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ギルモア家と愉快な人々の日常
方向音痴【ガーネット&ジョシュア】
しおりを挟むレッドマン子爵親子が帰ったあと、私は高らかに笑いながら宣言する。
「オーホッホッホ! 交渉成立───さぁて、いよいよカス男退治よ!」
「あうあ~!」
「ぅぁ~」
私の掛け声にわーいと両手を上げて返事をするジョシュアとアイラ。
「いいお返事ね!」
「あうあ!」
ニパッと笑うジョシュア。
きれいなおねえさん……シャーリーにたくさん可愛いと言ってもらえて大満足の様子。
「ベビーたちにも、たっぷり働いてもらうわよ?」
「あうあ~」
「ぅぁ~」
私はフフンと笑う。
「ガーネット! やはり君のその悪巧み中の顔、最高に美しいぞ!」
「……どうも」
相変わらずズレた発言をする夫をひと睨みして、私は皆に計画を告げる。
「───ギルモア家を怒らせたこと、後悔するがいいわ!」
────
ウィンスレット侯爵家の面々が馬車から降り立ち、我が家の玄関に向かって歩いている。
私はこっそり使用人に変装して案内役を務めながらこそっと聞き耳を立てることにした。
「奥様、何も自ら変装して聞き耳をたてなくても……」
本物の使用人が小声で咎めて来るけど私は一蹴する。
「いいえ、だめよ。どうせ私たちの前に来たら取り繕ってヘラヘラしてくるんだから」
「う、それは」
(この一家の本音が聞けるのはここしかないのよ!)
「ですが奥様がメイドの格好なさるなんて」
「ホホホ、私ったら何を着ても似合うでしょ」
「確かに、旦那様は大喜びでしたが……」
───ガーネット! 今夜は祝杯をあげながらその格好で俺を踏んでくれ!
(……変なこと言ってたわぁ)
「さあ、無駄なお喋りはここまでにして───聞くわよ?」
「は、はい……」
私は集中して背後のウィンスレット侯爵家の会話を盗み聞く。
「しかし……ギルモア家が短期間にパーティーを開くなんて珍しいこともあるもんだな」
「そうね、しかも本日のパーティーは“特別な方だけご招待”って書いてあるわ」
「特別か」
ウィンスレット侯爵が嬉しそうな声色になった。
「ダレン! お前、この間のパーティーでギルモア家に気にいられるようなことでもしたのか?」
「え、いや……特に何も」
(ふーん……)
どうやらウィンスレット侯爵の様子からいって、婚約者から婚約解消の話があったことをカス男は話していないよう。
(ま、言えるわけないわよね~)
婚約者を蔑ろにして、悲劇のヒーローごっこして他の令嬢とたくさん遊んでます、なんて。
レッドマン子爵家からの恩恵受けられなくなっちゃうもの。
「ギルモア家から呼び出しを受け、訪問して生きて帰れるかの確率は半々と言われている。だが、パーティーならセーフだ」
「それ本当なのかしら? 怖いわよねぇ」
(どこかで聞いたわね……)
一度、この噂はじっくり検証する必要がある。
「父上、どうせ迷信ですよ。そんなホイホイ貴族が消えたら大変ですから」
「ダレン! 何度も言ってるだろう! ギルモア家を甘く見てはいけない!」
「はいはい、父上はいつも口を開けばそれですね」
侯爵は息子を叱るけれど、さすがカス男。
右から左へ受け流している。
「当たり前だ! あのガーネット様が夫人なんだぞ!」
侯爵の語尾がとたんに強くなる。
「いいか! 当時、王太子だったエルヴィス殿下が廃嫡されたのは、裏でガーネット様が」
「はいはい、そんな昔のこと語られても。なんであれ今は一侯爵家の夫人なわけですし」
「ダレン!」
夫人も叱りつけるけどカス男はそれも受け流す。
(なるほど……)
同世代は私がかつて王太子の婚約者だったことや、カス王子を廃嫡に追い込んだことを覚えているけど、子世代になると反応はこんなものなのね。
(まあ、正直、ギルモア家を有名にしたのは───)
「────あうあ!」
どう考えてもジョシュアよね。
私は玄関まで“ジョエル”に抱かれて出迎えにきたジョシュアの顔を見た。
「あうあ~」
「これはこれは、ジョエル殿と」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアが侯爵に向かって笑いかける。
侯爵夫妻の顔があっという間にデレデレになった。
(さすが、ジョシュア……)
微笑みの天使と呼ばれるだけある。
「父上、母上! 何をデレデレしてるんですか! 別にたかが赤ん坊……」
「あうあ!」
抱っこされたままジョシュアがカス男にグイグイ迫って顔を近づける。
「な、なんだ……?」
「あうあ、あうあ、あうあ」
「くっ……」
ニパッの三段攻撃にはさすがのカス男もよろめいた。
しかし、そんな今のジョシュアの言葉は通訳されなくても何となく分かる。
(カス男、カス男、カス男───)
「いや~、まさかジョエル殿と噂のお子様に出迎えてもらえるとは! とても光栄です、ハッハッハ!」
「……こっちだ」
「あうあ~」
こうして、ウィンスレット侯爵家ご一行は、二人の“方向音痴”に道案内されることになった。
(ホ~ホッホッホッ! さっそくおかしな方向に曲がって行ったわぁ)
彼らを迷宮入りさせている間に私は着替えとその他の準備を始めた。
✲✲✲✲✲
ついに、カスおがとーじょーしたです!
ボクとおとーさまで、おでむかえしました。
そして、ボクとおとーさまでこれから、カスおたちを“じごくにごあんない”するのです!
「あうあ~」
───おや? おとーさま、どこにいくです?
ボクがたずねると、おとーさまはおめめで“おへやはこっちだろう?”といいます。
めでかたるおとーさまとは、こうしてかいわをするのです。
「あうあ!」
───ちがうです
おとーさまのまゆがピクリとしました。
これは“なんだって?”とおどろいているおかおです。
「あうあ」
───だいじょーぶです。つぎのかどをひだりにまがるともどれるです!
ボクがニパッとわらってそうつたえると、おとーさまはホッとしたようにボクのあたまをナデナデしてくれました。
こうして、ボクとおとーさまはつぎのかどをまがります。
「さすが、ギルモア家の邸だな……広い」
「ええ、そして廊下に飾られてる物も高級品ばかり、さすがだわ」
これは、カスおのおとーさまとおかーさまのこえです。
“このひとたちには、ちょくせつうらみはないけど、カスおのりょーしんとしてせきにんをとってもらわなくちゃいけない”ひとたちだそーです。
(おばーさまのことばは、むずかしーです……)
それより、もんだいはカスおです。
きょーも、かわいいかわいいボクのことを“たかがあかんぼう”といったです……
(あとで、ペチペチのけーにしょするです!!)
ボクはそうきめました。
そんなカスおがキョロキョロしながらいいました。
「さっきからずっと右、右、右…………いつまで歩かせるんだよ」
「ダレン!」
「いや、でも……」
「ギルモア家は広くて有名なのよ!」
「だんだん、薄暗くなってるような……」
うるさいカスおです……
ボクとおとーさまはりっぱにしめーをはたしているです!
「あうあ~」
───おとーさま! つぎも、ひだりです~
おとーさまはコクリとうなずきました。
ボクもニパッとわらいかえします。
「父上! ですが、ほらまた右に曲がっ……」
「ダレン!」
カスおは、おとーさんにメッされてシュンッとなりました。
「それより、ダレン。そろそろシャーリー嬢との結婚式の準備を進めるぞ」
「え? あ、ああ」
「分かっているな? レッドマン子爵家と親戚になれば今以上に恩恵を受けられるようになる大事な結婚だ」
「そうよ。結婚後はまず我が家の取り分を増やすように指示してゆくゆくは……」
「わ、分かってるよ! ………………チッ」
(はっ! なんだか、とってもわるいおかおしてるです!!)
しかも、カスおはちいさなこえで、
“チッ、なんでおれがあんなつまんねぇ、じみおんななんかと”
といったです。
よくわからないけど、おねえさんをバカにしたきがします。
(ペチペチのけー、にばいにするです!)
それからも、ボクたちはいっぱいあるいたです。
「……ねえ、あなた。ハァハァ、さすがに……おかしくない?」
「しっ! バカを言うな」
「ハァハァ、いや、父上。もう、ギルモア家に到着してかれこれ一時間は……」
「き、気のせいだ! ハァハァ……」
どうやら、カスおたちは、そーとーななんじゃくものです。
このまま、うめてもよさそうです。
「あうあ~」
ボクはおとーさまにききましたが、“まだダメだ”といわれました。
“ははうえがたくさんいたぶってからだ”といいます。
「あうあ」
いたぶる……
なんだか、とてもおいしそーです。
おいしそーなごはんをそーぞーして、ボクがよだれをたらしていたら、おとーさまがめずらしくおくちをひらきました。
「……ジョシュア、いいか? 俺たちの使命は彼らを母上の元に案内することだ」
「あうあ!」
───はい、おとーさま!
こうして、ボクとおとーさまで、おばーさまのまつおへやにカスおたちをあんないしたです。
でも……
「あ、足がぐぁぁ……ハァハァ……うっ、」
「ハァハァ、もう、歩けないぃぃ……」
「なんで、ハァハァ、ずっと曲がるのが右だったんだよぉぉ……」
なんだかとってもうるさかったです。
「ホ~ホッホッホッ! さすがジョエルとジョシュアね! 疲れ果てて気絶してるわぁ!」
おきがえをすませたおばーさまが、おねんねしたカスおたちをみて、たからかにわらいます。
なんと、カスおたちは、おばーさまのまえにとーちゃくしたら、パタリとおねんねしちゃいました。
「さあ、ジョシュアにアイラ! あなたたちの自慢のそのお手手で、思う存分、彼らを叩き起こしてやりなさい!」
「あうあ~!」
「ぅぁ~!」
こうして、ボクとアイラはおねぼーさんたちをおこすしめーもうけおったのです。
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