い放つジークハルト。
断れば仕事もクビになり路頭に迷う。
実家に払われた支度金も返さなければならなくなる。
泣く泣く頷いて婚姻を結んだものの、元々不本意であったのにこんな事を言われるなんて。
このままじゃダメ。
なんとかして契約婚を解消したいと画策するエーリカ。
しかしなかなかうまくいかず、
それよりも、最近ジークハルトさまの態度も変わってきて?
え? 君を愛することはないだなんて仰ったのに、なんでわたくし溺愛されちゃってるんですか?
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!
鈴宮(すずみや)
恋愛
ロゼッタはお金がなにより大好きな伯爵令嬢。男性の価値はお金で決まると豪語する彼女は、金持ちとの出会いを求めて夜会通いをし、城で侍女として働いている。そんな彼女の周りには、超大金持ちの実業家に第三王子、騎士団長と、リッチでハイスペックな男性が勢揃い。それでも、貪欲な彼女はよりよい男性を求めて日夜邁進し続ける。
「世の中にはお金よりも大切なものがあるでしょう?」
とある夜会で出会った美貌の文官ライノアにそう尋ねられたロゼッタは、彼の主張を一笑。お金より大切なものなんてない、とこたえたロゼッタだったが――?
これは己の欲望に素直すぎる令嬢が、自分と本当の意味で向き合うまでの物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
亡国の公女の恋
小ろく
恋愛
「俺は姫様ただひとりに忠誠を誓った僕です。どんなことがあっても命にかえてもお守りします」
戦争によって国を失った公女スヴェトラーナは、兵士のルカと共に隣国へ亡命の旅に出る。
たった数日間の旅で芽生えた愛にすべてを捧げようとするスヴェトラーナ。
愛を信じて貫こうとする公女と孤独で自尊心の低い兵士の恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる