最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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ギルモア家と愉快な人々の日常

ギルモア家にようこそ!【ガーネット】

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「あうあ~~」

 ペチペチペチ……

「ぅぁ」

 ペチペチペチペチ……
 部屋の中では、ベビーたちのキャッキャした笑い声とペチペチ音だけが響く。

「ホーホッホッホッ! いい音ね、ジョシュア、アイラ」
「あうあ!」
「ぅぁ!」
「ホーホッホッホッ! いいお返事だこと」

 私の声に乗せて気絶している三人を、二人は文字通り叩き起こし始めた。

「あうあ、あうあ、あうあ~」
「ん?」

 カス男にペチペチしながらジョシュアが何か訴えている。
 私は指をパチンと鳴らしてジョルジュに通訳させた。

「……カス男は軟弱だったです───と言っている」
「軟弱?」
「あうあ~」
「僕とお父様は立派にお部屋までご案内したのに……と怒ってるな」
「ホホホ……」

 迷子の自覚がないって、本当にやべぇわ。
 二人は本気で“この道だ”と思って進んでいるわけだから、彼らからすれば嘘は感じないし、相当戸惑ったでしょうね!
  
(しかも、右にばっかり曲がっていたようねぇ……)

「あうあ、あうあ~~」

 ジョシュアは、ペチペチしながらさらに何かを訴えた。

「ん? しかも、悪いお顔してたです?」
「悪い顔?」
「あうあ、あうあーー」
「ふむ。結婚式のお話しながら、おねえさんのことを、“つまんねぇ、じみおんな”と呼んだり、おうちをもらうと話してた……?」

(おうちをもらう……?)

 私は、もしや……と思った。
 ウィンスレット侯爵たちは、カス男ダレンとシャーリーを結婚させたら、さらに子爵家の事業に口出して最終的には乗っ取るくらいのつもりでいたんじゃ……?

「……なるほどねぇ」
「ガーネット?」

 私がニヤリと笑うとジョルジュは不思議そうに小首を傾げた。

「ホーホッホッホッ! ジョシュア、アイラ! もっと元気よく起こしてあげてよろしくってよ!」
「あうあ~」
「ぅぁ~」

 しばらく二人のペチペチという名の叩き起しは続いた。
 そうして───

「う……ぐぁ」
「あうあ!」

 やがてケホケホと苦しそうに咳をしながらカス男たちは意識を取り戻した。



「───ホホホ! それでは改めて、ウィンスレット侯爵家の皆さん。ギルモア家にようこそ」
「あうあ~」
「「「……?」」」

 私が三人の前に立ちそう告げると、三人は仲良くポカンとした間抜けな顔を見せた。

「オーホッホッホ……いったいなんのことかしらって顔ねぇ? ねぇ、ジョルジュ」
「…………ああ」
「「「ひっ!?」」」

 私は高らかに笑う。
 ジョルジュはそんな私の横でレクチャーした通りムスッとした顔で立っている。
 こういう時のジョルジュは、“当主の顔”をさせて立たせておくのが一番。
 もちろん、余計なことは喋らせない。

「ごめんなさいね、実は今日、パーティーではないの」
「あうあ~」
「ふぇ?」

 ベビーたちの容赦のないペチペチのおかげで顔を腫らしてるせいで、返答もどことなく間抜けに聞こえる。

ウィンスレット家あなたたちを個人的に呼び出させてもらったのよ」
「あうあ~」
「よ! よよよよよ……」

 サーーッと青ざめていくウィンスレット侯爵。
 きっと今頃、あの生きて帰れないとかいう不本意な噂が頭の中を駆け巡っているのでしょう。

「な、なへ…………って、なんか、しゃへりにくい……な?」
「ちち、え、なんらかおれたちの頬ふぁ……」 
「ひっ、わたひたち、ひほいかおしてるわぁーーー」
「あうあ~」

 互いの顔を見てギョッとするカス男たち。
 その様子を見てジョシュアが楽しそうにキャッキャしている。

「ホホホ、あなたたちが中々目を覚まさないから、心配して我が家のベビーたちが懸命に起こそうとしたのよ」
「なっに!?」
「なんれこんな……!?」
「あうあ~~」

 ニパッ!
 ジョシュアが可愛い笑顔を振りまく。
 アイラは特に言葉を発せずにじーーっと三人を見つめる。

「うっ、かわいい……」
「あ、あかんほうだひ……ひかたない」

 文句を言おうとしていたウィンスレット夫妻は、一瞬で仕方ないと黙り込んだ。

(チョロい!)

