最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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番外編~成長後~

15. お茶会を終えて

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「ナターシャ、ナターシャ、見て! 皆、楽しそうだね!」

 すでにあちこちでカップル誕生の気配を見せている中、ジョシュアは呑気にニパッと笑っている。

(ジョシュア……!)

 うちのお孫さん、呑気すぎる!
 そして、もう一人の孫アイラは、今日のために用意した山盛りのお菓子に目をつけたようで、ジョシュアにも愛でる会のメンバーに全く関心がない様子を見せている。

(アイラ……!)

 今日のため奮発して普段のおやつでは出さない“最高級の菓子”を用意させたことが見抜かれてる!?

「……やはり、会員同士の絆は深いようですわね、どうやって説得して回れば彼らの目は覚めるのでしょう……」
「ナターシャ? ねぇ僕の話、聞いてる?」
「はいはい、聞いてますわよ。えっと今日はいい天気?    はいはい良かったですわね、ポカポカ日和ですわ! ────……とにかく、ジョシュアがいかに最低男なのかを皆様の前で見せる必要が……」
「うんうん、今日の陽気はお昼寝したくなるよね~」

(ナターシャ……!)

 ナターシャはジョシュアの隣で、皆の様子を見ながらブツブツ呟いていた。
 ジョシュアからの問いかけにも空返事。
 ちらほら誕生しつつあるカップルに目もくれず、ひたすら“愛でる会”を解散させる方法ばかり考えている。

「…………」

(この子たち────ダメだわ)

 私は無言でスススッと扉の前から離れた。

「どうしたんだガーネット。覗き見は止めて突入か?」
「しないわよ!」

 ワクワクした顔で聞いてきたジョルジュを跳ね除ける。
 ジョルジュは怪訝そうな表情を浮かべた。

「突入……しないのか?」
「最初からする気なんてないわよ! で、覗き見もおしまい!」
「いいのか?」
「いいもなにも────」

 この先のことは予想がつく。
 アイラは、誰かと交流を深めることなくひたすらお菓子を食べまくり、後で本日の感想を聞いても、“美味しかったですわ”と答えるだろう。
 女心を学ぶはずだったジョシュアは“皆、にこにこして楽しそうだったね”と呑気に笑い、ナターシャは“解散させるのって難しいですわ”と地団駄を踏むことになる……

「もう、私にはこのお茶会の未来が見えたから」
「なに!?」

 クワッとジョルジュが目をつりあげた。

「さすが、ガーネットだ!」
「ホホホ、褒めても何も出ないわよ~」
「それで? ガーネットにはどんな未来が見えたんだ?」

 ジョルジュは今度は子どものようにワクワクした目で訊ねてくる。
 私は頬を引きつらせながら答えた。

「そうね───婚約するカップルが急増するわ」
「何の話だ? 今日はジョシュアを愛でる茶会だろう?」
「……」

 色恋沙汰に疎い夫は私の言葉に不審そうな顔で首を傾げていた。


─────


 数日後。

「ホ~~ホッホッホッ! 思った通り……ジョシュアへの手紙の数が倍増したわぁ~……」
「お、お義母様、こんなにたくさん……どうしましょう!?」

 手紙の山を見てオロオロするセアラさん。
 ジョシュアが“女心を学ぶ”ために開いたはずだったお茶会。
 当の本人、ジョシュアはそんな目的はどこへやら……
 ひたすら皆にニパッと微笑んでメロメロにして無事にお茶会は終了。
 しかし、その脇では私が思った通り、婚約するカップルがちらほら誕生していた───

「いいこと? セアラさん。今、社交界での我が家の評判は真っ二つ」
「真っ二つ?」

 私はセアラさんの目の前に二本の指を立てる。

「一つは、もうず~~っと昔から言われているけど、“ギルモア家から呼び出しを受け、訪問して生きて帰れるかの確率は半々”ってやつ」
「ああ! デンジャラスゲームと言われているやつですね!」

 セアラさんがにっこり笑って答えるほど、不本意だけどすっかりこれは有名になっている。

「そうよ。そこに新たな評判が加わったわ」
「新たな?」 
「ギルモア家のジョシュア……微笑みの貴公子のお茶会に呼ばれれば───運命の人と出会うことが出来る、よ!」
「運命の人と? ロマンチックですね」

 わぁ、凄いと笑うセアラさん。
 いいえ! これは笑ってる場合ではなくってよ!
 私はダンッとテーブルを叩く。

「そこから───ジョシュア様って凄い! となり、さらには『ギルモア侯爵令息ジョシュア様を愛でる会』に入れば恋が叶うとか噂に尾ひれがつき始め……」
「え?    恋が叶う?」

 これは笑っている場合ではなかったと我に返ったセアラさんが真顔になってゴクリと唾を飲み込んだ。

「ま、まさかお義母様……これ、新たに入会した人たちからの……?」
「ええ。その“まさか”よ」

 改めて手紙の山を見て言葉を失うセアラさん。

「それで、ジョシュアってあれでマメな子だから、ちゃんと一人一人に返事を書いてるでしょう?」
「はい。きちんとお礼を伝える! これはおばあ様の教えですから絶対です、ってにこにこしながらたくさん返事を書いています、ね」

 手紙? なんだそれ……
 返事? 面倒くさい……と放置気味だったジョエルとは親子でも大違い!
 ジョシュアは素直なので手紙にちゃんと直筆で返事を書いている。

「ジョシュアがどんな内容の返信をしてるのかは私も知らないわ。けれどね、手紙の返事をもらった相手はますますジョシュアのファンになっちゃうらしいのよ……」
「ジョシュア……」 

 セアラさんが額に手を当てながら苦悩の表情を浮かべる。

「そして、会長であるナターシャの元には、入会希望依頼が殺到……」
「お義母様! 大変です。ナターシャが発狂している様子が目に浮かびます!」

 ついでにセアラさんは、
 エドゥアルト様は、はっはっは! ナターシャは人気者だな~と笑っています、とも口にした。
 同意しかない。

「で、肝心のジョシュアはあのお茶会で女心を学べたかと言うと……」
「お義母様、これは断言できます。あの子は何一つ学べていません」 
「…………よねぇ、ただ遊んでファンを増やしてキャッキャウフフしただけ」
「ナターシャの仕事が増えましたね」
「…………よねぇ、今頃、ジョシュアへの憎さも倍増してるかも」

 なんて話をしていたら、ジョシュアが部屋に飛び込んで来た。

「────おや? 姿が見えないと思ったらおばあ様と母上は、ここにいたんですね!」
「ジョシュア……」

 私たちを見てニパッと笑うジョシュア。
 その顔は泥だらけ。

「その顔、ジョルジュと庭で遊んでたの?」
「いえ、今日もおじい様と共に任務を果たしていただけです」
「……そう」

 今日も庭に綺麗な花が植えられたことだろう。
 だけど、そんなジョシュアの手に花の束があることに気付いた。

「ジョシュア? その花の束は?」
「ああ、これはナターシャにプレゼントしようと思って摘んできたのです!」

 ニパッと笑うジョシュア。

「ナターシャに?」
「はい! この間のお茶会でナターシャがお花畑を見たいって口にしていたので、お茶会開催を手伝ってくれたお礼にお庭のお花をお裾分けしようかなって」
「……」

 もちろん奮闘してくれたナターシャにお礼をするのはいいこと。
 とってもいいことだと思うのだけど────……

(ナターシャが見たいと言ったのは、ジョシュアの頭の中だったような……?)

「アイラがおリボンをくれましたので、こうしてお花に括りつければ……」

 ジョシュアが器用に花の束をまとめていく。

「どうですか? 花束の完成です~!」

 ジョシュアは、あうあ~と幻聴が聞こえてきそうなほどの満面の笑みを浮かべた。

「完成したのでこれから、渡してきます~~」
「あ、ジョシュア……!」

 ジョシュアはニパッと笑ってそのまま去って行った。
 おそらくそのままコックス公爵家に突撃するのだろう。
 私とセアラさんが顔を見合わせる。

「セアラさん、ジョシュアのああいうところが……」
「……はい。ファンを増やしている理由なんでしょうね」


 こうして、残念ながら『ギルモア侯爵令息ジョシュア様を愛でる会』はナターシャの思いとは別にますます大盛況となっていった。
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