42 / 70
番外編~成長後~
15. お茶会を終えて
しおりを挟む「ナターシャ、ナターシャ、見て! 皆、楽しそうだね!」
すでにあちこちでカップル誕生の気配を見せている中、ジョシュアは呑気にニパッと笑っている。
(ジョシュア……!)
うちのお孫さん、呑気すぎる!
そして、もう一人の孫アイラは、今日のために用意した山盛りのお菓子に目をつけたようで、ジョシュアにも愛でる会のメンバーに全く関心がない様子を見せている。
(アイラ……!)
今日のため奮発して普段のおやつでは出さない“最高級の菓子”を用意させたことが見抜かれてる!?
「……やはり、会員同士の絆は深いようですわね、どうやって説得して回れば彼らの目は覚めるのでしょう……」
「ナターシャ? ねぇ僕の話、聞いてる?」
「はいはい、聞いてますわよ。えっと今日はいい天気? はいはい良かったですわね、ポカポカ日和ですわ! ────……とにかく、ジョシュアがいかに最低男なのかを皆様の前で見せる必要が……」
「うんうん、今日の陽気はお昼寝したくなるよね~」
(ナターシャ……!)
ナターシャはジョシュアの隣で、皆の様子を見ながらブツブツ呟いていた。
ジョシュアからの問いかけにも空返事。
ちらほら誕生しつつあるカップルに目もくれず、ひたすら“愛でる会”を解散させる方法ばかり考えている。
「…………」
(この子たち────ダメだわ)
私は無言でスススッと扉の前から離れた。
「どうしたんだガーネット。覗き見は止めて突入か?」
「しないわよ!」
ワクワクした顔で聞いてきたジョルジュを跳ね除ける。
ジョルジュは怪訝そうな表情を浮かべた。
「突入……しないのか?」
「最初からする気なんてないわよ! で、覗き見もおしまい!」
「いいのか?」
「いいもなにも────」
この先のことは予想がつく。
アイラは、誰かと交流を深めることなくひたすらお菓子を食べまくり、後で本日の感想を聞いても、“美味しかったですわ”と答えるだろう。
女心を学ぶはずだったジョシュアは“皆、にこにこして楽しそうだったね”と呑気に笑い、ナターシャは“解散させるのって難しいですわ”と地団駄を踏むことになる……
「もう、私にはこのお茶会の未来が見えたから」
「なに!?」
クワッとジョルジュが目をつりあげた。
「さすが、ガーネットだ!」
「ホホホ、褒めても何も出ないわよ~」
「それで? ガーネットにはどんな未来が見えたんだ?」
ジョルジュは今度は子どものようにワクワクした目で訊ねてくる。
私は頬を引きつらせながら答えた。
「そうね───婚約するカップルが急増するわ」
「何の話だ? 今日はジョシュアを愛でる茶会だろう?」
「……」
色恋沙汰に疎い夫は私の言葉に不審そうな顔で首を傾げていた。
─────
数日後。
「ホ~~ホッホッホッ! 思った通り……ジョシュアへの手紙の数が倍増したわぁ~……」
「お、お義母様、こんなにたくさん……どうしましょう!?」
手紙の山を見てオロオロするセアラさん。
ジョシュアが“女心を学ぶ”ために開いたはずだったお茶会。
当の本人、ジョシュアはそんな目的はどこへやら……
ひたすら皆にニパッと微笑んでメロメロにして無事にお茶会は終了。
しかし、その脇では私が思った通り、婚約するカップルがちらほら誕生していた───
「いいこと? セアラさん。今、社交界での我が家の評判は真っ二つ」
「真っ二つ?」
私はセアラさんの目の前に二本の指を立てる。
「一つは、もうず~~っと昔から言われているけど、“ギルモア家から呼び出しを受け、訪問して生きて帰れるかの確率は半々”ってやつ」
「ああ! デンジャラスゲームと言われているやつですね!」
セアラさんがにっこり笑って答えるほど、不本意だけどすっかりこれは有名になっている。
「そうよ。そこに新たな評判が加わったわ」
「新たな?」
「ギルモア家のジョシュア……微笑みの貴公子のお茶会に呼ばれれば───運命の人と出会うことが出来る、よ!」
「運命の人と? ロマンチックですね」
わぁ、凄いと笑うセアラさん。
いいえ! これは笑ってる場合ではなくってよ!
