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ギルモア家と愉快な人々の日常
不吉な予言【ガーネット】
しおりを挟む「戻ったわよ!」
「あうあ!」
私がジョシュアを抱えて戻ると、ジョルジュがアイラを抱えて待っていた。
「思ったより早かったな」
「……まあね」
ジョルジュの言葉にホホホと苦笑する。
「あうあ~」
ジョシュアが私の腕の中でキョロキョロしながら手足をパタパタしている。
「あら、ジョルジュとアイラだけ? 他の人たちは?」
「ああ。ジョエルたちは踊ってる。な、アイラ」
「ぅぁ」
「へぇ……?」
ジョルジュにそう言われてパーティー会場の中央に目を向けると、確かにジョエルとセアラさんがダンスを踊っていた。
なんと驚いたことに表情筋が滅多に仕事をしないあのジョエルがほんのり笑っている!
「ホーホッホッホッ! あの二人、いつまでも仲睦まじくて良いわね!」
「あうあ!」
私につられたのかジョシュアも嬉しそうにキャッキャと笑って手を叩く。
「ジョシュア。あなたもお父様とお母様が仲良しなのは嬉しい?」
「あうあ!」
ニパッと笑い返すジョシュア。
「いいこと? あなたもジョエルやセアラさんみたいに、大切な人のことをきちんと大事に出来るような子になりなさい?」
「あうあ!!」
「……」
いい返事ね! と褒めてあげたいところだけど、いまいちジョシュアの返事って信用ならないのよねぇ、なんて思った時だった。
「あっぷぁあ……」
「ひっ!?」
私たちの背後からまるで地を這うような低~い声が聞こえてきて背筋がゾゾッとする。
(この、恨み辛み妬み嫉みというあらゆる負の感情を凝縮して煮詰めたようなベビーの声は……)
こんな声を出すベビー、私は一人しか知らない。
おそるおそる振り返るとそこにはエドゥアルトに抱っこされたナターシャの姿。
やっぱりね……と思った。
「エ、エドゥアルトにナターシャ、来ていた、のね?」
「あうあ~~」
ニパッと笑いながらジョシュアは呑気に二人に向かって手を振る。
さすが、ジョシュア。
怨念こもってそうなナターシャの声のトーンを全く気にしてる様子がない。
そんなどす黒いオーラを放つナターシャとは対照的にエドゥアルトがはっはっは! と陽気に笑った。
「やあやあやあ、ジョシュア! 相変わらず元気そうだな!」
「あうあ~」
エドゥアルトたち、コックス公爵家の面々はパーティーに招待はしたものの、レティーシャさんが第二子を妊娠中のため参加するかは分からない、そんな返事だった。
ジョシュアの開催の挨拶の時に姿は見えなかったので、エドゥアルトとナターシャだけの参加とし、遅れて到着したのだろうと思われる。
「エドゥアルトとナターシャだけ?」
私が訊ねるとエドゥアルトは頷いた。
「ああ。レティーシャが自分のことはいいから行って来いと言ってくれた」
「うあったぁ、あうあっあぁ」
「あうあ~」
「だから父上と母上、レティーシャは残念ながら留守番だ」
「あばぶぁぅあぁぅぁっ」
「あうあ~」
「ナターシャの支度に戸惑ったので少し遅れてしまったよ」
「ばぶだぁぁあ、あっうあ~」
「あうあ~」
(さっきから、ジョシュアが邪魔ねぇ……)
どうしてこの子はちょいちょい人の会話に入って来ようとするのかしら?
「僕たちの参加も少し悩んだが……ナターシャもジョシュアやアイラに会いたいだろうなと思って参加することにした! な、ナターシャ!」
「あっぷぁあ……あばぶぁうあっあうあぅぁぅぁっあ!」
「あうあ~~」
(エドゥアルト、ナターシャをよく見てあげて……!)
はっはっは! と豪快に笑っているエドゥアルトに抱かれている愛娘のナターシャはうちのジョシュアに向かって強烈な殺気を放ってるけど?
本当にジョシュアやアイラに会いたいと思っていた様子には見えない!
でも、何を訴えているかは分からない……
(こういう時は───ジョルジュ!!)
私はチラッとジョルジュに視線を向ける。
目が合ったジョルジュは任せろと頷いてすぐに通訳してくれた。
さすが愛する私の夫ね!
「───ジョシュアァァ、相っっ変わらずのヘッラヘラしたお顔ですわね! 実に軟弱そうなお顔ですわぁ! 今すぐ殴ってやりたいですわ! ……ふむ。エドゥアルトのベビーはジョシュアの顔が気になっているらしい」
「顔が気になる……これ、そういう問題なのかしら?」
ジョルジュの独特の解釈に私は苦笑する。
「ホッホッホ! でも、やっぱりナターシャのその強気な性格いいわね! で? 肝心のジョシュアの反応は?」
「……」
ジョルジュがじっと私の腕の中のジョシュアを見つめた。
どうせ、ジョシュアのことだから、ナターシャの恨み辛み妬み嫉みの言葉は全てスルーで、ベビーちゃんの今日のおリボン可愛いです~、とか適当なことを言うに違いない。
「あうあ!」
「……」
「あうあ!」
ジョルジュとジョシュア、二人の目が合う。
下を向いてジョシュアのあうあを聞いていたジョルジュが顔を上げるとその表情が困惑していた。
(あら? どうしたのかしら?)
ジョルジュを困惑させるとは……やるわね!
さすが、気まぐれベビーのジョシュア。
「なあ、ガーネット」
「なぁに?」
「その、さっきからジョシュアがプレイボーイ、プレイボーイと言ってるんだが?」
「は?」
プレイボーイ?
私も下を向いて腕の中のジョシュアの顔をマジマジと見る。
「あうあ~」
ニパッ!
ジョシュアはいつもの調子で笑いかけてくる。
「エドゥアルトやナターシャに挨拶していたんじゃないの?」
「いや。それは最初に手を振った時だけだ」
「は?」
「その後はずっと、おにーさん! おにーさんはプレイボーイですか。とか、ベビーちゃんはプレイボーイって知ってますか、と、とにかくプレイボーイに関する質問ばっかりだ」
「あうあ~」
ニパッ!
ジョルジュの通訳を聞いてジョシュアはただただ笑っている。
「はぁぁ!?」
ナターシャと会話が噛み合わないどころの騒ぎじゃなかった。
ジョシュアは急に何を言いだしたわけ? 意味が分からなくて私は頭を抱える。
「ガーネット。ジョシュアは急にどうしたんだ?」
「そんなの分からな……あ!」
そこで私は思い出した。
ついさっき見かけた浮気を責められていた令息のことを。
あの時、私は未来のジョシュアが……と口にした。
「まさか、ジョシュア……あなた、さっき私の呟いた独り言を気にしてた?」
「あうあ!」
ニパッ!
「───さあ、おばーさま! そろそろ、モテモテプレイボーイとはどんな男なのかボクに説明するです! と言ってるぞ?」
「は?」
「あうあ!」
「さっきからボクはずっとお願いしてたです? ガーネット……いったい君たちは追いかけっこしながら何の話をしていたんだ?」
(ああ、また私とジョシュアの会話は噛み合ってなかったのね……)
ナターシャとの会話を心配している場合じゃなかった。
「そうね───とりあえずカス男の原石のような男がいてね、ジョシュアがそれを」
「あうあ~」
「カスの匂いがしたです~…………ああ、ジョシュアが発見したのか」
さすがジョルジュ。飲み込みが早くて助かるわ。
「あうあ~」
「うきわです? ……すまん、ジョシュア。何の話だ?」
ジョルジュが思いっきり眉をひそめた。
「ジョシュア! なんで浮き輪なのよ! 浮気でしょ、う・わ・き!」
「あうあ」
浮き輪と浮気を混同したらしいジョシュア。
私が訂正すると一瞬だけキョトンとしたあと、すぐにニパッと笑った。
「ああ、浮気か。つまり、ジョシュアは浮気男を見つけたということか」
「そうね、話が本当なら節操なしのプレイボーイよ」
「あうあ!」
「なるほど、それでジョシュアはプレイボーイを気にしていた……」
「あうあ」
ジョルジュがジョシュアの頭を撫でた。
そして、私たちがプレイボーイがどういう男か説明してあげると、ジョシュアは嬉しそうにキャッキャと笑った。
(なぜ笑う……?)
ベビーの感性は本当に難しい。
「安心しろ、ジョシュア! 俺はガーネット一筋だ!」
「あうあ!」
「僕もレティーシャ一筋だぞ、ジョシュア!」
「あうあ!」
「もちろん、ジョエルも夫人一筋だ!」
「あうあ!」
話を聞いていたエドゥアルトも前のめりで答える。
ついでに、今ここにはいないジョエルのことまで……エドゥアルトは本当にジョエルの保護者みたい。
これで、ジョシュアも満足だろうと和やかムードになったその時。
「────うあ、うあったぁばぶぁ、あっぷぁあ……」
「ぅぁ」
エドゥアルトの腕の中で、どす黒いオーラを放ったままのナターシャが呟いた。
そして、それまでずっと静かだったのに同意するかのように頷くアイラ。
───それ、間違いなく未来のジョシュアの姿ですわ……
(……!)
ナターシャのそんな言葉に私も含めて皆がそんな未来を想像してしまい顔を引きつらせる中、当のジョシュアだけがキャッキャと嬉しそうに手を叩いて笑っていた。
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