25 / 70
ギルモア家と愉快な人々の日常
ギルモア家にようこそ!【ガーネット】
しおりを挟む「あうあ~~」
ペチペチペチ……
「ぅぁ」
ペチペチペチペチ……
部屋の中では、ベビーたちのキャッキャした笑い声とペチペチ音だけが響く。
「ホーホッホッホッ! いい音ね、ジョシュア、アイラ」
「あうあ!」
「ぅぁ!」
「ホーホッホッホッ! いいお返事だこと」
私の声に乗せて気絶している三人を、二人は文字通り叩き起こし始めた。
「あうあ、あうあ、あうあ~」
「ん?」
カス男にペチペチしながらジョシュアが何か訴えている。
私は指をパチンと鳴らしてジョルジュに通訳させた。
「……カス男は軟弱だったです───と言っている」
「軟弱?」
「あうあ~」
「僕とお父様は立派にお部屋までご案内したのに……と怒ってるな」
「ホホホ……」
迷子の自覚がないって、本当にやべぇわ。
二人は本気で“この道だ”と思って進んでいるわけだから、彼らからすれば嘘は感じないし、相当戸惑ったでしょうね!
(しかも、右にばっかり曲がっていたようねぇ……)
「あうあ、あうあ~~」
ジョシュアは、ペチペチしながらさらに何かを訴えた。
「ん? しかも、悪いお顔してたです?」
「悪い顔?」
「あうあ、あうあーー」
「ふむ。結婚式のお話しながら、おねえさんのことを、“つまんねぇ、じみおんな”と呼んだり、おうちをもらうと話してた……?」
(おうちをもらう……?)
私は、もしや……と思った。
ウィンスレット侯爵たちは、カス男とシャーリーを結婚させたら、さらに子爵家の事業に口出して最終的には乗っ取るくらいのつもりでいたんじゃ……?
「……なるほどねぇ」
「ガーネット?」
私がニヤリと笑うとジョルジュは不思議そうに小首を傾げた。
「ホーホッホッホッ! ジョシュア、アイラ! もっと元気よく起こしてあげてよろしくってよ!」
「あうあ~」
「ぅぁ~」
しばらく二人のペチペチという名の叩き起しは続いた。
そうして───
「う……ぐぁ」
「あうあ!」
やがてケホケホと苦しそうに咳をしながらカス男たちは意識を取り戻した。
「───ホホホ! それでは改めて、ウィンスレット侯爵家の皆さん。ギルモア家にようこそ」
「あうあ~」
「「「……?」」」
私が三人の前に立ちそう告げると、三人は仲良くポカンとした間抜けな顔を見せた。
「オーホッホッホ……いったいなんのことかしらって顔ねぇ? ねぇ、ジョルジュ」
「…………ああ」
「「「ひっ!?」」」
私は高らかに笑う。
ジョルジュはそんな私の横でレクチャーした通りムスッとした顔で立っている。
こういう時のジョルジュは、“当主の顔”をさせて立たせておくのが一番。
もちろん、余計なことは喋らせない。
「ごめんなさいね、実は今日、パーティーではないの」
「あうあ~」
「ふぇ?」
ベビーたちの容赦のないペチペチのおかげで顔を腫らしてるせいで、返答もどことなく間抜けに聞こえる。
「ウィンスレット家を個人的に呼び出させてもらったのよ」
「あうあ~」
「よ! よよよよよ……」
サーーッと青ざめていくウィンスレット侯爵。
きっと今頃、あの生きて帰れないとかいう不本意な噂が頭の中を駆け巡っているのでしょう。
「な、なへ…………って、なんか、しゃへりにくい……な?」
「ちち、え、なんらかおれたちの頬ふぁ……」
「ひっ、わたひたち、ひほいかおしてるわぁーーー」
「あうあ~」
互いの顔を見てギョッとするカス男たち。
その様子を見てジョシュアが楽しそうにキャッキャしている。
「ホホホ、あなたたちが中々目を覚まさないから、心配して我が家のベビーたちが懸命に起こそうとしたのよ」
「なっに!?」
「なんれこんな……!?」
「あうあ~~」
ニパッ!
ジョシュアが可愛い笑顔を振りまく。
アイラは特に言葉を発せずにじーーっと三人を見つめる。
「うっ、かわいい……」
「あ、あかんほうだひ……ひかたない」
文句を言おうとしていたウィンスレット夫妻は、一瞬で仕方ないと黙り込んだ。
(チョロい!)
やっぱりベビーは無敵ね~と内心でケラケラ笑っていると、そこへ惑わされなかったカス男だけが文句を言い始めた。
「───ちち、へ! はは、へ、はまさえるな!」
「「え?」」
「あうあ~」
「こへは! むひゃきなふいをひて、あざとにちはいはい!」
シンッと部屋の中が静まり返る。
カス男は、ビシッとジョシュアを指さして何か言ったけど、まともな言葉にならなかった。
「……くっ!」
カス男は自分でも何言ったのか分からなかったのか悔しそうに押し黙る。
「あうあ~」
ニパッ!
