最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

文字の大きさ
51 / 70
毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

9. ラブが足りないので

しおりを挟む

(こ、これは何事ですのーー!? )

 ナンシー直伝、外でかぶりつくお肉は美味しい───それを実行出来そうなお肉屋さんとやらを見つけたジョシュアが、急にわたくしの手を引っ張ったのでよろけてしまいましたわ。
 ジョシュアの胸に飛び込んだので転びこそしなかったものの……これは一生の不覚!
 なんて思っていたら、ジョシュアがわたくしを抱きしめて来ましたわ!!

(婚約者でもない男女の距離感で許される範囲なんですのののぉぉぉ!?)

 とにかくわたくしの脳内が大パニックを起こしております。
 心臓もバックンバックしています。
 あと、わたくしの視界にチラチラ入ってくる本日の護衛の一人でもあるお父さまが、形容し難いお顔になってプルプルしています。
 いつも愉快なお父さまですけど、輪をかけておかしいですわ……

(あのヘンテコな動きはなんですの?)

「……」

 挙動不審なお父様を見ていたら、なんだか気持ちが落ち着いてきましたわ。
 しかし、何故でしょう。 
 相手は憎き男ジョシュア、ですのに…………こうギュッとされて嫌、ではない。
 こんなに憎いのに嫌悪感がありません。

(どうしてですの───)

 そんな自分の気持ちに戸惑いを覚えた時でした。
  
「……ナターシャ」
「!」

 ジョシュアがそっとわたくしの耳元に顔を寄せて囁きます。
 一瞬、ドキッとしましたがその声色ですぐに理解しました。
 これは────男女の甘~い触れ合いなどではありません!
 わたくしは、声のトーンを落としてそっとジョシュアに訊ねます。

「どこですの?」
「うん。ほら今、僕たちの背後に人だかりが出来てるでしょ?」
「……ええ」

 わたくしはジョシュアの胸の中で小さく頷きました。
 馬車を降りてから街の中をブラブラしていただけですのに、どうやらわたくしたちは目立っているようで、先程からチラチラ視線を感じてばかりなのです。

(さすが、微笑みの貴公子ジョシュアですわ)

 おそらく皆、ジョシュアに釘付けなのでしょう。

「今日のナターシャはいつもより可愛いからね」

(ん?)

「それでさ、この間、僕が見かけた人があの人混みの中に紛れ込んでるんだ」
「!」

 なんだか一瞬、聞き捨てならない発言が聞こえたような気がしましたが、不届き者がいるという発言にわたくしはクワッと目を大きく見開きます。
 どうやら、ターゲットが現れたようですわ!  
 しかし……

「人が多すぎますわ。それにフードを被っている怪しい方なんていませんわよ?」
「うん、素顔なのかは分からないけど町民に変装して溶け込んじゃってる」
「変装……」

 変装しているお父様やエドマンドはあんなにも“お忍び感”満載の貴族おかしなオーラがダダ漏れしているというのに?
 ……これは不届き者の方が上手のようです。

「…………どうして、ジョシュアにはそいつが分かるんですの?」
「うーん、なんでだろう? やっぱり匂い、かなぁ」
「匂い……」

 やはり、ジョシュアは人間ではなく犬なのかもしれません。
 躾が必要なことを踏まえても。

「あとね、その人、ずーーっと僕たちのことをギラギラした目で見ているし、今も怒りのオーラが凄いことになってるんだ」
「……あなた、ふざけてるようで実はよく見ていたんですのね」

 ニパッ!
 わたくしのそんな何気ない言葉にジョシュアが嬉しそうに笑いました。
 ドキッとわたくしの胸が跳ねます。 
 これは殺意です。

(この得意そうな顔が憎いですわぁ!)

「コホンッ、それで? どこのどなたか、見知った顔ですの?」

 先日はフード被っていて顔がよく見えなかったという不届き者。
 しかし今は顔を晒しているそうです。
 これは、大きな収穫ですわ。
 しかし……

「ジョシュア?」

 ジョシュアは答えません。
 わたくしが眉をひそめると、ジョシュアはニパッ……いいえ、この場合はヘラッとした顔で笑いました。

「どこかで見たことある気がするんだけど……分かんないや」
「わっからない!?」
「うん。でも、覚えのあるカスの匂いはするんだ」
「……!」

 やはり犬……! 
 と言いかけた言葉を飲み込んでわたくしはにっこり笑います。

「年齢は?」
「うーん、ぼくたちと同じくらい、かなぁ」
「身体つきは?」
「ヒョロっとしていて痩せ型?」
「……あまりこれと言った特徴がありませんわね」

 髪色なども訊ねようかと思いましたが、変装しているなら無意味そうです。

「……」

(仕方ありませんわ……)

 あれもこれもそれも、不届き者をわたくしの前におびき出すため……
 そう決心したわたくしは、ジョシュアの背中に腕を回します。
 そして強く抱き締め返しました。

「わあ、あったかい!」
「……」

 ジョシュアが声を弾ませます。

(ほっほっほ! これで、どこからどう見てもわたくしたちはラブラブですわ!)

 しかし、不届き者が飛び出してくる様子はありません。
 なんということでしょう!
 こちらは捨て身で憎い男に抱きついているというのに!

(ラブ……ラブが足りないんですの?)

 わたくしは必死に頭の中で今日まで読み耽った恋愛小説参考書を思い出します。
 主人公たちは、デートをすると手を繋いで、人目もはばからずこのようにギュッとして、挙句の果てには顔を近付けて……
 とにかくイチャイチャしていましたわ。
 ジョシュアに顔を近付ける……? 
 いえ、さすがのわたくしでもここでそれ以上は無理ですわ……!   
 何か他の手を考えねばと思った時、ジョシュアが目指そうとしていた肉屋が目に入りました。

 ───これですわ!

 名案を思いついたわたくしはジョシュアに声をかけました。

「ジョシュア! このまま肉屋に行きますわよ!」
「え?」
「ほっほっほ! ───名付けて、ラブラブイチャイチャアあーん作戦ですわ!」
「ら?」

 そう!
 おばあさまに借りた本の中の男女は、お口を開けてあーんという食べさせ合いをやっておりました。
 つまり……

(ジョシュアに肉を食べさせれば完璧ですわ!)

 まあ、恋愛小説参考書では、肉ではなく甘いケーキやクッキーなど主にお菓子が多かった気がしますが、口に入れこめさえすれば肉でもお菓子でも同じのはずです!!

(やってやりますわぁ!)
  
「…………ナターシャってネーミングセンスないよね」
「お黙りなさい! ジョシュアに言われたくありません! いいから、さっさと歩きなさいませ!」

 わたくしはガシッとジョシュアの腕を掴みます。

「ぇあ、うあ~~」

 わたくしはおばあさまとお母さま直伝、殿方をズルズル引きずる方法を用いてジョシュアをお店まで引きずることにしました。

(ん?)

 …………そんなわたくしたちの様子をお父さまとエドマンドがキラキラした目で見ていたのは、見なかったフリをすると決めました。




「ほっほっほ! さあ、ジョシュア。口を開けてあーんですわ」
「……」

 ジョシュアを引きずってお店に辿り着いたわたくしは熱々の焼きたてお肉を購入し、その場でジョシュアの顔の前に持っていきます。
 てっきりニパッと笑って口を開けると思っていたのに、なぜか珍しくジョシュアが躊躇いました。

「あう、あ……熱そうじゃないかな?」
「大丈夫ですわ、ギルモア家の男ならこれくらいへっちゃらですわよ(多分)」
「ギルモア家の……男、なら、へっちゃら……?」
「そうですわ(多分)」

 わたくしは適当なことを言いながらジョシュアにグイグイお肉を押し付けます。
 ……わたくしは知っていますの。
 ジョシュアを動かすには“ギルモア家”と言っておけばいいのですわ!

「あ、う……あ……」
「はーい、入れますわよ~、あーん……」

 わたくしはにっこり笑って熱々のお肉をジョシュアの口の中に放り込みます。

「あっ、あうあぁーー~」
「ナターシャ様! な、ななななにをしてるんですかぁぁああーーーー!」
「あら?」

 熱々のお肉を口の中に入れたジョシュアが口を押さえてその場に転がったのと、例のガリヒョロ体型男が目の前に飛び込んできたのはほぼ同時でした。
   
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので

水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」 建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。  彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。 婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。   「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」 私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。 (でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。 まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ) 婚約破棄から数日後。 第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。 「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!! お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」 唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。 「まさか。 エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」 王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。 真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。 社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。 けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。 「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」 そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。 感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。 新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。 武力でも陰謀でもない。 透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。 婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。 これは復讐ではない。 これは成熟。 選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた

波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。 彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。 ――しかしある夜、彼女は見てしまう。 婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。 「お前みたいな女を愛する者などいない」 絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。 「――助けるのは、私でもいいかな」 それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。 これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、 本物の王子に見出され、溺愛され、 そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。 今さら縋りついても、もう遅い。 彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです

睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。

処理中です...