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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
5. 守られてた?
しおりを挟む「───ジョシュアから話は聞いたわ」
「はい」
お昼すぎ── 時刻ピッタリに我が家にやって来たわたくしの師匠ガーネットおばあさま……
いえ、ガーネット・ギルモア侯爵夫人。
向かい側に座られたガーネットおばあさまはわたくしの目の前でお茶をコクッと一口飲まれました。
(相変わらず、お美しいですわぁ!)
わたくしは、興奮が隠せず咄嗟に鼻を押さえました。
油断したら鼻血が出てしまいそうです……
ただ、座ってお茶を一口飲んだだけですのに!
このただならぬオーラは何事ですの!?
素晴らしいオーラにわたくしは、ただただ圧倒されました。
(やはり、この方から学ぶべきことは多いですわ……)
オーラの放ち方だけではありません。
一つ一つの動作をじっくり観察してみれば、それが実に優雅だと分かります。
何より……
世界中探しても、この方以上に上手くジョシュアを扱える方はいません!
打倒ジョシュアを掲げるわたくしにとって最も手本にすべきお方なのです。
「ナターシャ、あなたカス男に悩まされているようね」
「え、ええ……」
そこで頷きながらわたくしは、あら? と思いました。
「カス男、ということは不届き者はやはり男性で確定、なのですか?」
「あら? ジョシュアはそう言ってなかった?」
ガーネットおばあさまが不思議そうに首を傾げます。
「お父様に男か女かと問い詰められてはいましたけど、勢いに押されてしまって全部あうあ、としか言ってませんでしたわ」
「は? あうあ、ですって?」
ここでピクっとガーネットおばあさまの眉毛が動きました。
一瞬で美しい顔の眉間に皺が寄ります。
「あの子はいい歳してまだ、あうあとか言ってるの?」
わたくしは、ホホホと笑いながら一応フォローしといてやります。
貸し一ですわ~!
「いえ、お父様の質問する勢いが凄かったのでただ圧倒されてしまっただけと思われます」
「……あーー、エドゥアルト。そうね、エドゥアルト相手なら仕方ないわ」
ガーネットおばあさまはやれやれと苦笑しながら、お茶をもう一口飲まれました。
(お父様……)
ギルモア家の中でのお父様っていったいどういう扱いなんですの……
仕方ない、で済まされてしまいましたわ。
「まあいいわ。それでね、ジョシュアが言うには、あなたを付け狙っているのは間違いなく男のようよ」
「おとこ……」
「ええ。カス男の匂いがしたです! って自信満々に言っていたから」
「におい……」
(ジョシュア───あいつは犬かなにかでしたの?)
てっきり浮世離れしただけの一応人間だと思っていましたけど。
わたくしがそんな疑問を浮かべている間もガーネットおばあさまは話を続けます。
「単なる嫌がらせされただけを切り取ると、ジョシュアに熱を上げている令嬢が犯人という線も無くはないのだけれどね」
「……令嬢、が」
「ナターシャってあの子を愛でる会の会長打診されるくらい付き合い長いし」
「……」
そうですわ。
ジョシュアはわたくしがベビーの頃から危惧していたように、成長してからも皆にニパニパと愛想を振り撒いた結果、微笑みの貴公子などと呼ばれるようになり、男女問わず人気が高いのです。
そんなこんなで、わたくしは、頼み込まれてジョシュアの野郎を愛でる会とやらの会長もしています。
そんなジョシュアと家族ぐるみで仲の良い幼馴染というポジションのわたくしは、確かに、未来の侯爵夫人の座を狙う肉食令嬢たちから嫉妬の目で見られることもあります。
ですが……
(愛でる会の方々はそんな姑息なことしそうにありませんわね)
あの方々は、ちゃんと愛する恋人や家族が別にいる中で、ジョシュアの野郎を愛でてキャッキャウフフしているだけですもの……
「でも気持ち悪い手紙の内容を聞く限りは、ナターシャに懸想する男が有力よね」
気持ち悪さに身体がゾワッとしますが、同時に相手にイラッともしました。
「とはいえ、そもそも王族の親戚で公爵令嬢のあなたに危害を加えようとする阿呆はなかなかいないでしょうけど」
「え、ええ」
「それに、なんだかんだでジョシュアもずっとナターシャのこと守ってるものねぇ」
(……え?)
