26 / 70
ギルモア家と愉快な人々の日常
ジョシュアは許さない【ガーネット】
しおりを挟む「あうあ~~」
「はいはーい、ジョシュア。今ね、すっご~~~くいいところなのよ」
「あうあ!」
とにかく前のめりに出て来ようとするジョシュアを私はどうにか引っ込めようとする。
しかし、ジョシュアはニパッと笑うだけ。
(コイツ……!)
困った私にジョルジュがこそっと耳元で囁く。
「ガーネット。ジョシュアは──分かってるです、ボクはおばーさまのお手伝いしてるです~と言っている」
「……そう、私のお手伝い」
「ジョシュアなりに彼らを脅しているらしい」
「あのニパッ、で?」
その気持ちは有難いけど、どう見てもにこにこ微笑んでる可愛いベビーなのよね。
「あうあ~」
ニパッと笑って何か言ってるジョシュアを横目に、気を取り直した私はウィンスレット侯爵の反応を待つ。
目の前に広がる自分のお墓(予定)を見せつけられている彼らは青ざめてガタガタ震えるばかり。
(なら、先に切り出そうかしらね~)
そう考えた私はチラッと後方を見た。
そしてフフッと口元を緩めるとカス男に向かって訊ねる。
「そうそう、当然あなたとレッドマン子爵令嬢の婚約も解消になるけれど問題ないわよね?」
「あうあ~」
「え、ぁっ……?」
カス男がハッと我に返った。
ウィンスレット侯爵家がレッドマン子爵の事業から手を引けば、婚約を続ける意味はない。
「当然、それ相応の慰謝料を彼女に払って貰うわよ?」
「あうあ~」
「い、いひゃりょう!?」
なんで俺が───カス男はそう言いたそうに口をパクパクさせ目を大きく見開いた。
私はそんなカス男に向かって高らかに笑う。
「オ~ホッホッホ! そんなの当然でしょう? あなた自分が彼女に対して何をして来たか忘れたとでも言うつもり?」
「あうあ~」
「……うぐっ」
カス男が悔しそうに唇を噛み下を向く。
「おひ、な、なんのはなひ、だ……?」
「だえん?」
そんな息子の反応に顔をしかめる侯爵夫妻。
私は三人に向かってにっこり笑う。
「ああ、安心して? この私の調査と彼女からの聞き取りで、それ相応の慰謝料を計算してあげたわ───セアラさん」
「はい!」
私がパンパンと手を叩くとセアラさんが予め持っていた資料を三人に見せた。
「お義母様からの指示で私が計算してまとめた結果がこれです」
それを見た三人の顔色が一気に悪くなる。
そして当然ながら侯爵は激昂した。
「なんら、このきんはくはーー! おかひいだろう!」
「いいえ、おかしくなんてありません」
「あうあ~」
侯爵に負けずにキッパリと答えるセアラさん。
「本当はそこのあなたの息子さんから受け続けたレッドマン子爵令嬢の精神的苦痛を思えばまだまだ安いくらいです!」
「あうあ~」
「せいひんてき、くふう……?」
「……っっ」
説明を求めるようにカス男に侯爵は視線を向けるけど、カス男は下を向いたまま答えない。
ふると、ここでこれまで本人曰く“お手伝い”をしていたらしいベビー、ジョシュアが動いた。
「あうあ~」
「ん? ジョシュア、どうしたのよ?」
「あうあ!」
私が首を傾げているとジョルジュが私の耳元で言った。
「そろそろボクの出番です~と言ってるぞ」
「僕の出番?」
ニパッと私たちに笑ったジョシュアはトコトコとカス男の元に向かう。
そしてジョシュアは俯いているカス男の下に潜り込んで顔を覗き込んだ。
「あうあ~~」
「ひっ!? なんりゃ!?」
突然、ベビーに覗き込まれて悲鳴をあげるカス男。
「あうあ~~」
「!」
ニパッ! とカス男に笑いかけるジョシュア。
追い詰められ絶望を感じている最中のカス男には、それが天使の微笑みにでも感じたのか少し表情が和らいだ。
(……悪魔の微笑みなのにねぇ)
ジョシュアのことだから、可愛い顔で油断させてまたここで更なるビンタの一発でも喰らわせるのかしら? そんな微笑ましい気持ちで私は見守る。
「あうあ、あうあ、あうあ~」
「え、あ……」
しかし、なぜかジョシュアはカス男の手を引いて立たせた。
そして一緒に歩き出し、最後にニパッと笑う。
「もひかひて……お、おえをゆるしてくれる、のか?」
「あうあ!」
(え? 許すの? あのジョシュアが!?)
私が信じられない気持ちでハラハラ二人を見つめていたら、再びジョシュアはニパッと笑いかけ───
「あうあ!」
「わっ!?」
なんと、その場から一番近くの穴の前でどーんとカス男に体当たりした。
「わ、わわわわ……」
「あうあ~~」
ドンッ
グラッと体勢を崩して慌てるカス男に、すかさず再度ジョシュアは体当たりし……
「うわぁぁああぁあ!?」
「あうあ~」
ドサッ……
こうしてカス男は、数ある穴の中でもそこまで深くはない“一番小さな穴の中”に落ちた。
(ええええええ!?)
うちのお孫さん、何してるの!?
