最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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ギルモア家と愉快な人々の日常

令嬢の気持ち【ガーネット】

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「お、お父様ぁぁーーーー!」

 ひっくり返った父親の子爵の姿を見て娘が叫んだ。
 父親の身体を揺さぶりながら必死に声をかける。

「そんな……! 邸を出る前にお母様に残した言葉が本当に遺言となるなんて!」
「あうあ~」

(遺言?)

 どうやら、子爵はギルモア家訪問するにあたって何か言い遺してから来たらしい。 

「あうあ、あうあ~」
「うおっ……ガーネット。ジョシュアが、ゆいごんとはなんですか? おいしいですか? と聞いてくるんだが」 

 キャッキャしてるジョシュアに引っ付かれているジョルジュがどうにか引き離しながら、私に聞いてくる。

「今は放っておきなさい」
「分かった。ジョシュア、これはベビーの君にはまだ早すぎる話だ」
「あうあ」 
「もう少し、大人になってから説明する。それまで待つんだ」
「あうあ~」

 ジョシュアはニパッと笑って頷いた。

(素直ね……)

 ジョシュアのことだから、下手に説明なんかすると感化されちゃって“遺言ごっこ”とか不謹慎なことを始めかねない。
 しかし、今はそんなことより……

「レッドマン子爵、命懸けすぎでしょ……」

 私は娘のシャーリーに聞こえないくらいの声で呟いた。
 そんなシャーリーは父親を揺さぶりながら声を震わせる。

「──うぅ……心配するな、必ず帰って来る…………大してかっこよくもないくせにいい歳してそんな恋愛小説のヒーローみたいな発言するから……」 

(辛辣!)

「でも、本当に生きて帰れないなんて思わなかった……」

(いや、生きてるわよ?)

 子爵は目を回して倒れただけで別に死んではいない。
 ちゃんと呼吸もしている。

「あうあ~」
「え……あ、赤ちゃん?」

 そんな悲痛な声を上げている娘のシャーリーにどさくさに紛れて近付くジョシュア。
 近寄ったジョシュアはシャーリーに向かってニパッと笑いかけた。

(何をする気!?)

「ガーネット! ────おねえさん、ボクがおねぼーさんの起こし方を教えてあげるです~とジョシュアが言っている!」 
「え!?」
「あうあ~」

 とてつもなく嫌な予感がした。
 ジョシュア流の起こし方といえば……
 私の脳裏に頬を腫らした息子、ジョエルの顔が浮かぶ。
 アレはジョエルだから許されている。
 他の人にしたら────

「ジョルジュ! すぐにジョシュアを回収!」
「分かった」
「───あうあ!!」

 今! まさに! 満面の笑顔で子爵の頬にビンタする寸前だったジョシュアをジョルジュが持ち上げる。

「あうあ、あうあ~、あうあーー」

 手足をパタパタさせて暴れるジョシュア。
 そして必死にジョルジュに訴える。

「───おじーさま、なんで止めるです、だと?」
「あうあ!」
「そんなの決まっている…………ガーネットの命令だからだ!」
「あうあ……!」

 そこは他家の当主を叩いたら問題になるくらい言って欲しかった。
 しかし、ジョシュアにとっては効果覿面な言葉だったのか驚くくらい大人しくなった。

(……ホホホホホ)

 ジョシュアが大人しくなった隙に私はシャーリーに声をかける。
 子爵が倒れているうちに聞いておきたい。

「安心なさい。父親は死んでないし大丈夫よ。すぐに目を覚ますわ」
「え……」

 私の言葉にシャーリーがおそるおそる顔を上げる。
 そんな彼女に私はにっこり笑いかけた。

「ところでシャーリー・レッドマン。私からあなたに聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「は、はいぃぃ」
「……」

 何故か怯えたような目を向けて悲鳴のような声を出すシャーリー。
 しかし、そんな彼女は私の発した次の言葉で顔色を変えた。

「聞きたいのは、あなたの婚約者────ダレン・ウィンスレットのことなんだけど」
「!」

 息を呑んだ彼女はおそるおそる聞き返してきた。

「か、彼が何か……?」

 私はフッと鼻で笑って足を組み直すとバサッと髪をかきあげる。

「さっき、言ったでしょう? 私はウィンスレット侯爵家を潰したいって」
「……」
「つまり、あなたの婚約者の家……なわけだけど、その件についてあなたはどう思う?」
「もちろん! 大賛成で………………あ!」

