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2. 絡んでくる未来の大魔術師様

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  王立魔術学院の入学式から遡ること、2年前の事。



「───何という事だ!!」
「この子の属性が全く分からない!!」
「そんな事が有り得るのか!?」
「だが、魔力量がとんでもなく多い事だけは間違いなさそうだ」
「平民なのに!?  ま、まさか、ルシアン様よりも!?」

  判定員達は揃いも揃って頭を抱えた。

  ───その日、市井で行われた子供への魔力測定と属性判定で、前代未聞の結果を叩き出した10歳の平民の少女がいた。
  その平民の少女は誰もが持つと言われている属性を感知出来ないばかりか、体内に有する魔力量はとんでもなく多いという事が測定から分かったのだ。
  
  しかも従来、魔力量は貴族の方が多くて、平民では大きな力を持つものはいないとされていたのに、だ。

「この子をこのままにはしておけない!」
「国に報告だ!  これは制度を変えなくてはならん!」

  大騒ぎする判定員達を見ながら、件の少女──フィーリーは思った。

  (やっぱり、私は普通じゃないんだわ)

  私は魔力を感じるようになった時から自分は異常だと薄々感じてはいた。
  だからこの日、私は余計な判定をされないよう意図的に自分の属性を隠した。

  ……この時、すでに発現していたとある特殊能力スキルを使って。

  (それでも、魔力量は誤魔化せなかったのね……)

  あぁ、失敗したわ。
  これではもう平凡に生きて行く事は難しそう。
  あと2年。
  この様子だときっと、2年後に私は王立魔術学院への入学を強制されるはず……
  貴族の子供達が魔術に関して学ぶ事の出来る王立魔術学院は、12歳から入学が可能だ。今、制度の変更をと騒いでいるのは、きっと平民の私を入学させる為。

  (面倒な事になったわ……)

  そして結局、この時の私の予想は見事に当たってしまい、国は大慌てで平民でも基準さえ満たせば、王立魔術学院に入学できる制度を作り上げた。
  私の秘めた力は余りにも未知数だったから、とにかく囲いこもうとしたのだと思う。


  こうして私は、平民ながら特待生として魔術学院への入学が決まったのだった。   
  そしてその入学式の日。
  どこからか私の事を聞いていたらしい未来の大魔術師様……ルシアンに私は絡まれた。



*****




「こら、フィーリー!  聞いたぞ?  お前、また判定がダメだったそうだな!?」
「あら、ルシアン。相変わらず情報収集が早いのね?」
「俺は風属性も持ってるからな。聞こえてくるんだよ……!  って今、言いたいのはそこじゃない!」
「えー?」

  私に詰め寄ってくるルシアンの顔は真剣だ。

  あの入学式の日に傍若無人な振る舞いをしたルシアンと出会ってはや、もうすぐ5年。私達は17歳になった。
  月日が経つのは本当に早いなと思う。

「なんて呑気な返事をしてるんだ、フィーリー!  今回の判定でも属性が分からなかったんだぞ!  もう5年だ、5年!」

  ルシアンは私の眼前に手を広げて五本の指を強調してくる。
  そんなに強調しなくても……と思うけれどこれは彼の性格なので仕方が無い。

「分かっているわ。でも、これだけ測定しても不明なのだから、私はもう無属性って事でいいんじゃない?」
「良いわけあるかー!!」
「どうして?」
「そんなの、決まっている。俺のライバルはお前だけだからだ!」
「…………」

  私はそんなルシアンの言葉に、
「何を言っているの?」っていう白けた目を向ける。
  なのに、当のルシアンは私のそんな非難めいた視線を全く気にしていないので全く意味が無かった。

「ライバルって言われても困るわ。私はろくに魔術の使えない落ちこぼれよ?」
「お前の魔力量の多さは既に分かっている事だ。だから、後は属性だ。それが分からなきゃ勝負も出来ないじゃないかっ!」

  ───100年に一度生まれるという大魔術師となる未来を予言された少年……いや、今は青年か……は、この5年間、なぜか事ある事に私をライバル視してくる。
  属性が不明の私はろくに魔術が使えない落ちこぼれだと言うのに、どうやら、どちらの力が上なのかを決めたいらしい。
  だからこの会話もこの5年の間に飽き飽きするほどしている。

「勝負なんて必要ないでしょ?  私は魔術が使えない落ちこぼれ。それでいいじゃないの」
「多少は使えてるだろ!  それに、絶対フィーリーは落ちこぼれなんかじゃない!  これには理由があるはずなんだ。俺はそれを解明するまで諦めない!」
「えぇぇ……し、しつこいわよ?」

  この5年間、ずっとルシアンはこの調子だ。良くも悪くも真っ直ぐ。

「しつこくて、結構!  俺はお前に勝って、正々堂々と誰もが認めるこの国の大魔術師になると決めているんだ!」

  大魔術師となる未来を予言されたルシアンは、その事に決して驕らず、その為の努力を欠かさない人だ。
  だから、誰しもがそんな彼の事を次の大魔術師だとちゃんと認めているのに。

  ──当の本人だけが、頑なにそれを認めようとしない。

  (それもこれも私がいるからって……どうなのよ……)

  ルシアンは私の属性が不明だから、まともに魔術が使えないと何度説明してもさっきの言葉のように「理由があるはずだ」と言って全く納得してくれない。
  おそらくだけど、ルシアンはその素質から本能で感じているのかもしれない。

  私が、意図的に自分の属性を隠している事を。


  そして、その私の属性が“異常”である事を───


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