「ジョルジュ! 今のはなに!?」
さすがの私も驚いてジョルジュに説明を求めた。
「ん? なにってカスな男が一番小さな穴に落ちただけだろう?」
「そ! そうだけど、そうじゃないわよ!! ねぇ、ジョシュアは……」
「ジョシュア?」
ジョルジュの視線がジョシュアに向かう。
「あうあ~」
「お、おひぃ! きさま、なひをふふ!? 」
「あうあ~」
何をする!? と叫んでいるカス男にニパッと笑いかけているジョシュア。
「ああ。ジョシュアは、ボクたちの掘った穴を見せてやるです~と言ってあの男を自分が掘った穴に誘導した」
「え、ええ。確かにあの穴はジョシュアが掘った穴ね」
そう。
カス男が落ちた穴は、ほとんど大人の手を借りずにジョシュアとアイラ。
そしてナターシャが半泣きで掘ったもの。
だから、あの穴は他と比べて極端に小さい。
なんなら、そのまま自力で出られる深さだし、埋められるほどの大きさではない。
けれど、カス男からすれば突き落とされた事実は恐怖そのもの───
必死にジョシュアに向かって喚いている。
「そして、さっさとおねえさんにごめんなさい、するです、と要求しているな」
「ジョシュア……」
「でも、ボクは許しません! と言って体当たりした」
「えええ……」
そこでバランスを崩したところで再度体当たりって……えげつない。
何が怖いってそれが全てニパッと可愛い笑顔でやってのけてるところ。
「な、なんなんりゃ、おまへは……!」
「あうあ~」
ニパッ!
───ジョシュア・ギルモアです~(通訳:ジョルジュ)
「今の、わあとか!?」
「あうあ~」
ニパッ!
───おまえをうめるです~(通訳:ジョルジュ)
「きひゃま! きゃ、きゃわいいかおひて……!」
「あうあ~」
ニパッ!
───ボクはかわいいです~(通訳:ジョルジュ)
なんなんだお前はと聞かれ、自己紹介。
わざとかと問われて一言、お前を埋める。
可愛い顔して……と言われれば、僕は可愛いです……
(ジョシュアがジョシュアすぎる!)
まあ、ジョシュアの本心はいまいちよく分からないけれど、私はこの状況を利用させてもらうことにした。
私は次なる手をくりだすため、カス男とジョシュアのそばに近づく。
「オ~ホッホッホ! 今日のために作り上げた我が家の穴の居心地はどうかしら?」
「う、ぐっ」
「ジョシュアは、あなたからレッドマン子爵令嬢への謝罪を要求しているわ?」
「あうあ~」
ニパッ! と笑いながらジョシュアは両手をあげた。
「さっさと、自分のしたことを告白して反省しないと、あなたはこのまま土に……」
「あうあ~」
「う、うあああ!? わひゃった、わひゃった……おへは、こんにゃくにゃが、あんなじみえ、つみゃんない女なにょが不満え……」
レッドマン子爵令嬢のことを地味でつまらない女と呼び、それが不満だったと吐露し始めるカス男。
「だから、彼女を悪者にして他の令嬢たちに嘘をついて悲劇のヒーローぶってたわけ?」
「あうあ~」
「そ、そうりゃ!」
カス男ははっきり“そうだ”と認めた。
「……でも、それを利用して随分と幅広~く色んなお嬢さんに手を出しているわよね?」
「あうあ~」
「うっ、それは……」
ここで一旦言葉を詰まらせたカス男にジョシュアの笑顔が迫る。
「あうあ」
「うっ、」
「あうあ~」
「……う、うう」
「あうあ、あうあ~」
「うわぁぁあ……! そうれす、あそひ、あそひだったからぁぁ」
“遊び”だった───今、カス男は確かにそう認めた。
その発言を聞けた私は内心でほくそ笑むと、カス男に向けて高らかに笑った。
「ホーホッホッホッ! その言葉が聞けてよかったわぁ」
「え……」
私はにっこり笑って背後を振り返る。
そして、パンパンと手を叩いた。
「はいはーい、お嬢さんたち、出てらっしゃい。今の聞こえていたかしら~」
「!?」
ビクッとカス男の身体が跳ねた。
そしておそるおそる私の背後に視線を向ける。
そこからぞろぞろと顔を出したのは───シャーリー嬢とカス男が懇意にしていた令嬢たち。
「な、なんれここに……」
「あうあ~」
見覚えのある顔ぶれの登場に絶望の表情を浮かべたカス男に私はにっこり微笑む。
「なんでここにって、私が呼んだからに決まってるでしょう?」
「あうあ~」
「!」
「ほら、お嬢さん同士で積もる話もあるかしらと思って。せっかくだから話し合いの場にギルモア家を提供したのよ」
「あうあ~」
「なっ……!」
キッと私を睨みつけてくるカス男。
私はそんな怖くもない小者なカス男に向かって鼻で笑う。
「なぁに? 何か問題でもあって?」
「……ぐ、うぅ」
どす黒いオーラを放ちながらこちらに近づいてくるお嬢さんたちの姿を見ながらガクッと項垂れるカス男。
そんな息子を助けることもせず、この展開に着いてこれず硬直して動かない侯爵夫妻。
(ホ~~ホッホッホッ! この顔が見たかったのよ~~)
「あうあ、あうあ~~」
パラパラ……
(ん?)
「あうあ~、あうあ~~」
そして、私が内心で高らかに笑っている間。
そんな絶賛絶望中のカス男にジョシュアは満面の笑みを浮かべながら、小さな手でせっせと頭から少しずつ土を被せ始める。
「……ぅぁ」
そして、そんなジョシュアを真似ようと、アイラも近づくとカス男にせっせと土を被せ始めた。
213
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる