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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
4. 大切な親友
しおりを挟む「わぁ、ナターシャのパンチは相変わらず気持ちいいや」
「……!」
わたくしのパンチを喰らったはずのジョシュアがニパッと嬉しそうに笑います。
なぜ……
なぜ、ジョシュアは何をしてもダメージがゼロなんですの?
「~~っっっ!」
お恥ずかしながら、わたくしがこうしてジョシュアに手を出すのは初めてのことではありません。
それこそ、ベビーの頃から頭突きに蹴り上げ、踏み付けにビンタ……ありとあらゆる方法でジョシュアにダメージを与えて来ました。
…………が!
その全てがこのニパッという笑顔で流されてしまうのです!
わたくしのおじいさまは、おばあさまにズルズル引き摺られるのがお好きで、お父様も踏み踏みされるのが好きなことは知っています。(もちろん踏むのはお母様)
ギルモア家でも、ガーネットおばあさまが夫のことを踏んでいるとも聞きます。
おそらく、ジョシュアも同類なのでしょう。
ですが、はっきり言わせてもらいますが……
(ジョシュアが一番、不気味ですわぁ!)
「わ、わたくし、あなたを喜ばせたつもりはありませんわ!」
「え? そうなの?」
「!」
わたくしは焦ります。
ジョシュアのこの純粋な目はなんなんですの!?
(なんてこと……ジョシュアはベビーの頃から全く変わっていません!)
身体だけは大きくなりましたが、中身は無邪気なベビーそのまんまです。
ジョシュアはわたくしに殴られた頬をさすりながから言います。
「さすが僕の親友ナターシャ! って思ったんだけどなぁ」
「それもですわ! なんでわたくしがあなたの親友なんですの!?」
さらに不思議なのは、ベビーの頃から親友扱いされていることです。
親友とは……もっとも親しい友人のことを指す言葉のはず。
お父様とギルモア家のジョエル様のような関係を指すはずなのです!
「ほっほっほ! ジョシュア、わたくしが“親友とは”についてあなたに講義でもしてさし上げましょうか?」
「遠慮する~。ナターシャの説明いつも長いし」
「なっ……」
ニパッ!
ジョシュアは笑顔で断ってきやがりました。
この、マイペース男め! とわたくしが内心でキリキリして地団駄を踏んでいるとジョシュアから笑顔がスッと突然消えました。
(あ、ら? 真面目で真剣な……顔?)
めったに見せることのないジョシュアの真面目な横顔になぜかわたくしの胸がドキッとします。
「───それで? ナターシャはその人に困らされてるの?」
「え? ま、まあ、そうです、わね」
行動を監視されているのは純粋に気持ちが悪いです。
わたくしが頷くとジョシュアがアイラお姉さまの名前を呼びました。
「───アイラ」
「分かりましたわ、お兄様。任せてください」
「うん」
(はい?)
頷くアイラお姉さま。
二人は軽く目配せをしただけですのに……何が分かったのでしょう?
わたくしが首を傾げていると、ジョシュアがニパッと笑いました。
「ナターシャ、安心して」
「あ、んしん……?」
「そう。君を困らせている人は僕たちがすぐボッコ……捕まえてみせるよ!」
「え?」
「───ジョシュア! それは本当か!」
驚いたわたくしが目を丸くしていると、お父様が横からシュバって来ました。
「うん、僕たちに任せて! だって……」
ニパッと笑ったジョシュアは自信満々に胸を張ります。
そして続けてこう言いました。
───隠れんぼ得意だから!
そんなことは知っています。
よーーく、知っていますわ。
ですが、それよりも……
(捕まえる、の前にボッコ……て言いかけませんでした?)
やっぱりコイツ怖いですわぁ。
わたくしは内心で震えて青ざめながらもジョシュアに訊ねます。
「でも、なぜですの?」
「え?」
「なぜ、ジョシュアはわたくしを助けてくれようとするのです?」
私の問いかけが意外だったのか、ジョシュアはパチパチと目を瞬かせました。
そして少しの沈黙の後、ニパッと笑いました。
この笑顔、“あうあ~”という幻聴が聞こえてきそうです。
「───大切な人のことをきちんと大事に出来るような子になりなさい」
「はい?」
わたくしが首を傾げるとジョシュアはにっこにこ笑顔のまま続けます。
「まだ、僕がベビーだった頃におばあ様に言われた言葉だよ」
「ガーネットおばあさま、に?」
「うん」
ガーネットおばあさまのお言葉……
それはギルモア家では絶対。
そして、当然弟子の一人であるわたくしも!
「だから、わたくしを助ける?」
「そうだよ。だって、ナターシャはずっと昔から僕の大切な人だから」
「っ!」
“大切な人”
その言葉にわたくしの胸がドクンッと大きく跳ねました。
そして、一気に体温が上昇するとドクドクドクドクと激しい鼓動を鳴らします。
(な、なんですのこれ! か、顔も熱いですわぁぁぁ)
頬にもジワジワと熱が集まってきていて今のわたくしの顔は絶対に赤くなっていると思われます。
なんということでしょう!
(ジョシュアの言葉なんかに動揺するなんて! これは───……)
たるんでる証拠ですわ!
わたくしはクワッと目を見開いて自分に喝を入れました。
でも、どこかでそう言われて“嬉しい”と感じていることも確かなのです。
「───だって、さっきも言ったけどナターシャは僕の“親友”だからね!」
「!」
その言葉にわたくしはハッと息を呑みます。
いつ、わたくしがあなたの親友なんかになりましたの!
そもそも、友達とすらも思っていませんわよ!?
「……っ」
いつもならスラスラ出てくるそんな否定の言葉も、なぜか今は出て来ませんでした。
「ナターシャ、おばあ様が言うにはこういうことには、まず調査が重要なんだって」
「調査……?」
「でも、狙われてるナターシャは大きく動けないだろう?」
わたくしはコクリと頷きます。
公爵令嬢のわたくしは目立ちますし、下手に動くと相手を刺激しかねません。
「だからさ、情報収集は僕とアイラに任せて!」
ジョシュアがアイラお姉さまを巻き込んでどーんと胸を張ります。
確かに“微笑みの貴公子”などという名を持つジョシュアは社交界で老若男女問わず大人気です。
情報収集なんてお手の物かもしれません。
「大丈夫! 僕を信じて?」
ニパッと笑ってわたくしの頭を撫でるジョシュア。
わたくしは言葉を詰まらせました。
「……」
「ナターシャ? どうかした?」
黙り込んでしまったからか、不思議そうな顔でジョシュアがわたくしの顔を覗き込みます。
「っっ!!」
(近いですわーー!)
わたくしはプイッと顔を逸らしながらジョシュアに言いました。
「…………その言葉が一番信用、なりませんわ」
「えええ? 困ったなぁ……」
ニパッと笑うジョシュア。
「とりあえず、これは帰ってすぐにおばあ様に報告しないといけないよね? ───アイラ!」
「……」
名前を呼ばれたアイラお姉さまもコクリと頷きます。
「それじゃ、ナターシャ。くれぐれも気をつけて」
「え、あ……」
「間違っても一人で不審者に体当たりなんて考えちゃダメだよ?」
「ぐっ、し、しませんわ!」
「うん」
ニパッと笑ったジョシュアが手を伸ばして私の頭を撫でました。
「それじゃ、また来るね~」
「……っ、」
「全部綺麗に片付けて皆で海に行こうね~~」
そう言ってジョシュアたちは手を振ってギルモア家へ帰って行きました。
わたくしは、ホッと一息つくとずっと掛けたままだったサングラスを顔から外し、袋の中に入れようとした所で気付きました。
「あら?」
袋の中にはもう一つサングラスが入っています。
サイズはわたくしのより少し大きめ……
「……これ、ちゃんとエドマンドの分もあるんですのね」
エドマンドはわたくしの可愛い可愛い弟です。
ジョシュアはちゃんとあの子の分も忘れずに用意してくれていたのでしょう。
(ジョシュア……)
「ナターシャ!」
わたくしが去っていくジョシュアたちの背中をじっと見つめているとおじいさまがわたくしの名前を呼びました。
「あの子に任せよう」
「え?」
「ギルモア家の調査力は優秀だし、何よりあの子──ジョシュア・ギルモアは悪人に鼻が効く」
「はっはっは! そうだな、これまで何人の悪党がジョシュアに潰されたことか!」
「……おじいさま、お父様……」
「「だから、大丈夫だ!」」
二人は声を揃えてそう言いました。
……とっても親子ですわ。
こうして大変不本意ながらも、わたくしは憎き相手ジョシュアに助けてもらうことになりました。
そんな翌日のことです。
「───え? ガーネットおばあさまが?」
「はっはっは! そう。これから我が家に来るそうだぞ」
お父様が先触れを手にしながらハッハッハと笑っています。
「えええ?」
なんと、この世で最も怒らせてはいけない、ガーネット・ギルモア夫人が動きました。
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