最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

6. 無自覚

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(デ……デデデデートですってぇぇ!?)

 ジョシュアの口から飛び出したデートという言葉にわたくしは激しく動揺してしまいました。

「ジョシュアァァ!?    何を言ってるの!?」

 驚いたのはガーネットおばあさまも同じだったようで、勢いよくソファから立ち上がると素早く部屋の入口に向かって駆け寄ります。

「おばあさま? どうかされましたか?」 

 一方のジョシュアはキョトンとした顔です。

「どうもこうもないわよ! 今、あなたデートって言ったわよね!?」
「はい! 言いました!」
  
 ジョシュアはいつもの笑顔で大きく頷きます。

(デート、デート、デート……)

 わたくしは自分の胸をギュッと押さえました。
 頭の中ではデートという言葉がずっと繰り返されています。

(ジョシュアと、わたくし……が?)

「一応、聞くけど! ────あなた、デートの意味は知ってる!?」

 その言葉にわたくしもハッと我に帰りました。
 そうでした!
 こいつはジョシュア・ギルモアですわ。
 世の中で言われているデートとこいつの考えているデートは違うかもしれません。
 ジョシュアのことですもの、“何だか美味しそう”とか考えていてもおかしくありませんわ!

「え、おばあ……」

 ガーネットおばあさまはジョシュアの胸ぐらを掴むと思いっきりジョシュアを揺さぶります。

「あ、うあ~~……」

 ジョシュアは、またしても、“あうあ”と叫んでますので不意をつかれると口癖が出てしまうのかもしれません。

(それにしても、腹が立つくらい幸せそうな顔ですわぁ)

 なぜ、あんなに強く揺さぶられているのにうっとり顔になるのでしょう?
 わたくしには理解が出来ません。

「も、もちろん、知ってます!」

 ようやくガーネットおばあさまが手を離すとジョシュアは胸を張って答えました。
 なぜか、ここでわたくしの胸がドキンッと大きく跳ねます。
 わたくしは自分の胸を押さえました。

(ジョシュアはちゃんと分かっててわたくしをお誘い、……している?)
  
「本当に?」

 しかし、ガーネットおばあさまはジョシュアの言葉を欠片も信じていないようです。

「はい! 任せてください。僕はおじい様とお父様にもちゃんと話を聞きました!」
「え……」
「二人はこう言いました! もっと仲良しになりたい人と時間と場所を決めて待ち合わせをして遊ぶことだと。主に手を繋いで街を歩くとらぶらぶでなお、いいそうです!」

 ジョシュアはどーんと胸を張って答えました。
 すると、ガーネットおばあさまが声を荒らげます。
  
「なんで、よりにもよって話を聞いたのがその二人なのよ!?」
「アイラとお母様は調査に出ていて、おじい様とお父様しかいなかったからです!」
「ホーホッホッホッ、つまり暇人な男どもしか邸に居なかったというわけね!?」

 話聞くだけなら使用人でも良かったじゃない……と肩を落とすガーネットおばあさま。
 ギルモア侯爵にジョシュアの父のジョエル様、そしてジョシュア……

(マイペースを極めたギルモア家の男三人で会話を?)

 わたくしはジョシュアとのデート云々より、そのことの方が気になってきてしまいました。

「いいえ、おばあ様! そんなことはありません! 僕たちは忙しく過ごしています。だってなぜか時間がいつも足りないのです!」
「ホホホ……そりゃそうよ。あなたたち午前中は丸々寝てるんだもの。当然でしょ」
「?」
「なんなのよ、そのキョトンとした顔───まあ、いいわ」

 ガーネットおばあさまがジョシュアからフンッと顔を背けると髪をバサッとかきあげます。

に行こう! ではなくデート・・・なのには理由があるのよね?」
「はい!」

 ジョシュアはさすがおばあ様です~と言わんばかりの笑顔で頷きます。

「えっと、ホカノオトコトシンミツニシテイルヨウスヲミセツケテミル……です!」
「「は?」」

 わたくしとガーネットおばあさまの驚きの声が重なりました。

(……なんて?)

 ジョシュアの言葉がよく聞き取れませんでした。
 ガーネットおばあさまも肩を竦めて呆れています。

「…………なんで、大事なところが棒読みなのよ」
「僕には難しい言葉が多くて。えっとそれで……」

 ニパッと笑ったジョシュアは続けます。

「わざと男のシットヲアオリマース……です!」
「だから、なんで今度は片言になるのよ!!」

 自分で口にしながら嫉妬を煽るってなんだろう? と首を傾げているジョシュア。
 こいつの恋愛オンチさが、よーーく分かる光景ですわ。

(ですけど……)

「ほっほっほ! いいえ、よーーく、分かりましたわ、ジョシュア」
「え? ナターシャ! 分かってくれたの?」

 わたくしが高らかに笑うとジョシュアもニパッと笑いました。

「ナターシャ、本当に理解した? 相手はジョシュアよ……?」

 ガーネットおばあさまの目はなぜか不安そうにわたくしたちを交互に見つめてきます。
 心配ご無用でしてよ!

「ええ、もちろんですわ。つまり───」
「つまり?」

 キラキラした顔でわたくしを見てくるジョシュアに堂々と胸を張って答えます。

「不審な男が本当にわたくしに懸想しているというのなら、わたくしが“デート”すると聞いて黙っていられるはずがありません! きっとコソコソコソ追って来ることでしょう。ですから、わたくしがデートで他の男と親密にしている様子を見せつけて嫉妬心を煽って姿を見せるよう仕向けるということですわね!?」

 わたくしはペラペラと早口でジョシュアの作戦をまとめました。

「……」

 ジョシュアはパチパチと数回瞬きした後、ニパッと笑いました。

「…………うん、そんな感じ!」
「!」

(コイツ……!)

 わたくしには分かります。
 今、こいつ絶対に面倒くさくなって聞き流しましたわ!!
 ガーネットおばあさまもそう言いたげな目でジョシュアのことを見ています。

(とはいえ……)

 わたくしも不審者を野放しにしてこのままコソコソコソコソするのは好きではありません。
 危険な行為……かもしれませんが、さっさと炙り出そうというその案には賛成です。
 ですが、一つ気になることがあったので訊ねることにしました。

「なぜ、ジョシュアがデートの相手なんですの?」
「え?」

 ジョシュアが不思議そうな目でわたくしを見返してきます。

「別の男性とわたくしがデートしてジョシュアは護衛の一人に回ってもよろしいのではなくて?」
「え? それはダメだよ!」
「!」

 なんと、ジョシュアは間髪入れずに否定しました。
 わたくしの胸もドキッとします。

「それだと真っ先にナターシャのこと守れないじゃないか! それに」
「それに?」
「……」

 ここで何故かジョシュアが黙り込みました。

「ジョシュア? どうしましたの?」 

 わたくしが訊ねると、ジョシュアがそっと自分の胸を押さえます。

「……それに、さ。なんだかこの辺がモヤッとする」
「モヤッ?」
「うん」 

 ジョシュアが珍しくうーんと顔をしかめています。

「モヤッ……それは───何かの病気かもしれませんわね」

 わたくしの言葉にパッと顔をあげるジョシュア。

「ナターシャもそう思う?」
「ええ。わたくしも最近は(殺意がメラメラで)心拍数が上がることが多くて困ってますの」
「そっか。ナターシャも大変なんだね」
「そうですわ。まあ、主にジョシュア。あなたのせいなのですけど」
「僕の?」

 ジョシュアがキョトンとしています。
 わたくしの殺意にも気付けないなんて、なんて呑気な男でしょう!

「まあ、わたくしはともかく、ジョシュアの場合はお医者様に診てもらった方がいいかもしれませんわね」
「ナターシャもそう思う?」
「ええ。あなたが居なくなったら(ギルモア家が)困りますし」

 わたくしがそう口にするとジョシュアは、またいつものニパッという笑顔を見せました。

「……ナターシャ困るんだ…………うん。分かった、ありがとう! そうするよ!」
「!」

 何故だかその笑顔がいつもより眩しく見えてしまい、戸惑ったわたくしは思いっきりジョシュアから顔を逸らしてしまいました。

「ナターシャ? どうかした?」
「な、なんでもありませんわ!!」
「?」

 ドッドッドッ……

(ほら、またわたくしの心拍数が上がってますわ!)

「~~~~っっ」

 わたくしが自分の胸を押さえていると、途中から黙り込んでいたガーネットおばあさまがわたくしたちを見ながらプルプルと震えていました。

「おばあ様?」
「あなた、たち……」
「ガーネットおばあさま!?」
「~~~くっ、だめ、ここで私が今、余計なこと言ったらますます変な方向に転がっていく気がする……!」

 ガーネットおばあさまが歯を食いしばりながらそう口にされました。

「「?」」

 わたくしとジョシュアは共に首を傾げました
 ガーネットおばあさまの身体はまだプルプル震えています。
 見た目は若くてもよくよく考えるともうお歳は……
 少し心配です。


 なにはともあれ、こうしてわたくしは(ここ重要!)ジョシュアと“デート”することが決定したのです。
 
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