最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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ギルモア家と愉快な人々の日常

お出迎え【ガーネット】

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 こうして、ナターシャが小さな小さなスコップを握りしめ、涙目でエドゥアルトに何やら強く訴えるも、“はっはっは! 庭掘りは楽しいだろう?”と軽く流されてしまっていた翌日。
 カス男退治に絶対欠かせないレッドマン子爵とその娘、シャーリーが我が家に到着した───……



「え! ……えっと、き、君は……」
「あうあ!」

 ニパッ!

 ベビーと向かい合わせに座っているレッドマン子爵家の当主が大量の汗をダラダラ流して困惑している。
 しかし、そんなことは微笑みの天使ジョシュアには関係ない。
 いつものニパッとした笑顔で元気よくお返事している。

「どう見ても赤ちゃん……た、確か君は今、社交界で大きく話題のギルモア家の……」
「あうあ!」

 ニパッ、ニパッ!

「……っっっ」

 レッドマン子爵はぐあぁと唸って思いっきり頭を抱えた。
 隣に座っている娘のシャーリーも同様に汗を流しながら言葉を失っている。

(そりゃ、こうなるわよねぇ……)

 私は今、廊下から部屋の中の様子をそっと扉の隙間から覗いているところ。

 今、この部屋の中にいるのは、レッドマン子爵とその娘と微笑みの天使ジョシュアのみ。
 我が家にやって来たレッドマン家の二人は、部屋に通されて中に入ってみたら、満面の笑顔を浮かべたベビーに迎えられてしまい絶賛困惑中。(今ココ!)

「あうあ、あうあ、あうあ~~」

 ニパッ、ニパッ、ニパッ!
 マイペースなジョシュアはいつもの可愛い笑顔を放ちながら、懸命に彼らに話しかけている。
 しかし、常人にジョシュアの“あうあ”が理解出来るはずもなく……

「~~っっ、シャ、シャーリー!」
「は、はい……」
「あうあ~」 

 この事態に耐えきれなくなった子爵が未だにダラダラ汗を流しながら娘に呼びかける。

「今日、我々は“ギルモア家”に呼ばれた!」
「は、はい!」
「あうあ~」
「分かってるな? “あの”ギルモア家だぞ」 
「は、はい!」
「あうあ~」

(“あの”も“どの”もないわよ……)

「ギルモア家から呼び出しを受け、訪問して生きて帰れるかの確率は半々と言われているのはシャーリーも知っているな?」
「は、はい……」
「あうあ~」

(は? ……なにそれ初耳なんですけど!?)

 子爵の言葉に私は驚いた。
 隣にいるジョルジュの顔を見たけど、涼しい顔をしていておどろいた様子はない。

(は?)

「訪問後が天国か地獄かは……訪ねてみないと分からない、そう言われていますわね」
「ああ、その通り。まさにデンジャラスゲーム……」
「あうあ~」

(はぁぁあ? 本当になにを言ってるの……!?)

 ギルモア家への訪問が生きるか死ぬかみたいになってる……

「ですから、本日のお父様は朝からガチガチに緊張して、馬車から降りるのに転がり落ちたあげく、この部屋に来るまでも手と足が同時に出て歩いていたのですね」
「くっ……」

 シャーリーの指摘にウグッと押し黙る子爵。

(確かに、あの歩き方は結婚式前日のジョエルを思い出したわ……)

「あうあ~」
「ほら、よく見るんだ、シャーリー。この子の笑顔もきっと“今日、お前たちは五体満足では帰さないぞ”とか言っている悪魔の微笑みに違いない!」
「……っ、悪魔の……!」

 娘はジョシュアの笑顔を見てハッと息を呑み、子爵は遠い目をした。

(悪魔は間違ってないわよ~)

「あああ……我々は今日、無事に帰れるのだろうか……」
「あうあ~」

(───帰れるわよ!?)

「これまでギルモア家と我が家には関わりがなく……本日はなぜ、呼び出しを受けたのかが分からぬ」
「は、はい……」
「あうあ~」
「それも、“至急”だ」
「は、はい……」
「あうあ~」
「唯一の接点といえば───この間、シャーリーがダレン殿と参加したパーティー……」

 子爵の“パーティー”という言葉に令嬢がピクッと肩を震わせる。

「あの日は帰りにお前を送って来たダレン殿の機嫌がとても悪かったが、どんなパーティーだったんだ?」
「そ、それは……」
「あうあ~」

 ニパッ、ニパッ、ニパッ!

 微笑みの天使ジョシュアがグイグイッと前のめりになり、一生懸命何かを訴えている。

「な、なんだ!?」

 ジョシュアにグイグイ迫られて子爵は仰け反った。

「あうあ~~」
「あ! え、えっと、そう! パーティーではこちらのご子息が開催の挨拶をしていましたわ、お父様」
「あうあ~~」
「は?」

 娘の言葉に子爵は眉をひそめた。

「シャーリー? 何を言っている? どこからどう見てもこの子はまだ一、二歳くらいの赤ん坊……」
「あうあ~ 」
「いいえ、本当です! ギルモア家の当主様に抱っこされて、当主代理として可愛い笑顔を振り撒きながら堂々と挨拶されていましたわ」
「なに!?」
「あうあ~」

 子爵とジョシュアの目が合う。
 ジョシュアはニパッと笑った。

「当主代理……君が?」
「あうあ!」
「その歳で?」
「あうあ~」
「つまり……? 本日も君が当主代理として我々……を呼び出した、のか?」
「あうあ~」

 ニパッ!

