最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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ギルモア家と愉快な人々の日常

怖いもの知らずのベビー【エドゥアルト】

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 その日、僕はいつものようにギルモア家に向かった。
 今日は愛娘のナターシャは連れて行かずに僕一人での訪問だ。

(ナターシャ、必死になにかを訴えていたな……)

 あれは、きっと自分もギルモア家に連れて行って欲しいと僕に強請っていたに違いない!
 ナターシャはギルモア家───特にジョシュアのことが大好きみたいだからな。
 レティーシャに慰められて何とか心を落ち着かせていたようだが……
 帰ったら、おリボンをたくさん買って機嫌を直してもらおう!

「やあやあやあ! 邪魔するぞ」

 ギルモア家の門を華麗に通り抜け、馬車から降りた僕は慣れた手つきで、我が家当然のギルモア家の邸の扉を開けた。

「あうあ~~」

 ───おにーさん、こんにちはです~~

 出迎えてくれたのは、親友・ジョエルの息子のジョシュア。
 相変わらず、ジョエルの息子とは思えないほどゆるっゆるの満面の笑顔だ。

「ジョシュア。わざわざ僕を出迎えてくれたのか?」
「あうあ!」

 ───おにーさんのにおいがしたです!

 ジョシュアは満面の笑顔でそう言った。

「そうか。僕の匂い……相変わらず君の鼻はすごいんだな」
「あうあ」

 ニパッと笑うジョシュアはとても可愛い。
 親友の息子という点を差し引いても可愛いベビーだと僕は思う。

(ジョエルは可愛いというより、かっこいいからな)

 きっと将来のジョシュアも同じようにかっこよく育つことだろう。
 加えてジョエルには無いこの愛想の良さ……
 年頃になっても“怖い”とご令嬢に泣かれていたジョエルと違ってモテモテ男になるに違いない。楽しみだ!

「あうあ!」
「ん? おにーさん、今日はボクと何して遊ぶです?」

 満面の笑顔を浮かべたジョシュアが僕の足にしがみついて遊びに誘ってくる。

「あうあ、あうあ~」
「なに? 最近のボクは、高い高いをしてもらってからポイッと放り投げられる遊びを楽しんでるだと……?」

(高い高いまでは分かるが……)

 ポイッと放り投げられる?
 さすがギルモア家。
 遊び方も身体を張っていてとても斬新だ。
 僕も父上も愛する人に踏まれたり引き摺られたりと、普段から身体を張っている自覚はあるが、さすがにナターシャをポイッとはしないぞ?

「あうあ~」

 見たところ、ジョシュアに怪我はない。
 ポイッとやらもきっと安全に配慮を重ねて楽しんでいるのだろう。
 僕には分かる。
 ジョシュアは、そんじょそこらのベビーと同じ遊びでは満足しないから大変だ。

(さすが、ガーネット様……)

 あの母上が“お姉さま”と呼んで慕って尊敬するだけある。
 うんうんと頷いた僕は、その場に屈んで目線を合わせるとジョシュアの頭を優しく撫でた。

「あうあ」

 おにーさん? とジョシュアがニパッと笑いながらじっと僕を見つめる。

「すまない、ジョシュア。君と遊びたい気持ちは山のようにあるんだが、今日の僕はジョエルに会いに来た」
「あうあ」

 ───おとーさま、ですか?

「そうだ。ジョエルに男同士の話があるんだ」
「あうあ!」

 ───おとーさまは、おかーさまと“でーと”です!

「なに? デート?」

 ジョシュアの言葉に驚いた僕は目をパチパチと瞬かせた。
 ジョエルがデート……だと?
 “馬車”と聞くだけで顔が青ざめて震えまくって、どうにかこうにか乗ることを回避しようとばかりしていたあのジョエルが出かけている……?

「ジョシュア! それは───徒歩でか?」
「あうあ」

 ───いいえ! おかーさまとなかよくおててつないで、ばしゃにのったです!

「馬車に乗った!」

 なんということだ!  
 ジョエルはちゃんと馬車に乗ったようだ!

「あうあ~」
「なに? 最近、そうやってデートすることが増えた!?  それは本当なのか!」
「あうあ」

(あのジョエルが……こんな奇跡がある、のか)

 僕はあまりにも感激しすぎて口元を手で覆う。
 思わず目からは涙が溢れそうになった。

「すごいな、セアラ夫人……」
「あうあ!」
「ああ……本当に素晴らしい。なんだか僕もレティーシャとデートがしたくなって来たな」

 僕は愛しの妻、レティーシャの姿を思い浮かべる。

「あうあ!」

 ───おにーさん、おにーさん。“でーと”ってなんですか?

(だが、今レティーシャは身重の体だ……いや、あまり遠出しなければ大丈夫だろうか?)

「あうあ!」

 ───でーととはおいしいですか!

(いや、馬車の揺れは身体に響く……)

「あうあ!」

 ───ボクもでーとするです、って、みんなにいっても、おおきくなったらね、といわれるだけなのです。なぜですか!

(ならば、手を繋いで近くを散歩する……でもいいかもしれない)

「あうあ!」

 ───おとなはずるいです、ボクもはやくおとなになるです!

「ん?」
「あうあ!」

 レティーシャとのデートをどう実行すべきか考える事に集中していたら、気付くとジョシュアが僕の足元から必死によじ登ろうとしている。

「どうしたんだ、ジョシュア」
「あうあ!」

 ───おっきくなるです!

「……?」

 ジョシュアは僕によじ登ろうとしながら、なにやら大きくなりたいなどと言っている。 
 なんでそういう結論になったのかはよく分からないが───……

「はっはっは! 大丈夫だ、ジョシュア。心配は要らない。だって君はジョエルの子。成長すれば嫌でも大きく……」
「あうあ!!」 
「なに? そういうことじゃないです?」

 はて?
 いったいジョシュアは何をそんなにプリプリしているのだろう?

「うーん、君って子は難しいな」
「あうあ」
「だが、元気なのはいいことだ!」
「あうあ」

 僕は、はっはっはともう一度笑い飛ばす。

(ナターシャもだが、ベビーの気持ちというのは気まぐれで難しいぞ)

 ジョシュアを見ながらそんな風に考えた時だった。

「こら! ────いつまでも廊下そんなところで何やってるのよ」
「あうあ!」

 廊下の奥から声が聞こえて後ろを振り返る。
 登場したのはガーネット様。
 相変わらず若々しくて美しく綺麗でとても孫がいるようには見えないお姿だ。

(母上といい、ガーネット様といい昔からあまり変わらないな)

 まあ、母上の場合は最高級のマッサージとやらをいまだに欠かさないのだが。
 ガーネット様は何をしているのだろう?

「で? エドゥアルトは何の用? あいにく今、ジョエルは……」
「ジョシュアに聞いたぞ。はっはっは! なんと、セアラ夫人とデートだそうじゃないか!」
「ああ、ちゃんとジョシュアから聞いてはいたのね?」

 ガーネット様は苦笑した。

「あうあ、あうあ~」

 ───おばーさま、だっこ、だっこするです~

 ジョシュアがガーネット様に向かって腕を伸ばして抱っこをせがんでいる。

「そうなのよ。最近、馬車に乗って仲睦まじく出かけているの」

 ガーネット様はホホホと笑いながら慣れた手つきでジョシュアをヒョイっと抱き上げた。

(すごく自然な動きだな……)

「あうあ~!」

 ニパッ!
 ジョシュアはガーネット様に抱っこされて嬉しそうに笑った。
 ここからポイッとされるのを期待しているのかもしれない。

「今日はジョエルに本を借りたくて来たんだが」
「あうあ」
「本?」

(動きがそっくりだ……!)

 ガーネット様とジョシュアが揃って仲良く首を傾げたので僕はなんとか笑いを堪えて続けた。

「あ、ああ。困った時は、やはりジョエルの本なんだ!」
「あうあ!」
「なんでよ……」

 ジョシュアは、そのとーりです! と頷いてくれた。
 しかし、何故だろう?
 ガーネット様は苦虫を噛み潰したような表情で額に手を当てると、ふぅ……と息を吐いた。

「まあ、いいわ。で? 今日のエドゥアルトは何に困ってるわけ?」
「えっと……」
「あうあ!」

 ───さあ、おにーさん。さっさとはなすです、はなせばラクになれるです!

 ジョシュアがそんなことを言いながらグイグイと僕に顔を近付けてくる。
 なんだろう? この迫り方。
 まるで……

(取調べをする役人みたいじゃないか……!?)

 この子はこの歳なのに人に圧をかけるのが上手いから、将来はそういう道に進むのも面白いかもしれないな、とぼんやり考えた。

「……どうも最近、ナターシャが」
「あうあ」
「ナターシャ? ああ、もしかして反抗期でも来た?」

 ガーネット様が、さすがに反抗期はまだ早いかしら……と呟く横でジョシュアがニパッと笑う。
 この子は反抗期とは無縁そうだな……などと思いながらも僕は続ける。

「ツ……」
「つ?」
「あうあ」
「───ツンデレというのに目覚めた!」 

 僕がそう口にすると、ガーネット様は目を丸くした。

「ツンデレ?」
「あうあ~」

 ───つんでれ、なんだかおいしそーです~

 ジョシュアはキャッキャと笑って手を叩いているが、美味しそう?
 これはおそらく意味を分かっていない。

「初めは僕も────はっはっは! これがツンデレというやつか! 可愛いぞ! と笑って流していたんだが」
「あうあ」
「流してたの!?」

 ガーネット様がギョッとした。

「よくよく考えると、ナターシャはあんなに可愛いのに……このままではツンツンした冷たい子だと周囲に誤解されてしまうかもしれないと気付いた!」
「あうあ~」

 ───ベビーちゃんは、ちいさくてかわいいです~

 さすがジョシュアだ。 
 ナターシャのことよく分かっている!

「だから、“ツンデレ”についてしっかり調べてみようと思った───が」
「が?」
「あうあ」

 ガーネット様が怪訝そうに眉をひそめる。
 そう。
 それで僕は改めて“ツンデレ”について調べることにしたのだが……

「全っ然、解説されている資料が見つからないんだ!」
「あうあ~」
「母上に頼みこんで王宮の閲覧制限のある資料も調べさせた! だが、見つからない!」
「あうあ~」
「…………権力までフルに使って何をやってるのよ」

 ガーネット様がホホホと笑う。
 つられて僕もはっはっはと笑った。

「軽く絶望したが、僕は思い出した! ギルモア家に伝わる人生の指南書には“ツンデレ”について載っていたことを!」

 そう、“ツンデレ”という言葉を僕はそこで知ったんだ。

「出たわね、役に立つのか立たないのか評価のしづらい人生の指南書……」
「あうあ~」

 ───あれはボクもつねにさんこーにしてるです~

「だろう?」

 僕は、はっはっはと笑って優しくジョシュアの頭を撫でた。

「確か、毎晩ジョエルが君に読み聞かせてくれているんだったな?」
「あうあ!」

 ───おにーさん! ボク、おとーさまのおへやからもってくるです!    

「え? ジョシュアが持ってくる? 何冊もあるんだろう? そもそも君にあの本が持てるのか?」

 さすがにこのちんまいベビージョシュアでは無理だろう? と思って聞いてみる。
 すると、ジョシュアはニパッと笑いながらガーネット様を見た。

「……持ってくる? ちょっと? 何の話してるのよ?」
「あうあ!」

 ───ボクにはむりです、だから、ぜーんぶおばーさまがもちます!

「ジョシュア、君……」

 僕は感動した。
 さすが、ジョエルの子だ。
 この国で誰よりも怒らせてはいけないガーネット様を顎で使おうとするなんて!
 なんて怖いもの知らずなんだろう。

「あうあ、あうあ!」

 ───さあ、おばーさま。ごほんのあるおへやにいくです!

「え、は? なによ? 下に降りたいの?」

  ガーネット・ギルモア夫人を顎で使うなどという怖いもの知らずな行為に僕が驚愕している間も、ジョシュアはガーネット様を書斎に行くよう促す。
 ガーネット様は戸惑いながらも、抱っこしていたジョシュアをそっと床に降ろした。

「あうあ!」
「だから……なに? どこに行こうとしてるのよ」
「あうあ~」

 ───おにーさん、おへやはこっちです~

「ガーネット様、ジョシュアがこっちと言っています」
「……そう?」
「あうあ~~」

 ───まず、そこをみぎにまがるとちかみちです!

「へえ、近道……」
「あうあ!」

 ジョシュアは僕たちに向かってニパッと可愛く笑い、指示を出すと迷うことなくクイッと左に曲がった。

(ん? 右……と言っていたような……? いや。きっと僕の気のせいだな───はっはっは!)



 こうして、僕たち三人はジョシュアの素晴らしい方向音痴のおかげで、そこから約一時間、ギルモア邸の中を仲良くウロウロすることになった。
 
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