すかさずジョシュアが天使のような微笑みで慰めた(多分)
「ホホホ、ばっちり目が覚めた所で本題に入りましょうか」
私の言葉に三人はビクッと身体を震わせて怯えた目を向けてくる。
楽しくなってきた私はニヤリと笑った。
「ふふふ───今、あなたたちが担っているレッドマン子爵家との事業なのだけど」
「!」
「あうあ~」
「マルっと全権、ギルモア家にくれないかしら?」
三人の目がギョッと大きく見開いた。
そして当然、強く反発してくる。
「は、ははなほほをいうな!」
「ほうよ!」
「あらそう? でも───」
私は肘掛に頬杖をつきながらフッと笑った。
そして事前に調査した時の資料をテーブルの上にパサッと置いた。
「ちょっと今回、色々と調べさせてもらったのだけれど、」
「あうあ~」
「この収支報告書……一見、問題なさそうに見えるのだけど、よーーく突き詰めてみるといくつか不審な点があるのよねぇ……」
「「!!」」
「あうあ~」
「特にここ最近の数字が……」
ヒッと息を呑む侯爵夫妻。
私は書類を指さしながらにっこりと笑う。
「これ、一つずつ説明した方がいいかしら?」
青白い顔でフルフルと首を横に振る夫妻。その目線がチラチラ息子に向いている。
そんなカス男も口をパクパクさせて言葉を失っていた。
(なるほどねぇ、カス男の入れ知恵ってとこかしら)
「もひ、わへんへが、ひょ、ひゃうたくしなはったら……?」
「え? 承諾しなかったら?」
侯爵の質問に私はニンマリと笑って口元を緩めると、素早く立ち上がる。
三人は何事かと顔を見合せた。
「───このまま、着いてきなさい」
「あうあ~」
一行は怯えた様子で静かに私の後に着いてきた。
連れて来たのは我が家の穴が掘られてボコボコになっている庭。
「……こ、こは」
「我が家の庭よ!」
「あうあ~~」
私がにっこり笑って答えると侯爵たちの視線がボコボコになった地面に向かっている。
そしてゴクリ……と唾を飲み込んだ。
「お、おおひいあな、たくはんでふね……?」
侯爵が青白い顔のまま私に問いかける。
「ええ。大きいでしょう? 今日のために皆でたくさん掘ったのよ」
「あうあ~~」
ずっと会話に口を挟んでいたジョシュアが、ここでもはいはーい、ボクもがんばりました~~と言わんばかりに身を乗り出してくる。
「ほっは……」
「ええ、掘ったわ」
そのまま黙り込む侯爵。
目線は穴に釘付け。
(ホーホッホッホッ! あえて焦らすことで不安を煽るわよ~~)
今、侯爵たちの頭の中は絶対にこう思っている。
───これは、自分たちを埋める気なんじゃって。
「侯爵はご存知だと思うけど」
「あうあ~」
「私って昔から自分に逆らおうとする人間は───」
「ひ、ひぃぃぃ!?」
「いやぁぁぁ!?」
私の言葉を遮って突然、悲鳴を上げる侯爵夫妻。
カス男も顔面蒼白でその場に固まっている。
「ま、まひゃか、はいきん、ふにゃーりゃはくひゃくが、ひゃほうはいからきえたのは……!」
「しょんな! ましゃか、そこに……!?」
(……ん?)
侯爵夫妻の目線がボコボコになってる庭の穴に向かう。
この人たち、勝手に怯えて何か言っている……
どこぞの伯爵が社交界から姿を消したのはそこに埋まってるからとか言い出してるんだけど?
「あうあ!」
ここでジョシュアがニパッと笑って適当に返事をしたものだから、夫妻はやっぱりぃぃと悲鳴を上げて更に青ざめた。
どうやら、ジョルジュたちが連日せっせとたくさん庭を掘りすぎたので、すでにあの中には最近、“誰か”が埋められていると勘違いした様子。
(随分とたくさん掘ってるなとは思っていたけど……)
私はチラッとジョルジュの顔を見る。
「ん? ガーネット、どうした?」
「……なんでもないわ」
ジョルジュの場合、それがこういう反応になることを計算してのことなのか、ただただ庭掘りが楽しかっただけなのか判断がつかない。
(まあ、いいわ)
勝手に勘違いしてるならそれは好都合。
私はフフフと笑って腕を組んだ。
「さぁて、ウィンスレット侯爵? さっきの話のお返事───聞かせてもらえるかしら?」
「あうあ~~!」
(ジョシュア……)
せっかく悪女のように微笑んでいるのに、何だかずっと微笑みのベビーに邪魔されているような気がした。
192
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる