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ギルモア家と愉快な人々の日常
祝杯【ガーネット】
しおりを挟む「あうあ~」
「ぅぁ」
ジョシュアとアイラは楽しそうにカス男に土をかけていく。
「ジョエル様、見てください。アイラの目が珍しく輝いています!」
「ああ」
セアラさんの発言を聞いてよーくアイラの顔を見てみると、確かにいつもの無表情が崩れて微笑ん…………いや、ニヤリと笑っているように見えた。
(アイラもアイラで怒ってたものねぇ……)
「───ダレン様、お話は聞かせてもらいました」
「あ……」
一番最初に声をかけたのは、シャーリー嬢。
ベビーたちに土をかけられながら呆然としているカス男が顔を上げた。
「でも、私たち───もう少しあなたから詳しくお話を聞きたいのです」
「う……」
「構いませんよね?」
“私たち”そう言った彼女の後ろからも圧がすごい。
カス男は圧倒されて押し黙る。
「あうあ!」
ここでジョシュアがシャーリー嬢にニパッと笑いかける。
彼女はジョシュアにありがとう、とお礼を言った。
「あなたのおかげで、ダレン様の情けない姿がたくさん見れたわ」
「あうあ!」
「こんな小さな穴に落ちた時のダレン様の慌てようといったらマヌケ…………ふふ、ふふふふふ」
シャーリー嬢がクスクスと笑う。
「あうあ!」
ニパッとジョシュアが笑い返す。
「あのね? ダレン様の様子を覗きながら、他の皆様ともちゃんと話せたのよ」
「あうあ」
「誤解していてごめんなさいって謝ってくれたの」
「あうあ」
ニパッ!
「だから、本当にありがとう」
「あうあ~~」
───おねえさんたちもいっしょに、こいつをうめるです~~(通訳:ジョルジュ)
ニパッと可愛く笑ったジョシュアが令嬢たちにもお誘いをかけている。
でも、さすがに土に触れて手を汚すことは躊躇いがあったのか令嬢たちは困ったように顔を見合わせる。
(それはそうよねぇ……)
平民のお嬢さんは平気そうな顔をしているけど、貴族令嬢は普通、土いじりなんてしない。
「……ガーネット。これはついに出番かもしれない」
「うん? 出番?」
横でせっせと通訳に励んでくれていたジョルジュが妙なことを言い出した。
そして指をパチンッと鳴らして使用人を呼ぶ。
「ジョルジュ?」
「どうだ? 今のはガーネットの真似だ!」
「!」
得意そうに胸を張る夫にクスッと笑っていたら使用人が秒ですっ飛んで来た。
なぜかその手には箱を持っている。
中には、たくさんのスコップ。
「……」
私は箱から視線をあげると無言でジョルジュの顔を見つめる。
「いつかこんな時が来ると思って用意させていた、来客用のスコップだ!」
「来客用のスコップ……!」
きっと、ジョルジュの元に嫁がなければ一生聞くことが無かったであろうフレーズ。
「これを令嬢たちに渡してやれ」
「承知いたしました、旦那様」
使用人は箱を持ったまま、頭を下げて素早く令嬢たちの元へと向かって行く。
突然のスコップの登場に目を丸くする令嬢たち。
しかし、戸惑ったのも一瞬。
彼女たちはアイラのように目を輝かせ、スコップを手に取り────
きっと、他では見られないであろう、前代未聞な土をかけながらの断罪が開始した。
────
「オ~ホッホッホッホ! ギルモア家は新たな収入源を手に入れたわ~~」
グビッ、グビッ、グビッ
その夜、カス男を無事に退治した私は部屋でジョルジュと祝杯をあげた。
「相変わらず、全てガーネットの手のひらの上でコロコロだったな」
「ホーホッホッホッ! 当然でしょう?」
「しかし、あの男がどんどん土に埋まっていく様子はなかなか面白かったな」
グビッ
「ええ、そうね」
グラスの中のお酒を飲み干しながら私も頷く。
ジョルジュが私も知らないうちに勝手に用意していたスコップという手を汚さずに済む道具を手に入れてからの令嬢たちは凄かった。
尋問しながら、カス男が嘘をついたり不誠実な回答をすれば問答無用で土を被せていく……
「誰のことが一番好きなの? と問われて“全員だ”と答えた時はマヌケすぎて笑いが止まらなかったわ」
「あれでほぼ土に埋まったからな」
グビッ、グビッ……
「とはいえ、レッドマン子爵家にはもちろん、他の令嬢たちにもそれぞれ慰謝料払うことが決まったし、不正を働いたいた分の諸々も精算しようとすると───ウィンスレット侯爵家はこれから大変ね」
ホ~~ホッホッホッと私は高らかに笑う。
「だが俺としては完全に埋めたかったのだが」
「……ホホホ。幸か不幸か窒息寸前で尋問は終わっちゃったからねぇ」
「ジョシュアもあと少しだったのにと不満そうだったな」
「アイラもよ……」
でも、本格的に埋められなかったことに関しては不満そうだったけど、
ジョシュアは、“おねえさんがニコニコしてるならいいです”と言っていたという。
「本当にジョシュアは“お姉さん”が好きよね」
グビ、グビ、グビッ……
「お姉さんというより、ガーネットみたいな強い女性が好きなんだと思うぞ?」
「んぇ?」
ジョルジュの言葉に私のお酒を飲む手が止まる。
「ジョシュアはガーネットのことが大好きだからな」
「……!」
「そして、俺も大好きだ」
「ジョルジュ……」
愛する夫にトクンッと胸をときめかせたその時だった。
ジョルジュが満面の笑みで言った。
「さあ、ガーネット! 約束だ、今夜は踏んでくれ!」
「……!」
目をキラッキラに輝かせたジョルジュが、どこに置いていたのかメイド服片手に迫って来る。
「あ、あなた、それ本気……だったの」
「何がだ?」
キョトンとした顔をするジョルジュ。
(そうだったわーー)
ジョルジュの中に“冗談”などという言葉はない。
回りくどいことなんてしない。何時でもどこでも直球を投げつけてくる。
それが、ジョルジュ・ギルモア。
「……っ」
「さあ、ガーネット!」
「…………っっ」
「さあさあさあ!」
グイグイ圧をかけながら迫って来るジョルジュ。
ジョシュアの謎の押しの強さはこんな所が似たのかもしれない。
「くっ……」
(こんなの素面では無理よーーーー)
私はテーブルの酒瓶を掴むと、グラスではなく瓶ごと一気に飲み干した。
「ガーネット?」
「ホーホッホッホッホホッホッホッ! さあ、ジョルジュ。さっさとそこに転がりなさい!」
「!」
そして、ジョルジュにその場で寝そべるように命令し、その手からメイド服をひったくる。
「ガーネット……!」
「オ~~~ホッホッホッホッホッホ……」
その夜、ギルモア家の邸内には私の高笑いがとてもよく響いていたという。
───そして翌日。
私は酒瓶を掴んで飲み干した後からの記憶はなかった。
ただし、二日酔いで朝、目覚めると……
メイド服を着た私と、とても幸せそうな顔で眠っているジョルジュが隣にいた。
~その頃のジョシュア~
「あうあ!」
ゴキュッゴキュッゴキュッ……
ジョシュアが大好きな最高級ミルクをグビグビ飲んでいる。
「ねぇ、ジョシュア? そのミルク何杯目?」
「あうあ!」
さすがに飲みすぎでは? と心配して訊ねるセアラにニパッと笑いかけるジョシュア。
「しゅくはいのミルクです~だそうだ。飲み方が母上そっくりだな」
ジョエルの通訳にセアラは苦笑する。
「つまり、お義母様がよくする祝杯のお酒のミルクバージョンなのね」
「あうあ」
「……祝杯はいいがジョシュア、太るぞ?」
前にジョシュアがスリムな男がうんたらと言っていたことを思い出したので、父親として一応、忠告を試みるジョエル。
しかし、ジョシュアはニパッと笑い返す。
「あうあ!」
「だいじょーぶです! ……ならいいが」
「ジョシュアの言う大丈夫って、だいたい大丈夫じゃない気がするけど……」
「あうあ~!」
ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ……
こうしてジョシュアのプニプニは今日も保たれていく。
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