私はダンッとテーブルを叩く。
「そこから───ジョシュア様って凄い! となり、さらには『ギルモア侯爵令息ジョシュア様を愛でる会』に入れば恋が叶うとか噂に尾ひれがつき始め……」
「え? 恋が叶う?」
これは笑っている場合ではなかったと我に返ったセアラさんが真顔になってゴクリと唾を飲み込んだ。
「ま、まさかお義母様……これ、新たに入会した人たちからの……?」
「ええ。その“まさか”よ」
改めて手紙の山を見て言葉を失うセアラさん。
「それで、ジョシュアってあれでマメな子だから、ちゃんと一人一人に返事を書いてるでしょう?」
「はい。きちんとお礼を伝える! これはおばあ様の教えですから絶対です、ってにこにこしながらたくさん返事を書いています、ね」
手紙? なんだそれ……
返事? 面倒くさい……と放置気味だったジョエルとは親子でも大違い!
ジョシュアは素直なので手紙にちゃんと直筆で返事を書いている。
「ジョシュアがどんな内容の返信をしてるのかは私も知らないわ。けれどね、手紙の返事をもらった相手はますますジョシュアのファンになっちゃうらしいのよ……」
「ジョシュア……」
セアラさんが額に手を当てながら苦悩の表情を浮かべる。
「そして、会長であるナターシャの元には、入会希望依頼が殺到……」
「お義母様! 大変です。ナターシャが発狂している様子が目に浮かびます!」
ついでにセアラさんは、
エドゥアルト様は、はっはっは! ナターシャは人気者だな~と笑っています、とも口にした。
同意しかない。
「で、肝心のジョシュアはあのお茶会で女心を学べたかと言うと……」
「お義母様、これは断言できます。あの子は何一つ学べていません」
「…………よねぇ、ただ遊んでファンを増やしてキャッキャウフフしただけ」
「ナターシャの仕事が増えましたね」
「…………よねぇ、今頃、ジョシュアへの憎さも倍増してるかも」
なんて話をしていたら、ジョシュアが部屋に飛び込んで来た。
「────おや? 姿が見えないと思ったらおばあ様と母上は、ここにいたんですね!」
「ジョシュア……」
私たちを見てニパッと笑うジョシュア。
その顔は泥だらけ。
「その顔、ジョルジュと庭で遊んでたの?」
「いえ、今日もおじい様と共に任務を果たしていただけです」
「……そう」
今日も庭に綺麗な花が植えられたことだろう。
だけど、そんなジョシュアの手に花の束があることに気付いた。
「ジョシュア? その花の束は?」
「ああ、これはナターシャにプレゼントしようと思って摘んできたのです!」
ニパッと笑うジョシュア。
「ナターシャに?」
「はい! この間のお茶会でナターシャがお花畑を見たいって口にしていたので、お茶会開催を手伝ってくれたお礼にお庭のお花をお裾分けしようかなって」
「……」
もちろん奮闘してくれたナターシャにお礼をするのはいいこと。
とってもいいことだと思うのだけど────……
(ナターシャが見たいと言ったのは、ジョシュアの頭の中だったような……?)
「アイラがおリボンをくれましたので、こうしてお花に括りつければ……」
ジョシュアが器用に花の束をまとめていく。
「どうですか? 花束の完成です~!」
ジョシュアは、あうあ~と幻聴が聞こえてきそうなほどの満面の笑みを浮かべた。
「完成したのでこれから、渡してきます~~」
「あ、ジョシュア……!」
ジョシュアはニパッと笑ってそのまま去って行った。
おそらくそのままコックス公爵家に突撃するのだろう。
私とセアラさんが顔を見合わせる。
「セアラさん、ジョシュアのああいうところが……」
「……はい。ファンを増やしている理由なんでしょうね」
こうして、残念ながら『ギルモア侯爵令息ジョシュア様を愛でる会』はナターシャの思いとは別にますます大盛況となっていった。
235
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる