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ギルモア家と愉快な人々の日常
怒らせてはいけない【セアラ】
しおりを挟むザクッ、ザクッ……
「よし、ジョシュア。いい感じだ。頑張れ」
「あうあ!」
ザクッ、ザクザク……
「……ぅぁ」
「おお、アイラ。いつもよりやる気が倍増だな」
「ぅぁ~!」
ザクザクザク……
「オ~~ホッホッホ! ザックザクと好きなだけ掘りなさい! そしてあの男を深く深~く埋めてやるのよ!」
「ああ!」
「あうあ!」
「ぅぁ!」
(えええええ……何が起きたの……?)
ジョシュアの─────ポカポカ日和。こんな日はお外で遊ぶです!
という謎提案で、あの過去に色々あった公園へと遊びに行っていたはずのお義母様、お義父様、ジョシュアにアイラ。
しかし、戻って来るなり四人は愛用のスコップ片手にせっせと庭を掘り出した。
さらにお義母様は、即商会の人間を呼びつけ、
『いくらお金がかかっても構わないわ! とにかく最高級のスコップを直ぐに用意しなさい!』
と、新たな最高級(?)スコップを注文。
そんなお義母様のただならぬ迫力……いえ、もはや殺気に充てられて涙目になりながら、呼びつけられた商会の人間は慌てて手配に奔走中。
(いったい何が……)
「ジョエル様。お義母様たちは公園の綺麗な花を見て、庭にお花を植えたい気分にでもなったのでしょうか?」
「…………違う、気がする。母上の気迫が………………すごい」
「……です、よね」
ジョエル様が最後に呟いた“すごい”という言葉に私も強く同意する。
お義父様ならともかく、あのお義母様がここまで率先して庭を掘らせるなんて……
私は最悪の事態を想像した。
「ジョエル様。そうなるとやっぱり、ジョシュアが誰かを殺っちゃったのでしょうか? で、その隠蔽工作中とか?」
「…………有り、得るな」
ジョエル様譲りの普段は無表情のアイラでさえ明らかに“怒ってる”と分かる中で、唯一、“あうあ~”と笑顔で元気にスコップを握ってる息子の顔を見る。
「ジョエル様。ジョシュアはなんて言ってます?」
「さいこーにおーきくてふかいあなをほるです~……と」
「……いつもと言ってること変わらないですね?」
「…………ああ」
ジョエル様が眉間にググッと皺を寄せながらコクリと頷いた。
いつもと“違う”のはやはりお義母様───……
戻ってきたその足で、スコップの依頼だけではなく、他にも指示を飛ばしていた。
(あれは……至急で何かの調査を命じていたようだったけど……)
「あうあ~、あうあ、あうあ~~」
「……大丈夫だジョシュア。君はちゃんと特別可愛い」
「あうあ!」
ジョシュアの“あうあ”にそう応えるお義父様。
「ぅぁ、ぅぁ~ぅぁぅぁ……!」
「ホーホッホッホッホ! 大丈夫よアイラ。あなたのそのおリボン姿、可愛いわよ」
「ぅぁ!」
高らかに笑いながら、いつもより多いアイラの“ぅぁ”に応えるお義母様。
「ジョエル様。ジョシュアとアイラ……誰かに“可愛くない”とでも言われたのでしょうか?」
「だとしても、だ。父上はともかく、母上がおかしい」
「ですよね……」
あのお義母様まで乗り気になっているなんて、これはよっぽどの事態に違いない。
そこで私はまさか……と思った。
最悪の事態を想像し身体がブルッと震える。
(まさか、でも……そんな命知らずなことを……?)
「ジョエル様。ま、まさかとは思いますが、その“誰か”はお義母様にまで言及してしまったのでは……」
「!」
私の問いかけにジョエル様の目がカッと大きく見開く。
「まさか、母上の年齢に触れたか!? 禁句だぞ!」
「ええ。そこに触れて生きていられるのはお義父様と怖いもの知らずのジョシュアくらいなものです」
私はチラッとお義母様たちに視線を向けた。
お義母様は高らかに笑いながら三人に告げる。
「ホーホッホッホッ! 今のうちに掘れるだけじゃんじゃん掘るわよ~~」
「あうあ!」
ニパッ!
「ぅぁ!」
ニヤリ……
「おう!」
ハハハ!
それぞれ特有の反応を見せつつも、しっかり手は動かしている三人。
(どこの誰かは知らないけれど────)
最も怒らせてはいけない人(たち)に、大量に燃料を注いだ人がいたのは明らかだった。
「───え!? その方はそんな命知らずなことを口にしていたのですか?」
「そうなのよ」
「あうあ~」
ギルモア家史上最大の穴掘りが開始して約一時間。
お義母様たちは一旦休憩に入った。
そこでようやく私とジョエル様が話を聞きに行く。
すると、お義母様は公園でのことを話してくれた。
とりあえず、ジョシュアはまだ誰のことも殺っていなかったことに安堵した。
「ホーホッホッホッ! まさか、私たちが偶然居合わせて堂々と盗み聞きしてるなんて夢にも思わなかったみたいね!」
「あうあ~」
「それは……」
まあ、普通は思わない。
でも、何か思うことがあったにせよ、人が多く集う場所でするような話ではないのは確か。
「…………セアラが地味、だと……?」
「あうあ~」
「え?」
すると、私の隣からどす黒いオーラを感じた。
私は慌てて声をかける。
「ジョエル様!?」
「あうあ~」
ジョエル様がギリッと唇を噛みながら威圧を放っている。
「天使のセアラを…………よくも……」
「あうあ~」
「え、ちょっ、ジョエル様、落ち着いて───」
「──いいや! これが落ち着いてなどいられるか!」
「あうあ~」
(大変……! ジョエル様まで)
「……ああ、ジョシュア。君の言う通りだ」
「あうあ!」
ニパッ!
「俺の天使たちを侮辱した罪は重い!」
「あうあ!」
ニパッ!
(さっきからジョシュアはなんて言ってるのかしら……)
この子の癖なのか、ジョシュアはちょいちょい会話に混ざってくる。
「───母上! そいつを今すぐ! 早急に! 速やかに! 処分だ!」
「ホホホ…………ジョエル、あなたやっぱりアイラの父親ね」
「あうあ~」
(……?)
ジョエル様のこの言葉を聞いたお義母様が何故か苦笑した。
「……まあ、いいわ」
お義母様はフッと鼻で笑うとバサッと髪をかきあげて顔を上げた。
「ホーホッホッホッ……いいこと?」
そして、私たち一人一人に目線を合わせた。
「ジョルジュ!」
「おう!」
「ジョシュア!」
「あうあ!」
「アイラ!」
「ぅぁ!」
「ジョエル!」
「ああ!」
「セアラさん!」
「は、はい!」
皆の返事を聞いたお義母様は、最高に美しくそして全身がゾクッとするほどの妖しい笑みを浮かべた。
「抹消リスト第1位のこいつに一切の遠慮は要らないわ! この私と私の愛する家族を侮辱したらどうなるのか、た~~っぷりカス男に教えてあげるわよ! いいわね!?」
お義母様は高らかに美しく笑いながらバサッと資料をテーブルに並べた。
「いいこと? まずはカス男の基本情報を頭に叩き込みなさい。もちろんジョシュアとアイラもよ」
「あうあ」
「……ぅぁ」
さすがお義母様。
ベビーだからといって甘えなど許さない。
「このカスの名前は───ダレン・ウィンスレット! ウィンスレット侯爵家の嫡男よ!」
「あうあ~」
(侯爵家……だったのね?)
ウィンスレット侯爵家はギルモア家と同じ家格だけど、我が家とは力の差が大きく、カス男が暴言を吐いていたのもその辺が関係しているのかもしれない。
「婚約者のお嬢さんはシャーリー・レッドマン。こちらは子爵家のご令嬢ね! 両家の婚約は典型的な政略結婚。ウィンスレット家がレッドマン子爵家が担ってる事業に援助しているそうよ」
「あうあ~」
さすがお義母様。
きっちりばっちり情報を集めている。
「しっかり儲けの出ている事業だから、ウィンスレット家も恩恵が受けられている。まあ、年頃の子どもがいるなら、結びつけようと考えるのは不思議じゃないわね」
「あうあ~」
「……ジョシュア、あなた、さっきからお返事だけは素晴らしいんだけど理解出来てるの?」
「あうあ~!」
ニパッ!
「カス男の方が大きいからおねえさんに偉そうにしてるです~! と言っている」
「まあ、そうなんだけど……」
「ぅぁ……」
(うつわのちっさいおとこですわ───ってアイラまで辛辣!)
「はいはーい、いいかしら? それではまず、ウィンスレット家から仕事を奪うわよ~」
「あうあ~~」
お義母様は、パンパンと手を叩くと、おやつ一つ貰うわよ~くらいの軽いノリでそう言った。
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