ガーネットおばあさまの言葉にわたくしは驚いて固まりました。
「あの? ジョシュア、がわたくしのことを……守って、るとは?」
わたくしがおそるおそる聞き返すと、ガーネットおばあさまはニヤリと笑いました。
そして美しく高らかに笑います。
「ホーホッホッホッ! そうなのよ~あの子、ナターシャに危害を加える者は僕の……すなわちギルモア家の敵だって、いつもそこかしらで言ってるわよ~」
「!?」
初めて聞くそのような事実にわたくしは自分の耳を疑いました。
「な、なぜ……」
「あの子ってベビーの頃から、容赦なく領地を分捕ったり、慰謝料ふっかけたり、跡取りを廃嫡に追い込んだり、笑顔で庭に埋めようとしたり……どれもこれもカスたちの自業自得とはいえ、結構ハチャメチャなことをしてきたのはナターシャも知ってるでしょ?」
「……は、はい」
(これらをハチャメチャ……という一言で済ませていいのでしょうか?)
そんな疑問が浮かびましたが口にはしません。
それに、記憶にございませんが、わたくしもベビーの頃にスコップ片手に人を埋めるための庭を掘るお手伝いをした(させられた)という話も聞いています……
(触れてはいけない過去ですわ……!)
ガーネットおばあさまを見習って清く正しく美しく強く逞しくをモットーにしているこのわたくしが、まだベビーだったとはいえ、まさかの犯罪に加担していたなんて!
これは絶対に封印すべし出来事ですわ。
わたくしはグッと口を噤みます。
「僕のことを怒ってる人もいるかもしれないよね~、ってジョシュアなりにコックス公爵家の人たちのことを守ろうとしているみたいよ」
「……ジョシュアが、わたくしたちを……」
(なんですの、それ……)
ジョシュアは、ただの無神経な腹立つヘラヘラ男ではないんですの?
何だかわたくしの心がグッラグラしております。
やはり、自分がチョロすぎて泣けてきますわ。
「そ、そんなの知りません…………分かりにくいですわっ」
わたくしのその叫びにガーネットおばあさまはクスッと笑いました。
「本当にね。でもジョシュアだけじゃなくて、ギルモア家の男って分かりにくいのよ」
「!」
「私だって昔、ジョルジュにどう思われてるのかよく分からなかったもの」
「え!?」
あんなに誰が見てもガーネットおばあさまにベタ惚れがダダ漏れている侯爵様ですのに!?
「ホホホ、まあ、出会いが出会いだったからしょうがないわね」
(確か───)
パーティーの最中に庭で寝てた侯爵様を酔っ払ったガーネットおばあさまが踏みつけたと聞きましたけれども……
(状況がよく分かりませんわ……)
だって、なにをどうしたらパーティー中に庭で寝ることになるんですの?
ですが……うっかりするとジョシュアの野郎もやりそうですわぁ……
───えへへ、だって眠かったんだよね~
とか阿呆なこと言って!
わたくしはその有り得そうな想像を必死に打ち消します。
必死に首をブンブン横に振っていたらガーネットおばあさまがじっとした目でわたくしを見てきます。
その何もかも見透かされそうな鋭い目にドキッとさせられました。
「ナターシャ。私だって、エドゥアルトのことは自分の子のように思ってるし、コックス家のあなたたち姉弟のことも、本当の孫のように思ってるわ」
「ガーネットおばあさま……」
「だから、この件は私たちにも関わらせてくれないかしら? 必ずそのカス男は見つけ出してギルモア家の総力を挙げて血祭りに───」
ガーネットおばあさまが、何だかとても物騒な発言をしようとしたその時でした。
突然、バーンと部屋の扉が開きます。
(誰ですの!?)
わたくしとガーネットおばあさまが同時に扉へ視線を向けると、そこに現れたのは……
「おばあ様、酷いです! どうして僕を置いて行ったんですか!」
「「ジョシュア!」」
驚いたわたくしたちの声が重なります。
そう、ジョシュアです。
すると、ガーネットおばあさまは口元に手を当てながら高らかに笑いました。
「ホ~ホッホッホッ! そんなの決まってるでしょ」
ガーネットおばあさまがビシッとジョシュアを指さします。
「あなたが置き物になってたからよ!」
わたくしはそっと時計を見上げました。
ギルモア家の面々の寝起きの悪さは有名です。
午前中は全く使い物にならないそうですわ。
「それより、ジョシュアは何しに来たのよ。今日は私がナターシャと話をすると言ったでしょ?」
ガーネットおばあさまの言葉にジョシュアがニパッと笑いました。
「うん。調査はアイラがしてくれてます! だから、僕はお誘いに来ました!」
「「お誘い?」」
またまたわたくしたちの声が重なります。
そして、ジョシュアはにこにこ顔のままこう言いました。
「ナターシャ! デートしよう!」
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