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ギルモア家と愉快な人々の日常
カスとの遭遇②【ガーネット】
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ジョシュアはベビーとは思えないほど、色々と考えている子。
だけど、さすがにこんなことまで予想出来ていたとは思えない。
思えないのだけど……
「あうあ~」
この笑顔を見ていると、ジョシュアなら有り得る……とか思ってしまう。
ボク、未来が見えるんです! とか言われても驚かない。
「あうあ!」
そんなジョシュアは、声のする方向をしきりに指さしてくる。
これもこの間のパーティーで彼を見かけた時と同じ行動。
「ちょっとジョシュア? あなた、また近付いて会話を盗み聞きしろとか言うんじゃ?」
「あうあ、あうあ!」
ジョシュアはあの時と同じ顔でニパッと笑った。
「さすが、ボクのおばーさま。さあさあさあ、もっと近くでお話聞くです! ───やったな、ガーネット! ジョシュアに素晴らしいと褒められてるぞ!」
ジョルジュがジョシュアの通訳をしながら嬉しそうに声を弾ませた。
「ホーホッホッホッ…………別に全っ然、嬉しくないんだけど!?」
「そうか?」
「だいたい、近付くといっても邸の中とは違って、外のここは隠れる場所もないんだから……」
「あうあ!」
ジョシュアが私の言葉を遮ってニパッと笑う。
「───だいじょーぶです! 今のボクたちは、どこからどう見てもベビーを連れて公園で遊んでるだけの“ただのほのぼの家族”に見えてるです! ……ガーネット。ジョシュアがそんな今の俺たちなら近づいても大丈夫だろうと言ってる」
「ホホホホホ…………ただのほのぼの家族!」
(ジョシュアの思考どうなってんの?)
やっぱり、こうなることを見越して私たちを『今日のこの場』に連れ出したようにしか思えない……
「あうあ!」
「さあさあさあ! ここでおばーさまがボクを抱っこすればさらに完璧です! ──ガーネット、ジョシュアが抱っこをせがんでるぞ?」
「……分かったわよ」
私はやれやれと肩を竦めながら、言われた通りにジョシュアを抱き上げる。
「あうあ~」
ニパッと嬉しそうにジョシュアは可愛い顔で笑った。
まあ、ここで勝手にあの二人の元に走って突撃するという危険性が避けられたわけだから、良しと思うべきか……と、とりあえず前向きに捉えた。
「しかし、やはりジョシュアの考え方はガーネット似だな」
「え?」
ジョルジュがウンウンと頷きながらそう言った。
アイラは何も言わずにじっと私とジョシュアのことを見つめている。
「いかにターゲットに不審に思われずに自然に会話を盗み聞きするかの計算───ガーネットみたいだろう?」
「くっ……」
ジョルジュの言葉に確かに、と思ってしまった。
「あうあ~!」
「ほう、あれもこれもそれもおばーさまから学んだのです? ……なるほど、ジョシュアはガーネットの教えを常にしっかり守っているんだな! 偉いぞ!」
「あうあ!」
ニパッ!
頭を撫でられたジョシュアが胸を張る。
「さすが、ジョシュアだ!」
「ぅぁ」
───さすが、お兄様ですわ!
「あうあ~」
二人にそっくりな言葉で褒められたジョシュアはいつもより嬉しそうだった。
「──そういえば、ダレン様はこの間、あの女とギルモア家のパーティーに参加されたのでしょう?」
「ああ、うん」
(あら? もしかしてちょうどこの間の話をしてる?)
ほのぼの家族となり彼らに近付くと会話がよりはっきり聞こえて来た。
私たちはほのぼのしながらも耳を傾ける。
「……俺のエスコートが不満だったみたいでずっと機嫌が悪かった」
「まあ!」
「それにパーティーの熱気に当てられて外で休んでただけなのに、さ。後からたくさん文句言われたよ……」
「~~っ、本っっ当に酷い女ですのね!?」
(……手馴れてるわねぇ)
まるで、息を吐くように嘘をついている。
でも、話の“全て”が嘘なわけじゃない。
私が調べたところによると、この男は婚約者をエスコートした後は確かに外にいた。
ただ、一人じゃなかっただけ。
(嘘をつく時は、ほんの少しだけ“本当のこと”を混ぜて話す───)
「…………わかってたけど、これは典型的なカス男ね~」
「あうあ」
私が小さな声で呟くとジョシュアも相槌を打つように頷いた。
「───そういえば、ダレン様。この間のパーティーって“ギルモア家”主催だったのでしょう?」
ここで私たちの存在に気づいていない令嬢がギルモア家の名を挙げた。
ピクッと私たち全員が反応し、耳を澄ませる。
「え、ああ……」
「ギルモア家ってとっても有名じゃないですか! どうでした?」
どうやら今日の浮気相手令嬢の方は我が家とは接点のない家の令嬢らしい。
あの時、聞いた名前の家を頭の中で反芻する。
「どうって?」
「ギルモア家といえば美しい侯爵夫人も有名ですが、やはり可愛いと有名な赤ちゃん!」
令嬢の言葉にジョシュアが“ボクのはなしです~”と言いたげに手足をパタパタさせる。
(暴れないでよーー)
こういう時に自制が効かないのはまだまだベビーの証拠ね、とジョシュアを抑えながら思った。
「どうでした?」
「あー……」
そう訊ねられたカス男。
彼は少し考えた後、こう言った。
「何だか、大きなリボンをつけた赤ん坊が当主の代わりにむにゃむにゃ開催の挨拶していたな……」
「え!」
「あの女も周りも皆その様子を、可愛い可愛いと興奮していた」
「前に遠くからでなら見かけたことありますが、ニコニコしていてとても可愛い赤ちゃんですよね」
まさか私たちがすぐ近くで盗み聞きしているなんて思ってもいない令嬢がはしゃいでいると、カス男はハンッと鼻で笑った。
(あら?)
そして、カス男は最も口にしてはいけない言葉を発した。
「そうか? ただ、小さいだけでその辺の赤ん坊と変わらないと思ったが?」
(!)
「え~」
「あいつも周りも何にキャーキャー言っているのか俺には全く気持ちが分からなかった」
「でもでも、とっても可愛いって有名ですよぉ?」
「うーん、特別、可愛いとは思わなかったな」
カス男がそんな禁忌の言葉を口にした瞬間、私の腕の中のジョシュアが動いた。
「あうあ」
(……っっ!!)
声のトーンが、いつもの“あうあ”と少し違う気がする……
危険を察知した私はそっと小声でジョシュアの名前を呼んでみた。
「えっと、ジョ、ジョシュア……?」
「あうあ」
くるっと振り返ったジョシュアは私にニパッと笑った後、ジョルジュに向かってもニパッと笑いかけた。
「あうあ!」
「ジョシュア───……分かった。帰ったら手配しよう」
(……何の話?)
男同士の深くなさそうな話が始まった。
「あうあ!」
「ああ、分かっている。我が家の財力を注ぎ込んだ、最高級のスコップだ!」
(ス……スコップ!?)
「あうあ!」
「ああ。我が家史上、最高に大きくて深い穴を掘ろう!」
「あうあ!」
(埋める気だーーーー!)
とんでもなく高級なスコップを購入して、これまたとんでもなく大きくて深い穴を掘ろうと約束してるんですけど!?
それで、あのカス男を始末する気満々になってる!
───その辺の赤ん坊と変わらない。特別可愛いとは思わなかった。
いくら私たちがここにいると知らないとはいえ、誰がどこで聞いてるかも分からないのに軽々しくそんなことを口にするなんて───
あの男は命が要らないのかもしれない。
「そういえば、もう一人赤ん坊の妹もパーティーに参加していたが、あっちもあっちで大きなリボンつけて重そうだなってくらいで特に可愛いとかはなかったな」
「え~? そうなんですかぁ?」
「ああ」
ここで、まさかのアイラのことまで言及してしまったカス男。
(……はっ!)
ただならぬ気配を感じ、視線を移すとジョルジュの腕の中にいるアイラと目が合った。
「………………ぅぁ」
───おばーさま、アレを今すぐ! 早急に! 速やかに! 処分しましょう。
「アイラ……」
「ぅぁ」
(アイラ……こっちは明らかに怒ってるーー)
無表情アイラの顔はどこからどう見ても怒り狂っていた。
「父上からも、くれぐれも失礼のないように! と言われていたが、あの一家の何が凄いのかよく分からない」
「え、でも……」
カス男は調子づいたのか更に我が家について言及していく。
「当主と次期当主のその息子は、何だかぼんやりした印象だったし、その嫁も地味というか……で、ほら、あの有名な侯爵夫人……」
(!)
ここでカス男はついにこの私にまで言及を始めた。
「皆は口を揃えて美しいと褒め称えていたが────普通じゃないか?」
……その瞬間。
このカス男は見事、『ギルモア家が選ぶ、抹消リスト1位』の座に躍り出た。
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