「……!」

 ジョシュアの満面の笑顔に子爵が頭を抱える。
 そしてクワッと目を大きく見開くと娘に向かって叫んだ。

「シャーリー! 先程からニコニコ笑顔で“あうあ”としか喋らない当主代理この子と何をどう対話すればいいんだ!?」
「わ、私に言われても……!」
「あうあ~」

(ジョシュア……!)

 なぜ、“あうあ”しか喋らないジョシュア一人が彼らを迎えたのか。
 それは、子爵たちの訪問直前の一悶着から始まった────……


─────……


『あうあ!』

 ───そろそろくるです? ボクがいちばんにおでむかえするです!(通訳:ジョルジュ)

 もうすぐ、子爵たちの訪問時間。
 何故か誰よりも張り切っているジョシュアが前に進み出ようとしていた。
 私はそんなジョシュアの首根っこを掴んで持ち上げると、ジョシュアは空中であうあ~と激しく抵抗し手足をパタパタさせた。

『ちょっと、ジョシュア! なんであなたが前に出ようとしているのよ!』
『あうあ~』
『ご挨拶です~だそうだ』
『……』

 ジョルジュの通訳を聞いて私は呆れた。

『どうせ、“きれいなおねえさん”を近くでみたいだけなんじゃないの?』
『あうあ~』
『……』

 ニパッと笑うジョシュア。
 そして何故か通訳しない夫、ジョルジュ。

『ジョルジュ!!』
『はっ……すまない。ジョシュアの返事があまりにも堂々としていたから少し驚いた』
『堂々?』
『ああ。“おばーさま、なんでわかったです?”と……どうやら、本当にきれいなおねえさんを間近で見たいそうだ』
『……』

(コイツ……)

 私が睨みつけるととジョシュアはニパッと笑った。

『あうあ、あうあ~』
『なに? ───それと、おねえさんたちは、きっとお胸がドキドキバクバクしてるから、かわいいかわいいボクで癒すといいです?』

 通訳しながらジョルジュは首を傾げた。
 私ははぁ、と息を吐いて解説する。

『つまり───ジョシュアが言いたいのは、彼らはガチガチに緊張して訪問してくるだろうから、可愛いベビーの自分でお出迎えしてリラックスしてもらいたいってこと?』
『あうあ! あうあ、あうあ~!』

 ────そのとーりです! さすが、おばーさまです~!(通訳:ジョルジュ)

 ジョシュアはキャッキャと笑いながら手を叩いた。

『ホホホ……その自信はどこから来るのよ……』


……───── 


 そうしてジョシュアが頑なに出迎え担当を譲らなかったから任せてみたものの……
 なかなかカオスな空間が出来上がってしまった。

「どうする、ガーネット? そろそろ突入するか?」
「そうね……」
「さすがに“あうあ”だけでは彼らも限界だろう」

 珍しくジョルジュが至極真っ当なことを口にした。

「まぁ、確かに緊張はほぐれたかもしれないわね……馬車の扉が開いて当主が転がり落ちて来た時は何事かと思ったもの」
「怪我がなくて良かったな」
「そうね」

 その後の歩行といい、あんなガッチガチに緊張されていたら、これから予定している会話もままならなかったかもしれない。

(それに……)

 覗き見の結果、レッドマン子爵がどうやら我が家をかなり恐れていることも知れた。
 そして娘のシャーリーは、あの時のパーティーでカス男ダレンに婚約解消の話をしたことを子爵は知らなそう───
 これもベビーの前だから平気だと思って油断して会話していたとするなら……

「まさか、ジョシュア。全てを計算して、とかだったら怖いわぁ」
「何の話だ?」
「あ、えっと……」

 私が考えた内容を説明するとジョルジュが考え込む。

「有り得るかもな」
「え! 有り得るの!?」

 私が聞き返すとジョルジュは言った。

「今、ジョシュアは、二人の会話にずっと参加していただろう?」
「ええ、全部あうあ~だけど」 
「……あの、ほとんどは“なるほどです~”“もっと喋るです~”“情報収集です~”……と煽ってた」
「ジョシュア……!」
「まあ、パーティーの話題になった時は、可愛いと言われたことに興奮していたが」 
「そこはまだまだベビーねぇ───じゃあ、行くわよ!」 

 とりあえず、ジョシュアのおかげ(?)で緊張もほぐれたと思い、私とジョルジュは部屋へと突入。




「突然の呼び出し、驚かせて申し訳なかったわね」
「い、いえ……とんでもございません!」

 ジョルジュと私の登場になぜか慌ててひれ伏した二人に向かって、私は単刀直入に言った。

「それで早速なのだけど────私、あなたの家が懇意にしてるウィンスレット侯爵家を潰そうと思っているの」 
「は、い!?  つ、つつつぶ……?」 
「だから、潰すのよ」
「つ……つ、〇‪✕‬‪‪△■#●!?!?!?」

 顔を上げたレッドマン子爵は目を剥いて仰向けにひっくり返った。
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