 やっぱりベビーは無敵ね~と内心でケラケラ笑っていると、そこへ惑わされなかったカス男だけが文句を言い始めた。

「───ちち、へ! はは、へ、はまさえるな!」
「「え?」」
「あうあ~」
「こへは! むひゃきなふいをひて、あざとにちはいはい!」 

 シンッと部屋の中が静まり返る。
 カス男は、ビシッとジョシュアを指さして何か言ったけど、まともな言葉にならなかった。

「……くっ!」

 カス男は自分でも何言ったのか分からなかったのか悔しそうに押し黙る。

「あうあ~」

 ニパッ!
 すかさずジョシュアが天使のような微笑みで慰めた(多分)

「ホホホ、ばっちり目が覚めた所で本題に入りましょうか」

 私の言葉に三人はビクッと身体を震わせて怯えた目を向けてくる。
 楽しくなってきた私はニヤリと笑った。

「ふふふ───今、あなたたちが担っているレッドマン子爵家との事業なのだけど」
「!」
「あうあ~」
「マルっと全権、ギルモア家にくれないかしら?」

 三人の目がギョッと大きく見開いた。
 そして当然、強く反発してくる。

「は、ははなほほをいうな!」
「ほうよ!」
「あらそう? でも───」

 私は肘掛に頬杖をつきながらフッと笑った。
 そして事前に調査した時の資料をテーブルの上にパサッと置いた。

「ちょっと今回、色々と・・・調べさせてもらったのだけれど、」
「あうあ~」
「この収支報告書……一見、問題なさそうに見えるのだけど、よーーく突き詰めてみるといくつか不審な点があるのよねぇ……」
「「!!」」
「あうあ~」
「特にここ最近の数字が……」

 ヒッと息を呑む侯爵夫妻。
 私は書類を指さしながらにっこりと笑う。

「これ、一つずつ説明した方がいいかしら?」

 青白い顔でフルフルと首を横に振る夫妻。その目線がチラチラ息子に向いている。
 そんなカス男も口をパクパクさせて言葉を失っていた。

(なるほどねぇ、カス男の入れ知恵ってとこかしら)

「もひ、わへんへが、ひょ、ひゃうたくしなはったら……?」
「え? 承諾しなかったら?」

 侯爵の質問に私はニンマリと笑って口元を緩めると、素早く立ち上がる。
 三人は何事かと顔を見合せた。

「───このまま、着いてきなさい」
「あうあ~」

 一行は怯えた様子で静かに私の後に着いてきた。


 連れて来たのは我が家の穴が掘られてボコボコになっている庭。

「……こ、こは」
「我が家の庭よ!」
「あうあ~~」

 私がにっこり笑って答えると侯爵たちの視線がボコボコになった地面に向かっている。
 そしてゴクリ……と唾を飲み込んだ。

「お、おおひいあな、たくはんでふね……?」

 侯爵が青白い顔のまま私に問いかける。

「ええ。大きいでしょう? 今日のために・・・・・・皆でたくさん掘ったのよ」
「あうあ~~」

 ずっと会話に口を挟んでいたジョシュアが、ここでもはいはーい、ボクもがんばりました~~と言わんばかりに身を乗り出してくる。

「ほっは……」
「ええ、掘ったわ」

 そのまま黙り込む侯爵。
 目線は穴に釘付け。

(ホーホッホッホッ! あえて焦らすことで不安を煽るわよ~~)

 今、侯爵たちの頭の中は絶対にこう思っている。
 ───これは、自分たちを埋める気なんじゃって。

侯爵あなたはご存知だと思うけど」
「あうあ~」
「私って昔から・・・自分に逆らおうとする人間は───」
「ひ、ひぃぃぃ!?」
「いやぁぁぁ!?」

 私の言葉を遮って突然、悲鳴を上げる侯爵夫妻。
 カス男も顔面蒼白でその場に固まっている。

「ま、まひゃか、はいきん、ふにゃーりゃはくひゃくが、ひゃほうはいからきえたのは……!」
「しょんな! ましゃか、そこに……!?」

(……ん?)

 侯爵夫妻の目線がボコボコになってる庭の穴に向かう。
 この人たち、勝手に怯えて何か言っている……
 どこぞの伯爵が社交界から姿を消したのはそこに埋まってるからとか言い出してるんだけど?

「あうあ!」

 ここでジョシュアがニパッと笑って適当に返事をしたものだから、夫妻はやっぱりぃぃと悲鳴を上げて更に青ざめた。
 どうやら、ジョルジュたちが連日せっせとたくさん庭を掘りすぎたので、すでにあの中には最近、“誰か”が埋められていると勘違いした様子。

(随分とたくさん掘ってるなとは思っていたけど……)

 私はチラッとジョルジュの顔を見る。

「ん? ガーネット、どうした?」
「……なんでもないわ」

 ジョルジュの場合、それがこういう反応になることを計算してのことなのか、ただただ庭掘りが楽しかっただけなのか判断がつかない。

(まあ、いいわ)

 勝手に勘違いしてるならそれは好都合。
 私はフフフと笑って腕を組んだ。

「さぁて、ウィンスレット侯爵? さっきの話のお返事───聞かせてもらえるかしら?」
「あうあ~~!」

(ジョシュア……)

 せっかく悪女のように微笑んでいるのに、何だかずっと微笑みのベビーに邪魔されているような気がした。
 
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