50 / 70
毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
8. 仲良しです
しおりを挟むエドマンド(弟)視点です
✲✲✲✲✲
(うーん、やっぱりどう見ても“仲良し”だと思うんだけどなぁ)
本日“デート”をすることになった姉さまとジョシュア兄さまが仲良く手を繋いで馬車に乗り込んでいきました。
そんな二人の姿を僕、エドマンドは静かに見守っています。
「はっはっは! ナターシャはジョシュアと楽しそうに馬車に乗り込んだな」
僕の横に立っている父さまが二人を見ながら陽気に笑いました。
今日も底抜けに明るい父さまです。
「大丈夫かしら……」
一方、母さまはハラハラ心配そうな様子です。
そんな母さまの様子を見た父さまが不思議そうに訊ねました。
「レティーシャ、大丈夫とは? ナターシャは今日もとっても可愛いぞ!」
「ええ、ナターシャは可愛いですけど……だって出かける相手がジョシュアくんなんですもの」
「それがどうかしたのか?」
父さまが不思議そうに首を傾げると母さまは言いました。
「ほら、ナターシャってジョシュアくんが絡むと昔から暴走しがちで……」
「大丈夫だ、心配要らない! 踏まれるのも殴られるのも引きずられるのもジョシュアにとっては全てご褒美だからな!」
しかし、はっはっはと父さまは笑い飛ばします。
(うん、確かにジョシュアお兄さまは上級者だ……)
僕はベビーの頃から姉さまがジョシュア兄さまに突進していく姿をずっと見ていました。
しかし、そんな姉さまの攻撃は全てあのニパッという無敵な笑顔と“あうあ”という言葉の前に敗北。
だから、姉さまは“いつかジョシュアをこの手でギャフンと言わせてみせますわ”を合言葉に己を鍛えメキメキ強くなっていきました。
「それはそうなのですけど」
ハァと息を吐く母さま。
それでも心配そうです。
「とにかく、僕とエドマンドは変装してこのままナターシャとジョシュアの護衛に向かう。準備は万端か? エドマンド」
「は、はい!」
僕が頷くと父さまは頭のてっぺんから爪先まで眺めて、はっはっは! と笑いました。
「服装はそれで良いだろう。あとは頭を被れば完璧だ! ナンシー!」
軽やかに笑った父さまがナンシーを呼びつけました。
ナンシーはコックス公爵家に長く仕えてくれている使用人です。
「はいはーい、坊っちゃまこちらです。今日はどれになさいますか?」
呼び出しに答えたナンシーが父さまのコレクションのカツラを手に素早く登場しました。
流石です。
「うーん、そうだな」
父さまはナンシーが持って来たカツラを前にうーんと悩み始めました。
「坊っちゃま! 今日はナターシャお嬢様とあのジョシュア・ギルモアのデートを尾行されるのですよね?」
「ああ」
(尾行じゃなくて護衛なんじゃないのかなぁ?)
「ああ、なんて愉快で面白そ…………ゴホンッ、ならば今日のオススメはこちらですね~、そして若坊っちゃまにはこちらが最適かと思いますよ!」
ナンシーはにっこりと笑って落ち着いた髪色のカツラをオススメだと言って僕に渡してくれました。
(なんか今、ナンシーの本音がダダ漏れていたような……)
気のせいかな?
「ふむ。いつもより地味だが、今日は僕がナターシャより目立つわけにはいかないからな! よし、これにしよう!」
「で、では僕もこちらを」
父さまがナンシーのオススメのカツラを手にしたので僕もそれに倣いました。
今日のデートには姉さまをつけ回す不届き者を炙り出す目的があります。
護衛の僕たちが目立ってはいけません。
「はっはっは! どうだ、レティーシャ!」
カツラを被った父さまが母さまに似合うかと訊ねています。
父さまの格好を見た母さまはクスッと笑いました。
「お似合いですけど、エドゥアルト様の独特のオーラは…………消せませんわね」
「はっはっは。それは仕方がないさ。僕のこの溢れんばかりのオーラを消すのは至難の業だ」
はっはっはと父さまは笑い飛ばしました。
確かに父さまからドバドバ溢れている独特のオーラを消すのはカツラだけでは難しそうです。
「今日はジョエルの代わりにジョシュアのことも守らないといけないからな。気合いを入れねば。エドマンドも気を抜くな!」
「はい!」
本日、ジョシュア兄さまの祖父、ギルモア侯爵と父親のジョエル様は留守番です。
最初、二人は行く気満々だったようですが……
───はあ? ジョルジュとジョエルの捜索に人手をさくわけにはいかないでしょ! 迷子体質のあなたたちは留守番よ留守番!
と、ガーネットおばあさまが強く禁止を言い渡したそうです。
「気をつけてくださいね? エドマンドも!」
「大丈夫です、母さま!」
僕はどーんと胸を張ります。
「姉さまをつけ狙う最低な不届き者はギルモア家の庭に埋めてしまいましょう!」
「はっはっは! その意気だ、エドマンド!」
こうして僕と父さまは他の護衛と共に姉さまのジョシュア兄さまのデートの後をつけました。
─────
「……っ、ジョシュア!」
「どうかした、ナターシャ?」
「……っっっ、な、んでもない、ですわ!」
街に到着して馬車を降りた二人。
手を繋いだまま歩き出しブラブラしています。
姉さまがジョシュア兄さまに何が言いかけやめていました。
(今のは……)
姉さまの視線的に、
“いつまで手を繋いでいるんですの!”とか怒りたかったのだろうけれど、今日の目的を思い出して我に返った感じでしょうか。
「ナターシャ、知ってる? ナンシーが言ってたんだけど、こういう風に外でブラブラしながらかぶりつくお肉は美味しいんだって」
「は? お肉にかぶりつく? いえ、その前にあなたいつの間にナンシーと話したんですの?」
怪訝そうな顔をする姉さまの問いかけにジョシュア兄さまがニパッと笑います。
「ナターシャと街に行くって言ったら目を輝かせて色々教えてくれたよ?」
「もう、ナンシーったらいつの間に」
姉さまが驚いています。
「僕、今日のために色々な人に聞いて回ったんだ~!」
ジョシュア兄さまが得意そうに胸を張ります。
姉さまとのデートのためにたくさん勉強してきたようです。
「へぇ、そうでしたのね。他には何か言っていて?」
「えっとね、他にもフラフラしながら立ち寄ったお店でこっそりプレゼントを買っておいて、タイミングを見計らってナターシャに渡して驚かせると好感度が上昇しますよって」
(ええ、それ言っちゃうの!?)
案の定、姉さまがスッと目を細めて黙り込みました。
「ナターシャ?」
「ジョシュア…………その計画、たった今破綻しましたわよ?」
「あ!」
「……」
ジョシュア兄さまが、しまった~と言いながら口に手を当てています。
そんなジョシュア兄さまのことを姉さまは白けた目で見ながら笑いました。
「ほっほっほ! 安心してくださいまし。わたくしのジョシュアへの好感度が変わることなどありませんわ」
「え、ナターシャ……それって」
「もうあなたへの好感度は(下限に)振り切ってますもの」
「そうだよね! これ以上は上がらないよね~」
ジョシュア兄さまが嬉しそうにニパッと笑いました。
「ええ、その通りですわ」
姉さまが力強く頷きます。
(んん? …………会話、噛み合ってなかったような?)
好感度が上昇することはないと言われて嬉しそうにするなんておかしくないかな?
ですが、ジョシュア兄さまは、その辺の人とはひと味もふた味も違う感性を持っています。
好感度が下がり切っていても嬉しいと感じるのかもしれません。
(ジョシュア兄さまは難しい人です……)
でも、僕からするとアイラお姉さまも難しくて不思議な人です。
そんな二人と渡り合えている姉さまってすごい人!
僕はそんなことを思いながら、引き続き二人の様子を見守ります。
「そういえばジョシュア、あれから医師の診察は受けましたの?」
「うん。一応、診てもらったよ」
(おや? ジョシュア兄さま、どこか悪いのかな?)
それは心配なので僕はそっと耳を澄ませました。
「なんて言われましたの?」
「えっと、僕たちくらいの年頃になるとよく出る症状なんだって。でも、気にするなって言われたよ」
「え? わたくしたちくらいのお年頃に多い病気なんですの?」
姉さまが怪訝そうな表情になりました。
憎いと口にしていても、なんだかんだでジョシュア兄さまのことが気になるようです。
「みたいだよ?」
「おそろしいですわ……」
(よく分かんないけど、確かに恐ろしそうです)
「あ、ナターシャ! ナンシーが言ってた外で食べられるお肉ってあのお店じゃないかな?」
「え、きゃっ!?」
ここでジョシュア兄さまが目当てのお店を見つけたのか、姉さまをの手を強く引っ張ります。
急に引っ張られて足がもつれた姉さまが、ジョシュア兄さまの胸の中に飛び込みました。
(これは……!)
「ナターシャ、大丈夫?」
「……っ、っっ、っっっっ」
「ナターシャ?」
二人の姿に思わずハッと僕は息を呑みました。
姉さまがジョシュア兄さまの胸の中で顔を真っ赤にして固まっています!
(ラブラブ……これはラブラブです!! ……ハッ!)
美男美女が堂々と街中で抱き合う姿に思わず見惚れてうっとりしそうになりますが、慌てて周囲を見回します。
だって姉さまに懸想する不届き者はどこからかこの様子を見ているかもしれませんから!
(うーん……)
しかし、今のところ怪しい動きをしている人物は見当たりません。
僕はガックリ肩を落とします。
むしろ、僕とは別の所から二人を見張っている父さまの方がこの展開に挙動不審……な様子を見せています。
(父さま……耐えてください!)
今にも飛び出して二人を引き離したそうな顔をしている父さまに念を送ったその時でした。
「ナターシャ……」
「!?」
(えええ!?)
なんと!
ジョシュア兄さまがギュッと腕に力を入れ、強く姉さまのことを抱きしめました!
199
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる