25 / 25
番外編 もう一つの不器用な恋 ~リシェリエ&アレンディス~
しおりを挟む『アレン様!』
『リシェリエ?』
『今日も遊びに来ちゃった!』
『はぁ……また、君は……』
『いいじゃない! さ、今日も一緒に遊びましょ!』
ラモニーグ公爵家の娘である私、リシェリエと婚約者のアレンディス殿下は幼い頃からの付き合いでいわゆる幼馴染。
小さな頃はお父様にくっついて一緒に王宮に行くたびに私はアレンディス殿下と遊んで仲良く過ごしていた。
──王子と公爵令嬢という関係。
魔力判定を終えた私が希少な闇属性だった事。魔力量も多かった事。
それらも踏まえて私は当然のようにアレンディス殿下の婚約者に選ばれた。
あの時は本当に嬉しかった。
私はアレンディス殿下……アレン様の事がずっとずっと好きだったから。
(だけど───)
アレン様が、私を避け始めたのはあの事が、原因だったと今でも私は思っている───
『リシェリエ! リシェリエ、大丈夫!? 誰か! 早く……リシェリエが!!』
いったい自分の身に何が起きたのか分からず、ただひたすら身体の痛みに耐えていた私に聞こえて来たのはアレン様の泣きじゃくる声。
『アレン……さま』
私は弱々しい声でしか返せない。
『ごめん、僕のせいでリシェリエが!!』
『私……は、大丈夫……アレンさま、のせいじゃ……ない』
『違う! 僕のせいだ』
駄目だわ。アレン様は気が動転している。きっと私の言葉なんて届かない。
『アレン……』
『リシェリエ! しっかりしてくれ!?』
泣きじゃくるアレン様の顔を見ながらそのまま私は意識を失った───
あの日、まだ子供だった私達。
アレン……アレンディス殿下の魔力が、初めて暴走したあの日。
一緒に遊んでいた私はそれに巻き込まれて大怪我を負った。
幸い、すぐに駆け付けた大人に治癒の魔術をかけてもらった事もあり、後遺症も何も残らなかったのだけど。
けれど、この事件は私と殿下の関係をすっかり変えてしまった────
『え? 会えないの?』
『はい。殿下は今日も勉強があるのです。申し訳ないですが、リシェリエ様が訪ねて来てもお断りするように、と言われております』
『そう……』
あの日からアレン様は私と遊ぶ事をしなくなった。
勉強が……と言っているけれど何となく言い訳にしか聞こえない。
更に、魔力制御を掛けられたアレン様はとても生きづらそうにしていて、溌剌としていた笑顔も、その頃から全然見せなくなっていった。
(アレン様……)
私はそれを黙って見ているだけ。何も出来ない。婚約者なのにアレン様の事を遠くから見つめるだけの虚しい日々。
(私は無力だわ……)
まともに口を聞く事がなくなったまま、無駄に時だけが過ぎていき、やがて私はアレン様への想いだけをどんどん拗らせていった。
──前々から言ってますけれど! 殿下に馴れ馴れしく近付かないように! 良いですわね!?
この言葉はフィーリーさんだけでは無く、果たして何人に向けて口にしたかしら。
アレン様が少しでも令嬢に笑いかけているだけで私は嫉妬した。
(私にはもう笑ってくれないのに! ずるいわ!)
今の私にあるのはただ“婚約者”という立場のみ。いつか別の女性が現れてアレン様の心を攫っていってしまう……そんな日が訪れる事を私はひたすら怯えていた。
だから、ピンク色の彼女とアレン様がどんどん仲良くなっていく様子を見ているのは私にはただただ辛かった。
*****
「リシェリエ? もう一度言ってくれ?」
「ですから、私は殿下との婚約は解消も破棄もしません!」
「なっ!」
お父様が私の言葉に驚いている。
「何を言っているんだ! お前はここ何年も殿下から不遇の扱いを受けて来て、今回もいくら魅了の力に掛かっていたとはいえ、公衆の面前で暴言を吐かれているのだろう?」
「そうですわね」
「それに、お前はあのピンク色の頭の女にも狙われた! それは殿下の婚約者だったせいだろう?」
「そうですわね」
「生命の危機だったんだぞ!?」
(心配かけた事は申し訳なく思っているわ、お父様……)
でも、アレン様との婚約が無くなるのは嫌!
私は絶対に首を縦には振らないわ。
騒動は全て終わったけれどアレン様は今、謹慎を受けている。
魔力制御のせいもあったとはいえ、王族なのにあっさり魅了の影響を受けてしまった事、許可を得ずに魔力制御をルシアン様に解かせて“魔力封じ”のスキルを使った事。
アレン様はそんな事ばかり責められている。
(あのピンク色の力は強力だったし、魔力封じはどうしてもあの場で必要な事だったのに!)
それでも、頭の固い人達はなかなか納得しない。
私のお父様もアレン様との婚約解消を勧めて来た。
「リシェリエ!」
「嫌なものは嫌です。私は絶対に婚約解消はしません!!」
「何故だ?」
「───好きだからです! アレン様……の事が私は昔から大好きなのです!」
「リシェリエ……」
「他の誰でもない私が、これからのアレン様を支えたいのです!!」
私はお父様に向かってそう叫んでいた。
*****
「本当に申し訳なかった」
結局、色々心配したけれど、アレン様は大きな処分を受ける事もなく、無事に謹慎は解けた。私との婚約も解消という話は聞いていない。
その日、アレン様は私を含めた3人に謝罪をしてくれた。
けれど、謝罪はその後、フィーリーさんのとんでもない力の話になってしまい、私とアレン様の関係は有耶無耶になったままだと気付いた私はフィーリーさんとルシアン様から離れて殿下に二人きりで話があります、と伝えた。
「……殿下」
「リシェリエ? 話とは?」
「話は話でしてよ。ダメでしたか?」
「そんな事は無いけれど……それに僕も君に……」
そう言いながらもアレン様はスっと私から目を逸らす。
(あぁ、まただわ)
この方は魅了されていてもされていなくても私を避けようとする。
何だかムカムカしてきたわ!
「殿下……いえ、アレン様!」
「え?」
私はアレン様に近付いて彼の両頬に手を添えてグイッと私の方を向かせる。
「私を見て下さい!」
「リシェリエ……」
「……アレン様はあの日から私の目を見てくれなくなりました!」
「!!」
“あの日”という言葉にアレン様がビクッと反応をする。
「私はずっとそれが寂しくて、悲しくて……」
「リシェ……リエ……」
「アレン様は悪くないのに。私はただ巻き込まれただけなのに!」
泣きたくなんかないのに勝手に涙が溢れて来る。
視界が滲んでしまってアレン様の顔がよく見えない。
「どうして避けたの? どうして遊んでくれなくなったの?」
「リシェリエ……すまなかった……本当に……すまなかった……」
アレン様はポロポロと涙を流す私の目元をそっと拭う。
「……怖かったんだ」
「アレン様……?」
「あの日、怪我をして倒れて意識を失ったリシェリエの姿が僕は今も忘れられない」
そう話すアレン様の身体が震えている。
「僕の力……土の力があの日、リシェリエを深く傷付けた……いくら魔力制御されても、もし、それが解けてしまったら? また暴発したら? その時、僕のそばにリシェリエがいたら、また酷い目に合うかもしれない」
「アレン様……」
「そう思ったらリシェリエとどう接したらいいのか分からなくなって……分からないまま時だけが過ぎていった……」
(なんて事。私と同じような事を言っているわ……)
もうこれは、グズグズ泣いている場合ではないわね。
私も自分で涙を拭ってアレン様と向き合う。
「アレン様!」
「……リシェリエ?」
「私達はお互い未熟でしたわ。ダメダメのダメダメです」
「え?」
アレン様が驚いた顔をしている。
「アレン様は勝手に怖がって、私から離れればいいなんて一人で結論を出して、私も私でアレン様にぶつかる勇気が無くて……」
「リシェリエ……すまない」
再び俯くアレン様。
違う! 私はそんな顔をさせたかったんじゃないのよ!
「好きですわ、アレン様」
「!?」
「あなたの事がずっとずっと私は好きなのです。ですから、私はこの先何があってもあなたのそばを離れたりはしませんわ!」
アレン様の目が大きく見開かれる。
「リシェリエが僕を……? だから、君はこんな事になったのに僕との婚約を……」
「そうですわ! 解消も破棄もしてあげません! 諦めてくださいませ」
アレン様の顔が泣きそうになった。
「…………う」
「何ですの? よく聞こえませ……」
そう私が聞き返そうとした時、フワッとあたたかい温もりに包まれた。
「アレン……様!?」
「ありがとう……リシェリエ……本当に君は……」
アレン様は声と身体が震えていてその先は言葉にならなかった。
それでも、アレン様と話が出来て向き合えただけで私は嬉しいと思った。
「こら、フィーリー!」
「もう! ルシアン、しつこいわよ!?」
今日も相変わらずフィーリーさんとルシアン様は楽しそうにじゃれ合っている。
(いいわねぇ……どうせ、この後はイチャイチャになるのよー……)
なんて思って微笑ましく見ていたらやっぱり二人はどんどん甘い雰囲気になっていく。
そんな私の元へアレン様がやって来た。
「リシェリエ? 何を見てる? あぁ、あの二人。今日はもうイチャイチャしているな」
「今日も仲良しよ…………ちょっと羨ましい……わ」
「リシェリエ?」
私が変な事を呟いたせいでアレン様が不思議そうな顔を向けてくる。
私は慌てて首を横に振る。
「な、何でもなくてよ……別に二人が羨ましいなんて言ってなー……」
「…………リシェリエ。ずっと君に言わなくちゃと思っていた事があるんだけど」
「何ですの?」
そう口にしたアレン様の顔がほんのり赤い。何かしら?
「うん、僕はー……」
───私がずっとずっと聞きたかった言葉がようやく聞けたのは、このすぐ後の事でした。
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
お待たせしました。
チラチラとリクエストのありました、リシェリエ様の話です。
リシェリエ様がひたすら一途だな、と。
主人公カップルはとりあえず、喧嘩しながらイチャイチャしている模様。
どちらのカップルもこの先は仲良くやっていってくれると思います!
お読み下さりありがとうございました!
77
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~
夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。
しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。
しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。
夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。
いきなり事件が発生してしまう。
結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。
しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。
(こうなったら、私がなんとかするしかないわ!)
腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。
それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。