 クワッと目を大きく見開いて間髪入れずに答えようとしたシャーリーは、慌てて口を押さえる。

「え、いえ! あの、こ、これは……その……」
「オ~~ホッホッホ! いいのよ、そうよね。あんなカス男、要らないわよねぇ」

 しどろもどろするシャーリーに私はにっこり笑いかけた。

「え? カ、カス……」
「ええ。だってあの男、カスでしょ?」

 今度はパチパチと目を瞬かせるシャーリー。
 頭の中の理解がまだ追いついていなさそう。

「ウォーノック家、スポール家、ヤーノルド家、コリヤー家……随分と幅広い交友関係を持っていて各々の令嬢たちとも“仲良く”しているそうじゃない?」
「……!」

 私が敢えてわざと“仲良く”と強調するとシャーリーは大きく肩を揺らした。

「ホーホッホッホッ、もしかしたら、まだまだ他にも特別仲良しなお嬢さんがいるのかしら~」
「……!!」

 ピクッととても分かりやすい反応をするシャーリー。
 実はあのカス男。
 私が調べたところによると、先に挙げた令嬢たち以外にも結構、手を出している。
 中には平民の女の子も含んでいて、身分差の恋をチラつかせて遊んでいる様子。

「ど、どうして侯爵夫人がそのことを……」
「どうして? それはね、」
「あうあ~~!」

 ここで、ニパッと可愛い笑顔でヌヌヌッと横から割り込んで来たのはジョシュア。
 私によじ登るとちょこんと膝の上にお座りした。

「この間、あなたも参加していたパーティーでこのベビーが」
「あうあ~」
「っ、たまたま偶然、」
「あうあ~」
「っっっ、あなたたちの話を聞」
「あうあ~」
「~~~っっ、ジョシュア! ちょっとお黙りなさい!」

 私は膝の上からジョシュアを降ろしてポイッと捨てる。

「ぁぅぁ」

 捨てられたジョシュアが果敢にもう一度よじ登ってこようとするのを阻止しながら、私は話を続けた。

「ホホホ、我が家の騒がしいベビーが失礼したわね」
「い、いえ……」 

 シャーリーの目線がジョシュアに注がれる。

「そういうわけで、うちのジョシュアがたまたま会話をしていたあなたとダレン・ウィンスレットを見つけたのよ」
「…………あれを見られていた、のですね」

 シャーリーは膝の上で両拳をギュッと握りしめた。

「婚約解消を申し出ていたけど、一蹴されていたわね?」
「……はい」

 悲しそうに目を伏せるシャーリー。
 侯爵家と子爵家。ましてや、子爵家の事業を支えている侯爵家の子息に婚約解消を申し出るなんて決死の覚悟だったに違いない。

「ダレン様は私が何度お願いしてもやめてくれません」
「そう……」
「ぁぅぁ~」
「それどころか、お願いすればするほど酷くなっていきます……」
「典型的なカス男よねぇ」
「ぁぅぁ~」
「それに、何故か令嬢たちの間では私の方が悪者になっていて……もう辛くて辛くて!」
「ぁぅぁ~」
「この間のパーティーでは、ウォーノック家の令嬢にも“彼を解放してあげて”と絡まれました」
「ぁぅぁ~」

(ジョシュア……)

 私は小声になったジョシュアを払い除けながら、涙を滲ませるシャーリーに訊ねた。

「あなたが婚約解消を申し出たことを子爵は知らないのね?」
「はい……」

 シャーリーはコクリと小さく頷いた。
 まあ、間違いなく言ったら絶対に反対されるし、説得もしてくるだろうから仕方がない。
 私は、ふぅ……と軽く息を吐くとパンパンと手を叩く。

「はいはーい、ジョルジュ。そろそろ、そこでさっきから寝たフリしている子爵を起こして」
「任せろ!」
「……うへぇ!?」

 私の言葉に転がっていた子爵が慌てて飛び起きた。

「え、嘘っ、お父様!?  本当に生きてた……」
「シャーリー……勝手に殺さないでくれ」
「ホホホ。だいたい私がカス男の話を始めた辺りから目を覚ましていたわよね?」
「うっ……」

 図星だったのか私の言葉に小さくなるレッドマン子爵。
 ちょうどその辺りから妙に子爵の身体がピクピクしていたからそうだと思っていたわ。

「その、気付けなくてすまなかった、シャーリー……お前とダレン殿はてっきり上手くやってるものとばかり」
「ううん、事業のことを考えたら私も話せなくて……ごめんなさいお父様」
「ああ、分かっている」

 互いにシュンッとなるレッドマン親子。
 そんな二人に向かって私はもう一度、パンパンパンと手を叩く。

「はいはーい! 二人とも反省は後にしてちょうだい! そういうわけで、そんなシャーリー嬢の苦悩を解消出来る方法が」
「あうあ~~!」

 ニパッ!
 ここで再度ヌッと私の前に現れるジョシュア。
 自粛は終えたのかちゃっかり声の大きさも元に戻してやがる。

「───ウィンスレット侯爵家は潰して埋める! これだ!」
「「う、埋め……!?」」
「そうだ! もう、その準備は万端だ!」
「あうあ~~」
「「ひぇっ!?」」

 さらに、特技は事態をややこしくすること───な夫、ジョルジュまで割り込んで来た。
 案の定、埋める発言に再度怯え出す二人。

「もう! 二人は一旦下がりなさい!」
「あうあ~~」

 渋るジョシュアを何とか退けながら、私はカス男の始末についての計画の話をした。

 
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